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133話
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見るとクライドは手にしていたおそらく例の術者を地面に投げやった。術者は完全に意識を落としているらしい様子で、乱暴に投げ出されてもピクリともしない。
だがそんなことはどうでもよく、よくやったと珍しく労うクライドにウィルフレッドは胸ぐらをつかみかからんとする勢いで近づいた。
「貴様は聖属性の魔法は持ち合わせてないのか」
「は? いきなり……ぁあ、なるほど。レッドが負傷したのか」
ウィルフレッドの様子に多少怪訝そうな顔をしたものの、ルイたちの魔法円を見てクライドは淡々と口にする。
「負傷なんてものじゃない、もう少しであやつは死ぬところだった……」
「死ぬ? 重症そうではあるが死にはしないだろう? 確かにこのままでは危ないかもしれんが」
「それはウィルフレッド様の風魔法のおかげだ。ウィルフレッド様が死にかけたレッドを癒すことでなんとか命はとりとめたのだ」
ウィルフレッドの代わりにフェルが何故か得意げに答えた。普通にフェルが声を出していることにも特に驚くこともなく、クライドは「風魔法? 闇ではなく?」とウィルフレッドを見る。
「ああ。だが今はそんなことどうでもいいであろう! 貴様も聖属性の魔法が使えるなら、今すぐレッドを助けろ」
「……煩いやつだ」
そう呟きながらもクライドはルイたちに近づく。
ルイとアレクシアはかなり強い光魔法を持っている。特にルイの上位魔法は他に類を見ないくらいだろう。今の世でもし完全復活した魔王を倒せる者がいるとしたら、まだ鍛えなければならないがルイだ。
それでもレッドの属性が無属性なのもあるからか、魔法はどうも効きにくいようだ。攻撃魔法が届きにくいという利点の反面、回復魔法もしかりという難点もある。ウィルフレッドの風魔法でかろうじて現状死を免れたもののレッドは今も傷は塞がっておらず、ついでに出血多量のせいか意識もない。強い光魔法で癒しているため体力はすぐに戻るのだが、傷の塞がりは遅いため、すぐにそちらへ体力が持っていかれる。そのせいでウィルフレッドが戦っている間も今も延々と力が注がれているが、これではレッドが持ち直す前にルイやアレクシアの力が尽きてしまう。とはいえ下手に急いで深い傷による細胞の欠損を無理やり再生させると、人外なら問題はないかもしれないが人体には逆に悪影響を及ぼす可能性がある。痕が残るくらいならいいが、細胞が活性化され過ぎてむしろ枯れ果てるか、人の細胞としての領域を超えてしまいかねない。人以外のクリーチャーとなりかねない。人間界ではそう言われており、そのためあまり無茶な魔法を傷ついた体にかけることは禁じられている。それでも生きて欲しいと願うあまり無茶をして、治すどころか殺してしまったり怪物にしてしまった例もあるらしい。
実際、人間界の生命は皮膚の表皮程度のダメージならある程度の魔力があれば元通りに治せることを元魔王であるウィルフレッドも知っている。逆に言うと真皮まで達するような深い傷は再生が難しいということになる。魔物だからこの知識を知っているのではなく、生きている年数と経験の違いでだ。魔物はむしろ細胞や皮膚など気にする必要もない。ちょっとした魔法で元通りになる。だが人間界に生息する一般的な生物は一度欠けたものを完全に修復するのは相当難しいらしい。その生物が本来再生できる範囲までしか魔法で活性化したり早めたり出来ないと聞いたことがある。
よってルイたちが懸命に癒してくれている魔法をもってしても、レッドの生命力次第となる。
だがクライドなら何とか出来るかもしれない、とウィルフレッドは淡い望みを抱いていた。
