隣に住むものは……

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 悠人に対してむかっ腹を立てた秀真だが、気づけばそのまま持って帰ってきていた。自宅アパート近くまで来てからようやくそのことに気づく。
 秀真は微妙な顔で紙袋を持ち上げた。多分、「帰る!」と悠人に向かって怒鳴った際に勢いで自分に差し出されていた紙袋をひったくってしまったのだと思われる。

「……クソ。こんなもん、どうしろと」

 いくら自分の尻能力が知りたくとも、道具を自ら使いたいとは思えない。こういうものこそ性癖によるのではないだろうか。好きなやつは好きだろうが、秀真にとってはこれっぽっちも興奮しないしむしろ冷める。エロ動画を楽しむ時も道具プレイがあるものは毎回避けているくらいだ。苦手ではないが興味ない。
 こういうものは普通ゴミとして出していいものなのかと考えながら、階段を上った。だが捨てたはいいものの悠人に返さなければ「あいつはアレを使っているのだろう」と思われかねない。実際道具ものが好きならまだしも、本気で興味がない上、尻用だ。

「このまま開封せず明日返す……」

 忌々しさのあまり声に出して呟いた後、一呼吸置いてからため息ついた。悠人は悠人なりに自分を心配してくれての行為なのだろうし、それに対し一方的に腹を立てている自分がだんだん勝手なやつな気がしてきた。
 明日謝ろう。だがこの余計なものは熨斗つけて返そうと思いつつ家へ入った。そして舌打ちをする。

「てめぇ、また勝手に俺の家入ってんのかクソストーカー野郎」

 最近すぐ腹を立ててしまうのは絶対にこいつのせいだと秀真は中で片づけしている男を睨みつけた。

「変なあだ名はやめてくれ。俺はあんたの恋人として世話やきたくてここにいるだけだ」
「……はぁ。お前な……どうやったら理解するんだ? 俺とお前は恋人でもなんでもねぇし、お前がしてんのは不法侵入なんだよクソストーカー野郎」
「乱暴な照れ方も度が過ぎるとかわいくないぞ」
「かわいくなくて結構なんだよ……!」

 ぐっと手を握りしめていると、大聖がふと秀真の持つ紙袋に目を留めてきた。それに気づいて秀真は慌てて紙袋を持つ手を後ろに回す。

「何それ。俺へのプレゼント?」
「お前、前向き過ぎじゃね……?」
「見せて」
「は? 嫌に決まってんだろ!」

 中に入っているものを思えば大聖であろうが誰であろうが見られたくない。ましてやこのストーカー野郎になぜ言われた通り見せてやらねばならないのか。

「ふーん。いいけど」

 しつこく言われるかと思ったが、予想以上にあっけなく大聖はそんなこと言いながら、昼に秀真が食べてそのままにしてあるコンビニ弁当の空き箱をゴミ袋の中へ入れた。

「夜中だけじゃ駄目だよな」
「あ? 何がだよ」
「あんたの食事。たまにならいいだろうけど毎日こういうものしか食べないのはよくないよ。気づくのが遅れてすまない。明日からは夜中の分だけじゃなく昼の分も用意しておくようにしよう」
「そ、れはまぁ、その、好きにしろよ」

 ムッとした顔で言いつつも、正直なところ昼も大聖の飯を食べられることはとてつもなくありがたい。認めたくないが、目の前のストーカー野郎の作る料理中毒になりかねない状態になっている自分がいる。だが本人には絶対言いたくない。ツンデレとかそういうよくわからない男女のやり取り的なものではなく、単に少しでも大聖が喜ぶかもしれないことを口にしたくないからだ。料理を作ってくれるのは助かるし美味しいしありがたいと思うが、そもそもこの男は勝手に秀真の部屋に入り込んで勝手に物を捨てたりしていた犯罪野郎なのだ。なぜホストの仕事ならまだしも、喜ばせなければならないのか。

「とりあえず今日は今の分しか用意できないけど取りに帰るから、あんたはちゃんと手を洗って」
「うるせぇ、手ぇくらい言われなくてもいつも洗ってるわ」

 余計なお世話だと大聖を睨みつけてから、秀真は洗面所じゃなく台所のシンクで手を洗う。

「……これ、何」
「あ?」

 泡を流し終えて水を止めながら振り向けば、大聖は紙袋の中身を出しているところだった。もし水でも飲んでいたら全部それを吹き出していただろうという勢いで焦りつつ、秀真は「てめ、ざけんな!」と濡れた手を拭く暇もなく大聖に駆け寄った。そして奪い返そうとしたがその前に箱から中身を出されてしまった。開封せず明日悠人に返す予定が、それで一気に台無しだ。中身をすでに知っている秀真がいちいち箱から開けたように見える時点で、道具を試したと思われる可能性がとてつもなく高くなる気、しかしない。

「てめぇぇぇぇぇぇ! 余計なことしてくれやがって! ちきしょう、これでまた勘違いされるじゃねぇか……!」

 思い切り詰め寄り、胸倉をつかんで叫ぶとむしろ淡々と「シー。今夜中だよ。声を落として」などと返される。

「るせぇ……てめぇのせいなんだよ」

 言い返しはするが、声のボリュームは落とした。まるで大聖の言われた通りにしている感じがして忌々しいが、実際今は夜中だし隣は目の前のクソストーカー野郎の家だとはいえ、大声で話していい時間帯ではない。

「なぜ俺のせいなんだ? 開けちゃ駄目だったのか? で、これは結局、何?」

 胸倉をつかまれたまま、大聖が怪訝な顔してピンク色をした丸が数珠つなぎされたような棒状のそれを振ってきた。
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