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シキとミヒロ
12話
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海優くんの話を聞いていると、実際家は裕福そうだった。親はわりと大きな病院を経営していて海優くんのお兄さんが継ぐ予定らしい。そして医者は無理だと海優くんが言っても医者以外にもする仕事はあると、病院の経営に携わって欲しいと、言われているのだそうだ。
俺からしたら、跡継ぎがいるなら別にもう一人の子どもくらい好きな仕事させればいいだろと思うのだが、お金持ちの人達が考えることは多分色々違うのだろう。もしくはお金持ち云々は関係なくて、美容師になったとしても人気が出るかどうかはわからないし親からすれば安定しているようにもみえない仕事よりは自分の経営する職場で安定して仕事をして欲しいという親心なのかもしれない。実際、美容師の収入は労働時間に見あわないことも多い。
「そういう反対もあって、俺、あまり仕送りを使いたくないのかもです。でも美容院に行くのは志生さんにしてもらいたいのと、色々雰囲気だけでも見ていたくて。なんか、子どもですね」
海優くんはそう言って少し笑った。ああ、だから待ち合いスペースにいるときによく店内を見ているのか。
俺にしてもらいたいという言葉はとても嬉しいが今のはいい笑顔とは言えないし、俺はそういう表情はあまり楽しくない。
「……ミヒロくんはちゃんと、何故自分が美容師になりたいか、どれほどなりたいかってご両親に話した?」
話を聞きながらも遠慮なく食事していた結果、俺はもう食べ終えている。海優くんに残っている食事を勧めつつ、ニッコリと聞くと「あ……い、ちおう、は」とあまり煮え切らない答えが返ってきた。
「一応?」
相変わらず微笑みながら海優くんを見ると、彼は少し俯いてきた。いつも淡々としているから、自信のなさそうというか心もとなさそうな海優くんを見るのは初めてだ。違う場面でなら楽しかったのかもしれないが、今はあまりそういった海優くんは楽しめなさそうだ。残念。
「……あまり、話せてません。その、俺、寮だし……」
「寮に居ても学生なんだから休みはたくさんあるよね? それこそ週末だって帰ろうと思えば帰られるよね?」
「……です、ね」
「ミヒロくん、もしちょっとやってみたいなあってくらいの気持ちなのだとしたら俺は美容師、勧めないよ。ご両親が勧めるようにお家の仕事やサラリーマンをしたほうがいいんじゃないかな」
俺が言うと海優くんはさらに俯いた。なんだか苛めてるみたいな気分になる。耳を弄ったりや、もしできるならそれ以上の性的悪戯で甚振ったり苛めたりはもの凄くしたいけれども、こういうのはあまり楽しくない。
「最初はアシスタントから始めるんだけどね、アシスタントなんて髪弄るのってせいぜいシャンプーくらいでさ、勤務してる間はひたすら掃除や先輩スタイリストのアシストばかりだよ。そしてようやく営業時間が終わってから夜遅くまで練習するんだ」
なるべく優しく言えたらいいんだけれどもと思いつつも、実際俺も経験してきているから甘い考えや適当な気持ちなら本当にお勧めしないのでそれは伝えておきたい。
「もちろん朝も早くから出勤するから家でゆっくりなんて夢だよ。休日もさ、一応ない訳じゃないけど美容師ってね、技術がほぼ全てだからさ、休みであっても研修やらなんやらでちゃんと休めないこと多いよ。そんで一日中立ちっぱなしでしょ。結構腰痛に苦しむ人も多いよ。手荒れも酷いしね」
言ってて自分がしんどくなるわ、と内心思う。ほんと、美容師は華やかな仕事とか思われそうだけれどもひたすら重労働だし健康損ねやすいしそして報われにくい。
それでもやっていて良かったとも思わせてくれる仕事だけれどもね。
