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106話
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ところで少し遡るが、祝賀会にはダンスもあった。のほほんとしていたクリードもさすがと言うべきか、とても優雅に相手をリードしながら踊っていた。アレクシア以外とも付き合いがあるため踊りはしたが、最初と最後はアレクシアのために空けていたようだった。
そのアレクシアも同じく優雅に踊っていたし、ルイやラルフも当然のようにきらびやかな様子で目立っていた。
一方ウィルフレッドはダンスも得意ではない。いや、かつては得意だった。魔王の頃はそれこそ優雅な風にもはじけたイルマティックな風にもどんな風にだって踊れた。今でも頭では分かっている。だが体がついていかない。よって皆が踊っている時も内心憮然としながら壁にもたれてちびちびと飲み物を飲んでいた。ちなみにちびちびと飲んでいるのは酒だからではない。酒は一口たりとも飲んでいない。それもあって余計憮然とした気持ちだし、ノンアルコールのためそんなにガブガブと水分が体内に入らないだけだ。
「王子、今年も新年そうそう壁の花ですか」
離れていたはずのレッドがいつの間にかそばにいたようで、そんなことを言ってきた。
「花などと言うな。逆に嬉しくない」
「御意」
「……っち」
パーティー中は基本的に離れているとはいえ、主人から目を離すことのない側近たちもいつもの制服とは違う服装をしている。よってレッドに近寄られるとウィルフレッドの心臓もいつもより煩い。
「なんなら俺と踊りますか?」
「は? お前、いや貴様──」
「無理に言いかえなくとも」
「煩い。いつも『俺の踊りは無骨でしょうし』とか言って絶対練習に付き合わないくせに何だ」
どのみち付き合ってくれてもウィルフレッドの心臓がもたないので構わないのだが、練習に付き合おうとしないという態度が改めて忌々しくてウィルフレッドは睨み上げた。今だっていくら普段からずっと側に付いているとはいえ、生真面目なレッドが本気で自分の主人をこんな公の場でダンスに誘うはずがないと分かっているからこそ余計忌々しい。
「練習は、やはり上手い方を相手にされたほうがいいですから」
苦笑してからレッドは「気分転換にバルコニーへ出られますか」と手を差しのべてきた。
手なんか取れるかと思っているはずのウィルフレッドはほぼ無意識で片方の手を差し出していた。レッドはウィルフレッドの手を取るとバルコニーへ誘って行く。
中の熱気とは打って変わり、外は当然だが相当肌寒かった。こんな中、外へ出ている者などウィルフレッドたちしかいない。
「寒いですか」
「そりゃあ、な」
「では」
レッドがウィルフレッドからそっと飲み物を奪うとバルコニーの手すりにグラスを置いた。そして改めてウィルフレッドの手を取るかのように差し出してくると「体を温めるためにも、一曲お相手願えませんか」と静かに言ってくる。
「……は、何、を」
言葉が上手く出てこないのは今にも心臓が飛び出る前に破裂しそうだからだ。言葉どころか呼吸すらままならない。だというのにウィルフレッドの手は改めてレッドの手を取っていた。
音楽は室内から漏れ聞こえてくるものだけだ。そして灯りも室内からのものだけ。バルコニーは広いもののバルコニーとして広いだけだ。そんな中を、レッドはウィルフレッドを支えるようにして軽やかに動いていく。
心臓が痛い。
きっと空気が冷たいため、それがダンスのせいで乱れた呼吸により肺に入ってくるからだ。なんて言い訳はもはや自分の中で通じないウィルフレッドはどうすればいいか分からずそれこそオートマタ、いや機械や魔法じかけもないただのマリオネットに過ぎなかった。レッドによって糸で操られようやく何とか動いているマリオネットだ。
