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第一章 銀髪の侯爵令嬢
27話
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部屋の中は気づけば薄暗くなり始めていたが、外はまだわりと明るかった。遠くの夕焼けが木々の間から見えてとても綺麗で、リフィルナとしてはこんなちょっとした光景ですらとても気持ちが向上する。改めて家ではない場所にいるのだなと実感した。
二人はしばらく無言のまま歩いた。ディルはまだぼんやりとしているようだったので置いていこうとしたが嫌がり、リフィルナの肩に乗ってきたのでそのまま連れてきている。リフィルナの見た目が変わっていることは特に気にならないのか、ディルは時折頭を擦り寄せてきた。
「本当に森の中なんだね」
「ああ。しばらく一緒に住むのなら町がいいか? それともこういった森にあるような場所がいいか?」
「それはどっちでもいいけど……コルド兄様、まさか家を買おうとしてない?」
確かあの古い家屋もコルドは購入したと言っていた。リフィルナが見上げるとコルドが怪訝な顔をしている。
「まさかも何も、買うが?」
「買うが、じゃないでしょう。私が大丈夫だと見極めてもらうためにとりあえず半年一緒に住むことにしたけど、私いずれは旅に出るつもりなんだよ? 勿体ない!」
「何を言ってるんだ、それだってどうなるかわからないし、どのみち少なくとも半年は絶対一緒によその国で過ごすんだぞ。家はどうするんだ」
「宿とか」
「そっちのほうが勿体ないだろ」
「貴族が泊まるようなのじゃなくて、庶民が泊まる宿は安いはずでしょ」
「そんなところにリィーを寝泊まりさせられるか!」
「いずれは私、そういう暮らしするつもりなんだよ?」
「却下」
「もぉ、コルド兄様がそんなに頑固とは思わなかった!」
精霊の光に連れられるように歩きながら二人で言い合っているうちに辺りは一気に夕焼けに染まったかと思うと薄暗くなってきた。どんどん森の奥へ入っているからもあるが、日が暮れ始めると早いのもあるのだろう。さらにしばらく歩くと精霊の光が移動せず辺りを漂うだけになった。
「ここ、昨日お前を連れてきた泉だ」
「私が助かった場所?」
「ああ。森の中でも特に精霊の加護が強そうだと思って連れてきたんだけど……やっぱりそうだったのかな」
「私の姿を変えてくれたのも家の中とはいえ森の中だもんね。そこよりさらに自然の中でも泉の近くが精霊さんの力、強いよって教えてくれてるのかな」
リフィルナが呟くと、光がくるくるとリフィルナのまわりを回った。
「そうだってことだろうか」
「かなあ」
二人で顔を合わせ、微笑み合った。
「じゃあまあいい散歩になったし、腹も空いたし戻るか」
コルドの言葉にリフィルナが頷こうとした時、光がまた誘導するように動いた。そして泉の縁で留まる。
「まさか入れってことじゃないだろうな」
「まさか。だって私、今別に瀕死でもないし……あ、そういえば私、まだ今どんな顔してるか見てなかった!」
いそいそと泉に駆け寄り、リフィルナは覗き込んだ。ずいぶん薄暗くなっているものの、精霊の光があるからか澄んだ泉にリフィルナの顔が映り込むのが見える。
「わ、色、ちゃんと違う」
髪の色は茶色になったからか、精霊の光があってもあまり泉では色を確認しにくい。だが少なくとも白っぽい銀髪でないことはすぐに見て取れた。そして目の色も多分青なのだろうとわかる程度ではあるが、やはり少なくとも金色っぽい琥珀色でないことはわかる。
ただ泉に映る姿も想像していた男性像と違って華奢に見える。シルエットは確かに女ではなく男だとはリフィルナも思う。ただ顔はどうなのだろうか。リフィルナとしても少年だと言われたらそう思えはするが、ボーイッシュな少女ともし言われたらそうも見える。髪が短いから少年に見えるだけなのではと少々戸惑った。
