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139話
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例の術者ザフィアもリストリアの使者によって連れられて行った。もちろん向こうから来た中に術者がいたし、連れられる時は何やらカラクリが仕込まれている箱に入れられていたのでザフィアはもはや逃げることは出来ないと思われる。多分その後リストリアで処刑されるだろう。クライドによって、ウィルフレッドのというか、魔王ファリィオ・ロードの血はザフィアがまだ隠し持っていることが分かった時点で処分されている。よっておそらくもうああいった騒ぎになることはないだろうと思われた。
ウィルフレッドの正体は身内とあの戦いにいた一部の騎士たちだけが知っている。知っている部下は元々ウィルフレッドやルイたちに忠実な者ばかりの上、今回のことでウィルフレッドを恐れるどころか感謝をしている様子だった。その上でルイが「他にウィルの正体が漏れるということは君たちの誰かが漏らしたということになる。その際は誰か、は問題じゃない。……連帯責任って、分かるよね?」とニコニコ優しい笑顔で「言い聞かせ」ていたのでこれ以上広まることはないだろうと思われた。
身内にバレるならもう誰にバレてもいいと投げやりに思っていたウィルフレッドだが、考えるとあの状況を知らない者が「王子は元魔王だった」という噂だけ耳にすると全く聞こえがよくないことに気づいた。なのでこれ以上広まらないことに一応安心する。
戦いが終わっても色々とやらなければいけないことは皆山積みだった。今回の場所でも後で調べると歪が見つかったため、一応調査した上でクライドによって閉じられた。魔物によって破壊されたところは王都からも人手が出ているしアルス王国やリストリア王国からは支援金や物資が出ており、今尚修復中だ。魔物に関してはオートマタを壊したのと歪を閉じたことにより新たに発生することはないとは思われる。ただそれでも既に出現し、戦いや調査の際に戦闘にならず別のところを彷徨っているであろう魔物がいないとも限らない。そのため各村や町での魔法壁や警備や巡回の強化、そしてそれに対応できる兵の強化など課題はまだまだたくさんある。
それでもひと段落つくと、ウィルフレッドはクライドのところへ向かった。レッドはいつものように外で待とうとするが「隣にいてくれ」と告げる。
「何の用だ」
ぶっきらぼうな様子のクライドから少し離れたところでフェルは食事に夢中だった。フェンリルという、かなり凄い魔獣だというのに相変わらず肉につられてまた何らかの実験にでも付き合わされているのだろう。今回の戦いでもなくてはならない存在ではあったし、自分に悪い影響さえないのならそっとしておこうとウィルフレッドは微妙な顔をフェルから逸らしてクライドを見上げた。
「俺の力の件だ」
言い切るとクライドが無言で座るよう頭を動かした。これも相変わらず王子に対しての態度とは思えないが今更どうでもいい。椅子は二脚しかないため、レッドはウィルフレッドの背後に立った。ただクライドはレッドの分も魔法でグラスを出してきた。そして自分とレッドにはそこへ同じく出した瓶からワインを注ぎ、ウィルフレッド用としては指を鳴らして魔法で白い液体がグラスを突然満たしてきた。
「……また山羊のミルクか」
「気に入っていただろう?」
「気に入ってなどおらんわ」
ムッとしつつウィルフレッドはレッド用のグラスを手に取り、後ろに立つレッドに手渡した。
「俺は結構です」
「構わん。飲め」
頷くと、ウィルフレッドは自分もグラスを手に取った。別に山羊のミルクが気に入っている訳ではない。これは、あれだ。自分が飲まないと側近であるレッドも飲みにくいというか飲めないだろうからなと自分に言い聞かせる。
「で、お前の力の件、とは?」
一息ついたところでクライドから切り出してきた。
「そのままだ。貴様が解放してくれた魔王の力。このままにしておけんだろう?」
片手をひらひらと振る。クライドは、何だそんなことかといった表情で「別にそのままでも構わん」と返してきた。
「は? そのままでいいわけないだろうが」
「逆に何故だ。お前は欲しがっていたのではないのか?」
「それはそうだが……」
「それにお前は極限でも飲み込まれなかった。ということは今のお前は力に飲み込まれることはない、ということだ」
そう、かもしれない。
それにこのケルエイダ王国を我が物にするのであれば、この力があればかなり楽だろう。平凡で何も取り得のない自分ではなく、力を得てまずはこの国から制覇する。前世の記憶を有した時点で子どもの頃からずっと願って止まなかったはずだ。
だが、とウィルフレッドは振った手の平をじっと見た。
当時の魔王そのものの力とまではいかなくとも、今自分の持っている力は人間の持てる力を多分大いに超えているのだろう。クライドもウィルフレッドからすれば人間の力をゆうに超えている未知数すぎる存在だが、クライドはそれこそ遥か昔から自分の力として元々持っており、それを使いながら調整し、把握し、活用してきている。だがウィルフレッドは違う。前世の記憶があるとはいえ、そして自分の力として持って生まれた上で赤子の時に奪われたものとはいえ、この力は自分が自分のものとして成長と共に育ててきたものではない。そもそも生まれた当時は扱いきれない程の力だったから死にかけていたわけだ。奪われていなければ今こうしてウィルフレッドは生きていなかった可能性が高い。あの頃いずれ弱りきって死んでいたのだろう。結局普通の人間、あるいはウィルフレッドのような平凡な者が持ってはいけない力ということだ。
