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第一章 銀髪の侯爵令嬢

12話

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 ところで生まれて初めてできた友だちが、リフィルナは嬉しくて仕方がなかった。とはいえ家族に知られると咎められてしまうかもしれない。ただでさえ外出もままならないのだ。
 いつもなら絶対味方になってくれるコルドにもアルのことは言い出せなかった。ダンスのことでは何度も「知らない者を相手にするな」といったことを言われたのもあり、アルと知り合ったことも何となくだが咎められるのではないかとつい思ってしまう。コルドは大好きだし大事な兄だが、生まれて初めてできた友だちも大事にしたかった。何より、少し話しただけではあったがとても楽しかったのだ。
 その後、リフィルナはたまにではあるが屋敷を抜け出し、初めてできた友人に会いに行くようになった。
 屋敷を抜けるのは昔からちょくちょくやっていたことなので案外難しくない。二人が毎日会うのは難しかったが、アルが使っている伝書鳥でたまにやり取りをしては待ち合わせをするのはスリルがありながらもさほど難しくもなく楽しいと思えた。
 その鳥がアルからの手紙を持ってリフィルナの部屋の窓を叩いたのが最初だった。その日たまたま一人でぼんやり自室にいると、コツコツと窓を叩く音がする。気のせいかと思ったが、また聞こえる。怪訝に思い、窓へ近づくとその鳥がいた。小柄な鳥だが目を奪われる程綺麗な青い姿をしている。こんな綺麗で気品のある青があるだろうかというくらいの色で、リフィルナが思わずぽかんとしているとその鳥は構わず中へ入ってきた。

「あ、えっと、鳥さん? 怖くないの? 人に慣れてるのかな……」

 リフィルナはとりあえずディルに隠れているように慌てて伝える。蛇の姿だけに怯えるかもしれない。ディルは一言威嚇音を出した後姿を消した。リフィルナは「ごめんね」とディルがいた方向に向かって謝ると、青い鳥に向き合った。

「あなたは何かご用があったのかな」

 するとまるで言葉がわかったかのように鳥が片     足を差し出してくる。見れば羊皮紙がそこに巻き付けられていた。

「取っていいの? 取るよ?」

 一応断ってからリフィルナはそっと手をそこへ伸ばした。紙を取る間、鳥はじっとしている。折りたたまれた中に書かれていたのはアルからの手紙だった。魔法を使ってあるのか、リフィルナが開いた途端に字が現れる。

『懐かしいリフィルナ。驚いた? その魅力的な青い子は僕の親友と言ってもいい子なんだ。名前はブルー。安直な決め方なんて言わないでおくれ。すでに昔、散々周りに言われたからね。よかったらリフィルナも仲良くしてくれると嬉しいな。それとね、もしリフィルナが問題ないなら、今度会えないかな? 返事をいただけると僕がとてつもなく喜ぶよ。アルより』
「アル! アル! 友だちにって言うのは本当だったんだ。私、夢だったのかなってそろそろ思いそうだった」

 嬉しくて思わずひとり言を口にした後、リフィルナは慌てて青い鳥を見た。

「ブルー、ありがとう! 私、アルにお返事書きたい。あ、ちょっと待っててね。お水と何か食べ物、探してくるからね」

 信頼している侍女のマリーを呼び、鳥が食べてくれそうな食べ物を持ってきて欲しいと頼む。

「私のお友だちからの伝言を持ってきた鳥ってことどころか、私のところに鳥が来ていることも秘密にして欲しいんだけども、いいかな……」
「もちろんですよ、リフィルナ様。そうですね、サンショウの木の実とかをこっそり持ってきます。リフィルナ様はお水をあげてみては。丁度鳥が飲みやすそうな器がありますから。多分水差しのお水で大丈夫だと思いますよ」
「わかった、ありがとう、マリー」

 マリーは当然だとばかりに笑みを浮かべて頷くと、部屋を出ていった。リフィルナはわくわくしながら言われた器に水を入れ、それをブルーへ持って行く。ブルーは躊躇することもなく嘴を水に浸した。幻獣である蛇以外、ペットを飼うことも許されていなかったリフィルナとしてはそんなことすら嬉しくてたまらない。

「ブルー、お水飲んでくれてありがとう。もう少ししたらおやつがくるから、待っててね。私も急いでアルにお返事書くからね」
『アル様。こんにちは、アル。お友だちにというのは本当だったんですね。私、あれは夢だったのかなって思いそうでした。嬉しい! もちろんお会いしたいです。でもどうしたらいいかわからなくて。よかったらご指導よろしくお願いします。追伸、ブルーは私とも仲良くしてくれそうです、よかった! 私の手から、木の実とかを食べてくれたんですよ』

 その後何度かやり取りをして、待ち合わせの日時と場所を決めた。その手紙のやり取りだけでも楽しかった。ちなみに外出に関してはマリーにも内緒にしている。もしバレた時にマリーが共犯かどうかでかなり違うだろうと思えたからだ。知らないままでも、侍女のくせに把握していないなんてと咎められるかもしれないが、共犯となるともっとひどい罰を食らってしまうかもしれない。首になってしまうかもしれない。
 誰にも内緒で町まで出かけることに関しては、事前まではとてもわくわくしていた。だがいざ実行すると侯爵令嬢ともあろう者が供も連れずに一人出歩くということが思っていた以上に緊張したし、よくないことをしていると自覚もした。
 もし、自分が男だったなら。
 ありもしないことを考えるのは無駄なことだと昔から両親のことで思い知ってはいるが、それでもつい考えてしまう。
 もしリフィルナが男だったなら、ここまで外出することを禁じられなかったかもしれないし、何より一人で歩くことに罪悪感も覚えなかったのだろう。リフィルナは自分が女であることを残念に思いつつ、恐る恐る待ち合わせをしている、町にある時計台へ向かった。幸い自宅からそう遠くないし、馬車の従者もこっそりリフィルナを連れ出してくれる。フィールズ家ではいくつか馬車があるため、その内の一つがたまたまなくとも誰も気づくことはないと思われたし、従者はただ言われた通り乗せて運ぶだけなのでバレても酷く咎められることはないだろうとリフィルナは考えていた。
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