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106話
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荷物はまとめた。とは言っても大した量ではない。元々一冬分だけだったのもあるし、カジャックの家で世話になっていたので持ってこなくてはならないような荷物もあまりなかった。ただ、一旦村へ帰っても新たに増えるものは特になさそうではある。親の形見はいつも身につけている腕輪だし、リゼやルーカスがいるので持ち出さないとならないものがない。
カジャックは違う。しばらくジンから残された自分の家を離れる予定になるだろうし色々まとめたりしなければならないものがあるだろうとサファルは思っていた。
「え、もう済んだんですか」
「大したものなどないからな」
だがカジャックはあっという間に荷物をまとめ、家のものを片付けた。食料や素材となる諸々はラーザ村へ持っていくつもりのようだ。地下にある蔵書はそのスペースごと、アルゴと二人でなにやら魔法をかけていた。
「……本当にいいんですか」
「当然だ」
「でも」
「俺の一番はサファルで、そして今の俺の生活基盤もサファルだ」
「……死ぬ」
「……何故」
サファルが狙われているという話を聞いて、二人はしばらく旅に出るつもりで荷物をまとめていた。とはいえ聞いたアルゴの話は切羽詰まったものという訳でもなさそうだった。少し狙われていると言われた時は、訳の分からなさで一杯になりながらもアルゴがわざわざ出向いてきて冗談を言うとも思えなかったので焦った。カジャックも真剣な表情をしていた。
「三大王国は分かるか」
狙われていると言われてからのその言葉に、サファルは「へ?」とまぬけな声が出た。だがその後に「中心的なイント王国に、知識の国って言われてるフィート王国、そんで俺の国でもある武術の国って言われてるクエンティ王国ですよね」と続けた。
「ああ。なんだ、馬鹿そうに見えても多少の知識はあるのか」
相変わらずアルゴが辛辣で何より、とサファルは微妙な顔をする。
「俺、これでも商人ですよ……? っていうかその王国がなんなんですか?」
「きなくさい」
「はい?」
「きなくさいという意味はだな」
「ちょ、違います。俺のこと、せめて一般人レベルだと認識してください」
そんなアルゴとサファルのやりとりに、真剣な顔をしていたカジャックが少し笑ってきた。
「アルゴ、かいつまんで話してくれ」
カジャックの言葉に、アルゴはようやく本題に入った。
どうやら少し前から三国のどこかで、私利私欲のためにかなりの権力を握ろうと目論んでいる者がいるかもしれないらしい。
「かもしれないらしい……って」
あやふや過ぎるとサファルがアルゴを見ればじろりと睨まれた。
「明確ではないからな。各国の王も知らない極秘情報だ」
「そ、そんなの俺聞いたら殺されるんじゃ……」
涙目になりそうなサファルの頭をポンと撫でてからカジャックが口を開いた。
「王族すら知らない情報はどこからの情報なんだ」
「さすが私のカジャック」
「アルゴさん、その言い方やめてください。勘違いされるしそもそもカジャックは俺のです」
「少し肉体関係を持ったからと生意気を言うようになったな、この犬ころは」
「俺、犬じゃありませんし、に、肉体関係とかそういう括りは──」
「で、どこからの情報なんだ」
言い合いが始まりそうだったが、カジャックが淡々と口を挟んできた。
「クエンティの王族付きの従者だ。明確でないにしろ、火のないところに煙はというからな」
「その従者は何故王に言わずにアルゴに漏らした? おかしいじゃないか」
「明確ではないからだ」
「……なるほど」
アルゴとカジャックのやりとりに、サファルは首を傾げた。
「明確じゃないと何がなるほどなんです」
「カジャック、もう少しこいつを教育しておけ」
「サファルは教え子でもないし俺も保護者ではない。恋人という関係なんでな」
「またそういう……! 二人して馬鹿にするのやめてくれません?」
結局詳しくは言ってくれなかったが、あまりに不確かな内容であるのと、いくら王族でも根拠もなしに貴族といった存在を軽んじる訳にはいかないのだといった説明をサファルは受けた。多少なりとも確かな情報があれば王の耳に入れるが、今の状態では他の業務に差し支えしかないと判断されるらしい。
「どの国の誰が主体かも分からない、そもそも本当かどうかすら分からない、そんな不確かな話に俺はどう関わるんです」
「それだ」
「どれ!」
「サファル。男ならもっとどっしり構えんか。やはりカジャックのためにも女になったほうがよいのではないか?」
「すかさず絡めてくるのやめてください……」
「アルゴ」
「分かっておるわ。クエンティでは強い兵士や魔術師を普段から集めているのは知っているな?」
「はい……その、俺もあの竜の出来事の後、クエンティから来た使者みたいな人に誘われました……」
「使者みたいな人、な」
アルゴがニヤリと笑った。
「なんです、か」
「いや。その話は私も知っている。それに隠れて別の存在も同じように集めている可能性がある」
「……それなら誰が集めているかすぐに判明するんじゃ……?」
「いや。表面上はクエンティのそれこそ使者といった形でだ」
「でもそれだと目論んでいる存在はクエンティの人って断定出来るんじゃ……」
「いや。そうとは限らない。サファル。もっと深くを読め。商人ならそれくらい出来るだろうが。カジャックは既に把握しているぞ?」
