彼は最後に微笑んだ

Guidepost

文字の大きさ
上 下
57 / 193

57話

しおりを挟む
 エルヴィンが熱を出してから数か月後、リックの誕生日を祝うパーティーが王宮で開かれた。普段はなるべく遠慮させてもらっているエルヴィンも、これは出席せざるを得ない。かなり盛大なパーティーであろうが、リックの誕生祝いであればもちろん祝いたい。
 ラウラはニアキスにエスコートされ、そしてエルヴィンはテレーゼをエスコートした。ヴィリーはコルメリア・ロンメルという伯爵令嬢をエスコートしている。ラウラとテレーゼ共通の友だちであり、エルヴィンが時間を遡ってからラウラ、ヴィリーとともに初めて参加した子どもたちの交流会を主催していた家の令嬢でもある。
 その後も交流は続いていてラウラと仲がいいのもあり、エルヴィンやヴィリーとも顔見知りではある。ついでに言うとラウラを恋愛小説の世界に引き込んだ一派でもある。
 エルヴィンも顔を合わせるたびに少々ミーハーな様子で明るく声をかけられていた。悪い子ではないが、いつもほんの少しだけ引き気味で応対してしまう。とはいえ本当に悪い子ではないし、何よりラウラを変えるきっかけとなった家であり令嬢である。引き気味ながらに好意的には見ている。
 ヴィリーはそこの令息、エルンスト・ロンメルと親しいのもあり、エルヴィンよりもう少しだけコルメリアとも近しいかもしれない。パーティ会場に着いた今もぞんざいな口を利くヴィリーに対しコルメリアが窘めている。

「ヴィリー、駄目よ。こういう場では私を崇めるくらいの言動をとってくださらないと」
「それはやりすぎだろ」
「そんなことありません。それが由緒正しいアルスラン家のご子息であり素敵な紳士がなさることなんだから」

 エルヴィンとしてはコルメリアとヴィリーが恋人になればいいなとほんのり思ったりもするが、これもひょっとしたら今もたまに読まされている恋愛小説の影響かもしれない。かわいらしいやり取りにニコニコしてからテレーゼの手を取り、歩いていく。
 その後もヴィリーとコルメリアのやり取りは続いていた。

「……お前夢見すぎ」
「安心なさって。ヴィリーには夢なんて見てませんから」
「何だと」
「あなたのお兄様、ノルデルハウゼン卿は本当に格好がよくてキラキラなさっててまるで王子様みたいですけど、ヴィリー卿、あなたはまだまだですもの」
「兄様がキラキラした王子様だっていうのには完全に同意だ。だが俺がまだまだというのは聞き捨てならないんだけど」
「だってヴィリーは恰好がいいというよりかわいい感じでしょう?」
「は? 俺に対してかわいいなんて言うな」
「何故? 素敵だと思うんだけど、かわいい男子も」
「す……っ? 煩い。俺は兄様を目指してるんだ。かわいいじゃ駄目なんだよ!」
「えぇ? 私は好きよ、かわいい人」
「……お前は俺がどこかの令息と恋人関係になる様子を勝手に想像しての好き、だろうが」
「あら、それだけじゃありませんのに」
「え?」
「ところでノルデルハウゼン卿はテレーゼと恋仲なのかしら。テレーゼは違うっておっしゃるんですけど……」
「……それは違うと俺も思うけど」
「ですよね! 私としてはあなたのお兄様はね、カイセルヘルム侯爵とお似合いじゃないかと……っ、きゃっ」

 とてつもなく嬉しそうに話してきたコルメリアが夢中のあまりかドレスの裾に足を引っかけてしまったようだ。躓きそうになったところをヴィリーは呆れながらも支えた。

「馬鹿なこと言ってるからだ。気をつけろ」
「ありがとうございます、ヴィリー卿」

 そうしてそのまま手を取り合ったまま進んでいった。

「……今の、見てらした?」
「うん」
「ヴィリーとコルメリアってお似合いよね? 絶対。そう思わない? ニアキス。絶対かわいいカップルになってよ」
「あー……そう、なの、かな? 俺としてはレディ・コルメリアの会話が微妙に気になってちょっとちゃんとそういう雰囲気感じ取れてないというか……」
「コルメリアの会話?」
「ヴィリーとどっかの令息が恋仲とか、エルヴィンとニルスがお似合い的な……」
「ああ、それは流してくれたらいいの」
「え、でも」
「気にしないのが一番よニアキス」
「ラウラがそう言うなら……」
「ええ、そうなさって」
「わかった。……ちなみにラウラはその、エルヴィンとテレーゼがお似合いだって思ってる、よな?」

