不機嫌な子猫

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127話

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 明朝、ウィルフレッドたちは出発した。
 王の指示もあり、騎士たちは扱える者をリーダーとして騎竜隊と飛竜隊に分けてチームを組ませ出動した。馬よりも断然早い。
 ラルフと彼が抱える騎士団は城に残っている。ウィルフレッドだけでなくルイやアレクシアとその側近たちも別途クライドの魔法で瞬間移動を何度か繰り返し真っ先に現地へ向かった。もちろん飛竜隊よりもさらに早い。これがあるため、昨夜準備もない状態ですぐに出る必要はないと判断していた。ただしこの移動はクライドが失敗すれば体の一部がどこかへ持って行かれてしまうという高度で恐ろしい魔法での移動となるため、気楽にとはいかないようだ。ウィルフレッドは自分も前世で使っていただけに全く緊張はなかったが、ルイですら多少気合いを入れている様子なのを見て「そういうものなのか」と思い知ったというのだろうか。以前クライドとこの力で村へ向かうことにした際に周りが結構反対していたのも何となく頷けるなと改めて実感した。やはり自分は人間に生まれ変わりはしていても一般的な人間の感覚とは多少違うようだとも改めて思う。
 ラルフが城に残っているのはウィルフレッドたちが魔物と戦っている間を狙って直接ケルエイダを倒さんとジルベールが城を攻めてくる可能性を考えてのことだ。さすがにジルベールもそこまで馬鹿ではないとは思うがわりと馬鹿だとは皆思っているため、警戒しておくに越したことはないという意見が満場一致した。ラルフは魔物に有効な光魔法を持っていない。代わりにどういった戦略でも対応できる頭脳と、単体で十二分に強力な火魔法の上位を持っているため、待機隊として最適だと残ることになった。
 ちなみに昨夜は以前のように行為を何度もしてはいないのでウィルフレッドの体には思っていたよりも負担がなかった。もしかしたら心身ともに満たされた分、一度で十分満足出来たからもあるかもしれない。それでもレッドは「クライド殿に回復を頼まれたほうが」と心配してきた。

「体が動くので問題ない」
「しかし」
「……ではお前は俺がクライドにお願いするほうがいいのだな」
「そうは言ってません。王子が俺以外の誰かに頼る姿は今後見たくありませんが、こればかりは仕方ありません。俺は魔法などほぼ扱えませんし今日はどんな戦闘になるかも分からない。あなたに万全で挑んでいただきたいのです。そうでないなら王子、俺はあなたをひたすらお守りしますからね」

 無口なレッドとは到底思えない程の答えが返ってきた。それどころか脅された。だが思いが通じ合って間もないのもあり、ウィルフレッドは苛立たしく思うこともなく出発する前に渋々ではあるがクライドに頼みに行った。

「……戦いの前に悠長なことだな」
「回復魔法をかけろと言っただけで何を勝手に妄想してくれている……!」
「まあ確かに何もしてなくとも寝違えたり腰に負担のかかる日もあるだろうが、な?」

 淡々と言うクライドから微かに鼻で笑ったような音が聞こえた。

「クソ……いいから貴様は黙って俺を回復しろ!」
「これは貸しか?」
「貴様、王子に向かって……! ああクソ。分かった。借りておいてやる! だからレッドが安心するほど俺を元気にしておけ!」
「ふ」

 現地へ赴くと幸い前例があったのもあり、住民の避難は思いのほかスムーズに行えている様子だった。だがその代わり現地にいた騎士や魔術師たちの被害が酷い。前回襲ってきていたミノタウロスやバシリスクといったレベルですらかなり強い魔物ではあったが、さらにもっと強い魔物が次から次へと襲いかかってくるのでは、いくら訓練された騎士たちであっても身がもたない。
とりあえず先に到着したウィルフレッドたちは魔物を倒しながらまだ残っている住民の避難と怪我人の救助を優先的に行った。
 騎竜隊や飛竜隊が到着し出すとまずは急ぎテントを張り、回復班により傷ついた彼らの治療が始められた。簡易暖炉も作られ寒さに凍えることもない。
また改めて魔物が攻めてきたという報告によりウィルフレッドもレッド、フェルと共に拠点となる村から出て戦闘態勢に入った。やってきたのは幾匹ものサーペントだった。
 ドラゴンよりも下位とはいえかなり力の強いサーペントをフェルを使い、時折「動くな」などとさりげに命令し、レッドとともに倒したウィルフレッドは周りを見る。現にルイたちですら一撃という訳にはいかないようだ。
 幸いと言えるのか、思っていたほど大量に魔物が一度に押し寄せてくる状況ではないものの、今の人間界には絶対に存在するはずのない強い魔物に対し、人間たちはあまり対処出来ていない。何とか襲われた村周辺の被害で今のところ抑えられてはいるものの、このままではいずれ他の村や町にも被害が及ぶだろうと思われた。

『フェル、前のような歪を見つけろ』
『まさか乗り込もうっておっしゃられてますか』
『何がまさかだ。当然だろう?』
『ウィルフレッド様、さすがにあれらの魔物の力を思うと乗り込むのは魔獣の私でも賛成致しかねます。たとえあなたの兄上たちやクライドがいても彼らが複数いる訳ではない。多くの魔物が一度に襲ってきてはひとたまりもないでしょう』
『ではこのまま延々と、魔物どもが襲ってくるのをゆったり待ち構えているつもりか』
『しかし』
『大丈夫だ。いくら強い魔物だろうが、偽魔王に操られてようが、俺こそが正統な魔王だ。元、だがな。魔物なんぞにどうこうされるつもりはない』
『ウィルフレッド様……』
「しかし──乗り込む前にどうやら向こうからやって来たかもしれんな」
「ワフ」

 また襲ってきた魔物に対し、構える。
 やって来たと思ったのはどうやら間違いではないようだった。ウィルフレッドたちが来る前からいた騎士の一人が「今までとは比べものにならない……」と呟いた。それほど大量のそれも上級魔物と思われるものばかりが一斉にやって来ようとしていた。
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