「そんな日々に明けくれるんだよ。けっこうね、途中で挫折する人多いよ。それでもひたすら練習を重ねてようやく店内で認めてもらえるとスタイリストになるんだ。そうするとやっとお客様の髪を弄ることができるようになるんだけどね、それからだってもちろん技術がないと指名客はつかないし、技術だけじゃなくいかに気持ちよく帰ってもらえるかっていうことにも心を配らないといけない。とてつもない苦労と努力を重ねてスタイリストにようやくなれても、それはゴールじゃない。まだスタートラインに立っただけなんだよね」
一旦言葉を切るも、海優くんは俯くのではなく今度は俺をジッとみており、続きを待っているような気がした。
「お洒落が好きだからとかじゃ難しいよ。髪だってね、お洒落が好きっていうよりは人の髪を弄りたいとか喜んでもらいたいとかそういうある意味奉仕的なことが好きじゃないと難しいんじゃないかな」
俺だってSだの性格悪いだの言われるが、誰かを綺麗にして喜んでもらいたいという気持ちはかなり強い。ちなみにセックスとかも自分が気持ちよくなりたいっていうより、いやそれも凄くあるが、相手を気持ちよくさせたいという思いのほうが強いしね。
まあ気持ちよすぎて泣くってくらい甚振りたい責めたてたいってのもとても強いですが。
「ねえ、ミヒロくん。それでも美容師になりたい? どうかな」
俺はニッコリと微笑みながら海優くんを見た。海優くんは少し眉を辛そうに歪めた後でコクリと頷く。
「はい」
だが簡素でいい返事だった。変な言い訳もなにもない。
「そっか。だったらいいんだ。それなら君に必要なのは美容師である俺からの仕事でのアドバイスや経験談よりもなによりも、覚悟、じゃないかな」
「か、くご」
「うん。つらい仕事だとわかった上でもなりたいと思っているのも十分覚悟してだと思うけど。例えば今も多分親御さんのことがあって進学悩んでるんだろうけど、美容の専門学校は夜間もあるよ?」
「え?」
「夜間。もし親がちゃんと大学を出ろって言うなら出ることだってできる。大学で色々学んで卒業したら君はもう十分成人だ。なんだったら経験も込めて親御さんの病院に就職してもいい。仕事をしながら夜間に通うこともできる。通信教育だってあるよ? 昼間、夜間なら二年、通信なら三年で美容師の国家試験を受けられるよ」
海優くんは俺の話を真剣に聞いているようだった。
「大抵の子は高校を出て専門に行くから、そうなった場合君がようやく美容師として就職するころには同じ歳の子はスタイリストになってる。俺もそうだけど運や技術によればそれなりの地位にすらなってる。大学出の君は高卒で普通に働く子よりも下手をすれば給料も少ないかもしれない。精神的にもキツいしハンデが大きい分相当の努力がいるだろうね。もちろん大学に通いながら通信教育とか受けることもできる。年数は縮められるけど勉強まみれにはなるだろうね」
ここまで言うと俺はまた微笑んだ。別に海優くんの気持ちをへし折りたいわけではない。むしろ応援したい。だけれども生半可な気持ちなら多分後で大変になる。
「なにがなんでも美容師しかないんだと思うなら親を説得する覚悟を持って、高校卒業してすぐ専門学校に入るのを勧めるけど、色んな経験をして可能性を増やしてじっくり考えるなら大学に行ってからでも大丈夫ってこと。後で大変だろうけどね」
俺の話を今まで黙ってきいていた海優くんはまた少し俯いた。きつかっただろうか。それとも俺が反対しているように聞こえただろうか。
一見なんともない表情で食後のコーヒーを飲んでいるが、俺の内心はある意味ドキドキしている。
誰がSだよ、誰が。この少年の些細なことでドキドキしているどうしようもない男なのに。
「……志生さん」
「は、い?」
俺は作り笑いで海優くんを見た。
「俺、むりやり専門行こうって思ってました。美容師が大変なのは知ってるつもりでしたが、進路に関してはきっとどうにかなる、とか甘いこと考えてました。俺、ほんと、覚悟、足りないですね……」
海優くんは少しどこか痛むような表情を見せた後で少し微笑んできた。
「ありがとうございます。俺、今度親と改めてちゃんと話しあいます」