「コルド兄様」
「ん?」
「私の顔、本当に男の子?」
「ちゃんと男の子だって」
「でも女の子に見ようとしたらそう見えない?」
「そりゃもしそう主張されたらな。だいたいリィーくらいの歳の男ならそれくらいの感じの子、たくさんいるよ。安心しなさい」
「そうなの?」
リフィルナが普段見ているのがコルドやコットンといった、顔は整っている上でどう見ても男であるタイプだけにピンとこない。成人しているからと言われても、この二人なら幼い頃から知っているし、昔から女に見えたことなど一度もない。それを言えば「俺らが幼い時はお前はもっと幼かっただろ。きっと今のお前が昔の俺らを見たらまた違って見えるだろうよ」などと言われた。そう言われるとそうかもしれないが、幼い、女の子のような二人を想像しようにも違和感しかない。
……そういえば「アル」だって女の子には絶対見えなかったなあ。
会っていた頃は全然容姿を気にしていなかった、白っぽい綺麗な金髪に青い目をした美しい顔立ちながらにやはり男性にしか見えなかったアルディスを思い出してしまい、リフィルナの心がまたヒヤリとした。気を紛らわせるため、改めてまた自分の新しい姿を見るために泉を覗き込む。
男の子、なのかなぁ。
じっと見ているといつの間にか月が出ていたようだ。泉に月がまるでぽっかりと浮かぶように映り込んだ。自分の姿を見ながら「もうそんな時間なのか」と思っていると、少年の姿だったはずのリフィルナが見る見るうちに元の少女の姿へと戻った。
「えっ?」
目をきゅっと閉じてから開け、改めて見直すが元のリフィルナだった。実際に銀髪の一部がさらりと前に落ちて泉に浸された。
「どういうことだ」
リフィルナを見ていたコルドも驚いている。リフィルナがいくつかの精霊たちの光を見ると、今度はその光が泉に映る月の辺りを囲うように移動した。
「もしかして夜になると戻るの、かな」
「もしくは月に照らされると、とか、ああ、ひょっとして満月が関係するとかかもしれんな」
コルドが空を見上げながら言ってきた。リフィルナも見上げると、夜空ではまんまるの月が輝いていた。
二人はしばらく無言のまま歩いた。ディルはまだぼんやりとしているようだったので置いていこうとしたが嫌がり、リフィルナの肩に乗ってきたのでそのまま連れてきている。リフィルナの見た目が変わっていることは特に気にならないのか、ディルは時折頭を擦り寄せてきた。
「本当に森の中なんだね」
「ああ。しばらく一緒に住むのなら町がいいか? それともこういった森にあるような場所がいいか?」
「それはどっちでもいいけど……コルド兄様、まさか家を買おうとしてない?」
確かあの古い家屋もコルドは購入したと言っていた。リフィルナが見上げるとコルドが怪訝な顔をしている。
「まさかも何も、買うが?」
「買うが、じゃないでしょう。私が大丈夫だと見極めてもらうためにとりあえず半年一緒に住むことにしたけど、私いずれは旅に出るつもりなんだよ? 勿体ない!」
「何を言ってるんだ、それだってどうなるかわからないし、どのみち少なくとも半年は絶対一緒によその国で過ごすんだぞ。家はどうするんだ」
「宿とか」
「そっちのほうが勿体ないだろ」
「貴族が泊まるようなのじゃなくて、庶民が泊まる宿は安いはずでしょ」
「そんなところにリィーを寝泊まりさせられるか!」
「いずれは私、そういう暮らしするつもりなんだよ?」
「却下」
「もぉ、コルド兄様がそんなに頑固とは思わなかった!」
精霊の光に連れられるように歩きながら二人で言い合っているうちに辺りは一気に夕焼けに染まったかと思うと薄暗くなってきた。どんどん森の奥へ入っているからもあるが、日が暮れ始めると早いのもあるのだろう。さらにしばらく歩くと精霊の光が移動せず辺りを漂うだけになった。
「ここ、昨日お前を連れてきた泉だ」
「私が助かった場所?」