「寒いですか」
踊りながら先ほどと同じことをレッドが聞いてくる。
「こ、んなところで」
「ここなら俺でも王子と踊れるかと思いまして」
無骨な踊りと言っていたレッドの動きはスマートだった。もちろん側近とはいえ家柄もそこそこいい者ばかりであり、ダンスくらい出来る者が大半だろう。だがあのレッドがと思うと意外だしその意外性にますます呼吸が止まりそうだ。
「無理だ」
「大丈夫。踊れていますよ王子」
「無理、だ」
「俺に合わせて」
耳にレッドの息がかかった。
死んでしまう。
くらくらとしながらレッドのマリオネットとなり、ウィルフレッドはただひたすら手や腕、腰などに触れるレッドの手を感じていた。
ダンスは練習で他の者に教えてもらったこともあるし前世ではどんなダンスでも踊れていたくらいだ。だが今レッドと踊ることでダンスが、あれほど散々していた快楽を味わうためのセックスよりも熱くて愛しくて切なくて扇情的なものだと知った。
室内から漏れ聞こえてくる演奏が終わるとレッドは手を離してきた。そしてお辞儀をする。手が離れたとたん、そこからどんどん体の熱が消えていってしまうような気がした。
「ちゃんと踊れていましたよ王子。体も動かしたことですし準備運動は万全かと。お次は是非、暖かい室内でどなたかと」
「もう」
「はい」
「もう十分踊った。それに中は明るくて踊る気になれん」
「ですがせっかく大きなパーティですし楽しまれたほうが」
「煩い。ならもう少しお前が付き合え」
「俺は」
「無骨な踊りだの側近だのといった言い訳は許さんからな。いいから付き合え」
丁度タイミングよく、次の演奏が始まった。ウィルフレッドから手を差し出すとレッドが一瞬逡巡した後でその手をつかんできた。
翌日、兄姉たちとクリードで集まった際に筋肉痛だったのは訓練や当然だがセックスをしたからなどではない。二、三曲踊っただけだがダンスのせいだ。あとレッドと密着していて体が緊張し倒したせいでもある。むしろこちらのほうが大きい。あまりに情けなくて筋肉痛などなかった振りをしていたが朝起きた時などは中々に酷かった。
そのアレクシアも同じく優雅に踊っていたし、ルイやラルフも当然のようにきらびやかな様子で目立っていた。
一方ウィルフレッドはダンスも得意ではない。いや、かつては得意だった。魔王の頃はそれこそ優雅な風にもはじけたイルマティックな風にもどんな風にだって踊れた。今でも頭では分かっている。だが体がついていかない。よって皆が踊っている時も内心憮然としながら壁にもたれてちびちびと飲み物を飲んでいた。ちなみにちびちびと飲んでいるのは酒だからではない。酒は一口たりとも飲んでいない。それもあって余計憮然とした気持ちだし、ノンアルコールのためそんなにガブガブと水分が体内に入らないだけだ。
「王子、今年も新年そうそう壁の花ですか」
離れていたはずのレッドがいつの間にかそばにいたようで、そんなことを言ってきた。
「花などと言うな。逆に嬉しくない」
「御意」
「……っち」
パーティー中は基本的に離れているとはいえ、主人から目を離すことのない側近たちもいつもの制服とは違う服装をしている。よってレッドに近寄られるとウィルフレッドの心臓もいつもより煩い。
「なんなら俺と踊りますか?」
「は? お前、いや貴様──」
「無理に言いかえなくとも」
「煩い。いつも『俺の踊りは無骨でしょうし』とか言って絶対練習に付き合わないくせに何だ」
どのみち付き合ってくれてもウィルフレッドの心臓がもたないので構わないのだが、練習に付き合おうとしないという態度が改めて忌々しくてウィルフレッドは睨み上げた。今だっていくら普段からずっと側に付いているとはいえ、生真面目なレッドが本気で自分の主人をこんな公の場でダンスに誘うはずがないと分かっているからこそ余計忌々しい。