「……俺、なんか偉そうに、ごめんね」
「いえ。ちっとも偉そうじゃないです。嬉しいです」
嬉しいと海優くんが笑ってくれた。その笑顔は本当に嬉しそうで、そして俺に向けてくれているからだろうか、知哉くんに見せていた笑顔よりもいい笑顔に見えた。
ああ、やっぱり俺は海優くんが好きだ。真面目でクールであまり表情も出さないけれども、時折見せてくれるこの変化が堪らなく好きだ。
「志生さん、空調そっち効いてないですか?」
「え?」
突然心配そうに言われ、美容師の話からいきなりなんのことだと俺は怪訝そうに海優くんを見た。
「なんか顔色が赤いようなので。俺は別に暑くないですが、もしかしたらって……」
なんだよ、いつもの俺はどうしたんだよ。
海優くんに言われて俺は内心思いきり自分に突っ込んだ。いつも俺は思っていることや考えなんて表に出さないのに。取り繕えてないとか、どういうことだ。
しかもあれだ。普通ならここで多分いつもの俺ならそんな風に言われたら「赤くなってたのは君が好きだから」と笑みを浮かべながら答えたと思う。絶好の機会だし。
だけれども俺も海優くんも男だ。こんな公共の場で言っていいこととは思えない。俺がよくても海優くんを困らせるだけだろう。
冗談でなら男同士であろうがなんであろうが言えるが、海優くんに対して俺はまごうことなき本気の気持ちしか今は持ってない。
卓也さんはいったいどういう場で近藤ちゃんに気持ちを言ったりしたんだ。他の皆さんはどういうところで気持ちを伝えるんだ。
告白という行為が少々ゲシュタルト崩壊してきたところで俺は「大丈夫」と海優くんに笑いかけた。
「でもミヒロくんも食べ終えたことだし、出ようか」
「はい」
海優くんが二コリと頷く。かわいい。
店を出ると「あの、ごちそうさまでした。ありがとうございます」と少々申し訳なさそうに海優くんが俺を見てきた。そういう態度がまた好きで、俺はまたただのヘタレになりそうだったけれども気合いを入れた。
「ミヒロくんってさっきコーヒー美味しそうに飲んでたけど、コーヒー好き?」
もう強引に出ることにする。強引といえども無理がありすぎるのは嫌だから「俺の家でシャンプーしてあげるよ」などと不審者のようなことは言わないが。
俺からしたら、跡継ぎがいるなら別にもう一人の子どもくらい好きな仕事させればいいだろと思うのだが、お金持ちの人達が考えることは多分色々違うのだろう。もしくはお金持ち云々は関係なくて、美容師になったとしても人気が出るかどうかはわからないし親からすれば安定しているようにもみえない仕事よりは自分の経営する職場で安定して仕事をして欲しいという親心なのかもしれない。実際、美容師の収入は労働時間に見あわないことも多い。
「そういう反対もあって、俺、あまり仕送りを使いたくないのかもです。でも美容院に行くのは志生さんにしてもらいたいのと、色々雰囲気だけでも見ていたくて。なんか、子どもですね」
海優くんはそう言って少し笑った。ああ、だから待ち合いスペースにいるときによく店内を見ているのか。
俺にしてもらいたいという言葉はとても嬉しいが今のはいい笑顔とは言えないし、俺はそういう表情はあまり楽しくない。
「……ミヒロくんはちゃんと、何故自分が美容師になりたいか、どれほどなりたいかってご両親に話した?」
話を聞きながらも遠慮なく食事していた結果、俺はもう食べ終えている。海優くんに残っている食事を勧めつつ、ニッコリと聞くと「あ……い、ちおう、は」とあまり煮え切らない答えが返ってきた。
「一応?」
相変わらず微笑みながら海優くんを見ると、彼は少し俯いてきた。いつも淡々としているから、自信のなさそうというか心もとなさそうな海優くんを見るのは初めてだ。違う場面でなら楽しかったのかもしれないが、今はあまりそういった海優くんは楽しめなさそうだ。残念。
「……あまり、話せてません。その、俺、寮だし……」
「寮に居ても学生なんだから休みはたくさんあるよね? それこそ週末だって帰ろうと思えば帰られるよね?」
