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23話
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戻る途中から違和感はあった。だが気のせいだろうと思い込んでいた。
しかし自室に戻る前に間違いないとウィルフレッドは自覚せざるを得なかった。
はっきり言って、ムラムラしている。
こんなことは基本的になかった。そういったことに無知だからではない。もちろん今のウィルフレッドとしては童貞だし自分で抜くことも特にしていない。だが魔王だった頃にそれこそありとあらゆる経験を経ているため、今さら特にムキになる必要もないだけだ。冷めているといっても過言ではない。
どのみちこんな平凡顔では女にモテないしな!
微妙な気持ちになりつつも、嫌でも無視出来ない感覚に苛立ちを覚えた。
仕方なく、自室へ向かわずにたまに出向くこの国を一望出来るキープへ足を向けた。
今感じている突発的な性欲も、あの高い場所から眺めるいずれ自分が手にするであろうこの国を堪能すれば興奮がそちらへ移り、薄まるだろう。自室なんかに戻ってしまえば待ち受けているのはデンと構えているベッドだ。こうなったのはおそらく先ほど飲んだ果てしなく不味い薬が原因だろうから、いそいそとベッドに転がり込むのは負けた気がして絶対に嫌だ。騙されて飲んだ訳ではないので勝ち負けもへったくれもないのだが、安易に飲んでしまった上に思い切り反応してしまいひたすら抜くなどと、忌々しさしかない。
「王子? この雨の中、どちらへ」
「出たな……ストーカーめ」
「は」
「……国を眺めに行く。お前はどっか行ってろ」
置いてきていたはずのレッドが当然のようにいつの間にか側にいることには今さらもう驚かないが、とにかく今この状態で側にいられたくない。
「雨ですよ」
「知っておるわ」
「びしょ濡れになりながら眺める気ですか」
「そういう気分だ」
「ご自分をいたぶるプレイはほどほどになさってください。風邪を引きます」
「誰がいたぶっているか! 貴様には分からないような情緒ある雰囲気を楽しむだけだ。うるさい。どっか行け」
「王子が風邪を引くと分かっていて見過ごすはずないでしょう」
ため息を吐きながらレッドの伸ばしてきた手を、ウィルフレッドは慌てて払った。今誰にだろうが触れられるとまずい。腕に触れられるだけでもまずい。ましてやレッドは軽率にウィルフレッドを抱き上げてくる一味の一員だ。
「俺に触れるな」
「……術者殿の目の前なんかで間違えて薬でも飲みましたか」
レッドの顔が通常でも怖めだというのに二割増しくらいで怖い気がする。もしかしたら軽率にその辺のものを口にする主人に対して苛立っているのだろうかとウィルフレッドは少し顔を逸らす。
「べ、別に……、……、……って待て。貴様何で分かるんだよっ?」
あの狭い部屋には少なくともレッドはいなかったはずだ。
「術者殿のお住まいと王子の性格、そして今の様子を見れば一目瞭然です」
「く……」
見透かされているようなのが忌々しい。
「ますますあんな場所へ行ってどうするんですか。大人しく部屋で抜くなりなさってください」
「うるさい! そんなつもりはない」
「……まさか抜き方が分からないとか……」
そのハッとなった様子がますます腹立たしい。
「貴様、この俺をどこまで愚弄するつもりなのだ。もう十六なのだぞ。知らない訳ないだろうが」
「……はぁ」
「その疑わしいといった顔をやめろ。知ってはいるが抜く気はないと言っているのだ」
「そういった妙なプレイは」
「プレイではないわ……! ああ、くそ。俺の状態が分かっているなら放っておけ。雨なら体も冷えて一石二鳥だろうが」
「しかし……」
「いいか? 貴様の仕事は俺に仕えることだ、分かっているな?」
「まさか俺に抜けと」
「言っておらぬわ! 貴様はこうしている間にでも水差しに水をたっぷり用意してろ」
「……御意」
クライドの言う通りにするのは何とも癪でならないが、実際体内に入れた薬を薄めるには大量の水を飲むのがいいだろうことくらいウィルフレッドにも分かる。移動している間に水を用意させて持ってこさせ、水を大量に飲みながら佳景を楽しむのも一興じゃないかと皮肉な気持ちで思う。そして実際雨が、いい具合に火照って仕方がない体を鎮めてくれるだろう。
あのクソ術者め……恨みがまた一つ増えた……!
