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48話
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「カジャックが何もしてくれないんだ」
はぁ、とサファルがため息を漏らすと、ルーカスは困惑したような微妙な顔でサファルを見てきた。
「俺に言われても」
「ルーカスに言わないで誰に言うんだよ」
「そこはカジャックさんに言えよ……」
確かにと思いつつ、サファルは飲んでいたエールをまた口にする。いつもの場所だが今日は何人かでなくルーカスと二人で飲んでいた。
数日前に商売をしに町へ出向いたばかりのサファルは、この店に来る前はルーカスの家にある畑を手伝っていた。体を動かした後のエールは美味いが、カジャックのことを思うと爽快とまではいかない。
ところで家を出る前にリゼの友だちがまた来ていた。何度か見かけている少女でリゼより一つ下の十四歳らしい。リゼと仲良しとは思えない大人しい子で、サファルが「いらっしゃい」と笑いかけるといつも顔を真っ赤にして俯いている。あまり異性に慣れてないのか、単に人見知りなのかなとなるべく顔を合わせないよう心がけてはいるが、その子のことをリゼに言えば「私と仲良しとは思えないっての余計。でも可愛いでしょ」と言われた。
「可愛らしいな」
「ほんと、サファルにはもったいないほど可愛いんだから」
「俺、関係ないだろ」
「まぁ、ね。……ところでもしカジャックさんに振られたら教えてね」
「リゼもそういうの余計! 振られない、つもりだからな俺」
「……複雑」
「は?」
「何でもないよ。あとその子緊張しちゃうから、あんまり沢山話しかけないでね。でも愛想よくしてあげて」
「どうしろと」
その少女から今日は初めて「こんにちは……」と返ってきた。カジャックのことがなければ今日はとてもいい日だったかもしれない。
「俺、ほんとに好かれてると思う?」
「それもカジャックさんに聞け」
「……何度も聞いた」
「……カジャックさんもお疲れ様だな……」
「確かにちょっと呆れられてるけども……! でもそしたらさぁ、やっぱ何かしたくならない? 少なくとも俺はカジャック相手だとさぁ、なるけど」
「大事にしてくれてんだろ」
「男相手に? まぁ、でもいつも大事にしてくれてるからそういう面ではもっとこう、強引な」
「俺に言うなよ……」
「ぐだぐだ言うくらいなら俺がいけばいいんだろけどさ、でも俺、カジャックにはされたいんだよな」
「……別にされたくても自分から行けばいいんじゃないか?」
ルーカスは恋人がいたこともあるが、基本的にあまり恋バナを楽しむタイプではない。だというのに付き合わせて申し訳ないとはサファルも思うのだが、つい頼ってしまう。
「でもカジャックってそういう積極的なタイプ好みそうにない気がする」
「あー……いや、どうだろうな。俺は分からないけど、それを言うならあの人元々人が苦手なんだからそもそも誰かと付き合う自体得意じゃないだろ」
「ぅ……」
「いや、だからな、それなのにお前が好きだと言ってくれ、付き合ってくれている訳だろ? 自信持て。お前から行っても今さらそんなでお前を嫌いになるような人じゃないよ」
「ルーカス……ありがとう……。……でも今さらってどういう意味だよ」
「ははは」
「笑うなよ……!」
「あ、話の途中だけど悪い、ちょっと出てくるわ」
「いいけど、どうかしたのか?」
「店の前を今、へルマンさんが通っていった。農具でいくつか見てもらいたいものがあるから明日持っていっていいか約束取り付けてくる。すぐ戻るよ」
「分かった」
サファルは手を上げて見送った。へルマンは鍛冶関係の仕事をしていてサファルもたまに世話になる。話好きの人なのでルーカスがすぐ戻ってくるかは怪しいところだ。仕方なく一人で酒を飲む。クラフォンの町へ行く時は一人で飲むことも多いのでそれは気にならない。
時折酒と酒のあてを口にしながら、サファルはカジャックのことを考えた。最近はますます仕事をしている時以外はカジャックのことを考えている気がする。これは少しよくない傾向なのではと思わないでもないが、最終的に「好きだから仕方がない」で終わる。
でも好きだからさぁ、やっぱエロいこと、までは言わなくてもキスくらいしたいだろ。
