ヴェヒター

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 雫は何度でもするつもりだった。慧のことだからちょうどよい機会ないと絶対にこうも容易く体に触れるなんてできそうもない。
 もちろん上手くことが運べば案外扱いは楽なのだと特に今回よくわかったが、そのことを運ぶまでに持って行くのが案外難しい。
 だからこれでもかというくらい、触れる。
 雫も元々男に興味ないので、正直男同士でのことはわからない。ただ男女経験ならそれなりにあるのと、慧が好きだとわかってからは興味もあって色々勉強はしていた。普段から何かを調べたりするのは嫌いではない。
 男同士だと別に挿入行為は特に最終目的というわけでもないらしい。ゲイカップルの中には挿入しない、という人たちもいるようだ。

 ……まあ要はイけば十分だもんな。

 男の体は単純だ。射精すればそれで満足なので、案外セックスが面倒だという輩もいる。
 普段色々面倒がって一人でいるのが好きな雫は、だがどうせ絡み合う行為をするならとことん相手を気持ちよくさせたいと思うほうだ。
 そんな折、ドライオーガズムという存在を雫は知った。内容を知れば慧にいつか試してみたいと思わざるを得なかった。

「ぁ、あ……、あっ」

 そして今、背中に枕を置いて軽く開脚させ足を曲げさせた間に入り、雫はこれでもかというくらい後ろをとろとろに濡らして蕩けさせている。慎重にではあるが、何度も指で中を弄っては濡らしていた。初めの頃はほとんど違和感だけといった様子だった慧も、今では本人そのものが蕩けているかのようだ。
 前立腺のマッサージを最初から気持ちいいと思う人もいれば、どれだけやってもなかなか気持ちよくなれない人もいるらしい。

 ……それ思えばこいつ、慣れるのはえぇな。

 自分のテクニックがいいから、などと雫は思わない。道具を使っても快感をなかなか得られない人もいるらしいので、やはり個人差なのだろうと思っている。
 それでも自分の手でこんな風に感じている相手を見るのは、やはり自尊心をくすぐられる。

「なぁ、どんな感じ? やべぇ?」
「う、るさ、ぃ……っ」

 ニヤニヤ聞けば、切なげな顔をしているくせに慧は雫を睨んできた。それを雫は悪くないなと思う。すぐに気持ちよくなってくれるのは嬉しいが、すぐに甘えてくる相手はつまらない。
 その点、慧は心底腹立たしいことも多々あるが、絶対に甘えてこないのが面白い。甘えてこないがクールでもない。無駄に熱い。負けず嫌いで攻撃的で、だからなおさら面白い。
 面白いという表現は好きな相手に対し使わないかもしれないが、雫としては多分それもあってかわいいと思うし好きなのだと思う。

「こっちでイけんじゃねぇ?」
「ざ、けんな、ケツでなんかイける、かよ!」
「へぇ?」

 相変わらず忌々しげに睨んでくる慧にむしろニヤリと笑いかけながら、雫は指で少し硬い部分を軽く押したりやめたりする。
 前立腺だろうと思われるものは雫が想像していたよりも浅いところにあった。すぐには見つからなかったが、一度見つけると次は見つけやすくなった。

「も、やめ、ろっ、く、そっ」

 ますます刺激を与えていたら、変わらず腹を立てながら慧が涙を流してきた。それを見ると最初思わずギョッとしたが、慧本人は悪態をついたままだし、ひたすら睨んでくるしで、多分生理的なものだろうと内心ホッとする。

 涙、出てくるくらい気持ちいいのだろうか。

 そう思うと雫も堪らなくなってくる。かといってずっとやり続けても疲れるだけらしいのでまたゆっくり指を抜いていった。

「なー、飯どうする?」

 暫くしてから雫が聞くも、布団の中で慧が「動きたくない……」と呟いてきた。

「しゃーねーな。俺がじゃあなんか買ってきてやるよ。優しいだろ、俺」
「……ざけんな……誰のせいだと思ってんだ……」

 完全に疲れきって布団にもぐったまま、慧の声が力なく聞こえてくる。雫はニヤニヤ笑いながら、一旦部屋を出て適当に食べるものを買いに行った。



 一方慧は布団にもぐったまま今にも寝そうになっていた。本当に雫が何考えているのか理解できないと、うつらうつらしながら思う。
 そしていくら勝負だからといえ、自分も一体何やっているのだとも思った。どこでどう間違えたのか。ライバルでありひたすら腹の立つ相手と自分は何しているのか。
 だがそれこそ腹の立つことに、やはり不快ではなかった。あんなところに指を入れられているというのに、不快どころかだんだん気持ちよくなってきていた。
 どういうことだよと考えようとするが、疲れ、そして眠すぎて思考が働かない。後ろを弄られただけでこんなに眠くなるものなのかと疑問に思った後で思い出した。昨日ホラー映画を観たせいで、一晩中ほとんど眠れなかったことを。

