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111話
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「ニルス! 魔法引っ込めて!」
慌てて言うとニルスがこくりと頷いてすぐに火は消えた。恐る恐る絨毯を見ると焦げ跡は全くなかった。酔いながらも魔法の火力を調整できるほど、ニルスもそこそこ魔力があるのかとエルヴィンはつい感心していたが、すぐに「そんな場合ではない」と我に返る。
「ここはお前の屋敷じゃないんだぞ。しかも友好的とはいえ他国の宮殿なんだから、そんなことしちゃ駄目だろ」
つい弟に言うような言い方になってしまったが、実際弟がいるからか言い聞かせようとするとどうしてもそうなってしまいがちだ。
だがニルスは気を悪くした様子もなく「……わかった」と素直に頷いてきた。
「よかっ」
「お前がここで眠るなら」
「よくなかった……! ニルス。何もでかい男二人でベッド使う必要ないだろ。ソファーもベッド並みに寝心地よさそうだし、俺は……」
話している途中でまた足元がちろちろと燃え出す。
「わかった! 俺こそわかったから引っ込めて!」
「ああ」
慌てて肯定するとまた火は消えた。
「……ニルス……お前、酔うとわかりにくいくせに案外たち悪いな」
「そうか」
「……はぁ。じゃあ着替えるからその間にとりあえずそっちに寄ってて……っ、おい」
着替えるためにベッドから離れようとしたら今度は腕を引かれるどころか体に腕が回ってきた。
「どこへも行くな」
「いや、着替えるだけなんですけど……ああもう。わかった。どこにも行かないから、せめて俺が眠るスペース空けて」
「わかった」
認めるとニルスは頷いてエルヴィンを離してきた。そしてもぞもぞとベッドに上がって半分を空けるように移動する。
今のニルスには何を言っても無駄なのかもしれない。そのわりに基本的にはいつもと同じように言われたことを素直に聞いてくれたりもする。一瞬「俺が言うことを聞くのは基本的にニルスも望むとこだけど、俺がどこかへ行くのはニルスが望まないことだから言うこと全然聞いてくれない、とか?」などと調子のいいことが頭に浮かんで、エルヴィンは自分に対して微妙な気持ちになった。
どんだけ俺が好きなんだよそれ。調子よすぎか俺。
とりあえず今日はもうこのまま眠るしかないと、エルヴィンもそのままベッドに座った。この服は皺だらけになるだろうが一応いくつか着替えは持ってきているので問題はないだろう。
横たわるとエルヴィンはニルスに背を向けた。そうでもしないと変に意識してしまいそうだ。普通に考えたら男同士なので同じ部屋、同じベッドだろうが平穏無事な状況だろう。だがニルスに関しては違う。エルヴィンの大切で大好きな恋人なのだ。意識しないほうがおかしい。
でも思ってた以上に酔ってそうだもんな。そんな相手に何もできるわけないし、とりあえず早く寝よ。
背を向けて目をつむると、少しして背後から腕を回された。え? っと思う間もなく、気づけば背後から抱きしめられている。
ちょ、ちょ、あの、ニルスさん? え、あ、もしかして酔ってるけど……その気? その気なの?
エルヴィンの心臓が動きすぎて胸から飛び出すのではと心配になりそうなくらい高鳴っている。ますます意識し過ぎて、そのままギシリと体は固まっている。
ただニルスの手はしっかりエルヴィンを背後から抱きしめているものの、それ以上何も進展がない。その手がエルヴィンの体をまさぐることもなければ、ひょっとしてひょっとしたらもしかしてもしかしたら万が一硬くなっているかもしれないニルスのものが後ろから押しつけられることもない。
いや、でもほら、ニルスも緊張なんてしてみたりして、戸惑ってる、とか? だってほら、ニルスの恋愛遍歴さ、遡る前のことは全然知らないけど、少なくとも今のニルスは多分、誰とも付き合ってなかったことない? 俺と一緒じゃない? だからほら、どうしていいかなとか、このままどうにかしていいのかなとか、ほら、色々戸惑いつつ、さ?
何でも持っているハイスペック貴族様の男らしいニルスとその考えは一見一致しないが、だがそういったかわいいところもニスルにはあると、エルヴィンはちゃんと知っている。今では性別を凌駕して大好きなニルスのことを、少なくともそれくらいは把握している。
つもりだ。
でもたまに予想外のこともするからなあ。
そんなことを考えつつ様子を窺うも、ニルスはただエルヴィンを抱きしめたままだ。その気になってくれているのか、ニルスも興奮したりするのか、結局ニルスが大好きだろうが皆目わからない。今ほどブローチが欲しいと思ったことはない。上着を脱いで椅子にかけるんじゃなかったと心底思った。ブローチはそこについている。
少し……少し手を回して……その……硬くなってるか……確認して、みる?
自分に聞いてから自分の返事を待つことなく、エルヴィンは実行しようとした。だが意識し過ぎで体が動かないのではなく、ニルスにがっちりホールドされていて動かないのだと気づく羽目になった。
待て。っていうか酔ってるもんな……もしかしてこのまま寝てるって可能性……! ってことは俺、ニルスが腕を緩めてくれないとこのまま? 下手したらこの生殺し状態で眠れぬ夜を過ごす羽目になる?
それは王子を護衛する任務についている者としてもかなり困る。寝不足で任務につくのは駄目だ。
「ニ、ニルス」
「エルヴィン……」
「あ、よかった。起きてたか。あの、ちょっと一旦離してくれる?」
「……エルヴィン……ここで……眠……」
寝言かい……!
