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63話
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「いい加減にするのはニルスでしょ。そんな顔と態度ではエルヴィンに誤解されちゃうよ? エルヴィン、安心して。ニルスはこんなだけど君のことは本当に感謝していた上にかなり好意的なんだから」
にこにこと言えばニルスが案の定慌てたように「リック……!」と名前を呼んできた。
よく考えなくとも、この三人の中で本当に完全な十歳の子どもであるのは多分ニルスだけだ。そう思うとこの不愛想で無口無表情なニルスが余計にかわいく思えてくる。あと純粋に楽しい。
「え? そ、そうなんですか?」
「……悪い。俺は無口だし顔にもあまり出ないらしい。だが確かに感謝している」
「感謝なんて」
気づけば二人は握手している。その後ニアキスを加えて四人で話していても、ニルスはエルヴィンから目が離せないようだった。いつも無言なので黙っていることに目新しさはないが、目が離せないニルスはさすがに目新しい。その上とても微笑ましくて、リックとしてもつい笑顔になる。
ただ、ニルスはそんな自分が理解できないようでひたすらこっそり首を傾げていた。ますます微笑ましくてかわいらしいなと思う。
まだ恋とかわからないんだろうなあ。
でも絶対に間違いなく、ニルスはエルヴィンに惹かれている。それだけは確実だとリックは思った。
その後、四人でよく集まって一緒に遊ぶようになった。王城ならまだしも王宮は落ち着かないというエルヴィンに合わせ、ニアキスかエルヴィンの屋敷で遊ぶことが多かった。ニルスの屋敷でもいいのではとリックは思ったが、ニアキスいわく「ニルスの屋敷なんてある意味王宮へ行くのと似たようなものだ」らしい。確かに大公爵家という身分はとても高い上に王族でもある。
ニルスにとってはどこで遊ぶかなど、どうでもいいようだった。
多分、エルヴィンに会えたらそれでいいんだろうね。
相変わらずリックには微笑ましく思える。自分もニルスも、そしてエルヴィンも大人のままだったらまた違ったのかもしれない。関係性は変わっていたかもしれない。そう思える程度にはリックはエルヴィンに好感を抱いていたのだろうと自分でも思う。
でも、今のこんな感じ、悪くない。
エルヴィンの屋敷で遊ぶ時は、エルヴィンの弟であるヴィリーも一緒に遊ぶことが少なくなかった。
遡る前にリックがヴィリーの存在を知ったのはすでに処刑された後だった。騎士団総長ウーヴェの次男であることは元々知っていたが、処刑されたことで存在を知ったとも言うだろうか。
デニスのやり方に反発したというよりはきちんと抗議を行っただけだったと、当時リックの味方である大臣の一人に聞いた。だが亡くなったラウラについてデニスがあまりよくない表現をしたらしく、ずっと堪えていたのであろうヴィリーは思わずデニスに対し剣を向けてしまった。
聞いた時は胸が痛かった。また一人、自分の身内のせいで無駄に死んでしまったと。せめてリックがもう少し早く国へ戻ってきていれば、ヴィリーの処刑も止められた可能性はあった、かもしれない。そう思うと余計に胸が痛かった。
そんな引け目のせいだろうか。リックは遡る前の記憶のないヴィリーに対して、あまり話しかけることは多くなかった。もちろん、話せば普通に楽しく会話することはできるため、エルヴィンたちだけでなくニルスすら気づいてはいないだろう。
遡る前のヴィリーがどんな人物だったのかは知らない。だが今のヴィリーはとにかく兄であるエルヴィンのことが大好きなようだとはすぐにわかった。あと、大好きだけに気づきやすいのだろうか。感情がほぼ読まれないであろうニルスに対して、何となく目の敵にしている様子が見てとれる。
これはこれで楽し……いや、大変かもだねえニルスは。
申し訳ないが、正直リックの楽しみの一つになったかもしれない。あと、時折だがエルヴィンの妹であるラウラを見かけた。さすがに兄たちの集まりに入ってくることはなかったが、顔を見る機会があればリックはラウラも気にして窺うようにしていた。
最初の頃は遡る前に仕えてくれている貴族たちから聞いた話のように、人見知りをするおとなしい恥ずかしがり屋で物静かな少女だと思っていた。だが少しずつ、それなりに明るくて自分をしっかり持つ少女ではと思うようになっていった。元々そうだったのか、以前の記憶を持つエルヴィンの働きかけによるものかは明確ではないが、エルヴィンが何もせず手をこまねいているだけとも思えないため、もしかしたらエルヴィンがそう仕向けているのかもしれない。
だとしたら、俺もがんばらないとね。
とりあえずやるべきことの一つ目である、エルヴィンとの繋がりを持つことは果たした。メモ帳にも丸をしておく。
ちなみにエルヴィンに、リックも時間が戻っているのだとは言わないことにした。何となくだが、エルヴィンにとってそのほうがいいような気がする。耐え難いつらい過去だけに、その過去を知る者はいないほうがきっといい。
それにエルヴィンには、過去のつらい悲しい出来事を乗り越え、新しい未来を見ていて欲しい。
そんな風に考えながら、リックはメモ帳に目を落とした。
あとは二つ目と三つ目だ。
二つ目は、ラヴィニアとデニスの出会いを潰すことだ。