「練習は、やはり上手い方を相手にされたほうがいいですから」
苦笑してからレッドは「気分転換にバルコニーへ出られますか」と手を差しのべてきた。
手なんか取れるかと思っているはずのウィルフレッドはほぼ無意識で片方の手を差し出していた。レッドはウィルフレッドの手を取るとバルコニーへ誘って行く。
中の熱気とは打って変わり、外は当然だが相当肌寒かった。こんな中、外へ出ている者などウィルフレッドたちしかいない。
「寒いですか」
「そりゃあ、な」
「では」
レッドがウィルフレッドからそっと飲み物を奪うとバルコニーの手すりにグラスを置いた。そして改めてウィルフレッドの手を取るかのように差し出してくると「体を温めるためにも、一曲お相手願えませんか」と静かに言ってくる。
「……は、何、を」
言葉が上手く出てこないのは今にも心臓が飛び出る前に破裂しそうだからだ。言葉どころか呼吸すらままならない。だというのにウィルフレッドの手は改めてレッドの手を取っていた。
音楽は室内から漏れ聞こえてくるものだけだ。そして灯りも室内からのものだけ。バルコニーは広いもののバルコニーとして広いだけだ。そんな中を、レッドはウィルフレッドを支えるようにして軽やかに動いていく。
心臓が痛い。
きっと空気が冷たいため、それがダンスのせいで乱れた呼吸により肺に入ってくるからだ。なんて言い訳はもはや自分の中で通じないウィルフレッドはどうすればいいか分からずそれこそオートマタ、いや機械や魔法じかけもないただのマリオネットに過ぎなかった。レッドによって糸で操られようやく何とか動いているマリオネットだ。
「寒いですか」
踊りながら先ほどと同じことをレッドが聞いてくる。
「こ、んなところで」
「ここなら俺でも王子と踊れるかと思いまして」
無骨な踊りと言っていたレッドの動きはスマートだった。もちろん側近とはいえ家柄もそこそこいい者ばかりであり、ダンスくらい出来る者が大半だろう。だがあのレッドがと思うと意外だしその意外性にますます呼吸が止まりそうだ。
「無理だ」
「大丈夫。踊れていますよ王子」
「無理、だ」
「俺に合わせて」
耳にレッドの息がかかった。
死んでしまう。
くらくらとしながらレッドのマリオネットとなり、ウィルフレッドはただひたすら手や腕、腰などに触れるレッドの手を感じていた。
ダンスは練習で他の者に教えてもらったこともあるし前世ではどんなダンスでも踊れていたくらいだ。だが今レッドと踊ることでダンスが、あれほど散々していた快楽を味わうためのセックスよりも熱くて愛しくて切なくて扇情的なものだと知った。
室内から漏れ聞こえてくる演奏が終わるとレッドは手を離してきた。そしてお辞儀をする。手が離れたとたん、そこからどんどん体の熱が消えていってしまうような気がした。
「ちゃんと踊れていましたよ王子。体も動かしたことですし準備運動は万全かと。お次は是非、暖かい室内でどなたかと」
「もう」
「はい」
「もう十分踊った。それに中は明るくて踊る気になれん」
「ですがせっかく大きなパーティですし楽しまれたほうが」
「煩い。ならもう少しお前が付き合え」
「俺は」
「無骨な踊りだの側近だのといった言い訳は許さんからな。いいから付き合え」
丁度タイミングよく、次の演奏が始まった。ウィルフレッドから手を差し出すとレッドが一瞬逡巡した後でその手をつかんできた。
翌日、兄姉たちとクリードで集まった際に筋肉痛だったのは訓練や当然だがセックスをしたからなどではない。二、三曲踊っただけだがダンスのせいだ。あとレッドと密着していて体が緊張し倒したせいでもある。むしろこちらのほうが大きい。あまりに情けなくて筋肉痛などなかった振りをしていたが朝起きた時などは中々に酷かった。
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