 まだ諦めきれていないニアキスがおずおずと聞くとラウラはにっこりと笑ってきた。

「もちろん、思ってるわ」
「だ、だよな!」
「でも、私はお兄様もテレーゼも大好きですから、二人ともが本当に好きな方とお付き合いできるのであれば、どなたがお相手でもいいんです。それこそお兄様とカイセルヘルム侯爵であっても」
「ええ……」

 微妙な顔になるニアキスに、ラウラはにっこりと手を差し出した。するとニアキスも破顔しながらラウラの手を取った。
 パーティーは賑やかだった。ラフェド王とリックの挨拶から始まり、ダンスへと移行していく。
 エルヴィンはテレーゼと一曲踊った後「ちょっと避難してもいい?」と聞いた。

「ええ、もちろん。エルヴィンはこういうとこ苦手ですもんね」
「テレーゼもあまり好きじゃないだろ」
「でもダンスは好きだから。誰かと適当に踊ってるわよ」

 テレーゼに見送られ、エルヴィンは庭園へと避難した。
 庭園の中を歩きながら、この庭園のベンチでよく悲しげに城を見上げていたラウラをエルヴィンは思い出す。だが今のラウラはとても幸せそうだ。それにニアキスは間違いなくそんなラウラをもっと幸せにしてくれるだろう。
 エルヴィンはそのベンチに腰掛け「よかった……」と静かに呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【番外編】ナストくんの淫らな非日常【R18BL】

ちゃっぷす
BL
『清らかになるために司祭様に犯されています』の番外編です。 ※きれいに終わらせたい方は本編までで留めておくことを強くオススメいたします※ エロのみで構成されているためストーリー性はありません。 ゆっくり更新となります。 【注意点】 こちらは本編のパラレルワールド短編集となる予定です。 本編と矛盾が生じる場合があります。 ※この世界では「ヴァルア以外とセックスしない」という約束が存在していません※ ※ナストがヴァルア以外の人と儀式をすることがあります※ 番外編は本編がベースになっていますが、本編と番外編は繋がっておりません。 ※だからナストが別の人と儀式をしても許してあげてください※ ※既出の登場キャラのイメージが壊れる可能性があります※ ★ナストが作者のおもちゃにされています★ ★きれいに終わらせたい方は本編までで留めておくことを強くオススメいたします★ ※基本的に全キャラ倫理観が欠如してます※ ※頭おかしいキャラが複数います※ ※主人公貞操観念皆無※ 【ナストと非日常を過ごすキャラ】(随時更新します) ・リング ・医者 ・フラスト、触手系魔物、モブおじ2人(うち一人は比較的若め) ・ヴァルア 【以下登場性癖】(随時更新します) ・【ナストとリング】ショタおに、覗き見オナニー ・【ナストとお医者さん】診察と嘯かれ医者に犯されるナスト ・【ナストとフラスト】触手責め、モブおじと3P、恋人の兄とセックス ・【ナストとフラストとヴァルア】浮気、兄弟×主人公(3P) ・【ナストとヴァルア】公開オナニー

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

クマ族最強の騎士は皇太子に抱かれるお仕事をしています。

セイヂ・カグラ
BL
旧題:王子の剣術担当→閨担当?! 最強の騎士と呼ばれたクマ族ボロルフ。戦争が終わり平和が訪れた国で彼は、王家兎族のレオンハルト皇太子の剣術担当とし王宮で働いていた。穏やかで優しいレオンハルトは、いつも皆に優しく微笑みかける。けれど、ボロルフには一度も笑いかけてくれたことがない。きっと嫌われてしまっているのだと悩む、そんな最中、何故かレオンハルトの閨相手としてボロルフが選ばれてしまう。それもレオンハルト直々の命だと聞いてボロルフは混乱する。 【両片想い】 兎族の王子×クマ族の騎士 【攻め】レオンハルト・バニー:兎族の皇太子、白い髪、立ち耳、176㌢、穏やか、細身、魔法が使える。ヤンデレ、執着気質。 【受け】ボロルフ・ベアルド:クマ族、最強の騎士、焦げ茶髪、丸く短い耳、198㌢、仏頂面、男らしい、ガタイ良し。他人にも自分にも鈍感。

