11 / 46
11
しおりを挟む
今日はアルバイトもないので、修に誘われるまま学校の帰りにショップというところへ大聖は立ち寄っていた。
「ショップ……というか服屋さんでは」
「あー、うん、まあ」
怪訝に思っている顔を修へ向けると、なぜか苦笑された。
ちなみに服飾に関して大聖はあまり興味ない。最低限あればそれなりに着こなせるし、あとは清潔にしていたら問題ないのではと思っている。ただ修を見ていたらいつもお洒落な感じがするし、服によって印象も変わる気がする。おそらくちゃんとお洒落をする意味はあるのだろう。
「高津さ、こういう感じの服、似合うんじゃない?」
修がよく服を買っているらしい店でぼんやり店内や客層などを見ていると、修がハンガーにかかった上着を見せてきた。大聖一人だとおそらく一生選ぶことのない、それもシンプルながらに洗練された雰囲気のある服だ。派手ではないためまだ取っつきやすく、大聖は興味ないながらも差し出されたため受け取る。その際に見えた値札に唖然とした。
……ゼロが一つ多くないか?
ここまでシンプルで洗練されてないものの、似たような色合いで似たような無地の服を確か大聖は地元の車がないと行けないスーパーで買ったことがあり持っている。確かに似てはいても色合いはこれに比べれば今一つかもしれないし、多分生地も違うのだろう。だが桁が一桁違うことは結構衝撃だった。
「高津?」
「……俺には手が出ないかな。生活するのでやっとだよ」
「え? あー俺もしょっちゅうは買えないよさすがに。でもきっと似合うと思うよこれ、高津に」
「そうかな。ありがとう。覚えておく」
「うん。ああ、そうだ。手軽な店もあるよ。ニ、三千円前後でわりと賄える系の」
「服は俺、今のところ足りてるから問題ないよ」
「そっかー」
断ると修が心なしかガッカリしているように見える。怪訝に思い「何かガッカリしてないか?」と直接聞いてみた。
「ガッカリ、ってほどじゃないけど。高津って元がいいのにさ、ちょっと適当な感じのとこあるだろ。勿体ないなと思って」
適当? なるほど、適当だと思われるのか。
納得しつつ、大聖は「ちゃんと毎日風呂に入ってるよ」とだけは答えておく。それに対し修は楽しげに笑ってきた。
「まあ、その辺はちゃんとしてるように見えてるよ大丈夫。あ、高津。眼鏡変えてみるってのはどう?」
「え、いや、別に……」
間に合っていると言いかける大聖を、修は先ほどの店を出て歩いている際に見かけていた眼鏡店へ引っ張っていく。
「おい、神保。別に俺、この母親に中学の頃買ってもらったやつで十分なんだけど……」
「もう一つくらい持ってたほうが便利だろ。ほら、ここ今セールやってるし」
急に目がキラキラとしだした修は、大聖のかけている黒ぶち眼鏡を取ってきた。
「おい」
「ほらな。お前絶対顔、いいって。地元ではモテてなかったの?」
外した眼鏡を持ったまま聞いてくる。大聖はそれを奪おうと手を伸ばすが上手く避けられた。身長はあまり変わらないのでおそらく運動能力が違うのだろう。
「モテ……? よくわからないけどたまにチョコレートとかもらったりはしてたよ。それでいいか?」
「よくわからないの何でだろうね……それ多分絶対モテてたのにお前が気づいてないってやつだと思うんだよね、俺」
残念そうに言いながら、何やら物色していた修が「こういうのは?」とこれまたシンプルなリムでありながらテンプルはデザイン性のある眼鏡を差し出してきた。多分恰好いいデザインだろうとは大聖も思うが、自分に似合うとは思えない。
「こういう感じのは君とかがかけるような眼鏡だ」
「何それ。それに俺は眼鏡かけてないよ。いいからかけてみて」
「それより俺の眼鏡を返してくれないか」
「あとでちゃんと返すから」
「……はぁ」
これは多分言われた通りにしないと進まないやつだ、と大聖は渋々かけた。
「かけたけど」
「わ、一気にいい感じになったじゃないか。それにそれ、お前に似合ってるよ。一発で選び抜いた俺のセンスも凄いな」
「……もういいか?」
「よくない。な、ほら。今キャンペーン中だって。フレーム半額だよ? 買おう。それに眼鏡、二つあったほうが便利だろ」
