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13話
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今日だけは一旦あえて油断して、俺はお祭り騒ぎの気分のままに酒とうまいつまみと……えっと女の子はいいかな、普通だと食欲とくれば性欲かもだけど今は別にいいな。とりあえずおいしい酒と食べ物をひたすら飲み食いする。
心の中でエルヴィンは宣言した。
それも仕方のないことだ。お祭り気分になるしかない。
リックが旅立ってからしばらくして、王宮からの通達を受けデニスが婚約したことを知ったのだ。もちろん相手はラウラではない。一時期はラウラも候補にあがってしまっており気が気じゃなかったし、心を痛めつついかにデニスの目にラウラを留めないでいようかとひたすら考えていたものだ。だがとりあえず今日ぐらいはそんな痛めた心をいたわり、かわいがってあげてもいいのではないだろうか。
デニスの婚約相手については正直あまり知らない。遡る前はラウラのことで悲しい思いをするまでエルヴィンも一人の少年、青年として多少女性に対して興味を持ち、付き合ったりもしてきた。しかし遡ってからはとにかく未来を変えることばかり考えていたのもあり、ラウラ絡みで親しくなる相手以外についてはほぼスルーだった。
どなたか知りませんが、デニス殿下と婚約してくださってありがとう。きっとあなたは女神だ。せめてあの恐ろしい女が今回もちらちらしてこないよう祈らせてくださいね女神!
まったく誰かも知らないまま、エルヴィンはその婚約相手に祈りつつ、酒をおかわりした。
エルヴィンが「恐ろしい女」呼ばわりしているラヴィニアだが、今のところデニスとの関係は持っていない様子だ。隠れてこっそりされていれば把握しきれていないだけかもしれないが、少なくともエルヴィンが様子を窺っている限りでは、なさそうだ。
でもこれに関しては油断しないからな、ラヴィニア! ラウラが十八歳を過ぎてもデニス王子とやはり結婚しなさそうだと決定的になるまではお前のことも油断しないからな!
名前は忌々しいことに時折耳に入ってくる。見た目がいいのと、本人が元々パーティー好きなのもあり、否応なしに外から情報が入ってくるからだ。
つっても俺はお前の見た目なんか興味ないからな。
なるほど、確かに美人だろう。だがエルヴィンからしたらかなり派手な顔つきだし、体つきも確かに男ならそそられる体つきなのだろうとは思うが、エルヴィンとしてはもう少し控えめなほうが好みだ。絶対に自分の妹ながら清楚なラウラのほうがいいに決まっていると改めて思う。デニスはきっと趣味が悪いのだろうと、ラヴィニアが他の貴族の目も引いているらしいことはスルーして思うことにする。
「なあ、そう思うだろう?」
「……昼間から酔っているのか?」
「酔ってはいないぞ。だが今日俺は仕事休みだしお祭りだし問題ないだろ?」
「休みなのは知っている、が……祭り?」
エルヴィンが休みだと知っているからこそ、屋敷まで来たのであろうニルスは、突然中身なしに話題を振られ、しかも祭りと言われてか怪訝そうに眉をひそめている。
「ああ、祭りなんだ。盛大に祝わないと。お前も休みか? ニルス」
とてもいい気分だ。ニルスも休みならばせっかくだし一緒に祝ってもらおう。
何の祝いかは言えないけどさ。
そもそも祭りだとか祝いだとかも口にするべきではないのかもしれないが、いい気分なのでこれくらいはよしとエルヴィンは甘く判定した。
「休みだが……何の祭りだ?」
「そこは気にするな。いいからニルスも飲もう。酒、飲めるんだろう?」
エルヴィンもニルスも成人したばかりなので、もしかしたらまだアルコールを飲んだことがない可能性もある。とはいえエルヴィンも遡ってからは心配性の母親のため今日になるまで口にしたことがなかった。だが遡る前は普通に飲んでいたので、初めてとは言わない、こともない。
「もちろん飲めるが……お前はもうやめておいたほうがいいのでは?」
「まだ。ニルスと一緒に飲むんだからな、ほら」
ニルスに用意したグラスに酒を注ぐ時少しこぼしてしまったが、問題ない。エルヴィンはニコニコとニルスにグラスを差し出した。ニルスは仕方ないといった様子でそのグラスを受け取ってきた。
『大丈夫か心配だし酔ったところはとてもかわいいし結婚するしかない勢いだけどもしかしたら後で頭痛とか気持ち悪くなったりとかするかもしれないしそんなつらい思いをさせるかもしれないならこのかわいい姿を我慢して俺は今すぐ飲むのをやめさせ……』
「ノンブレス……!」
「は?」
また聞こえてきた気がして思わずそこじゃないという突っ込みが口から出てしまったエルヴィンを、ニルスは怪訝でしかない顔で見てくる。
「……やはりもう飲むの、やめたほうが……?」
「い、いや大丈夫。問題ない。ほんと問題、ないから……俺はな」
お前のほうが心配なんだけど。
いや、今聞こえてきたのもやっぱりニルスではない可能性もまだあるが、普通に考えるとニルスでしかない気がする。そして息継ぎのない饒舌な様子はニルスとはかけ離れているが、声はとてもニルスっぽかった気がする。ただ、耳から聞いているのではないため、似ているとしか言えない。
あと内容……!