「……です、ね」
「ミヒロくん、もしちょっとやってみたいなあってくらいの気持ちなのだとしたら俺は美容師、勧めないよ。ご両親が勧めるようにお家の仕事やサラリーマンをしたほうがいいんじゃないかな」
俺が言うと海優くんはさらに俯いた。なんだか苛めてるみたいな気分になる。耳を弄ったりや、もしできるならそれ以上の性的悪戯で甚振ったり苛めたりはもの凄くしたいけれども、こういうのはあまり楽しくない。
「最初はアシスタントから始めるんだけどね、アシスタントなんて髪弄るのってせいぜいシャンプーくらいでさ、勤務してる間はひたすら掃除や先輩スタイリストのアシストばかりだよ。そしてようやく営業時間が終わってから夜遅くまで練習するんだ」
なるべく優しく言えたらいいんだけれどもと思いつつも、実際俺も経験してきているから甘い考えや適当な気持ちなら本当にお勧めしないのでそれは伝えておきたい。
「もちろん朝も早くから出勤するから家でゆっくりなんて夢だよ。休日もさ、一応ない訳じゃないけど美容師ってね、技術がほぼ全てだからさ、休みであっても研修やらなんやらでちゃんと休めないこと多いよ。そんで一日中立ちっぱなしでしょ。結構腰痛に苦しむ人も多いよ。手荒れも酷いしね」
言ってて自分がしんどくなるわ、と内心思う。ほんと、美容師は華やかな仕事とか思われそうだけれどもひたすら重労働だし健康損ねやすいしそして報われにくい。
それでもやっていて良かったとも思わせてくれる仕事だけれどもね。
「そんな日々に明けくれるんだよ。けっこうね、途中で挫折する人多いよ。それでもひたすら練習を重ねてようやく店内で認めてもらえるとスタイリストになるんだ。そうするとやっとお客様の髪を弄ることができるようになるんだけどね、それからだってもちろん技術がないと指名客はつかないし、技術だけじゃなくいかに気持ちよく帰ってもらえるかっていうことにも心を配らないといけない。とてつもない苦労と努力を重ねてスタイリストにようやくなれても、それはゴールじゃない。まだスタートラインに立っただけなんだよね」
一旦言葉を切るも、海優くんは俯くのではなく今度は俺をジッとみており、続きを待っているような気がした。
「お洒落が好きだからとかじゃ難しいよ。髪だってね、お洒落が好きっていうよりは人の髪を弄りたいとか喜んでもらいたいとかそういうある意味奉仕的なことが好きじゃないと難しいんじゃないかな」
俺だってSだの性格悪いだの言われるが、誰かを綺麗にして喜んでもらいたいという気持ちはかなり強い。ちなみにセックスとかも自分が気持ちよくなりたいっていうより、いやそれも凄くあるが、相手を気持ちよくさせたいという思いのほうが強いしね。
まあ気持ちよすぎて泣くってくらい甚振りたい責めたてたいってのもとても強いですが。
「ねえ、ミヒロくん。それでも美容師になりたい? どうかな」
俺はニッコリと微笑みながら海優くんを見た。海優くんは少し眉を辛そうに歪めた後でコクリと頷く。
「はい」
だが簡素でいい返事だった。変な言い訳もなにもない。
「そっか。だったらいいんだ。それなら君に必要なのは美容師である俺からの仕事でのアドバイスや経験談よりもなによりも、覚悟、じゃないかな」
「か、くご」
「うん。つらい仕事だとわかった上でもなりたいと思っているのも十分覚悟してだと思うけど。例えば今も多分親御さんのことがあって進学悩んでるんだろうけど、美容の専門学校は夜間もあるよ?」
「え?」
「夜間。もし親がちゃんと大学を出ろって言うなら出ることだってできる。大学で色々学んで卒業したら君はもう十分成人だ。なんだったら経験も込めて親御さんの病院に就職してもいい。仕事をしながら夜間に通うこともできる。通信教育だってあるよ? 昼間、夜間なら二年、通信なら三年で美容師の国家試験を受けられるよ」
海優くんは俺の話を真剣に聞いているようだった。