魔王を倒す直接の力がないにしても、クライドが持つ魔力はそれこそ弱らせた魔王を封じられるくらい、今のルイすら敵わない威力だろう。それに術者だからだろうか、それとも生きている年齢からしておかしいからだろうか、得体の知れない存在とさえ思えるクライドなら人の細胞すら上手く扱い回復するような気がしていた。
ルイとアレクシアが変わらず詠唱を続ける中、クライドも違う呪文を唱えだした。魔法円は浮かばないがクライドの差し出す手のひらから風魔法にも似た淡い緑色の光が放たれた。それがレッドを包む。
息を止めてその様子をウィルフレッドは見守った。そしてその息が本当に止まりそうになる、というか詰まった。情けなくも少しむせた後にウィルフレッドは少し離れていたところからレッドの元へ駆けつけた。
「レッド……!」
意識をずっと失ったままのレッドが目を開けた。それに気づいたルイとアレクシアが魔法円を解いた。そして言葉をかけようとするが、ずっと力を使い続けていたためか、息切れして何も言えないようだ。
「……レッド」
ウィルフレッドの声に反応し、レッドの瞳がウィルフレッドを追う。ちゃんと意識がある証拠だ。そっと傷口を見ると血の跡があるせいで分かりにくいが少なくとも塞がっているように見えた。
「レッド……レッド……」
「……おう、じ」
「喋らなくていい、喋らなくていいぞ。よく、耐えた、レッド」
「俺……あなたが……必死に、俺のな、まえ、呼ぶ、の……好き、です」
苦しげに言いながら、レッドは微笑んできた。ウィルフレッドの喉から変な風に空気が漏れる。
「王子、の瞳、から空を知らない、雨、が……」
微笑んだまま囁くように言うと、レッドはまた意識を失った。だが今度はウィルフレッドも肝を冷やすことはなかった。そっと目元を拭うとルイたちに向き直った。
「兄上、姉上……本当にありがとうございます……。クライド、貴様もな」
「私への気持ちだけぞんざいだな」
「ついでにレッドを急いで一旦テントへ運んでくれ」
「……ふ。いいだろう。ウィルフレッド王子。お前にはかなり大きな貸しが膨らんだな」
淡々としていたはずのクライドが楽しそうに笑うとレッドをそっと抱え、ムッと唇を噛みしめるウィルフレッドの前から消えた。
だがそんなことはどうでもよく、よくやったと珍しく労うクライドにウィルフレッドは胸ぐらをつかみかからんとする勢いで近づいた。
「貴様は聖属性の魔法は持ち合わせてないのか」
「は? いきなり……ぁあ、なるほど。レッドが負傷したのか」
ウィルフレッドの様子に多少怪訝そうな顔をしたものの、ルイたちの魔法円を見てクライドは淡々と口にする。
「負傷なんてものじゃない、もう少しであやつは死ぬところだった……」
「死ぬ? 重症そうではあるが死にはしないだろう? 確かにこのままでは危ないかもしれんが」
「それはウィルフレッド様の風魔法のおかげだ。ウィルフレッド様が死にかけたレッドを癒すことでなんとか命はとりとめたのだ」
ウィルフレッドの代わりにフェルが何故か得意げに答えた。普通にフェルが声を出していることにも特に驚くこともなく、クライドは「風魔法? 闇ではなく?」とウィルフレッドを見る。
「ああ。だが今はそんなことどうでもいいであろう! 貴様も聖属性の魔法が使えるなら、今すぐレッドを助けろ」
「……煩いやつだ」
そう呟きながらもクライドはルイたちに近づく。
ルイとアレクシアはかなり強い光魔法を持っている。特にルイの上位魔法は他に類を見ないくらいだろう。今の世でもし完全復活した魔王を倒せる者がいるとしたら、まだ鍛えなければならないがルイだ。