何だろう。もしかしてニルスは俺のこと好きなの? いやいやいやいやいやまさか。俺知ってるんだぞ、寡黙なニルスだけど顔や体つきがいいせいで令嬢たちにすごくモテてるの、俺知ってる。
そんな引く手あまたの男がエルヴィンを好きになる理由がない。別に自分を卑下しているわけではない。
そうじゃなくてあれだ、俺、男だからな。ついてるもんついてる。
エルヴィンはうんうんと頷いた。
心の中でエルヴィンは宣言した。
それも仕方のないことだ。お祭り気分になるしかない。
リックが旅立ってからしばらくして、王宮からの通達を受けデニスが婚約したことを知ったのだ。もちろん相手はラウラではない。一時期はラウラも候補にあがってしまっており気が気じゃなかったし、心を痛めつついかにデニスの目にラウラを留めないでいようかとひたすら考えていたものだ。だがとりあえず今日ぐらいはそんな痛めた心をいたわり、かわいがってあげてもいいのではないだろうか。
デニスの婚約相手については正直あまり知らない。遡る前はラウラのことで悲しい思いをするまでエルヴィンも一人の少年、青年として多少女性に対して興味を持ち、付き合ったりもしてきた。しかし遡ってからはとにかく未来を変えることばかり考えていたのもあり、ラウラ絡みで親しくなる相手以外についてはほぼスルーだった。
どなたか知りませんが、デニス殿下と婚約してくださってありがとう。きっとあなたは女神だ。せめてあの恐ろしい女が今回もちらちらしてこないよう祈らせてくださいね女神!
まったく誰かも知らないまま、エルヴィンはその婚約相手に祈りつつ、酒をおかわりした。
エルヴィンが「恐ろしい女」呼ばわりしているラヴィニアだが、今のところデニスとの関係は持っていない様子だ。隠れてこっそりされていれば把握しきれていないだけかもしれないが、少なくともエルヴィンが様子を窺っている限りでは、なさそうだ。
でもこれに関しては油断しないからな、ラヴィニア! ラウラが十八歳を過ぎてもデニス王子とやはり結婚しなさそうだと決定的になるまではお前のことも油断しないからな!
名前は忌々しいことに時折耳に入ってくる。見た目がいいのと、本人が元々パーティー好きなのもあり、否応なしに外から情報が入ってくるからだ。
つっても俺はお前の見た目なんか興味ないからな。
なるほど、確かに美人だろう。だがエルヴィンからしたらかなり派手な顔つきだし、体つきも確かに男ならそそられる体つきなのだろうとは思うが、エルヴィンとしてはもう少し控えめなほうが好みだ。絶対に自分の妹ながら清楚なラウラのほうがいいに決まっていると改めて思う。デニスはきっと趣味が悪いのだろうと、ラヴィニアが他の貴族の目も引いているらしいことはスルーして思うことにする。
「なあ、そう思うだろう?」
「……昼間から酔っているのか?」
「酔ってはいないぞ。だが今日俺は仕事休みだしお祭りだし問題ないだろ?」
「休みなのは知っている、が……祭り?」
エルヴィンが休みだと知っているからこそ、屋敷まで来たのであろうニルスは、突然中身なしに話題を振られ、しかも祭りと言われてか怪訝そうに眉をひそめている。
「ああ、祭りなんだ。盛大に祝わないと。お前も休みか? ニルス」
とてもいい気分だ。ニルスも休みならばせっかくだし一緒に祝ってもらおう。
何の祝いかは言えないけどさ。
そもそも祭りだとか祝いだとかも口にするべきではないのかもしれないが、いい気分なのでこれくらいはよしとエルヴィンは甘く判定した。
「休みだが……何の祭りだ?」
「そこは気にするな。いいからニルスも飲もう。酒、飲めるんだろう?」
エルヴィンもニルスも成人したばかりなので、もしかしたらまだアルコールを飲んだことがない可能性もある。とはいえエルヴィンも遡ってからは心配性の母親のため今日になるまで口にしたことがなかった。だが遡る前は普通に飲んでいたので、初めてとは言わない、こともない。
「もちろん飲めるが……お前はもうやめておいたほうがいいのでは?」
「まだ。ニルスと一緒に飲むんだからな、ほら」
ニルスに用意したグラスに酒を注ぐ時少しこぼしてしまったが、問題ない。エルヴィンはニコニコとニルスにグラスを差し出した。ニルスは仕方ないといった様子でそのグラスを受け取ってきた。
『大丈夫か心配だし酔ったところはとてもかわいいし結婚するしかない勢いだけどもしかしたら後で頭痛とか気持ち悪くなったりとかするかもしれないしそんなつらい思いをさせるかもしれないならこのかわいい姿を我慢して俺は今すぐ飲むのをやめさせ……』
「ノンブレス……!」
「は?」
また聞こえてきた気がして思わずそこじゃないという突っ込みが口から出てしまったエルヴィンを、ニルスは怪訝でしかない顔で見てくる。
「……やはりもう飲むの、やめたほうが……?」
「い、いや大丈夫。問題ない。ほんと問題、ないから……俺はな」
お前のほうが心配なんだけど。
いや、今聞こえてきたのもやっぱりニルスではない可能性もまだあるが、普通に考えるとニルスでしかない気がする。そして息継ぎのない饒舌な様子はニルスとはかけ離れているが、声はとてもニルスっぽかった気がする。ただ、耳から聞いているのではないため、似ているとしか言えない。
あと内容……!
何だろう。もしかしてニルスは俺のこと好きなの? いやいやいやいやいやまさか。俺知ってるんだぞ、寡黙なニルスだけど顔や体つきがいいせいで令嬢たちにすごくモテてるの、俺知ってる。
そんな引く手あまたの男がエルヴィンを好きになる理由がない。別に自分を卑下しているわけではない。
そうじゃなくてあれだ、俺、男だからな。ついてるもんついてる。
エルヴィンはうんうんと頷いた。
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