できそこないの幸せ

さくら/黒桜
BL
溺愛・腹黒ヤンデレ×病弱な俺様わんこ 主人公総愛され *** 現役高校生でありながらロックバンド「WINGS」として地道に音楽活動を続けている、今西光と相羽勝行。 父親の虐待から助けてくれた親友・勝行の義弟として生きることを選んだ光は、生まれつき心臓に病を抱えて闘病中。大学受験を控えながらも、光を過保護に構う勝行の優しさに甘えてばかりの日々。 ある日四つ葉のクローバー伝説を聞いた光は、勝行にプレゼントしたくて自分も探し始める。だがそう簡単には見つからず、病弱な身体は悲鳴をあげてしまう。 音楽活動の相棒として、義兄弟として、互いの手を取り生涯寄り添うことを選んだ二人の純愛青春物語。 ★★★ WINGSシリーズ本編第2部 ★★★ 高校3年生の物語を収録しています。 ▶本編Ⅰ 背徳の堕天使 全2巻 (kindle電子書籍)の続編になります。読めない方向けににあらすじをつけています。 冒頭の人物紹介&あらすじページには内容のネタバレも含まれますのでご注意ください。 ※前作「両翼少年協奏曲」とは同じ時系列の話です 視点や展開が多少異なります。単品でも楽しめますが、できれば両方ご覧いただけると嬉しいです ※主人公は被虐待のトラウマを抱えています。軽度な暴力シーンがあります。苦手な方はご注意くだださい。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

黒い春 本編完結 (BL)

Oj
BL
幼馴染BLです。 ハッピーエンドですがそこまでがとても暗いです。受けが不憫です。 DVやネグレクトなど出てきますので、苦手な方はご注意下さい。 幼い頃からずっと一緒の二人が社会人になるまでをそれぞれの視点で追っていきます。 ※暴力表現がありますが攻めから受けへの暴力はないです。攻めから他者への暴力や、ややグロテスクなシーンがあります。 執着攻め✕臆病受け 藤野佳奈多…フジノカナタ。 受け。 怖がりで臆病な性格。大人しくて自己主張が少ない。 学校でいじめられないよう、幼い頃から仲の良い大翔を頼り、そのせいで大翔からの好意を強く拒否できないでいる。 母が父からDV受けている。 松本(佐藤)大翔…マツモト(サトウ)ヒロト。 攻め。 母子家庭だったが幼い頃に母を亡くす。身寄りがなくなり銀行頭取の父に引き取られる。しかし母は愛人であったため、住居と金銭を与えられて愛情を受けずに育つ。 母を失った恐怖から、大切な人を失いたくないと佳奈多に執着している。 追記 誕生日と身長はこんなイメージです。 高校生時点で 佳奈多 誕生日4/12  身長158センチ  大翔  誕生日9/22 身長185センチ  佳奈多は小学生の頃から平均−10センチ、大翔は平均+5〜10センチくらいの身長で推移しています。 社会人になったら+2〜3センチです。 幼稚園児時代は佳奈多のほうが少し身長が高いです。

裏の権力者達は表の権力者達の性奴隷にされ調教されてます

匿名希望ショタ
BL
ある日裏世界の主要人物が集まる会議をしていた時、王宮の衛兵が入ってきて捕らえられた。話を聞くと国王がうちの者に一目惚れしたからだった。そこで全員が表世界の主要人物に各々気に入られ脅されて無理矢理、性奴隷の契約をすることになる。 他の作品と並行してやるため文字数少なめ&投稿頻度不定期です。あらすじ書くの苦手です

処理中です...