もう少し先に、デニスとラヴィニアはとある公爵家のパーティーで出会う。そこから完全に阻止していきたい。
そして三つ目は──父、そして国王であるラフェドの暗殺を阻止することだった。
にこにこと言えばニルスが案の定慌てたように「リック……!」と名前を呼んできた。
よく考えなくとも、この三人の中で本当に完全な十歳の子どもであるのは多分ニルスだけだ。そう思うとこの不愛想で無口無表情なニルスが余計にかわいく思えてくる。あと純粋に楽しい。
「え? そ、そうなんですか?」
「……悪い。俺は無口だし顔にもあまり出ないらしい。だが確かに感謝している」
「感謝なんて」
気づけば二人は握手している。その後ニアキスを加えて四人で話していても、ニルスはエルヴィンから目が離せないようだった。いつも無言なので黙っていることに目新しさはないが、目が離せないニルスはさすがに目新しい。その上とても微笑ましくて、リックとしてもつい笑顔になる。
ただ、ニルスはそんな自分が理解できないようでひたすらこっそり首を傾げていた。ますます微笑ましくてかわいらしいなと思う。
まだ恋とかわからないんだろうなあ。
でも絶対に間違いなく、ニルスはエルヴィンに惹かれている。それだけは確実だとリックは思った。
その後、四人でよく集まって一緒に遊ぶようになった。王城ならまだしも王宮は落ち着かないというエルヴィンに合わせ、ニアキスかエルヴィンの屋敷で遊ぶことが多かった。ニルスの屋敷でもいいのではとリックは思ったが、ニアキスいわく「ニルスの屋敷なんてある意味王宮へ行くのと似たようなものだ」らしい。確かに大公爵家という身分はとても高い上に王族でもある。
ニルスにとってはどこで遊ぶかなど、どうでもいいようだった。
多分、エルヴィンに会えたらそれでいいんだろうね。
相変わらずリックには微笑ましく思える。自分もニルスも、そしてエルヴィンも大人のままだったらまた違ったのかもしれない。関係性は変わっていたかもしれない。そう思える程度にはリックはエルヴィンに好感を抱いていたのだろうと自分でも思う。
でも、今のこんな感じ、悪くない。
エルヴィンの屋敷で遊ぶ時は、エルヴィンの弟であるヴィリーも一緒に遊ぶことが少なくなかった。
遡る前にリックがヴィリーの存在を知ったのはすでに処刑された後だった。騎士団総長ウーヴェの次男であることは元々知っていたが、処刑されたことで存在を知ったとも言うだろうか。
デニスのやり方に反発したというよりはきちんと抗議を行っただけだったと、当時リックの味方である大臣の一人に聞いた。だが亡くなったラウラについてデニスがあまりよくない表現をしたらしく、ずっと堪えていたのであろうヴィリーは思わずデニスに対し剣を向けてしまった。
聞いた時は胸が痛かった。また一人、自分の身内のせいで無駄に死んでしまったと。せめてリックがもう少し早く国へ戻ってきていれば、ヴィリーの処刑も止められた可能性はあった、かもしれない。そう思うと余計に胸が痛かった。
そんな引け目のせいだろうか。リックは遡る前の記憶のないヴィリーに対して、あまり話しかけることは多くなかった。もちろん、話せば普通に楽しく会話することはできるため、エルヴィンたちだけでなくニルスすら気づいてはいないだろう。
遡る前のヴィリーがどんな人物だったのかは知らない。だが今のヴィリーはとにかく兄であるエルヴィンのことが大好きなようだとはすぐにわかった。あと、大好きだけに気づきやすいのだろうか。感情がほぼ読まれないであろうニルスに対して、何となく目の敵にしている様子が見てとれる。
これはこれで楽し……いや、大変かもだねえニルスは。
申し訳ないが、正直リックの楽しみの一つになったかもしれない。あと、時折だがエルヴィンの妹であるラウラを見かけた。さすがに兄たちの集まりに入ってくることはなかったが、顔を見る機会があればリックはラウラも気にして窺うようにしていた。
最初の頃は遡る前に仕えてくれている貴族たちから聞いた話のように、人見知りをするおとなしい恥ずかしがり屋で物静かな少女だと思っていた。だが少しずつ、それなりに明るくて自分をしっかり持つ少女ではと思うようになっていった。元々そうだったのか、以前の記憶を持つエルヴィンの働きかけによるものかは明確ではないが、エルヴィンが何もせず手をこまねいているだけとも思えないため、もしかしたらエルヴィンがそう仕向けているのかもしれない。
だとしたら、俺もがんばらないとね。
とりあえずやるべきことの一つ目である、エルヴィンとの繋がりを持つことは果たした。メモ帳にも丸をしておく。
ちなみにエルヴィンに、リックも時間が戻っているのだとは言わないことにした。何となくだが、エルヴィンにとってそのほうがいいような気がする。耐え難いつらい過去だけに、その過去を知る者はいないほうがきっといい。
それにエルヴィンには、過去のつらい悲しい出来事を乗り越え、新しい未来を見ていて欲しい。
そんな風に考えながら、リックはメモ帳に目を落とした。
あとは二つ目と三つ目だ。
二つ目は、ラヴィニアとデニスの出会いを潰すことだ。
もう少し先に、デニスとラヴィニアはとある公爵家のパーティーで出会う。そこから完全に阻止していきたい。
そして三つ目は──父、そして国王であるラフェドの暗殺を阻止することだった。
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