以前誰かと付き合っていた時はあまりそういったことは思わなかった。それを取引先の相手に「友だち感覚」と指摘されただけにカジャックもサファルに対して結局そうなのではという不安も拭いきれない。かといってこれ以上何度も「本当に好きなんですか?」とはもう聞けない気がする。
やっぱりとりあえず俺から行くしかないかなぁ。
また小さくため息を吐いていると「サファルじゃねぇか」と声をかけられた。
「何だ、ブルーノか」
「何だとはご挨拶だな」
ブルーノという名前の友人は笑いながらサファルの隣に座ってきた。その際に背中をぽんぽんと撫でられる。背中のあいた服だけに直接肌に当たる。多分汗で多少ベタついているだろうなとぼんやり思っていると肩を組まれた。
「ため息とかお前には似合わねーな。何かあったか?」
「……うーん、いや、特にはないよ。あと暑いだろ、離れろ」
「オーケー。つか、特にはって何だよ」
「別に。ただ、あれだ。気になる人がいてさ」
「はぁ? マジかよ……。……どんな女だよ」
「いや、男なんだけどさ」
「何だよクソ……」
「何でクソ言われなきゃなんだよ」
「うるせぇ。で? 気になるヤツァどんなヤツだよ! ルーカスじゃねぇならこの村のヤツじゃねぇよな」
「うん。えっと……町で出会った、かな」
カジャックのことは伏せておきたいサファルは、滅多に吐かない嘘を口にした。おかげで気もそぞろになる。
「かな? あやふやだな」
「うるさい。いーだろ、そんなことブルーノに関係ない。とにかく気を向けたいけど中々上手くいかないなってこと!」
「……チッ。……ああ、それはあれだ、お前が経験ねぇからだよ、色々」
「……それは分かってるけど……」
確かに経験豊富なら手練手管をもってして、カジャックを夢中にさせられていたかもしれない。だが実際そんなことは不可能だ。
「俺が教えてやる」
「何をだよ。そいや前に飲んだ時に俺を女にするとかふざけたこと言ってたよなお前。そういう冗談は笑えないって言ってんだろ」
「冗談とかちげぇし。……そいつたぶらかしてぇんだろ?」
「たぶらかすは穏やかじゃないな! 普通にこう、その気になって欲しいというか……」
「そういうやり方をだな、教えてやるっつってんだよ」
「ほんとか? 何だよ、ブルーノ。お前いいやつ! じゃあ教えてくれよ」
はぁ、とサファルがため息を漏らすと、ルーカスは困惑したような微妙な顔でサファルを見てきた。
「俺に言われても」
「ルーカスに言わないで誰に言うんだよ」
「そこはカジャックさんに言えよ……」
確かにと思いつつ、サファルは飲んでいたエールをまた口にする。いつもの場所だが今日は何人かでなくルーカスと二人で飲んでいた。
数日前に商売をしに町へ出向いたばかりのサファルは、この店に来る前はルーカスの家にある畑を手伝っていた。体を動かした後のエールは美味いが、カジャックのことを思うと爽快とまではいかない。
ところで家を出る前にリゼの友だちがまた来ていた。何度か見かけている少女でリゼより一つ下の十四歳らしい。リゼと仲良しとは思えない大人しい子で、サファルが「いらっしゃい」と笑いかけるといつも顔を真っ赤にして俯いている。あまり異性に慣れてないのか、単に人見知りなのかなとなるべく顔を合わせないよう心がけてはいるが、その子のことをリゼに言えば「私と仲良しとは思えないっての余計。でも可愛いでしょ」と言われた。
「可愛らしいな」
「ほんと、サファルにはもったいないほど可愛いんだから」
「俺、関係ないだろ」
「まぁ、ね。……ところでもしカジャックさんに振られたら教えてね」
「リゼもそういうの余計! 振られない、つもりだからな俺」
「……複雑」
「は?」
「何でもないよ。あとその子緊張しちゃうから、あんまり沢山話しかけないでね。でも愛想よくしてあげて」
「どうしろと」
その少女から今日は初めて「こんにちは……」と返ってきた。カジャックのことがなければ今日はとてもいい日だったかもしれない。
「俺、ほんとに好かれてると思う?」
「それもカジャックさんに聞け」
「……何度も聞いた」
「……カジャックさんもお疲れ様だな……」
「確かにちょっと呆れられてるけども……! でもそしたらさぁ、やっぱ何かしたくならない? 少なくとも俺はカジャック相手だとさぁ、なるけど」
「大事にしてくれてんだろ」
「男相手に? まぁ、でもいつも大事にしてくれてるからそういう面ではもっとこう、強引な」