アルゴに言われ、サファルはカジャックを見た。
「分かったんですか?」
「……まあ」
「はぁ……やっぱりカジャックカッコいい……」
思わず顔を赤らめながら言えばむしろアルゴに笑われた。
カジャックは違う。しばらくジンから残された自分の家を離れる予定になるだろうし色々まとめたりしなければならないものがあるだろうとサファルは思っていた。
「え、もう済んだんですか」
「大したものなどないからな」
だがカジャックはあっという間に荷物をまとめ、家のものを片付けた。食料や素材となる諸々はラーザ村へ持っていくつもりのようだ。地下にある蔵書はそのスペースごと、アルゴと二人でなにやら魔法をかけていた。
「……本当にいいんですか」
「当然だ」
「でも」
「俺の一番はサファルで、そして今の俺の生活基盤もサファルだ」
「……死ぬ」
「……何故」
サファルが狙われているという話を聞いて、二人はしばらく旅に出るつもりで荷物をまとめていた。とはいえ聞いたアルゴの話は切羽詰まったものという訳でもなさそうだった。少し狙われていると言われた時は、訳の分からなさで一杯になりながらもアルゴがわざわざ出向いてきて冗談を言うとも思えなかったので焦った。カジャックも真剣な表情をしていた。
「三大王国は分かるか」
狙われていると言われてからのその言葉に、サファルは「へ?」とまぬけな声が出た。だがその後に「中心的なイント王国に、知識の国って言われてるフィート王国、そんで俺の国でもある武術の国って言われてるクエンティ王国ですよね」と続けた。
「ああ。なんだ、馬鹿そうに見えても多少の知識はあるのか」
相変わらずアルゴが辛辣で何より、とサファルは微妙な顔をする。
「俺、これでも商人ですよ……? っていうかその王国がなんなんですか?」
「きなくさい」
「はい?」
「きなくさいという意味はだな」
「ちょ、違います。俺のこと、せめて一般人レベルだと認識してください」
そんなアルゴとサファルのやりとりに、真剣な顔をしていたカジャックが少し笑ってきた。
「アルゴ、かいつまんで話してくれ」
カジャックの言葉に、アルゴはようやく本題に入った。
どうやら少し前から三国のどこかで、私利私欲のためにかなりの権力を握ろうと目論んでいる者がいるかもしれないらしい。
「かもしれないらしい……って」
あやふや過ぎるとサファルがアルゴを見ればじろりと睨まれた。
「明確ではないからな。各国の王も知らない極秘情報だ」
「そ、そんなの俺聞いたら殺されるんじゃ……」
涙目になりそうなサファルの頭をポンと撫でてからカジャックが口を開いた。
「王族すら知らない情報はどこからの情報なんだ」
「さすが私のカジャック」
「アルゴさん、その言い方やめてください。勘違いされるしそもそもカジャックは俺のです」
「少し肉体関係を持ったからと生意気を言うようになったな、この犬ころは」
「俺、犬じゃありませんし、に、肉体関係とかそういう括りは──」
「で、どこからの情報なんだ」
言い合いが始まりそうだったが、カジャックが淡々と口を挟んできた。
「クエンティの王族付きの従者だ。明確でないにしろ、火のないところに煙はというからな」
「その従者は何故王に言わずにアルゴに漏らした? おかしいじゃないか」
「明確ではないからだ」
「……なるほど」
アルゴとカジャックのやりとりに、サファルは首を傾げた。
「明確じゃないと何がなるほどなんです」
「カジャック、もう少しこいつを教育しておけ」
「サファルは教え子でもないし俺も保護者ではない。恋人という関係なんでな」
「またそういう……! 二人して馬鹿にするのやめてくれません?」
結局詳しくは言ってくれなかったが、あまりに不確かな内容であるのと、いくら王族でも根拠もなしに貴族といった存在を軽んじる訳にはいかないのだといった説明をサファルは受けた。多少なりとも確かな情報があれば王の耳に入れるが、今の状態では他の業務に差し支えしかないと判断されるらしい。
「どの国の誰が主体かも分からない、そもそも本当かどうかすら分からない、そんな不確かな話に俺はどう関わるんです」
「それだ」
「どれ!」
「サファル。男ならもっとどっしり構えんか。やはりカジャックのためにも女になったほうがよいのではないか?」
「すかさず絡めてくるのやめてください……」
「アルゴ」
「分かっておるわ。クエンティでは強い兵士や魔術師を普段から集めているのは知っているな?」
「はい……その、俺もあの竜の出来事の後、クエンティから来た使者みたいな人に誘われました……」
「使者みたいな人、な」
アルゴがニヤリと笑った。
「なんです、か」
「いや。その話は私も知っている。それに隠れて別の存在も同じように集めている可能性がある」
「……それなら誰が集めているかすぐに判明するんじゃ……?」
「いや。表面上はクエンティのそれこそ使者といった形でだ」
「でもそれだと目論んでいる存在はクエンティの人って断定出来るんじゃ……」
「いや。そうとは限らない。サファル。もっと深くを読め。商人ならそれくらい出来るだろうが。カジャックは既に把握しているぞ?」
アルゴに言われ、サファルはカジャックを見た。
「分かったんですか?」
「……まあ」
「はぁ……やっぱりカジャックカッコいい……」
思わず顔を赤らめながら言えばむしろアルゴに笑われた。
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