それでもレッドの属性が無属性なのもあるからか、魔法はどうも効きにくいようだ。攻撃魔法が届きにくいという利点の反面、回復魔法もしかりという難点もある。ウィルフレッドの風魔法でかろうじて現状死を免れたもののレッドは今も傷は塞がっておらず、ついでに出血多量のせいか意識もない。強い光魔法で癒しているため体力はすぐに戻るのだが、傷の塞がりは遅いため、すぐにそちらへ体力が持っていかれる。そのせいでウィルフレッドが戦っている間も今も延々と力が注がれているが、これではレッドが持ち直す前にルイやアレクシアの力が尽きてしまう。とはいえ下手に急いで深い傷による細胞の欠損を無理やり再生させると、人外なら問題はないかもしれないが人体には逆に悪影響を及ぼす可能性がある。痕が残るくらいならいいが、細胞が活性化され過ぎてむしろ枯れ果てるか、人の細胞としての領域を超えてしまいかねない。人以外のクリーチャーとなりかねない。人間界ではそう言われており、そのためあまり無茶な魔法を傷ついた体にかけることは禁じられている。それでも生きて欲しいと願うあまり無茶をして、治すどころか殺してしまったり怪物にしてしまった例もあるらしい。
実際、人間界の生命は皮膚の表皮程度のダメージならある程度の魔力があれば元通りに治せることを元魔王であるウィルフレッドも知っている。逆に言うと真皮まで達するような深い傷は再生が難しいということになる。魔物だからこの知識を知っているのではなく、生きている年数と経験の違いでだ。魔物はむしろ細胞や皮膚など気にする必要もない。ちょっとした魔法で元通りになる。だが人間界に生息する一般的な生物は一度欠けたものを完全に修復するのは相当難しいらしい。その生物が本来再生できる範囲までしか魔法で活性化したり早めたり出来ないと聞いたことがある。
よってルイたちが懸命に癒してくれている魔法をもってしても、レッドの生命力次第となる。
だがクライドなら何とか出来るかもしれない、とウィルフレッドは淡い望みを抱いていた。
魔王を倒す直接の力がないにしても、クライドが持つ魔力はそれこそ弱らせた魔王を封じられるくらい、今のルイすら敵わない威力だろう。それに術者だからだろうか、それとも生きている年齢からしておかしいからだろうか、得体の知れない存在とさえ思えるクライドなら人の細胞すら上手く扱い回復するような気がしていた。
ルイとアレクシアが変わらず詠唱を続ける中、クライドも違う呪文を唱えだした。魔法円は浮かばないがクライドの差し出す手のひらから風魔法にも似た淡い緑色の光が放たれた。それがレッドを包む。
息を止めてその様子をウィルフレッドは見守った。そしてその息が本当に止まりそうになる、というか詰まった。情けなくも少しむせた後にウィルフレッドは少し離れていたところからレッドの元へ駆けつけた。
「レッド……!」
意識をずっと失ったままのレッドが目を開けた。それに気づいたルイとアレクシアが魔法円を解いた。そして言葉をかけようとするが、ずっと力を使い続けていたためか、息切れして何も言えないようだ。
「……レッド」
ウィルフレッドの声に反応し、レッドの瞳がウィルフレッドを追う。ちゃんと意識がある証拠だ。そっと傷口を見ると血の跡があるせいで分かりにくいが少なくとも塞がっているように見えた。
「レッド……レッド……」
「……おう、じ」
「喋らなくていい、喋らなくていいぞ。よく、耐えた、レッド」
「俺……あなたが……必死に、俺のな、まえ、呼ぶ、の……好き、です」
苦しげに言いながら、レッドは微笑んできた。ウィルフレッドの喉から変な風に空気が漏れる。
「王子、の瞳、から空を知らない、雨、が……」
微笑んだまま囁くように言うと、レッドはまた意識を失った。だが今度はウィルフレッドも肝を冷やすことはなかった。そっと目元を拭うとルイたちに向き直った。
「兄上、姉上……本当にありがとうございます……。クライド、貴様もな」
「私への気持ちだけぞんざいだな」
「ついでにレッドを急いで一旦テントへ運んでくれ」
「……ふ。いいだろう。ウィルフレッド王子。お前にはかなり大きな貸しが膨らんだな」
淡々としていたはずのクライドが楽しそうに笑うとレッドをそっと抱え、ムッと唇を噛みしめるウィルフレッドの前から消えた。
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