隣に住むものは……

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 今日はアルバイトもないので、修に誘われるまま学校の帰りにショップというところへ大聖は立ち寄っていた。

「ショップ……というか服屋さんでは」
「あー、うん、まあ」

 怪訝に思っている顔を修へ向けると、なぜか苦笑された。
 ちなみに服飾に関して大聖はあまり興味ない。最低限あればそれなりに着こなせるし、あとは清潔にしていたら問題ないのではと思っている。ただ修を見ていたらいつもお洒落な感じがするし、服によって印象も変わる気がする。おそらくちゃんとお洒落をする意味はあるのだろう。

「高津さ、こういう感じの服、似合うんじゃない?」

 修がよく服を買っているらしい店でぼんやり店内や客層などを見ていると、修がハンガーにかかった上着を見せてきた。大聖一人だとおそらく一生選ぶことのない、それもシンプルながらに洗練された雰囲気のある服だ。派手ではないためまだ取っつきやすく、大聖は興味ないながらも差し出されたため受け取る。その際に見えた値札に唖然とした。

 ……ゼロが一つ多くないか?

 ここまでシンプルで洗練されてないものの、似たような色合いで似たような無地の服を確か大聖は地元の車がないと行けないスーパーで買ったことがあり持っている。確かに似てはいても色合いはこれに比べれば今一つかもしれないし、多分生地も違うのだろう。だが桁が一桁違うことは結構衝撃だった。

「高津?」
「……俺には手が出ないかな。生活するのでやっとだよ」
「え? あー俺もしょっちゅうは買えないよさすがに。でもきっと似合うと思うよこれ、高津に」
「そうかな。ありがとう。覚えておく」
「うん。ああ、そうだ。手軽な店もあるよ。ニ、三千円前後でわりと賄える系の」
「服は俺、今のところ足りてるから問題ないよ」
「そっかー」

 断ると修が心なしかガッカリしているように見える。怪訝に思い「何かガッカリしてないか?」と直接聞いてみた。

「ガッカリ、ってほどじゃないけど。高津って元がいいのにさ、ちょっと適当な感じのとこあるだろ。勿体ないなと思って」

 適当? なるほど、適当だと思われるのか。

 納得しつつ、大聖は「ちゃんと毎日風呂に入ってるよ」とだけは答えておく。それに対し修は楽しげに笑ってきた。

「まあ、その辺はちゃんとしてるように見えてるよ大丈夫。あ、高津。眼鏡変えてみるってのはどう?」
「え、いや、別に……」

 間に合っていると言いかける大聖を、修は先ほどの店を出て歩いている際に見かけていた眼鏡店へ引っ張っていく。

「おい、神保。別に俺、この母親に中学の頃買ってもらったやつで十分なんだけど……」
「もう一つくらい持ってたほうが便利だろ。ほら、ここ今セールやってるし」

 急に目がキラキラとしだした修は、大聖のかけている黒ぶち眼鏡を取ってきた。

「おい」
「ほらな。お前絶対顔、いいって。地元ではモテてなかったの?」

 外した眼鏡を持ったまま聞いてくる。大聖はそれを奪おうと手を伸ばすが上手く避けられた。身長はあまり変わらないのでおそらく運動能力が違うのだろう。

「モテ……? よくわからないけどたまにチョコレートとかもらったりはしてたよ。それでいいか?」
「よくわからないの何でだろうね……それ多分絶対モテてたのにお前が気づいてないってやつだと思うんだよね、俺」

 残念そうに言いながら、何やら物色していた修が「こういうのは?」とこれまたシンプルなリムでありながらテンプルはデザイン性のある眼鏡を差し出してきた。多分恰好いいデザインだろうとは大聖も思うが、自分に似合うとは思えない。

「こういう感じのは君とかがかけるような眼鏡だ」
「何それ。それに俺は眼鏡かけてないよ。いいからかけてみて」
「それより俺の眼鏡を返してくれないか」
「あとでちゃんと返すから」
「……はぁ」

 これは多分言われた通りにしないと進まないやつだ、と大聖は渋々かけた。

「かけたけど」
「わ、一気にいい感じになったじゃないか。それにそれ、お前に似合ってるよ。一発で選び抜いた俺のセンスも凄いな」
「……もういいか?」
「よくない。な、ほら。今キャンペーン中だって。フレーム半額だよ? 買おう。それに眼鏡、二つあったほうが便利だろ」
「別に一つで十分なんだけど」
「いや、絶対二つあったほうがいいって。眼鏡ってたまにどこか行ったりするんだろ? よく眼鏡探すネタとかあるくらいなんだし」

 いや、行かないよと大聖は微妙な顔になった。だがいつも穏やかな修が妙に押してくるのが珍しく、あと正直面倒なのもあって「わかったから」と気づけば頷いていた。
 眼鏡は確かに昔母親が買ってくれた今の眼鏡を思うと安かったとは思う。だがそれでもそれなりにした。先ほどの大聖にとって価値があまりわからない服よりかは、まだこの値段だと安いのだろうなと思えたので構わないのだが、来月はアルバイトを少し増やしてもらおうと心に誓った。

「ところでさっき君と眼鏡の取り合いをしていた時に周りから少し何やら言われているような気がしたんだ。もしかして大人げないと非難されてたとかだろうかな」

 店を出てからそういえば、と大聖は修を見た。未だにまだ都会のルールに合わせきれていないことは自分でも理解している。完全に合わせるのはおそらく無理だろうし自分を殺してまで合わせるのも性に合わないが、かといってマナー違反的なことは控えたい。

「……はは。お前の自覚のなさというか」
「やはりちょっと礼儀正しくなかったか?」
「違うよ。安心して。ああいうこと、別に普通にして問題ないからさ」
「そう、ならいいんだが」

 多分ここに秀真がいれば「不法侵入してるやつが礼儀正しくないだと、どの口が言う」などと呆れたように言ってきただろうが、修はただおかしそうに笑っていた。
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