「大抵の子は高校を出て専門に行くから、そうなった場合君がようやく美容師として就職するころには同じ歳の子はスタイリストになってる。俺もそうだけど運や技術によればそれなりの地位にすらなってる。大学出の君は高卒で普通に働く子よりも下手をすれば給料も少ないかもしれない。精神的にもキツいしハンデが大きい分相当の努力がいるだろうね。もちろん大学に通いながら通信教育とか受けることもできる。年数は縮められるけど勉強まみれにはなるだろうね」
ここまで言うと俺はまた微笑んだ。別に海優くんの気持ちをへし折りたいわけではない。むしろ応援したい。だけれども生半可な気持ちなら多分後で大変になる。
「なにがなんでも美容師しかないんだと思うなら親を説得する覚悟を持って、高校卒業してすぐ専門学校に入るのを勧めるけど、色んな経験をして可能性を増やしてじっくり考えるなら大学に行ってからでも大丈夫ってこと。後で大変だろうけどね」
俺の話を今まで黙ってきいていた海優くんはまた少し俯いた。きつかっただろうか。それとも俺が反対しているように聞こえただろうか。
一見なんともない表情で食後のコーヒーを飲んでいるが、俺の内心はある意味ドキドキしている。
誰がSだよ、誰が。この少年の些細なことでドキドキしているどうしようもない男なのに。
「……志生さん」
「は、い?」
俺は作り笑いで海優くんを見た。
「俺、むりやり専門行こうって思ってました。美容師が大変なのは知ってるつもりでしたが、進路に関してはきっとどうにかなる、とか甘いこと考えてました。俺、ほんと、覚悟、足りないですね……」
海優くんは少しどこか痛むような表情を見せた後で少し微笑んできた。
「ありがとうございます。俺、今度親と改めてちゃんと話しあいます」
「……俺、なんか偉そうに、ごめんね」
「いえ。ちっとも偉そうじゃないです。嬉しいです」
嬉しいと海優くんが笑ってくれた。その笑顔は本当に嬉しそうで、そして俺に向けてくれているからだろうか、知哉くんに見せていた笑顔よりもいい笑顔に見えた。
ああ、やっぱり俺は海優くんが好きだ。真面目でクールであまり表情も出さないけれども、時折見せてくれるこの変化が堪らなく好きだ。
「志生さん、空調そっち効いてないですか?」
「え?」
突然心配そうに言われ、美容師の話からいきなりなんのことだと俺は怪訝そうに海優くんを見た。
「なんか顔色が赤いようなので。俺は別に暑くないですが、もしかしたらって……」
なんだよ、いつもの俺はどうしたんだよ。
海優くんに言われて俺は内心思いきり自分に突っ込んだ。いつも俺は思っていることや考えなんて表に出さないのに。取り繕えてないとか、どういうことだ。
しかもあれだ。普通ならここで多分いつもの俺ならそんな風に言われたら「赤くなってたのは君が好きだから」と笑みを浮かべながら答えたと思う。絶好の機会だし。
だけれども俺も海優くんも男だ。こんな公共の場で言っていいこととは思えない。俺がよくても海優くんを困らせるだけだろう。
冗談でなら男同士であろうがなんであろうが言えるが、海優くんに対して俺はまごうことなき本気の気持ちしか今は持ってない。
卓也さんはいったいどういう場で近藤ちゃんに気持ちを言ったりしたんだ。他の皆さんはどういうところで気持ちを伝えるんだ。
告白という行為が少々ゲシュタルト崩壊してきたところで俺は「大丈夫」と海優くんに笑いかけた。
「でもミヒロくんも食べ終えたことだし、出ようか」
「はい」
海優くんが二コリと頷く。かわいい。
店を出ると「あの、ごちそうさまでした。ありがとうございます」と少々申し訳なさそうに海優くんが俺を見てきた。そういう態度がまた好きで、俺はまたただのヘタレになりそうだったけれども気合いを入れた。
「ミヒロくんってさっきコーヒー美味しそうに飲んでたけど、コーヒー好き?」
もう強引に出ることにする。強引といえども無理がありすぎるのは嫌だから「俺の家でシャンプーしてあげるよ」などと不審者のようなことは言わないが。
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