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第一章 銀髪の侯爵令嬢

7話

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 宮殿に着くと兄たちは他の貴族たちのところへ挨拶を済ませ、何やら仕事関連の話を始め出したようだ。リフィルナはその場にポツンと一人取り残された。コルドはリフィルナの側にいたそうだったが、コットンに「彼らに挨拶しに行けと馬車でも言っただろう」と連れられてしまった。もしかしたら両親と姉たちもそろそろ到着しているかもしれないが、どのみち近づいても相手にしてもらえないどころか離れているように言われる気がする。
 とりあえずあまり目立ちたくないため、リフィルナは王の挨拶が始まるまではマントのフードを被り、別の場所へ避難することにした。早めの到着ではないため、バルコニーから外の様子を眺めている内に国王が現れたようだ。皆が一斉に大広間の階段近くへ集まろうとしていた。階段を登った踊り場に国王や王子たちがどうやらいるようだが、あいにくリフィルナはバルコニーに出てしまっていたため、かろうじて室内に入れたが広いのと人が多いため遠目でしか王族の姿は見えなかった。
 国王は皆への挨拶のあと、予定していた通り第一王子であるフォルスとリフィルナの姉、イルナの婚約を発表していた。残念ながら王子の顔などは見れなかったが、今日の内にまた機会があるかもしれないし、いずれ身内となるのなら、いつかはちらりとでも見ることができるかもしれない。滅多に家の外へ出られないため、リフィルナが楽しみにしていたことの一つだったのだが仕方がない。
 その後ダンスなども始まったが、あまりの賑やかな様子にリフィルナは踊ることもなく疲れてしまった。先ほどバルコニーから覗いていた庭園も気になるため、避難と休憩も兼ねてそちらへ行ってみることにする。あまりうろうろとすればコルドが心配するかもしれないし、親はいい顔をしないかもしれないが、少し静かなところで一息つきたかった。それにディルは姿を消すこともできるものの、コットンに言われただけでなく人混みだと何があるかわからないのもあり「お散歩してきてね。誰かに見つからないように」と庭に放してある。もしかしたらその辺にいるかもしれない。
 ダンスが始まったのもあり、庭園は静かだった。明るい昼以外に外へ出たことがないので少々恐る恐る歩いてはいるが、ほんのり見えにくい以外は夕方の雰囲気も悪くないなとリフィルナは思った。夕焼けになりかかっている空が綺麗だ。そのまま少し中のほうまで歩いていると「誰だ」と声がする。びくりと肩を震わせたが、ここは王宮だ。不審な者がいるはずもない、とリフィルナは勇気を出した。見れば少し広まったスペースのベンチに多分どこかの貴族だろうが特に着飾った様子もない男性が座っていることに気づいた。影にかくれているせいでちょっとした服装程度しか見てとれないが、どこか洗練された雰囲気はあった。

「リフィルナ・フィールズと申します……」
「フィールズ……」

 男は何やら考えているようだったが「ああ、あまり外へ出ないあの侯爵令嬢か」などと呟いているのが聞こえた。知らない相手に変な風に覚えられていることに戸惑いと羞恥を覚えたが、とりあえず今ここから早急に立ち去ったものか何か言われるのを待ったものかも普段人とあまり接しないリフィルナにはわからなかった。
 戸惑っているのが伝わったのだろう。男は「これは失礼したね。もしよろしければここで僕と少し話でもどうだろうか」と立ち上がった。

「ですが……」
「君もダンスやら何やらが騒がしくて抜け出してきたんだろ? 実は僕もなんだ。ああ、えっと……僕のことはアルと呼んでくれると嬉しいな」

 ゆっくりと近づいてきた男は優しげに微笑んでいた。背はそこそこ高いものの、年齢はコルドとそう変わらないように見える。それが変にホッとしたのかもしれない。知らない人に対する警戒も薄れ、リフィルナは頷いていた。それにコルドからは「ダンスに誘われたら断るといい」などと言われていた。ダンスには誘われていないし、少し話すのは問題なさそうだと思えた。普通は爵位を把握した上で挨拶を交わすものだということすら知らないのでただ「アル」と名乗られたことにも警戒はなかった。

「あまり外へ出ないのは僕も同じなんだ。その、体が弱くて」

 少し離れてベンチに座ったリフィルナに、アルから話しかけてきた。

「そうなんですね。今は大丈夫なんですか?」
「まあ、ね。レディ・リフィルナは──」
「あの、アル。よろしかったら私のこともリフィルナ、と」
「はは。嬉しいな、ありがとうリフィルナ。リフィルナはその、僕の顔を見て何か思い当たることは、ない?」
「顔? ええと、整った顔立ちをされていらっしゃいます、ね?」

 変な質問だなと思いつつも、とりあえずアルの顔を見て思ったことをリフィルナは伝えた。するとおかしげに笑われる。何か変なことを言ってしまったのだろうかとリフィルナは心配になった。母親や姉からも「あなたはマナーが全然なっていない」と今でも言われたりする。もしかしたら今も失礼なことをしてしまったのかもしれない。

「も、申し訳ありません。私、恥ずかしい話ですが、あまり人と話すのが得意ではなくて……」
「謝らないでよ、リフィルナ。それに僕は少なくとも君と話していて楽しいよ。得意じゃないなんて全然そんなことないと思う」
「ありがとう、ございます」
「そんな困惑しないで。それに僕だって同じだよ。あまり外に出ないからね、誰かと話すのもそんなにないんだ。でも今本当に楽しいって思う。よかったら友だちになってくれないかな」
「お、お友だち……?」

 ずっと引きこもり生活をしているせいで、コルドと使用人以外の誰とも親しく話したことなどなかった。そんな状況だけに「友だちになって欲しい」などと正直言って天にも昇る気持ちでしかない。

「駄目?」
「そんな……! う、嬉しくて。私こそ、アルとお友だちになりたいです」
「よかった」

 アルは嬉しそうに微笑んだ。リフィルナはフードを被ったまま、そんなアルを見上げていた。
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