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27話
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……多分。ああ、クソ。でもやっぱり落ち着かない。
もしラヴィニアとデニスが出会い、またもやデニスがラヴィニアに狂わされたとしても、今のままだとラウラは不幸にならない可能性が高い。今回の婚約者が犠牲になるだけかもしれない。
だがそれをわかっていて知らぬ存ぜぬ、と無視を決め込めるほどエルヴィンは達観していない。以前のラウラのような不幸はラウラじゃなくても味わって欲しくない。
それにラヴィニアに狂わされることでマヴァリージ王国がまた傾くことになるかもしれない。それだって見過ごせない。国が傾けば結局ラウラやヴィリー、それに父母も幸せといえる状況のままでいられないだろう。
婚約パーティーで見たデニスをエルヴィンは思い出す。
遡る前の、ラウラと結婚する前のデニスのことはあまりよく知らない。ラウラと婚約していてもあまり会いに来ることもなかったし、エルヴィンが騎士として王に仕えるようになっても直接王族の誰かと親しくすることなどなかった。
それもあり、パーティーで見たデニスが以前と変わらないデニスなのか、それとも何らかが変わったデニスなのかもわからない。
でもラウラは変わった。根本的なところはもちろん変わらないが、以前よりしっかりしてるし芯ももっと強くなった気がする。だからデニスも変わっているかもしれないし、変わっていないかもしれない。
はぁ。こんなことなら遡る前も俺、もっと社交的であるべきだったよな。
社交的だったならデニスのことももう少しわかったかもしれないし、そもそも以前のような展開になっていなかったかもしれない。とはいえそんなことを今思っても詮無きことすぎる。
とりあえずニルスはラヴィニアがデニスに近づくことがないよう気にかけてくれると言った。だから大丈夫だとエルヴィンはまた自分に言い聞かせた。それでも落ち着かない。
いっそ、直接ラヴィニアを見てみるか?
遡る前にラヴィニアとデニスによって耐え難い思いを味わわされた。その内デニスは婚約パーティーの時に目の当たりにすることによってほんの少しではあるが、名前を聞くだけで体が固まってしまうというほどでもなくなった気がしている。ラヴィニアも、まるで想像上の人物かのように今や頭の中での存在になってしまっているから余計に構えてしまうのかもしれない。現実に存在している、まだ脅威となっていないラヴィニアを一旦垣間見たら、もしかすれば多少は落ち着くかもしれない。
いつもは断っているパーティーへの招待状を、エルヴィンは次の機会の時に受けることにした。
「何故」
エヴァンズ家が主催するパーティーへ出ようと思っているとニルスに言えば、何故かぽかんとされた。
「何故、ってまあ、たまには出てみようかな、って」
「……ミス・ラヴィニアが出るからか?」
「ぅ。べ、別にそんなんじゃない」
めちゃくちゃそんな理由だけれども。
とはいえ「心の底から大嫌いなラヴィニアを、今の状態だとまるで悪夢の幻みたいな勢いでとらえてしまってるから一度直接目の当たりにしておこうと思って」とは言えないので、エルヴィンは適当に誤魔化した。ニルスはそれ以上特に何も言わなかったが、そのパーティーに出てみればそれこそ何故かニルスがいる。
「あれ? エヴァンズ家のパーティーはお兄さんが出てくれるって言ってなかったか?」
「勘違いだった」
「あ、そうなんだ? でも嬉しいよ。久しぶりにこういう個人的なパーティーに出るからさ、ニルスがいてくれると心強い」
「そうか」
ニルスはどうでもよさそうに顔をあらぬ方へ向けながら呟いてきた。確かにどうでもいい内容だろうしなとエルヴィンも別に気にならない。
その時、少し向こうに忘れもしないラヴィニアの姿が見えた。まだ成人もしていなかった気がするというのに、遡る前と変わらず小柄なくせに出るとこは相当出て、引っ込むところはどうしたってくらい引っ込んだメリハリボディをした、派手な顔立ちで周りに愛想を振りまいている。
あの女がデニス王子を骨抜きにした。
あの女がラウラから王妃という位置を奪った。
あの女が何より、ラウラを殺したような、もの、だ。
見つけた瞬間、全身の毛が逆立つような気がした。といってもあまり毛深いほうではないので正確には肌が粟立つような感覚だろうか。咄嗟にニルスの後ろへ隠れていた。
「エルヴィン?」
ニルスが気がかりそうな顔を向けてくる。
「ああ、悪い。何でもないんだ。じゃあ、とりあえずせっかくだから楽しまないとな」
何でもない振りをしてエルヴィンはニルスに笑いかけた。
婚約パーティーで顔を見たデニスの時も確かに最初は緊張し、恨みと悲しみと怒りと恐れが入り混じった感情が湧き上がってはいた。だがすぐに冷静になれたし「きっとデニスは大丈夫だ」と自分に言い聞かせることもできた。だがラヴィニアの場合は違った。恨みと悲しみと怒りと恐れが入り混じる感情はデニスの非ではなかった。
「みつかっちゃったら、ははうえとかにとりあげられちゃうから」
菓子すら満足に食べさせてもらえていなかったシュテファン。
「私があなたを使ってラウラを毒殺させたことを今頃あなたがどうこうできると本気で思っているの?」
どこぞの男爵令嬢におかしげに話していたラヴィニアがそしてよぎる。
ああ、俺はこれほどまでに人を憎く、そして嫌いだと、殺してやりたいと思えるんだ。