慌てて言うとニルスがこくりと頷いてすぐに火は消えた。恐る恐る絨毯を見ると焦げ跡は全くなかった。酔いながらも魔法の火力を調整できるほど、ニルスもそこそこ魔力があるのかとエルヴィンはつい感心していたが、すぐに「そんな場合ではない」と我に返る。
「ここはお前の屋敷じゃないんだぞ。しかも友好的とはいえ他国の宮殿なんだから、そんなことしちゃ駄目だろ」
つい弟に言うような言い方になってしまったが、実際弟がいるからか言い聞かせようとするとどうしてもそうなってしまいがちだ。
だがニルスは気を悪くした様子もなく「……わかった」と素直に頷いてきた。
「よかっ」
「お前がここで眠るなら」
「よくなかった……! ニルス。何もでかい男二人でベッド使う必要ないだろ。ソファーもベッド並みに寝心地よさそうだし、俺は……」
話している途中でまた足元がちろちろと燃え出す。
「わかった! 俺こそわかったから引っ込めて!」
「ああ」
慌てて肯定するとまた火は消えた。
「……ニルス……お前、酔うとわかりにくいくせに案外たち悪いな」
「そうか」
「……はぁ。じゃあ着替えるからその間にとりあえずそっちに寄ってて……っ、おい」
着替えるためにベッドから離れようとしたら今度は腕を引かれるどころか体に腕が回ってきた。
「どこへも行くな」
「いや、着替えるだけなんですけど……ああもう。わかった。どこにも行かないから、せめて俺が眠るスペース空けて」
「わかった」
認めるとニルスは頷いてエルヴィンを離してきた。そしてもぞもぞとベッドに上がって半分を空けるように移動する。
今のニルスには何を言っても無駄なのかもしれない。そのわりに基本的にはいつもと同じように言われたことを素直に聞いてくれたりもする。一瞬「俺が言うことを聞くのは基本的にニルスも望むとこだけど、俺がどこかへ行くのはニルスが望まないことだから言うこと全然聞いてくれない、とか?」などと調子のいいことが頭に浮かんで、エルヴィンは自分に対して微妙な気持ちになった。
どんだけ俺が好きなんだよそれ。調子よすぎか俺。
とりあえず今日はもうこのまま眠るしかないと、エルヴィンもそのままベッドに座った。この服は皺だらけになるだろうが一応いくつか着替えは持ってきているので問題はないだろう。
横たわるとエルヴィンはニルスに背を向けた。そうでもしないと変に意識してしまいそうだ。普通に考えたら男同士なので同じ部屋、同じベッドだろうが平穏無事な状況だろう。だがニルスに関しては違う。エルヴィンの大切で大好きな恋人なのだ。意識しないほうがおかしい。
でも思ってた以上に酔ってそうだもんな。そんな相手に何もできるわけないし、とりあえず早く寝よ。
背を向けて目をつむると、少しして背後から腕を回された。え? っと思う間もなく、気づけば背後から抱きしめられている。
ちょ、ちょ、あの、ニルスさん? え、あ、もしかして酔ってるけど……その気? その気なの?
エルヴィンの心臓が動きすぎて胸から飛び出すのではと心配になりそうなくらい高鳴っている。ますます意識し過ぎて、そのままギシリと体は固まっている。
ただニルスの手はしっかりエルヴィンを背後から抱きしめているものの、それ以上何も進展がない。その手がエルヴィンの体をまさぐることもなければ、ひょっとしてひょっとしたらもしかしてもしかしたら万が一硬くなっているかもしれないニルスのものが後ろから押しつけられることもない。
いや、でもほら、ニルスも緊張なんてしてみたりして、戸惑ってる、とか? だってほら、ニルスの恋愛遍歴さ、遡る前のことは全然知らないけど、少なくとも今のニルスは多分、誰とも付き合ってなかったことない? 俺と一緒じゃない? だからほら、どうしていいかなとか、このままどうにかしていいのかなとか、ほら、色々戸惑いつつ、さ?
何でも持っているハイスペック貴族様の男らしいニルスとその考えは一見一致しないが、だがそういったかわいいところもニスルにはあると、エルヴィンはちゃんと知っている。今では性別を凌駕して大好きなニルスのことを、少なくともそれくらいは把握している。
つもりだ。
でもたまに予想外のこともするからなあ。
そんなことを考えつつ様子を窺うも、ニルスはただエルヴィンを抱きしめたままだ。その気になってくれているのか、ニルスも興奮したりするのか、結局ニルスが大好きだろうが皆目わからない。今ほどブローチが欲しいと思ったことはない。上着を脱いで椅子にかけるんじゃなかったと心底思った。ブローチはそこについている。
少し……少し手を回して……その……硬くなってるか……確認して、みる?
自分に聞いてから自分の返事を待つことなく、エルヴィンは実行しようとした。だが意識し過ぎで体が動かないのではなく、ニルスにがっちりホールドされていて動かないのだと気づく羽目になった。
待て。っていうか酔ってるもんな……もしかしてこのまま寝てるって可能性……! ってことは俺、ニルスが腕を緩めてくれないとこのまま? 下手したらこの生殺し状態で眠れぬ夜を過ごす羽目になる?
それは王子を護衛する任務についている者としてもかなり困る。寝不足で任務につくのは駄目だ。
「ニ、ニルス」
「エルヴィン……」
「あ、よかった。起きてたか。あの、ちょっと一旦離してくれる?」
「……エルヴィン……ここで……眠……」
寝言かい……!
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