 そりゃ眠いわな。

 だが思い出したというのにもう怖さはなかった。変な心細さもない。
 今は雫が何やら買いに行っているから一人ではあるが、それでも今まで雫がいたし、戻ってくるというのがわかっているからだろうかと慧はぼんやりする頭で思った。
 その後雫が買ってきたパンを食べた慧は、何とか歯を磨いてから泥のように眠りこけた。
 目が覚めた時はもう朝方になっていた。よく寝てスッキリしてはいるが、いまいち状況が把握できずに何となくぼんやり首を横に向けると雫が寝ている。
 とりあえずそれで一気に目が覚めた。ただ、なぜ雫が一緒のベッドで眠っているのかがわからない。泊まるという話をしたのはすぐに思い出した。だが二人用の部屋なのだ。ベッドはもう一つある。
 無性にイライラしたので慧は布団の中から気持ちよさそうに眠っている雫を蹴った。

「……ぁ? ……朝から何蹴ってくれてんだ……?」

 朝方で眠りが浅かったのか、眠そうながら雫がかろうじて目を覚まし慧を見てきた。

「あっちのベッド空いてるだろが! あっちで寝ろよ……」
「あー? ……何々、怖がりのくせに強がってんじゃねぇよ……」

 忌々しげに慧が言うが、まだ寝ぼけているのか雫はむしろ穏やかそうに言うと慧を抱き寄せてくる。慧は手で思いきり雫の顔を押しのけた。

「っちょ、キモい、離せ馬鹿やろ……ウザい!」
「お前の反応のがうぜぇぞ。……あーくそ、ねみぃ。何時だよ……」

 まだ眠そうなまま、雫はぼんやり何かを探している。

「……あー、そうか、俺の部屋じゃねぇんだっけ。時計どこだよ……って、んだよ、まだこんな時間かよ……」

 時間を見ると雫はまたそのまま眠ろうとしてきた。慧はムッとしてまた雫を軽くだが蹴る。

「寝るのはいいけどあっち行けよ!」
「……るせぇな……。望月がいねぇ間に勝手にあいつのベッド使うの悪いだろうが。それともあいつ、誰でも使っていいからとでも言ってたんかよ」
「は……? いや、そりゃいちいちそんな話してないし言われてないけど……」

 雫の言葉に少し唖然となる。そんなことを慧はいちいち考えていなかった。

「だったら使えるわけねぇだろ」
「でもお前とくっついて同じベッドとかキモいんだよ!」
「うるせぇな……ちんこ抜きあった仲だろ……」

 また蹴っても雫は面倒そうにそう呟くとそのまま寝ようとした。

「……っどんな仲だよ死ねよ!」
「んで朝からお前に死ねって言われなきゃなんねぇんだよ……あーもう、くそ。お前はとっとと寝たからいいけどな、俺寝たの遅かったんだからな」
「知るか……よ……って、離れ……」

 雫の言葉に言い返そうとしたら、まだ少し目が眠そうな雫が慧にのしかかってきた。そしてそのままキスされる。

 何で俺は雫にキスなんてされなきゃならないんだ……!

 そう思うのだが上手く抵抗できない。むしろ自分も目が覚めたとこだからか、力が上手く入らないどころかそのキスに自分のものが反応してくる。

「ほんっとお前、うぜぇな……でもまあ、悪くねぇな……? いい反応じゃねえの」

 唇を合わせるだけでなく舌で唇の裏から口の中からと責めながら、雫が合間にニヤリと囁いてくる。
 雫の手がそして反応しだした慧のものに触れてきた。朝のほうが気持ちいい、と慧も聞いたことある。気分的なことだけじゃなく、実際にホルモンの関係だとか何とか。
 それを知った時は適当に「ふーん」と思っていたが、まさか今実感することになるとは思わなかった。

「……っぁ、や、め……」

 大して触れられてもないというのに自分のものが相当硬くなっているのは、慧も嫌というほどわかった。
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