心の中のエルヴィンが涙を流しながら憎々しい目をしつつもむしろ笑っていた。
もしラヴィニアとデニスが出会い、またもやデニスがラヴィニアに狂わされたとしても、今のままだとラウラは不幸にならない可能性が高い。今回の婚約者が犠牲になるだけかもしれない。
だがそれをわかっていて知らぬ存ぜぬ、と無視を決め込めるほどエルヴィンは達観していない。以前のラウラのような不幸はラウラじゃなくても味わって欲しくない。
それにラヴィニアに狂わされることでマヴァリージ王国がまた傾くことになるかもしれない。それだって見過ごせない。国が傾けば結局ラウラやヴィリー、それに父母も幸せといえる状況のままでいられないだろう。
婚約パーティーで見たデニスをエルヴィンは思い出す。
遡る前の、ラウラと結婚する前のデニスのことはあまりよく知らない。ラウラと婚約していてもあまり会いに来ることもなかったし、エルヴィンが騎士として王に仕えるようになっても直接王族の誰かと親しくすることなどなかった。
それもあり、パーティーで見たデニスが以前と変わらないデニスなのか、それとも何らかが変わったデニスなのかもわからない。
でもラウラは変わった。根本的なところはもちろん変わらないが、以前よりしっかりしてるし芯ももっと強くなった気がする。だからデニスも変わっているかもしれないし、変わっていないかもしれない。
はぁ。こんなことなら遡る前も俺、もっと社交的であるべきだったよな。
社交的だったならデニスのことももう少しわかったかもしれないし、そもそも以前のような展開になっていなかったかもしれない。とはいえそんなことを今思っても詮無きことすぎる。
とりあえずニルスはラヴィニアがデニスに近づくことがないよう気にかけてくれると言った。だから大丈夫だとエルヴィンはまた自分に言い聞かせた。それでも落ち着かない。
いっそ、直接ラヴィニアを見てみるか?
遡る前にラヴィニアとデニスによって耐え難い思いを味わわされた。その内デニスは婚約パーティーの時に目の当たりにすることによってほんの少しではあるが、名前を聞くだけで体が固まってしまうというほどでもなくなった気がしている。ラヴィニアも、まるで想像上の人物かのように今や頭の中での存在になってしまっているから余計に構えてしまうのかもしれない。現実に存在している、まだ脅威となっていないラヴィニアを一旦垣間見たら、もしかすれば多少は落ち着くかもしれない。
いつもは断っているパーティーへの招待状を、エルヴィンは次の機会の時に受けることにした。
「何故」
エヴァンズ家が主催するパーティーへ出ようと思っているとニルスに言えば、何故かぽかんとされた。
「何故、ってまあ、たまには出てみようかな、って」
「……ミス・ラヴィニアが出るからか?」
「ぅ。べ、別にそんなんじゃない」
めちゃくちゃそんな理由だけれども。
とはいえ「心の底から大嫌いなラヴィニアを、今の状態だとまるで悪夢の幻みたいな勢いでとらえてしまってるから一度直接目の当たりにしておこうと思って」とは言えないので、エルヴィンは適当に誤魔化した。ニルスはそれ以上特に何も言わなかったが、そのパーティーに出てみればそれこそ何故かニルスがいる。
「あれ? エヴァンズ家のパーティーはお兄さんが出てくれるって言ってなかったか?」
「勘違いだった」
「あ、そうなんだ? でも嬉しいよ。久しぶりにこういう個人的なパーティーに出るからさ、ニルスがいてくれると心強い」
「そうか」
ニルスはどうでもよさそうに顔をあらぬ方へ向けながら呟いてきた。確かにどうでもいい内容だろうしなとエルヴィンも別に気にならない。
その時、少し向こうに忘れもしないラヴィニアの姿が見えた。まだ成人もしていなかった気がするというのに、遡る前と変わらず小柄なくせに出るとこは相当出て、引っ込むところはどうしたってくらい引っ込んだメリハリボディをした、派手な顔立ちで周りに愛想を振りまいている。
あの女がデニス王子を骨抜きにした。
あの女がラウラから王妃という位置を奪った。
あの女が何より、ラウラを殺したような、もの、だ。
見つけた瞬間、全身の毛が逆立つような気がした。といってもあまり毛深いほうではないので正確には肌が粟立つような感覚だろうか。咄嗟にニルスの後ろへ隠れていた。
「エルヴィン?」
ニルスが気がかりそうな顔を向けてくる。
「ああ、悪い。何でもないんだ。じゃあ、とりあえずせっかくだから楽しまないとな」
何でもない振りをしてエルヴィンはニルスに笑いかけた。
婚約パーティーで顔を見たデニスの時も確かに最初は緊張し、恨みと悲しみと怒りと恐れが入り混じった感情が湧き上がってはいた。だがすぐに冷静になれたし「きっとデニスは大丈夫だ」と自分に言い聞かせることもできた。だがラヴィニアの場合は違った。恨みと悲しみと怒りと恐れが入り混じる感情はデニスの非ではなかった。
「みつかっちゃったら、ははうえとかにとりあげられちゃうから」
菓子すら満足に食べさせてもらえていなかったシュテファン。
「私があなたを使ってラウラを毒殺させたことを今頃あなたがどうこうできると本気で思っているの?」
どこぞの男爵令嬢におかしげに話していたラヴィニアがそしてよぎる。
ああ、俺はこれほどまでに人を憎く、そして嫌いだと、殺してやりたいと思えるんだ。
心の中のエルヴィンが涙を流しながら憎々しい目をしつつもむしろ笑っていた。
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