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70話
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しかし、とクライドはグラスを置いてじっと見てきた。
「実際私はお前を確実に封じたはずだった。だというのに何故お前は転生した? 何があった?」
「そんなもの、俺が聞きたいわ。まぁ、とりあえずは封印が解かれたというより、緩むなりしておそらく俺がいい加減力尽きたのだろう? それによりようやく死んだ俺は転生したものの……、っくそ。転生してもこれでは世界征服どころかこの国一つ、ちっとも征服することまかりならん」
「ふ……。まあ、私の力も永遠ではないということだな。長年封印していたことにより力が削がれているとはいえ、とりあえず封印はもって三百年ということか」
「あの俺を相手に、十分過ぎるほどもっておるわ! どれだけの間、俺がこ、いや、動くことも叶わず封じられていたと思っているのだ!」
思わず「孤独なまま」と言いそうになり、ウィルフレッドは言い直す。ただクライドは気にした様子もなくまたワインに口をつけている。その様子に尚更イライラさせられた。
「で?」
「で、とは」
「貴様、俺にこれを問うてどうしようと思っていたのだ。……王にばらすのか? ルイやラルフ、アレクシアに気を付けろとでも言うのか? それとも俺をまた封じ込めるのか? まさか今回の出来事も俺の仕業だと思っているのか?」
「質問が多いな」
「貴様が何も説明しないからだろうが!」
レッドも大概無口なタイプだが、まだ最低限必要なことは言ってくる。クライドはかなり始末が悪い。
「……別にどうもしないが」
「はぁ?」
少しの間の後に言ってきたクライドの言葉に、ウィルフレッドは唖然とした顔を向けた。
「わざわざこんな場を設けてまで確認してきたのではないのか」
「はっきりさせたかったからな。あとこの場はわざわざ設けたのではない。ついでだな」
「そこはどうでもいいのだ……。だから! はっきりさせてどうするのだ、と」
「どうもしないと言っているだろうが。人間になって頭も悪くなったか」
「貴様……。っち。では何故はっきりさせたいのだ」
「お前は何が聞きたいのだ? 不明確なことがあれば明確にするだけの話だろうが」
これだから学者肌は嫌だ……!
ウィルフレッドは思い切り手を握りしめながら力いっぱい思った。エメリーもそうだが、知識欲が行き過ぎて斜め上になろうが、それは当然のことだとしか思えないある意味視野狭窄的な考えが苛立たしい。普通ははっきりさせたいための理由もあるのだと誰かこの唐変木に言ってやって欲しいと心から思った。ついでにまたつい気持ちを込め過ぎてか漏れていたようで『言っても無駄とはまさにこの相手に言う言葉では?』などとフェルから返事が返ってきてしまい、余計に不機嫌な気持ちになる。
「貴様はケルエイダ王国の専属術者だろう。その魔力と知識を惜しげなく使いケルエイダにとってよくないことから守るのが仕事だろう」
「そうだな」
「なら俺は王族へ報告しなくてはならない存在なのではないのか? 三百年前、貴様と王、そして王が遣わした勇者たちによってようやく倒した存在が転生し、現れたのだぞ?」
「まあ、普通そういうことになるな」
「では──」
「お前に対する見極めくらい、疑わしい段階で終わっている。今のお前は封じ込めなければならない存在ではないと私は判断している」
さらりと口にするとクライドはまたグラスのワインを口にした。そして「美味いアテも欲しくなってくるな……」などと呟いている。
「は? どういう意味だ。……俺に魔力がほぼないからか。剣術すらまともに扱えないからか。……っくそが」
「違う。そんなことはどうでもいい」
俺にとってはどうでもよくないぞ。
「そうではなく、お前の性質の話だ。お前の見極めは既に終わっていると言っているだろう。お前はあの魔王であってそして人間、ウィルフレッドでもある」
「名前……覚えていたのか」