勝手に飲んだのはウィルフレッドながらに思い切り逆恨みをしながら、何とか誰にも見つからずに先を進んだ。
もうすぐ着くというところでまたレッドが近づいてくる。
「水差しに十分な水を用意しました」
よく考えなくとも自分の腕前ではグラスであっても持ちながらキープをよじ登ることは不可能だった。トレーに水差しと既に水が淹れられているグラスを乗せ、やたらウィルフレッドをじっと見てきながらそのトレーを掲げるレッドから、ウィルフレッドは渋々グラスを取り、ごくごくと飲んだ。魔力で冷やしてあるのかひんやりとした喉ごしが気持ちいい。染み込むように水が喉や胃を流れていく気がした。嫌々というより好んでウィルフレッドは何杯も水を飲み干す。
「ではもういい。どっか行ってろ」
「そういう訳には。きっと風邪をお引きになるというのに止めることも出来ないのなら、せめて王子が上で悶え苦しんでおられるのを見守っております」
「嫌な言い方するな! あと見守るな……!」
相手などしていられないとばかりにレッドに背を向け、ウィルフレッドは雨の中何とか滑らずにキープをよじ登った。
水を大量に飲んだことで、気のせいかもしれないが少し昂りがマシになったかもしれない。そして壮大な光景を目の当たりにしていると興奮がそちらへ移っていくような気もした。おまけに雨も先ほどよりもさらに強くなった気がする。
ムラムラどころか今すぐにどうにかしないと爆発するのではないかという一歩手前くらいまでになりそうだったウィルフレッドだが、何とかこのまま治まりそうだ。
ホッとして内側を見下ろせば、レッドがびしょ濡れになりながらウィルフレッドの様子を窺っているのが見えた。近くにいるにしても城内に入っていればいいものを、とウィルフレッドは微妙な顔をした。
馬鹿なやつめ。
もう少ししたら完全に治まるだろう。そうしたら降りるにしても雨で濡れていて滑りやすい。またレッドにダイブする羽目になりそうだ。一応その褒美として、よくやったと背中を軽く叩いてやってもいいとウィルフレッドは内心思った。
しかし自室に戻る前に間違いないとウィルフレッドは自覚せざるを得なかった。
はっきり言って、ムラムラしている。
こんなことは基本的になかった。そういったことに無知だからではない。もちろん今のウィルフレッドとしては童貞だし自分で抜くことも特にしていない。だが魔王だった頃にそれこそありとあらゆる経験を経ているため、今さら特にムキになる必要もないだけだ。冷めているといっても過言ではない。
どのみちこんな平凡顔では女にモテないしな!
微妙な気持ちになりつつも、嫌でも無視出来ない感覚に苛立ちを覚えた。
仕方なく、自室へ向かわずにたまに出向くこの国を一望出来るキープへ足を向けた。
今感じている突発的な性欲も、あの高い場所から眺めるいずれ自分が手にするであろうこの国を堪能すれば興奮がそちらへ移り、薄まるだろう。自室なんかに戻ってしまえば待ち受けているのはデンと構えているベッドだ。こうなったのはおそらく先ほど飲んだ果てしなく不味い薬が原因だろうから、いそいそとベッドに転がり込むのは負けた気がして絶対に嫌だ。騙されて飲んだ訳ではないので勝ち負けもへったくれもないのだが、安易に飲んでしまった上に思い切り反応してしまいひたすら抜くなどと、忌々しさしかない。
「王子? この雨の中、どちらへ」
「出たな……ストーカーめ」
「は」
「……国を眺めに行く。お前はどっか行ってろ」
置いてきていたはずのレッドが当然のようにいつの間にか側にいることには今さらもう驚かないが、とにかく今この状態で側にいられたくない。
「雨ですよ」
「知っておるわ」
「びしょ濡れになりながら眺める気ですか」
「そういう気分だ」
「ご自分をいたぶるプレイはほどほどになさってください。風邪を引きます」
「誰がいたぶっているか! 貴様には分からないような情緒ある雰囲気を楽しむだけだ。うるさい。どっか行け」
「王子が風邪を引くと分かっていて見過ごすはずないでしょう」
ため息を吐きながらレッドの伸ばしてきた手を、ウィルフレッドは慌てて払った。今誰にだろうが触れられるとまずい。腕に触れられるだけでもまずい。ましてやレッドは軽率にウィルフレッドを抱き上げてくる一味の一員だ。
