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第一章 銀髪の侯爵令嬢

14話

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 その後もリフィルナは度々屋敷を抜け出してはアルと待ち合わせた。怪しまれないよう、勉強のある午前中の早い時間は避けている。午後も剣の練習をする日はなるべくそちらを優先した。それもあってか今のところバレてはいないと思われる。会わない日が続く時はちょっとした手紙のやり取りをブルーを通して行った。

『ブルーは幸せを運ぶ鳥って言われてるんだ。雛鳥の時はふわふわしたぽっちゃり体型だったよ』
『とても見たかった。でも今のブルーもカッコよくて素敵。私にも幸せ、運んでくれてますし』
『どんな幸せが届いた?』
『アルとお友だちになれました』
『嬉しいけど、それはブルーと会う前からだよ!』
『じゃあもっと仲のいいお友だちになれました』
『確かに。ブルーのおかげだったんだ』

 ピクニックというものもした。こっそり厨房に忍び込み、どうしても弁当が欲しいから作ってもらえないかとお願いしてみたら、二つ返事で作ってくれた。バスケットの中に美味しそうなパンやそれに挟む具材、それにチーズや飲み物まで用意してくれた。

「内緒でなのに、こんな素敵なお弁当、ありがとう」
「どういたしまして。お嬢様のお願いなら聞かないわけないでしょう」

 見習いから正式にコックになったらしいパッツがにこにこと笑いかけてくれた。そしてその後、他のコックに「お前が代表者みたいに言うな」と小突かれていた。
 ピクニックは町のすぐ近くにある丘で楽しんだ。魔物が襲ってくる心配もない場所のようで、町の住人たちも日光浴をしたりリフィルナたちのように食事をしたりとのんびり過ごしている。そんな中でゆっくりシートに座って食事をするのがこんなに楽しいなんてリフィルナは知らなかった。今度、コルドを誘って屋敷の広い庭でもやってみたいなと思う。屋敷の敷地内なら両親も嫌な顔はしないだろう。リフィルナとは直接あまり顔を合わせたくないと思っているかもしれないが、言われたことを守っている内は特に何も言ってこない。

「リフィルナはそのコルドってお兄さんが大好きなんだね」
「はい、大好き。でも一番上のコットン兄様もとても素敵な方ではあるんです。ちょっと怖いし私の相手をしてくださる時間はなさそうであまりお話をしたことはないんですけども」

 コットンはリフィルナにほぼ関心を示さないが、多分リフィルナに限ったことではないようにも思う。コルドのようなわかりやすい優しさはないが、少なくとも嫌われてはいないような気はする。姉たちはもしかしたらリフィルナを嫌っているかもしれないが、コットンはそういった特殊な感情をリフィルナに対して持っていないように思う。ただ完全な無関心というのは嫌いという感情を持たれるよりもひょっとすると一番辛いことかもしれないが、コットンの場合はそういうのともまた違う気がする。

「そっか」
「とても大きくてがっしりなさっているんですよ」
「ってまるでリフィルナはそういう人がタイプみたいだね」
「タイプ? それはよくわかりませんが、男性というイメージはわりとコットン兄様のイメージが強いです」
「はは、うーん」

 アルが変な顔をして苦笑している。

「? アルは兄弟、いるんですか」
「いるよ。実はさ、双子なんだ。双子の兄さんがいる」
「双子? すごい。やっぱりそっくりなんですか」

 この間家庭教師に聞いた話を思い出し、リフィルナはそわそわとしながら聞いた。そんな様子をアルは面白そうに見ながら頷いてくる。

「うん。一卵性双生児ってわかる?」
「はい! 元々一つの卵だったのが中で分かれるんですよね! 私、知ってます」

 習ったことを復習している気持ちになり、思わず力いっぱい返してしまったようでアルが少々驚いている。恥ずかしくなり、リフィルナは俯いた。

「大きな声になってしまいました。ごめんなさい」
「謝る必要はないよ。かわ、……楽しい子だなあってリフィルナを見て思っていただけだよ僕は。あと、リフィルナの言うとおり。だから俺と兄は全く同じものでできてるんだ。そっくりなんてもんじゃないよ」

 優しげな様子で言われ、リフィルナはホッとして顔を上げる。するとアルは被っているフードの中から後ろに束ねている髪を見せながら「ああでも僕と違って兄は髪、短いんだ。区別がつきやすいかもね」と笑いかけてきた。

「アルはいつも大抵フードを被られてますし後ろに束ねてるからあまりわからないんですが、ほどいたら結構長いんですか?」
「リフィルナほど長くはないよ」
「それくらいは私でもわかります」

 自分の髪の長さを思い、苦笑して言えば「もしかしたら同じくらいだと思われるかなと思って」と変な顔をして笑いながら返された。だがその後に「解いたら肩より少し長いくらいかなぁ」と教えてくれた。

「似合わない?」
「いえ。束ねた感じ、アルにとても似合ってると思います」
「ほんと? ふふ、じゃあ僕は絶対切らないでおこう。兄さんは同じ顔だけどさ、短いほうが似合うように見えるんだよ、僕としては」

 引きこもり生活のせいで知らない人と話すのが苦手だったはずのリフィルナだが、アルとは初対面の時からどもることもなく会話ができた。アル曰く、アルも引きこもりなのらしい。具合が悪そうにはちっとも見えないが少し体が弱く、あまり出歩けないようだ。もしかしたらそういう共通点のようなものがあるから話しやすいのかもしれないとリフィルナはそっと思った。

「性格はやっぱり違うんですか?」
「違うなあ。兄はとても真面目で責任感が強い人だよ」
「アルは違うのですか?」
「僕? 僕は不真面目で無責任だな」
「髪の長さでからかってくる以外はそんな風には見えないですけれども」

 笑って言えばアルもニヤリと笑い返してきた。だがふと真顔になる。

「兄はもっと不真面目で無責任になっていいと思うんだ」
「何故……? あ、いえ。不躾なことを聞いているのでしたら申し訳ありません」
「ううん。リフィルナは不躾なんかじゃないよ。えっと、ね。ほら、お兄さんってそういうものじゃない? リフィルナのとこだって多分そのコットンって人が一番お兄さんなんだろうけど、聞いた話だとさ、とても真面目そうだ」
「ほんとだ。上のお兄さんはそういうもの、なんでしょうか」
「うん、きっとそういうものなんだよ」
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