「私を何だと思っているのだ……。この国の第三王子の名前くらい覚えていなくてどうする。とにかく転生したお前が魔王そのものでしかなかったのであれば私ものんびり悠長なことなどしておらん。だがお前はお前だ。例え生前に魔王であっても、お前はケルエイダ王国の第三王子、ウィルフレッドだ。間違いなく、ウィルフレッドだ。警戒し対処しなければならない相手ではない。先ほどの煩い程の質問の回答にもなるが、よって今回の出来事もお前の仕業だとは露ほども疑っていない」
「……」
違う。俺は魔王だ。いずれケルエイダ王国どころか世界をも我がものにしてやると企んでいる、元とはいえ魔王だ。
そう言い返したいというのに、ウィルフレッドは言葉を発することも出来ず、それどころか込み上げてくる何かを必死に抑えていた。そうしなければ目から忌々しいものが落ちてしまう。
自分でもよく分からない。
もちろん、今でもクライドのことは忌々しいし仇だと思っている。当然友などではないし、人間が陥る愛だの恋だのといったよく分からない感情など抱いていない。それにレッドに対してと違って性的な感情も湧いていない。
だが嬉しかった。
何が、と問われても上手く言えなかっただろう。自分というものの本質を知り、それを受け入れ認めてくれる存在が身近な人間にいることが何故そんなに嬉しいのか分からない。
ただ、嬉しかった。
「クライ、ド……」
「──まぁ、とはいえ力が削がれたせいもあって元々発動しにくかっただろうが、念のためお前の魔力や筋力は、お前のことが疑わしく感じ始めた頃……そうだな、丁度お前が私の住まいに頻繁に来るようになった頃か? くらいに既に封じているがな。その頃は見極めが必要だと疑うほどですらなかったが、それこそ私はケルエイダ専属術者だからな。念には念を入れておいた」
「……、……は?」
クライドの住まいに頻繁に来るようになった頃というのはまさしく魔王の記憶が戻って間もない頃だ。要は魔力や剣術を鍛え始めて少し経ったかどうか、といった頃だ。
「はぁっ? 貴様……! 俺の感動と努力とそして力返せ……!」
「実際私はお前を確実に封じたはずだった。だというのに何故お前は転生した? 何があった?」
「そんなもの、俺が聞きたいわ。まぁ、とりあえずは封印が解かれたというより、緩むなりしておそらく俺がいい加減力尽きたのだろう? それによりようやく死んだ俺は転生したものの……、っくそ。転生してもこれでは世界征服どころかこの国一つ、ちっとも征服することまかりならん」
「ふ……。まあ、私の力も永遠ではないということだな。長年封印していたことにより力が削がれているとはいえ、とりあえず封印はもって三百年ということか」
「あの俺を相手に、十分過ぎるほどもっておるわ! どれだけの間、俺がこ、いや、動くことも叶わず封じられていたと思っているのだ!」
思わず「孤独なまま」と言いそうになり、ウィルフレッドは言い直す。ただクライドは気にした様子もなくまたワインに口をつけている。その様子に尚更イライラさせられた。
「で?」
「で、とは」
「貴様、俺にこれを問うてどうしようと思っていたのだ。……王にばらすのか? ルイやラルフ、アレクシアに気を付けろとでも言うのか? それとも俺をまた封じ込めるのか? まさか今回の出来事も俺の仕業だと思っているのか?」
「質問が多いな」
「貴様が何も説明しないからだろうが!」
レッドも大概無口なタイプだが、まだ最低限必要なことは言ってくる。クライドはかなり始末が悪い。
「……別にどうもしないが」
「はぁ?」
少しの間の後に言ってきたクライドの言葉に、ウィルフレッドは唖然とした顔を向けた。
「わざわざこんな場を設けてまで確認してきたのではないのか」
「はっきりさせたかったからな。あとこの場はわざわざ設けたのではない。ついでだな」
「そこはどうでもいいのだ……。だから! はっきりさせてどうするのだ、と」
「どうもしないと言っているだろうが。人間になって頭も悪くなったか」
「貴様……。っち。では何故はっきりさせたいのだ」
「お前は何が聞きたいのだ? 不明確なことがあれば明確にするだけの話だろうが」
これだから学者肌は嫌だ……!
ウィルフレッドは思い切り手を握りしめながら力いっぱい思った。エメリーもそうだが、知識欲が行き過ぎて斜め上になろうが、それは当然のことだとしか思えないある意味視野狭窄的な考えが苛立たしい。普通ははっきりさせたいための理由もあるのだと誰かこの唐変木に言ってやって欲しいと心から思った。ついでにまたつい気持ちを込め過ぎてか漏れていたようで『言っても無駄とはまさにこの相手に言う言葉では?』などとフェルから返事が返ってきてしまい、余計に不機嫌な気持ちになる。
「貴様はケルエイダ王国の専属術者だろう。その魔力と知識を惜しげなく使いケルエイダにとってよくないことから守るのが仕事だろう」
「そうだな」
「なら俺は王族へ報告しなくてはならない存在なのではないのか? 三百年前、貴様と王、そして王が遣わした勇者たちによってようやく倒した存在が転生し、現れたのだぞ?」
「まあ、普通そういうことになるな」
「では──」
「お前に対する見極めくらい、疑わしい段階で終わっている。今のお前は封じ込めなければならない存在ではないと私は判断している」
さらりと口にするとクライドはまたグラスのワインを口にした。そして「美味いアテも欲しくなってくるな……」などと呟いている。
「は? どういう意味だ。……俺に魔力がほぼないからか。剣術すらまともに扱えないからか。……っくそが」
「違う。そんなことはどうでもいい」
俺にとってはどうでもよくないぞ。
「そうではなく、お前の性質の話だ。お前の見極めは既に終わっていると言っているだろう。お前はあの魔王であってそして人間、ウィルフレッドでもある」
「名前……覚えていたのか」
「私を何だと思っているのだ……。この国の第三王子の名前くらい覚えていなくてどうする。とにかく転生したお前が魔王そのものでしかなかったのであれば私ものんびり悠長なことなどしておらん。だがお前はお前だ。例え生前に魔王であっても、お前はケルエイダ王国の第三王子、ウィルフレッドだ。間違いなく、ウィルフレッドだ。警戒し対処しなければならない相手ではない。先ほどの煩い程の質問の回答にもなるが、よって今回の出来事もお前の仕業だとは露ほども疑っていない」
「……」
違う。俺は魔王だ。いずれケルエイダ王国どころか世界をも我がものにしてやると企んでいる、元とはいえ魔王だ。
そう言い返したいというのに、ウィルフレッドは言葉を発することも出来ず、それどころか込み上げてくる何かを必死に抑えていた。そうしなければ目から忌々しいものが落ちてしまう。
自分でもよく分からない。
もちろん、今でもクライドのことは忌々しいし仇だと思っている。当然友などではないし、人間が陥る愛だの恋だのといったよく分からない感情など抱いていない。それにレッドに対してと違って性的な感情も湧いていない。
だが嬉しかった。
何が、と問われても上手く言えなかっただろう。自分というものの本質を知り、それを受け入れ認めてくれる存在が身近な人間にいることが何故そんなに嬉しいのか分からない。
ただ、嬉しかった。
「クライ、ド……」
「──まぁ、とはいえ力が削がれたせいもあって元々発動しにくかっただろうが、念のためお前の魔力や筋力は、お前のことが疑わしく感じ始めた頃……そうだな、丁度お前が私の住まいに頻繁に来るようになった頃か? くらいに既に封じているがな。その頃は見極めが必要だと疑うほどですらなかったが、それこそ私はケルエイダ専属術者だからな。念には念を入れておいた」
「……、……は?」
クライドの住まいに頻繁に来るようになった頃というのはまさしく魔王の記憶が戻って間もない頃だ。要は魔力や剣術を鍛え始めて少し経ったかどうか、といった頃だ。
「はぁっ? 貴様……! 俺の感動と努力とそして力返せ……!」
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