「俺に触れるな」
「……術者殿の目の前なんかで間違えて薬でも飲みましたか」
レッドの顔が通常でも怖めだというのに二割増しくらいで怖い気がする。もしかしたら軽率にその辺のものを口にする主人に対して苛立っているのだろうかとウィルフレッドは少し顔を逸らす。
「べ、別に……、……、……って待て。貴様何で分かるんだよっ?」
あの狭い部屋には少なくともレッドはいなかったはずだ。
「術者殿のお住まいと王子の性格、そして今の様子を見れば一目瞭然です」
「く……」
見透かされているようなのが忌々しい。
「ますますあんな場所へ行ってどうするんですか。大人しく部屋で抜くなりなさってください」
「うるさい! そんなつもりはない」
「……まさか抜き方が分からないとか……」
そのハッとなった様子がますます腹立たしい。
「貴様、この俺をどこまで愚弄するつもりなのだ。もう十六なのだぞ。知らない訳ないだろうが」
「……はぁ」
「その疑わしいといった顔をやめろ。知ってはいるが抜く気はないと言っているのだ」
「そういった妙なプレイは」
「プレイではないわ……! ああ、くそ。俺の状態が分かっているなら放っておけ。雨なら体も冷えて一石二鳥だろうが」
「しかし……」
「いいか? 貴様の仕事は俺に仕えることだ、分かっているな?」
「まさか俺に抜けと」
「言っておらぬわ! 貴様はこうしている間にでも水差しに水をたっぷり用意してろ」
「……御意」
クライドの言う通りにするのは何とも癪でならないが、実際体内に入れた薬を薄めるには大量の水を飲むのがいいだろうことくらいウィルフレッドにも分かる。移動している間に水を用意させて持ってこさせ、水を大量に飲みながら佳景を楽しむのも一興じゃないかと皮肉な気持ちで思う。そして実際雨が、いい具合に火照って仕方がない体を鎮めてくれるだろう。
あのクソ術者め……恨みがまた一つ増えた……!
勝手に飲んだのはウィルフレッドながらに思い切り逆恨みをしながら、何とか誰にも見つからずに先を進んだ。
もうすぐ着くというところでまたレッドが近づいてくる。
「水差しに十分な水を用意しました」
よく考えなくとも自分の腕前ではグラスであっても持ちながらキープをよじ登ることは不可能だった。トレーに水差しと既に水が淹れられているグラスを乗せ、やたらウィルフレッドをじっと見てきながらそのトレーを掲げるレッドから、ウィルフレッドは渋々グラスを取り、ごくごくと飲んだ。魔力で冷やしてあるのかひんやりとした喉ごしが気持ちいい。染み込むように水が喉や胃を流れていく気がした。嫌々というより好んでウィルフレッドは何杯も水を飲み干す。
「ではもういい。どっか行ってろ」
「そういう訳には。きっと風邪をお引きになるというのに止めることも出来ないのなら、せめて王子が上で悶え苦しんでおられるのを見守っております」
「嫌な言い方するな! あと見守るな……!」
相手などしていられないとばかりにレッドに背を向け、ウィルフレッドは雨の中何とか滑らずにキープをよじ登った。
水を大量に飲んだことで、気のせいかもしれないが少し昂りがマシになったかもしれない。そして壮大な光景を目の当たりにしていると興奮がそちらへ移っていくような気もした。おまけに雨も先ほどよりもさらに強くなった気がする。
ムラムラどころか今すぐにどうにかしないと爆発するのではないかという一歩手前くらいまでになりそうだったウィルフレッドだが、何とかこのまま治まりそうだ。
ホッとして内側を見下ろせば、レッドがびしょ濡れになりながらウィルフレッドの様子を窺っているのが見えた。近くにいるにしても城内に入っていればいいものを、とウィルフレッドは微妙な顔をした。
馬鹿なやつめ。
もう少ししたら完全に治まるだろう。そうしたら降りるにしても雨で濡れていて滑りやすい。またレッドにダイブする羽目になりそうだ。一応その褒美として、よくやったと背中を軽く叩いてやってもいいとウィルフレッドは内心思った。
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