「俺に言うなよ……」
「ぐだぐだ言うくらいなら俺がいけばいいんだろけどさ、でも俺、カジャックにはされたいんだよな」
「……別にされたくても自分から行けばいいんじゃないか?」
ルーカスは恋人がいたこともあるが、基本的にあまり恋バナを楽しむタイプではない。だというのに付き合わせて申し訳ないとはサファルも思うのだが、つい頼ってしまう。
「でもカジャックってそういう積極的なタイプ好みそうにない気がする」
「あー……いや、どうだろうな。俺は分からないけど、それを言うならあの人元々人が苦手なんだからそもそも誰かと付き合う自体得意じゃないだろ」
「ぅ……」
「いや、だからな、それなのにお前が好きだと言ってくれ、付き合ってくれている訳だろ? 自信持て。お前から行っても今さらそんなでお前を嫌いになるような人じゃないよ」
「ルーカス……ありがとう……。……でも今さらってどういう意味だよ」
「ははは」
「笑うなよ……!」
「あ、話の途中だけど悪い、ちょっと出てくるわ」
「いいけど、どうかしたのか?」
「店の前を今、へルマンさんが通っていった。農具でいくつか見てもらいたいものがあるから明日持っていっていいか約束取り付けてくる。すぐ戻るよ」
「分かった」
サファルは手を上げて見送った。へルマンは鍛冶関係の仕事をしていてサファルもたまに世話になる。話好きの人なのでルーカスがすぐ戻ってくるかは怪しいところだ。仕方なく一人で酒を飲む。クラフォンの町へ行く時は一人で飲むことも多いのでそれは気にならない。
時折酒と酒のあてを口にしながら、サファルはカジャックのことを考えた。最近はますます仕事をしている時以外はカジャックのことを考えている気がする。これは少しよくない傾向なのではと思わないでもないが、最終的に「好きだから仕方がない」で終わる。
でも好きだからさぁ、やっぱエロいこと、までは言わなくてもキスくらいしたいだろ。
以前誰かと付き合っていた時はあまりそういったことは思わなかった。それを取引先の相手に「友だち感覚」と指摘されただけにカジャックもサファルに対して結局そうなのではという不安も拭いきれない。かといってこれ以上何度も「本当に好きなんですか?」とはもう聞けない気がする。
やっぱりとりあえず俺から行くしかないかなぁ。
また小さくため息を吐いていると「サファルじゃねぇか」と声をかけられた。
「何だ、ブルーノか」
「何だとはご挨拶だな」
ブルーノという名前の友人は笑いながらサファルの隣に座ってきた。その際に背中をぽんぽんと撫でられる。背中のあいた服だけに直接肌に当たる。多分汗で多少ベタついているだろうなとぼんやり思っていると肩を組まれた。
「ため息とかお前には似合わねーな。何かあったか?」
「……うーん、いや、特にはないよ。あと暑いだろ、離れろ」
「オーケー。つか、特にはって何だよ」
「別に。ただ、あれだ。気になる人がいてさ」
「はぁ? マジかよ……。……どんな女だよ」
「いや、男なんだけどさ」
「何だよクソ……」
「何でクソ言われなきゃなんだよ」
「うるせぇ。で? 気になるヤツァどんなヤツだよ! ルーカスじゃねぇならこの村のヤツじゃねぇよな」
「うん。えっと……町で出会った、かな」
カジャックのことは伏せておきたいサファルは、滅多に吐かない嘘を口にした。おかげで気もそぞろになる。
「かな? あやふやだな」
「うるさい。いーだろ、そんなことブルーノに関係ない。とにかく気を向けたいけど中々上手くいかないなってこと!」
「……チッ。……ああ、それはあれだ、お前が経験ねぇからだよ、色々」
「……それは分かってるけど……」
確かに経験豊富なら手練手管をもってして、カジャックを夢中にさせられていたかもしれない。だが実際そんなことは不可能だ。
「俺が教えてやる」
「何をだよ。そいや前に飲んだ時に俺を女にするとかふざけたこと言ってたよなお前。そういう冗談は笑えないって言ってんだろ」
「冗談とかちげぇし。……そいつたぶらかしてぇんだろ?」
「たぶらかすは穏やかじゃないな! 普通にこう、その気になって欲しいというか……」
「そういうやり方をだな、教えてやるっつってんだよ」
「ほんとか? 何だよ、ブルーノ。お前いいやつ! じゃあ教えてくれよ」
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