「別に一つで十分なんだけど」
「いや、絶対二つあったほうがいいって。眼鏡ってたまにどこか行ったりするんだろ? よく眼鏡探すネタとかあるくらいなんだし」
いや、行かないよと大聖は微妙な顔になった。だがいつも穏やかな修が妙に押してくるのが珍しく、あと正直面倒なのもあって「わかったから」と気づけば頷いていた。
眼鏡は確かに昔母親が買ってくれた今の眼鏡を思うと安かったとは思う。だがそれでもそれなりにした。先ほどの大聖にとって価値があまりわからない服よりかは、まだこの値段だと安いのだろうなと思えたので構わないのだが、来月はアルバイトを少し増やしてもらおうと心に誓った。
「ところでさっき君と眼鏡の取り合いをしていた時に周りから少し何やら言われているような気がしたんだ。もしかして大人げないと非難されてたとかだろうかな」
店を出てからそういえば、と大聖は修を見た。未だにまだ都会のルールに合わせきれていないことは自分でも理解している。完全に合わせるのはおそらく無理だろうし自分を殺してまで合わせるのも性に合わないが、かといってマナー違反的なことは控えたい。
「……はは。お前の自覚のなさというか」
「やはりちょっと礼儀正しくなかったか?」
「違うよ。安心して。ああいうこと、別に普通にして問題ないからさ」
「そう、ならいいんだが」
多分ここに秀真がいれば「不法侵入してるやつが礼儀正しくないだと、どの口が言う」などと呆れたように言ってきただろうが、修はただおかしそうに笑っていた。
「ショップ……というか服屋さんでは」
「あー、うん、まあ」
怪訝に思っている顔を修へ向けると、なぜか苦笑された。
ちなみに服飾に関して大聖はあまり興味ない。最低限あればそれなりに着こなせるし、あとは清潔にしていたら問題ないのではと思っている。ただ修を見ていたらいつもお洒落な感じがするし、服によって印象も変わる気がする。おそらくちゃんとお洒落をする意味はあるのだろう。
「高津さ、こういう感じの服、似合うんじゃない?」
修がよく服を買っているらしい店でぼんやり店内や客層などを見ていると、修がハンガーにかかった上着を見せてきた。大聖一人だとおそらく一生選ぶことのない、それもシンプルながらに洗練された雰囲気のある服だ。派手ではないためまだ取っつきやすく、大聖は興味ないながらも差し出されたため受け取る。その際に見えた値札に唖然とした。
……ゼロが一つ多くないか?
ここまでシンプルで洗練されてないものの、似たような色合いで似たような無地の服を確か大聖は地元の車がないと行けないスーパーで買ったことがあり持っている。確かに似てはいても色合いはこれに比べれば今一つかもしれないし、多分生地も違うのだろう。だが桁が一桁違うことは結構衝撃だった。
「高津?」
「……俺には手が出ないかな。生活するのでやっとだよ」
「え? あー俺もしょっちゅうは買えないよさすがに。でもきっと似合うと思うよこれ、高津に」
「そうかな。ありがとう。覚えておく」
「うん。ああ、そうだ。手軽な店もあるよ。ニ、三千円前後でわりと賄える系の」
「服は俺、今のところ足りてるから問題ないよ」
「そっかー」
断ると修が心なしかガッカリしているように見える。怪訝に思い「何かガッカリしてないか?」と直接聞いてみた。
「ガッカリ、ってほどじゃないけど。高津って元がいいのにさ、ちょっと適当な感じのとこあるだろ。勿体ないなと思って」
適当? なるほど、適当だと思われるのか。
納得しつつ、大聖は「ちゃんと毎日風呂に入ってるよ」とだけは答えておく。それに対し修は楽しげに笑ってきた。
「まあ、その辺はちゃんとしてるように見えてるよ大丈夫。あ、高津。眼鏡変えてみるってのはどう?」
「え、いや、別に……」
間に合っていると言いかける大聖を、修は先ほどの店を出て歩いている際に見かけていた眼鏡店へ引っ張っていく。
「おい、神保。別に俺、この母親に中学の頃買ってもらったやつで十分なんだけど……」
「もう一つくらい持ってたほうが便利だろ。ほら、ここ今セールやってるし」
急に目がキラキラとしだした修は、大聖のかけている黒ぶち眼鏡を取ってきた。
「おい」
「ほらな。お前絶対顔、いいって。地元ではモテてなかったの?」