それに飲み込まれなかったとはいえ、もし闇の魔法を使えば次は分からない。そして飲み込まれてしまえば、自分がどうなるか分からない。自我を持ったまま、レッドや家族や周りの者たちに対して今の気持ちを持ったままでいられるのかも分からない。
ウィルフレッドは手を見続けた。ずっと欲しかった力には違いなかった。
ウィルフレッドの正体は身内とあの戦いにいた一部の騎士たちだけが知っている。知っている部下は元々ウィルフレッドやルイたちに忠実な者ばかりの上、今回のことでウィルフレッドを恐れるどころか感謝をしている様子だった。その上でルイが「他にウィルの正体が漏れるということは君たちの誰かが漏らしたということになる。その際は誰か、は問題じゃない。……連帯責任って、分かるよね?」とニコニコ優しい笑顔で「言い聞かせ」ていたのでこれ以上広まることはないだろうと思われた。
身内にバレるならもう誰にバレてもいいと投げやりに思っていたウィルフレッドだが、考えるとあの状況を知らない者が「王子は元魔王だった」という噂だけ耳にすると全く聞こえがよくないことに気づいた。なのでこれ以上広まらないことに一応安心する。
戦いが終わっても色々とやらなければいけないことは皆山積みだった。今回の場所でも後で調べると歪が見つかったため、一応調査した上でクライドによって閉じられた。魔物によって破壊されたところは王都からも人手が出ているしアルス王国やリストリア王国からは支援金や物資が出ており、今尚修復中だ。魔物に関してはオートマタを壊したのと歪を閉じたことにより新たに発生することはないとは思われる。ただそれでも既に出現し、戦いや調査の際に戦闘にならず別のところを彷徨っているであろう魔物がいないとも限らない。そのため各村や町での魔法壁や警備や巡回の強化、そしてそれに対応できる兵の強化など課題はまだまだたくさんある。
それでもひと段落つくと、ウィルフレッドはクライドのところへ向かった。レッドはいつものように外で待とうとするが「隣にいてくれ」と告げる。
「何の用だ」
ぶっきらぼうな様子のクライドから少し離れたところでフェルは食事に夢中だった。フェンリルという、かなり凄い魔獣だというのに相変わらず肉につられてまた何らかの実験にでも付き合わされているのだろう。今回の戦いでもなくてはならない存在ではあったし、自分に悪い影響さえないのならそっとしておこうとウィルフレッドは微妙な顔をフェルから逸らしてクライドを見上げた。
「俺の力の件だ」
言い切るとクライドが無言で座るよう頭を動かした。これも相変わらず王子に対しての態度とは思えないが今更どうでもいい。椅子は二脚しかないため、レッドはウィルフレッドの背後に立った。ただクライドはレッドの分も魔法でグラスを出してきた。そして自分とレッドにはそこへ同じく出した瓶からワインを注ぎ、ウィルフレッド用としては指を鳴らして魔法で白い液体がグラスを突然満たしてきた。
「……また山羊のミルクか」
「気に入っていただろう?」
「気に入ってなどおらんわ」
ムッとしつつウィルフレッドはレッド用のグラスを手に取り、後ろに立つレッドに手渡した。
「俺は結構です」
「構わん。飲め」
頷くと、ウィルフレッドは自分もグラスを手に取った。別に山羊のミルクが気に入っている訳ではない。これは、あれだ。自分が飲まないと側近であるレッドも飲みにくいというか飲めないだろうからなと自分に言い聞かせる。
「で、お前の力の件、とは?」
一息ついたところでクライドから切り出してきた。
「そのままだ。貴様が解放してくれた魔王の力。このままにしておけんだろう?」
片手をひらひらと振る。クライドは、何だそんなことかといった表情で「別にそのままでも構わん」と返してきた。
「は? そのままでいいわけないだろうが」
「逆に何故だ。お前は欲しがっていたのではないのか?」
「それはそうだが……」
「それにお前は極限でも飲み込まれなかった。ということは今のお前は力に飲み込まれることはない、ということだ」
そう、かもしれない。
それにこのケルエイダ王国を我が物にするのであれば、この力があればかなり楽だろう。平凡で何も取り得のない自分ではなく、力を得てまずはこの国から制覇する。前世の記憶を有した時点で子どもの頃からずっと願って止まなかったはずだ。
だが、とウィルフレッドは振った手の平をじっと見た。
当時の魔王そのものの力とまではいかなくとも、今自分の持っている力は人間の持てる力を多分大いに超えているのだろう。クライドもウィルフレッドからすれば人間の力をゆうに超えている未知数すぎる存在だが、クライドはそれこそ遥か昔から自分の力として元々持っており、それを使いながら調整し、把握し、活用してきている。だがウィルフレッドは違う。前世の記憶があるとはいえ、そして自分の力として持って生まれた上で赤子の時に奪われたものとはいえ、この力は自分が自分のものとして成長と共に育ててきたものではない。そもそも生まれた当時は扱いきれない程の力だったから死にかけていたわけだ。奪われていなければ今こうしてウィルフレッドは生きていなかった可能性が高い。あの頃いずれ弱りきって死んでいたのだろう。結局普通の人間、あるいはウィルフレッドのような平凡な者が持ってはいけない力ということだ。
それに飲み込まれなかったとはいえ、もし闇の魔法を使えば次は分からない。そして飲み込まれてしまえば、自分がどうなるか分からない。自我を持ったまま、レッドや家族や周りの者たちに対して今の気持ちを持ったままでいられるのかも分からない。
ウィルフレッドは手を見続けた。ずっと欲しかった力には違いなかった。
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