「ああ。森の中でも特に精霊の加護が強そうだと思って連れてきたんだけど……やっぱりそうだったのかな」
「私の姿を変えてくれたのも家の中とはいえ森の中だもんね。そこよりさらに自然の中でも泉の近くが精霊さんの力、強いよって教えてくれてるのかな」
リフィルナが呟くと、光がくるくるとリフィルナのまわりを回った。
「そうだってことだろうか」
「かなあ」
二人で顔を合わせ、微笑み合った。
「じゃあまあいい散歩になったし、腹も空いたし戻るか」
コルドの言葉にリフィルナが頷こうとした時、光がまた誘導するように動いた。そして泉の縁で留まる。
「まさか入れってことじゃないだろうな」
「まさか。だって私、今別に瀕死でもないし……あ、そういえば私、まだ今どんな顔してるか見てなかった!」
いそいそと泉に駆け寄り、リフィルナは覗き込んだ。ずいぶん薄暗くなっているものの、精霊の光があるからか澄んだ泉にリフィルナの顔が映り込むのが見える。
「わ、色、ちゃんと違う」
髪の色は茶色になったからか、精霊の光があってもあまり泉では色を確認しにくい。だが少なくとも白っぽい銀髪でないことはすぐに見て取れた。そして目の色も多分青なのだろうとわかる程度ではあるが、やはり少なくとも金色っぽい琥珀色でないことはわかる。
ただ泉に映る姿も想像していた男性像と違って華奢に見える。シルエットは確かに女ではなく男だとはリフィルナも思う。ただ顔はどうなのだろうか。リフィルナとしても少年だと言われたらそう思えはするが、ボーイッシュな少女ともし言われたらそうも見える。髪が短いから少年に見えるだけなのではと少々戸惑った。
「コルド兄様」
「ん?」
「私の顔、本当に男の子?」
「ちゃんと男の子だって」
「でも女の子に見ようとしたらそう見えない?」
「そりゃもしそう主張されたらな。だいたいリィーくらいの歳の男ならそれくらいの感じの子、たくさんいるよ。安心しなさい」
「そうなの?」
リフィルナが普段見ているのがコルドやコットンといった、顔は整っている上でどう見ても男であるタイプだけにピンとこない。成人しているからと言われても、この二人なら幼い頃から知っているし、昔から女に見えたことなど一度もない。それを言えば「俺らが幼い時はお前はもっと幼かっただろ。きっと今のお前が昔の俺らを見たらまた違って見えるだろうよ」などと言われた。そう言われるとそうかもしれないが、幼い、女の子のような二人を想像しようにも違和感しかない。
……そういえば「アル」だって女の子には絶対見えなかったなあ。
会っていた頃は全然容姿を気にしていなかった、白っぽい綺麗な金髪に青い目をした美しい顔立ちながらにやはり男性にしか見えなかったアルディスを思い出してしまい、リフィルナの心がまたヒヤリとした。気を紛らわせるため、改めてまた自分の新しい姿を見るために泉を覗き込む。
男の子、なのかなぁ。
じっと見ているといつの間にか月が出ていたようだ。泉に月がまるでぽっかりと浮かぶように映り込んだ。自分の姿を見ながら「もうそんな時間なのか」と思っていると、少年の姿だったはずのリフィルナが見る見るうちに元の少女の姿へと戻った。
「えっ?」
目をきゅっと閉じてから開け、改めて見直すが元のリフィルナだった。実際に銀髪の一部がさらりと前に落ちて泉に浸された。
「どういうことだ」
リフィルナを見ていたコルドも驚いている。リフィルナがいくつかの精霊たちの光を見ると、今度はその光が泉に映る月の辺りを囲うように移動した。
「もしかして夜になると戻るの、かな」
「もしくは月に照らされると、とか、ああ、ひょっとして満月が関係するとかかもしれんな」
コルドが空を見上げながら言ってきた。リフィルナも見上げると、夜空ではまんまるの月が輝いていた。
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