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10話
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家に籠るとついそういうことばかりにもなりかねないとも思うため、週末になると貴は「天気もいいし今日は出かけよう」と白い布団に潜りこんでいる実央に声をかけた。
貴より六歳も若い実央は朝が得意ではなさそうで、それでも平日はいつも一緒に起きて見送りもしてくれている。だからせめて貴の休日はゆっくり眠って欲しいと前から言っていて、実央も喜んでとばかりに大抵ぐっすりと眠っていた。貴はその間に洗濯をしたり朝食を作ったり実央を眺めたりして過ごす。今日もそろそろ起きるかなと、とりあえず朝食に全粒粉のパンケーキを焼いてそれに目玉焼きとベーコンを乗せ、レタスなどのサラダを脇に乗せた皿を用意していた。
ベッドの縁に座って声をかけると、丸まって潜り込んでいた実央が少しもぞもぞと動く。貴からすれば小さな体が布団にすっぽりとくるまっていて、小さな動物がそこで眠っているかのように癒される気持ちと、色んなものを締めつけてくるかのような堪らない気持ちの狭間に陥る。このままずっと眺めていたいような、自分もその中に潜り込んで襲いかかりたいような葛藤。
その内もぞもぞしていた実央がまだ潜った状態のまま、ちらりと眠そうな目を貴へ向けてきた。ほんのりツリ目気味のくりくりと大きな目が眠そうにしながら自分を見上げてくる様子に、襲いかかりたい気持ちが俄然優性になる。
だが、そもそもそういうことばかりになりかねないから出かけようと思った自分を思い出せ、と貴はこっそり深呼吸をして気を取り直した。
「おはよう、みぃ」
「……まだ実央は起きてないよ」
「へえ、そうなんだ。みぃはまだ起きてなかったか」
「起きてない」
あーもう、かわいい。やっぱり襲いたいんだけど。
「じゃあ今聞こえてる声は誰の声だろ」
「知らない」
「そっか、知らないかあ。せっかくみぃに、目玉焼きとカリカリのベーコン乗せたパンケーキ、用意したのにな。冷めるし俺がみぃの分も食べちゃうしかないなあ」
「っ駄目。俺、起きたから」
やっぱり襲いたい。いや、ダメだろ我慢しろよ大人だろ。
何とか自分に言い聞かせる。だが眠そうに布団から体を起こしてきた実央の、昨夜思い切り乱したままになっている貴のぶかぶかとしたシャツを見た途端に理性に致命的なヒビが入った。かわいさのあまりため息をつきながら、貴はベッドの上に座っている実央を抱きしめた。
「な、何」
「俺、朝ごはんはみぃがいいな……」
「貴くん、俺食うの?」
「ダメかな」
「でもパンケーキ冷めるんだろ」
「いい感じに温めてあげるよ」
「なら、いいよ食って」
まだ少し眠そうなせいでむしろムッとした顔じゃなく、ほんのり笑顔の実央を目の当たりにした。もちろん我慢なんてゴミ箱に丸めて捨てた。
結局その後かなり遅めのブランチになってしまったので温めるついでにチキンのサラダも作って二人でゆっくり食べた。
「今日、出かけようと思ってたんだよ」
「なら今から出かけりゃいいんじゃねえの」
「まあ、ね」
本当はそういうことばかりにならないよう、出かけようと思ったんだけどねと貴は心の中で呟く。既にイチャイチャし倒した後だけに、口にすれば自分の至らなさがなおさら突き刺さりそうなので微笑むに留めた。
じゃあどこか出かけようと二人で外へ出た。とはいえ別に行きたいところは今特にない。実央も同じのようで、そのまま近所をぶらぶらと歩いた。
家の近くをゆっくり歩くことなど今まで特になくて案外新鮮だった。ビジネス街よりは住宅街寄りの場所で、マンション以外に一戸建てもちらほらと建っている。田んぼや畑はないものの、平地が広がる通り道や大きくはないものの公園のような雰囲気の土手など、二人は目的もなく歩いた。人はあまりいないのでたまに手を繋いだりもした。
これといって特に何もしていないのに、何だか妙に楽しいというか幸せな気持ちになる。このままこれからもずっと、二人でこんな何でもない風に過ごせたらいいなと思った。もちろん色んなことを楽しんだりして遊んだりもしたいけれども、こういった時間を愛しく大切に思えるのは実央相手だからだ。その気持ちを大事にしたいし、この関係も大事にしたい。
「俺ね」
「うん」
実央が大きな目でジッと見上げてくる。貴は顔を綻ばせながら続けた。
「みぃとこういう風に過ごせてすごく幸せだなって今思ってた」
言えば途端に実央は真っ赤になって「そ、そんなの俺もだし」と返してくる。
「ほんと? 大学生のみぃは遊びたい盛りだから、もしかしたらこういうの退屈かもしれないかなぁとかちょっと思ったりしたけど」
「そんなわけねぇし。だってこんな風に過ごせて、しかもそれが楽しいなんて俺、貴くんにしか思わねえし、そう思えんのがめちゃくちゃ嬉しいのに。しかも貴くんもそう思ってくれてんだろ? 退屈なわけねえしそんなん」
「そうだね」
改めて嬉しくなり、貴は立ち止まってぎゅっと実央を抱きしめた。
「っちょ、っと待って。外でこれは」
「誰もいないよ」
「急に現れるかもだろ」
「何それ、どんな人……」
あはは、と笑いかけた貴の目に、毎日職場で見覚えしかない某友人の姿が飛び込んできて思わず真顔になった。
貴より六歳も若い実央は朝が得意ではなさそうで、それでも平日はいつも一緒に起きて見送りもしてくれている。だからせめて貴の休日はゆっくり眠って欲しいと前から言っていて、実央も喜んでとばかりに大抵ぐっすりと眠っていた。貴はその間に洗濯をしたり朝食を作ったり実央を眺めたりして過ごす。今日もそろそろ起きるかなと、とりあえず朝食に全粒粉のパンケーキを焼いてそれに目玉焼きとベーコンを乗せ、レタスなどのサラダを脇に乗せた皿を用意していた。
ベッドの縁に座って声をかけると、丸まって潜り込んでいた実央が少しもぞもぞと動く。貴からすれば小さな体が布団にすっぽりとくるまっていて、小さな動物がそこで眠っているかのように癒される気持ちと、色んなものを締めつけてくるかのような堪らない気持ちの狭間に陥る。このままずっと眺めていたいような、自分もその中に潜り込んで襲いかかりたいような葛藤。
その内もぞもぞしていた実央がまだ潜った状態のまま、ちらりと眠そうな目を貴へ向けてきた。ほんのりツリ目気味のくりくりと大きな目が眠そうにしながら自分を見上げてくる様子に、襲いかかりたい気持ちが俄然優性になる。
だが、そもそもそういうことばかりになりかねないから出かけようと思った自分を思い出せ、と貴はこっそり深呼吸をして気を取り直した。
「おはよう、みぃ」
「……まだ実央は起きてないよ」
「へえ、そうなんだ。みぃはまだ起きてなかったか」
「起きてない」
あーもう、かわいい。やっぱり襲いたいんだけど。
「じゃあ今聞こえてる声は誰の声だろ」
「知らない」
「そっか、知らないかあ。せっかくみぃに、目玉焼きとカリカリのベーコン乗せたパンケーキ、用意したのにな。冷めるし俺がみぃの分も食べちゃうしかないなあ」
「っ駄目。俺、起きたから」
やっぱり襲いたい。いや、ダメだろ我慢しろよ大人だろ。
何とか自分に言い聞かせる。だが眠そうに布団から体を起こしてきた実央の、昨夜思い切り乱したままになっている貴のぶかぶかとしたシャツを見た途端に理性に致命的なヒビが入った。かわいさのあまりため息をつきながら、貴はベッドの上に座っている実央を抱きしめた。
「な、何」
「俺、朝ごはんはみぃがいいな……」
「貴くん、俺食うの?」
「ダメかな」
「でもパンケーキ冷めるんだろ」
「いい感じに温めてあげるよ」
「なら、いいよ食って」
まだ少し眠そうなせいでむしろムッとした顔じゃなく、ほんのり笑顔の実央を目の当たりにした。もちろん我慢なんてゴミ箱に丸めて捨てた。
結局その後かなり遅めのブランチになってしまったので温めるついでにチキンのサラダも作って二人でゆっくり食べた。
「今日、出かけようと思ってたんだよ」
「なら今から出かけりゃいいんじゃねえの」
「まあ、ね」
本当はそういうことばかりにならないよう、出かけようと思ったんだけどねと貴は心の中で呟く。既にイチャイチャし倒した後だけに、口にすれば自分の至らなさがなおさら突き刺さりそうなので微笑むに留めた。
じゃあどこか出かけようと二人で外へ出た。とはいえ別に行きたいところは今特にない。実央も同じのようで、そのまま近所をぶらぶらと歩いた。
家の近くをゆっくり歩くことなど今まで特になくて案外新鮮だった。ビジネス街よりは住宅街寄りの場所で、マンション以外に一戸建てもちらほらと建っている。田んぼや畑はないものの、平地が広がる通り道や大きくはないものの公園のような雰囲気の土手など、二人は目的もなく歩いた。人はあまりいないのでたまに手を繋いだりもした。
これといって特に何もしていないのに、何だか妙に楽しいというか幸せな気持ちになる。このままこれからもずっと、二人でこんな何でもない風に過ごせたらいいなと思った。もちろん色んなことを楽しんだりして遊んだりもしたいけれども、こういった時間を愛しく大切に思えるのは実央相手だからだ。その気持ちを大事にしたいし、この関係も大事にしたい。
「俺ね」
「うん」
実央が大きな目でジッと見上げてくる。貴は顔を綻ばせながら続けた。
「みぃとこういう風に過ごせてすごく幸せだなって今思ってた」
言えば途端に実央は真っ赤になって「そ、そんなの俺もだし」と返してくる。
「ほんと? 大学生のみぃは遊びたい盛りだから、もしかしたらこういうの退屈かもしれないかなぁとかちょっと思ったりしたけど」
「そんなわけねぇし。だってこんな風に過ごせて、しかもそれが楽しいなんて俺、貴くんにしか思わねえし、そう思えんのがめちゃくちゃ嬉しいのに。しかも貴くんもそう思ってくれてんだろ? 退屈なわけねえしそんなん」
「そうだね」
改めて嬉しくなり、貴は立ち止まってぎゅっと実央を抱きしめた。
「っちょ、っと待って。外でこれは」
「誰もいないよ」
「急に現れるかもだろ」
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