外した眼鏡を持ったまま聞いてくる。大聖はそれを奪おうと手を伸ばすが上手く避けられた。身長はあまり変わらないのでおそらく運動能力が違うのだろう。
「モテ……? よくわからないけどたまにチョコレートとかもらったりはしてたよ。それでいいか?」
「よくわからないの何でだろうね……それ多分絶対モテてたのにお前が気づいてないってやつだと思うんだよね、俺」
残念そうに言いながら、何やら物色していた修が「こういうのは?」とこれまたシンプルなリムでありながらテンプルはデザイン性のある眼鏡を差し出してきた。多分恰好いいデザインだろうとは大聖も思うが、自分に似合うとは思えない。
「こういう感じのは君とかがかけるような眼鏡だ」
「何それ。それに俺は眼鏡かけてないよ。いいからかけてみて」
「それより俺の眼鏡を返してくれないか」
「あとでちゃんと返すから」
「……はぁ」
これは多分言われた通りにしないと進まないやつだ、と大聖は渋々かけた。
「かけたけど」
「わ、一気にいい感じになったじゃないか。それにそれ、お前に似合ってるよ。一発で選び抜いた俺のセンスも凄いな」
「……もういいか?」
「よくない。な、ほら。今キャンペーン中だって。フレーム半額だよ? 買おう。それに眼鏡、二つあったほうが便利だろ」
「別に一つで十分なんだけど」
「いや、絶対二つあったほうがいいって。眼鏡ってたまにどこか行ったりするんだろ? よく眼鏡探すネタとかあるくらいなんだし」
いや、行かないよと大聖は微妙な顔になった。だがいつも穏やかな修が妙に押してくるのが珍しく、あと正直面倒なのもあって「わかったから」と気づけば頷いていた。
眼鏡は確かに昔母親が買ってくれた今の眼鏡を思うと安かったとは思う。だがそれでもそれなりにした。先ほどの大聖にとって価値があまりわからない服よりかは、まだこの値段だと安いのだろうなと思えたので構わないのだが、来月はアルバイトを少し増やしてもらおうと心に誓った。
「ところでさっき君と眼鏡の取り合いをしていた時に周りから少し何やら言われているような気がしたんだ。もしかして大人げないと非難されてたとかだろうかな」
店を出てからそういえば、と大聖は修を見た。未だにまだ都会のルールに合わせきれていないことは自分でも理解している。完全に合わせるのはおそらく無理だろうし自分を殺してまで合わせるのも性に合わないが、かといってマナー違反的なことは控えたい。
「……はは。お前の自覚のなさというか」
「やはりちょっと礼儀正しくなかったか?」
「違うよ。安心して。ああいうこと、別に普通にして問題ないからさ」
「そう、ならいいんだが」
多分ここに秀真がいれば「不法侵入してるやつが礼儀正しくないだと、どの口が言う」などと呆れたように言ってきただろうが、修はただおかしそうに笑っていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
孤狼のSubは王に愛され跪く
ゆなな
BL
旧題:あなたのものにはなりたくない
Dom/Subユニバース設定のお話です。
氷の美貌を持つ暗殺者であり情報屋でもあるシンだが実は他人に支配されることに悦びを覚える性を持つSubであった。その性衝動を抑えるために特殊な強い抑制剤を服用していたため周囲にはSubであるということをうまく隠せていたが、地下組織『アビス』のボス、レオンはDomの中でもとびきり強い力を持つ男であったためシンはSubであることがばれないよう特に慎重に行動していた。自分を拾い、育ててくれた如月の病気の治療のため金が必要なシンは、いつも高額の仕事を依頼してくるレオンとは縁を切れずにいた。ある日任務に手こずり抑制剤の効き目が切れた状態でレオンに会わなくてはならなくなったシン。以前から美しく気高いシンを狙っていたレオンにSubであるということがバレてしまった。レオンがそれを見逃す筈はなく、シンはベッドに引きずり込まれ圧倒的に支配されながら抱かれる快楽を教え込まれてしまう───
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる