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48話
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そういえば、と急に気づいた。
いつものように書類に目を通し、必要あれば押印したりサインしたりしながらウィルフレッドはハッとして手を止める。
この間、勃たなければ元も子もないとばかりに、もしレッドものがウィルフレッドのものより繊細ならと気遣いなんて柄でもないことをしたが、別に自分が抱く側ならそれほど問題なかったのではないか。その前に初めてセックスをした後に「体が心配だから」と立て続けにするのを拒まれた時も同じだ。なら逆になればいいだけの話ではないのか。
「どう思う」
「……俺に聞くんですか」
仕事だけは疎かにするつもりはないので今ある分を全て終わらせてからレッドを呼び、それについて問えばまた呆れられた。
「では誰に聞くというのだ」
「聞かなくてもいいでしょうが」
「聞かなければ俺の考えで問題ないと判断するが」
「俺としては問題ありますけどね」
「生意気な。何故だ」
「俺、抱かれる趣味はないので」
「は。ではやはり貴様に聞いたのは間違いではないじゃないか」
「……まあ、そうかもですが……せめてもう少しデリカシーというか……恥じらいというか、持ちませんか」
「この俺がか? この俺に恥じらえと? 貴様、愚弄するつもりか」
ムッとして睨み上げるも、レッドは呆れた表情のまま淡々と見下ろしてきた。
「何故そうなるんです」
「煩い。だいたいこの俺が貴様に抱かれてやっているというのに貴様は抱かれる気はないだと? 偉くなったものだな」
「ご安心ください。抱くつもりも──」
「それならそれで構わん。俺はモヴィか誰かに相手をさせる」
「……」
ウィルフレッドがそう言うとレッドはいつも何とも言えない表情をする。よほど部下思いなのだろう。ウィルフレッドは舌打ちをした。魔王だった頃はむしろ誰もが抱いて欲しい抱かれて欲しいと思っていたものだというのに、今はこの体たらくだ。自分でも容姿も武芸もあまりに平凡だと分かっている。かつての栄華を思うと忌々しさしかないが、こればかりはどうしようもない。せめて学問に関しては前世ほどではないにしても受け継がれているのが幸いと思うしかない。これで学問すら救いようがなかったらと思うと多少は気持ちも晴れないではない。
後は多少なりとも武芸も鍛えつつ、何とかしてこの国を支配出来れば御の字だろうか。そのためにも以前思いついた、ろくでもない人間から力を吸い取る方法もさらに試してみたいものだが、急いては事を仕損じるともいうしで日々それに関しては機会を狙いつつ様子見だ。
そして体を交わす行為だが、これは本当に予定外だった。ウィルフレッドとしても改めて間抜けな発想をしたものだとは思うが、意外にも楽しめると分かったのは悪くない。楽しみは多いに越したことはない。ふと、ついでにそれこそ淫魔のようにレッドからも何か力を得たりは出来ないものかと考えてみたが、残念ながらそれは出来ないようだ。悪事から吸い取れる可能性があるならセックスでもと思ったのだが、悪意のない者との性交は悪事には含まれないようだ。
「……確かに子どもを授かる行為でもあるようだしな」
魔王時代を思えば悪事以外の何物でもなさそうだが、普通に考えると聖域でもあるのだろう。そう考えると楽しさも湧かないし出来れば避けたくもなるが。
「っ何の話ですか。何故モヴィから子どもを授かる行為という発想に?」
レッドが唖然とした顔になった。基本的に無表情そうなのだが、案外色んな表情をするなとウィルフレッドは少しおかしく思う。
「何を笑っているんです」
「別に。貴様はそして煩いな」
「側近ですので」
「は。とにかく、貴様が俺の相手をしないなら他で見繕うだけだ」
「はぁ……。何故急に」
「セックスが楽しいものだと知ったからだが」
正確には昔から知り過ぎるくらい知っていて飽き飽きしていたはずがこの体だからかはよく分からないが意外にも楽しかったから、だ。
「ああ、クソ」
いつも淡々としているレッドが珍しく悪態を吐いている。よほどウィルフレッドとするのに抵抗があるらしい。
「別に側近が王子とそういったことをするのも珍しい訳ではないだろうが」
強制ではないが、過去にそういうことがなかったとも言えない。多くはないのは側近は同性と決まっているからだろう。同性同士もわりとあるとはいえ、やはり体や心を交わす組み合わせとして多いのは異性同士だ。
「そういう問題ではないんです」
「堅苦しい男だな貴様は」
とはいえ、いつもならまるでレッドの手のひらに転がされているかのような気持ちをよく味わわされている感じすらしていたウィルフレッドとしては、こうして多少でも自分が優位に立っているかのような流れになるのは楽しいと思えた。そしてこの行為をしなくとも夜、また一緒に眠るようになったのも何だか小気味がいい。
「まあ今は別にしたい訳ではないからもういい。フェルの散歩に向かうぞ」
「……御意」
フェルの散歩は毎日の日課になっている。とはいえ城内だけであるしレッドが付いていないとウィルフレッドだけでは行えないという不自由なものでもある。もし万が一何かあってフェルが暴れたとしてもウィルフレッドだけでは危険というか頼りにならないだろうと皆が思っているのが丸分かり過ぎて正直忌々しさもあるが、魔物であるし仕方がないと甘んじている。
「……今日はどこへ行くか。おい、けだもの。貴様どこへ行きたい」
「ワフ」
「何を言っているのか分からん」
「クゥ」
「分からんと言っているのだ。無礼者め」
「王子、頭を撫でてないで行くなら早く行ってください」
「煩い。撫でてない。埃を払っただけだ。……そうだな、今日はこのままあの忌々しいクライドめのところまで行くか」
ジロリとレッドを睨み上げた後、ウィルフレッドはフェルが繋がれている鎖を握った。
いつものように書類に目を通し、必要あれば押印したりサインしたりしながらウィルフレッドはハッとして手を止める。
この間、勃たなければ元も子もないとばかりに、もしレッドものがウィルフレッドのものより繊細ならと気遣いなんて柄でもないことをしたが、別に自分が抱く側ならそれほど問題なかったのではないか。その前に初めてセックスをした後に「体が心配だから」と立て続けにするのを拒まれた時も同じだ。なら逆になればいいだけの話ではないのか。
「どう思う」
「……俺に聞くんですか」
仕事だけは疎かにするつもりはないので今ある分を全て終わらせてからレッドを呼び、それについて問えばまた呆れられた。
「では誰に聞くというのだ」
「聞かなくてもいいでしょうが」
「聞かなければ俺の考えで問題ないと判断するが」
「俺としては問題ありますけどね」
「生意気な。何故だ」
「俺、抱かれる趣味はないので」
「は。ではやはり貴様に聞いたのは間違いではないじゃないか」
「……まあ、そうかもですが……せめてもう少しデリカシーというか……恥じらいというか、持ちませんか」
「この俺がか? この俺に恥じらえと? 貴様、愚弄するつもりか」
ムッとして睨み上げるも、レッドは呆れた表情のまま淡々と見下ろしてきた。
「何故そうなるんです」
「煩い。だいたいこの俺が貴様に抱かれてやっているというのに貴様は抱かれる気はないだと? 偉くなったものだな」
「ご安心ください。抱くつもりも──」
「それならそれで構わん。俺はモヴィか誰かに相手をさせる」
「……」
ウィルフレッドがそう言うとレッドはいつも何とも言えない表情をする。よほど部下思いなのだろう。ウィルフレッドは舌打ちをした。魔王だった頃はむしろ誰もが抱いて欲しい抱かれて欲しいと思っていたものだというのに、今はこの体たらくだ。自分でも容姿も武芸もあまりに平凡だと分かっている。かつての栄華を思うと忌々しさしかないが、こればかりはどうしようもない。せめて学問に関しては前世ほどではないにしても受け継がれているのが幸いと思うしかない。これで学問すら救いようがなかったらと思うと多少は気持ちも晴れないではない。
後は多少なりとも武芸も鍛えつつ、何とかしてこの国を支配出来れば御の字だろうか。そのためにも以前思いついた、ろくでもない人間から力を吸い取る方法もさらに試してみたいものだが、急いては事を仕損じるともいうしで日々それに関しては機会を狙いつつ様子見だ。
そして体を交わす行為だが、これは本当に予定外だった。ウィルフレッドとしても改めて間抜けな発想をしたものだとは思うが、意外にも楽しめると分かったのは悪くない。楽しみは多いに越したことはない。ふと、ついでにそれこそ淫魔のようにレッドからも何か力を得たりは出来ないものかと考えてみたが、残念ながらそれは出来ないようだ。悪事から吸い取れる可能性があるならセックスでもと思ったのだが、悪意のない者との性交は悪事には含まれないようだ。
「……確かに子どもを授かる行為でもあるようだしな」
魔王時代を思えば悪事以外の何物でもなさそうだが、普通に考えると聖域でもあるのだろう。そう考えると楽しさも湧かないし出来れば避けたくもなるが。
「っ何の話ですか。何故モヴィから子どもを授かる行為という発想に?」
レッドが唖然とした顔になった。基本的に無表情そうなのだが、案外色んな表情をするなとウィルフレッドは少しおかしく思う。
「何を笑っているんです」
「別に。貴様はそして煩いな」
「側近ですので」
「は。とにかく、貴様が俺の相手をしないなら他で見繕うだけだ」
「はぁ……。何故急に」
「セックスが楽しいものだと知ったからだが」
正確には昔から知り過ぎるくらい知っていて飽き飽きしていたはずがこの体だからかはよく分からないが意外にも楽しかったから、だ。
「ああ、クソ」
いつも淡々としているレッドが珍しく悪態を吐いている。よほどウィルフレッドとするのに抵抗があるらしい。
「別に側近が王子とそういったことをするのも珍しい訳ではないだろうが」
強制ではないが、過去にそういうことがなかったとも言えない。多くはないのは側近は同性と決まっているからだろう。同性同士もわりとあるとはいえ、やはり体や心を交わす組み合わせとして多いのは異性同士だ。
「そういう問題ではないんです」
「堅苦しい男だな貴様は」
とはいえ、いつもならまるでレッドの手のひらに転がされているかのような気持ちをよく味わわされている感じすらしていたウィルフレッドとしては、こうして多少でも自分が優位に立っているかのような流れになるのは楽しいと思えた。そしてこの行為をしなくとも夜、また一緒に眠るようになったのも何だか小気味がいい。
「まあ今は別にしたい訳ではないからもういい。フェルの散歩に向かうぞ」
「……御意」
フェルの散歩は毎日の日課になっている。とはいえ城内だけであるしレッドが付いていないとウィルフレッドだけでは行えないという不自由なものでもある。もし万が一何かあってフェルが暴れたとしてもウィルフレッドだけでは危険というか頼りにならないだろうと皆が思っているのが丸分かり過ぎて正直忌々しさもあるが、魔物であるし仕方がないと甘んじている。
「……今日はどこへ行くか。おい、けだもの。貴様どこへ行きたい」
「ワフ」
「何を言っているのか分からん」
「クゥ」
「分からんと言っているのだ。無礼者め」
「王子、頭を撫でてないで行くなら早く行ってください」
「煩い。撫でてない。埃を払っただけだ。……そうだな、今日はこのままあの忌々しいクライドめのところまで行くか」
ジロリとレッドを睨み上げた後、ウィルフレッドはフェルが繋がれている鎖を握った。
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