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37話
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ふと髪に触れ、サファルはなんとなく口元がニヤつくのが自分でも分かった。
あの後、サファルは遠慮して帰ってきていた。亡くなったジンの友人であり、カジャックを息子のように思っているアルゴが久しぶりに訪れてきたというのなら、積もる話もあるだろうと思ってのことだ。カジャックには「帰る必要はない」と言ってもらえたが、やはり久しぶりなら二人でゆっくりしてもらったほうがいいだろうとサファルは思った。
「サファル、髪いじくってニヤついてるとか大丈夫なのか?」
「それ、何の心配だよ大丈夫に決まってんだろ」
泊まるつもりで時間を作っていたため、カジャックの家から村まではそれなりに距離があるものの、戻ることにしたのが早い時間だったのもあって結局空いてしまったサファルは村の友人たちと集まって飲んでいた。サファルが泊まる予定だったのもあり、リゼが仲のよい友人を家に呼んでいたのも理由の一つだ。狭い家にサファルがいればリゼの友人も落ち着かないだろうと思った。
「サファル、珍しく気がきくね」
「リゼ……たまには俺を兄扱いしてもいいと思うんだけど。あと、一言余計かもだけどさ、あの子はお前と違っておしとやかでおとなしいだろ。俺がいたら気兼ねなくお喋り出来ないだろうしな」
「一言どころか二言も三言も多い!」
ルーカスはまだ家の仕事があるようだったので空いたら酒場へ来いと伝えていた。
髪に触れてニヤついていたのは、自分がジンに似ているところがあると知ったからだ。別にジンになりたい訳ではないが、カジャックも認める凄い人であり育ての親でもあるジンと、例え髪や目の色だとしても似ている部分があるのは何となく嬉しかった。ジンの存在は悔しくもあるが、今では少し憧れすらある。
アルゴのことは最初、またライバル出現なのかと勝手に戦慄していたが、見ていると間違いなく恋愛絡みはないと思えた。カジャックのことは本当に大好きなのであろうが、どう見ても親バカのそれだ。それも重度の。
……でも、ならやっぱりカジャックには女性といっしょになって欲しいんだろな。
アルゴはエルフだ。既に六百年ほども生きているそうだが、それでも先はまだ長いだろう。アルゴがジンのことをどういった友人だと思っていたのかは知らないが、カジャックへの態度を見ている限りでは本当に大切な存在だったのは分かる。カジャックがそのジンの息子のようなものだと思っているならカジャックの子どもが見たいとも思うだろうし、まだまだ先が長いであろうアルゴにしてみれば子孫がいるのは嬉しいだろう。
「……何で俺は女じゃないんだろ」
「おい、サファルがあろうことか酔ってるぞ!」
「マジかよ」
「珍しい」
「明日は雨か……? まずいな、作物が……」
「って、酔ってないけどっ? 何で酔ってるとか思ったんだよ。っていうか明日は雨ってどういうことだよ」
皆が勝手なことを言っているのに気づいたサファルが微妙な顔をすれば、最初に酔ってると言い出した相手が笑いだす。
「だって何で女じゃないんだとか言い出すから」
「それは……何かこう……えっと」
好きな人の子どもを産めないから、だとはさすがに言いにくいし、実際子どもを産みたい訳ではない。とはいえ流れを説明するのもやりにくい。
「何だよ、サファル。女になりてーの? 俺がしてやるぞ」
「は? ざけんなブルーノ」
更に微妙な顔をサファルがひとりに向けると、別の友人が「そうだそうだ」と同意してきた。
「やるなら俺だろ」
だがサファルの味方という訳でもないらしい。
「お前らさ、そういう馬鹿なこと言っても面白くもなんともないからな? まあリゼを対象にしてくるよりマシだけどな」
「おい……、サファル。あいつらに油断してるとほんとに食われんぞ」
呆れて言い返していたサファルに、別の友人がやんわり忠告してきた。
「あいつらが俺を? 友だちを? 何言ってんだよ、ないない」
「……ったく。とにかくお前、弓出来っけど腕っぷし弱いんだから気をつけろよ。つか、今日はルーカス来ねーのか?」
「後で来るよ」
「ならいいけど」
「……何か今、ルーカスいないと何も出来ない扱い受けた気分なんだけど」
「ちげーよ。お前は隙だらけだっつってんの」
相手が言っていることはだいたい納得出来ないが、腕っぷしが弱いのと隙が多いのは否定出来ない。この間もカジャックの家へ遊びに行っていた時に薪を割ろうとしていたら、黙ってカジャックにスッと斧を取り上げられた。多分慣れていなくて力もなさそうだと思われたからだろうなとサファルにも敗因は分かっている。それに多分確かに隙も多いだろう。だから森の奥へうっかり迷い込み、魔物に襲われかけた。おかげでカジャックと出会えたが、運が悪ければサファルは今ここにいない。
「これからはうっかり迷い込まないようにしようと思ってるよ」
「何の話だよ」
「だから隙云々ってやつ」
「……? あとお前って頭いいのに馬鹿だからさあ」
「どういう意味だよそれ」
「そのまま。とにかく皆と一緒にいるならいいけど、あいつとかあいつとかとは二人で飲んだりすんなよ」
「友だちなのに何言ってんの」
「あーもう。いいから。あとなるべくルーカスとはセットでいろよ」
「無茶言うなよ……。というか、ルーカスと言えばさ。お前、奥さんいるから安心して持ちかけられんだけど、どうやったらリゼと上手くいくと思う?」
「リゼの心配もいいけど、自分の心配しろよ」
何故か呆れられたが、サファルとしても自分の心配は十分にしている。心配というか、ただの恋煩いでしかないが。
「俺は俺でがんばってんだよ」
「? おお、何か知らんがうん、がんばれよ。リゼはまぁ……ルーカスもなぁ、あいつあんななのに鈍いとこあるもんなぁ。でも何だかんだで多分あ──」
「おいおい、二人で話し込んでねーで皆で騒ごうや」
既に出来上がっている何人かが押し寄せてきて、結局今の話は流れてしまった。
あの後、サファルは遠慮して帰ってきていた。亡くなったジンの友人であり、カジャックを息子のように思っているアルゴが久しぶりに訪れてきたというのなら、積もる話もあるだろうと思ってのことだ。カジャックには「帰る必要はない」と言ってもらえたが、やはり久しぶりなら二人でゆっくりしてもらったほうがいいだろうとサファルは思った。
「サファル、髪いじくってニヤついてるとか大丈夫なのか?」
「それ、何の心配だよ大丈夫に決まってんだろ」
泊まるつもりで時間を作っていたため、カジャックの家から村まではそれなりに距離があるものの、戻ることにしたのが早い時間だったのもあって結局空いてしまったサファルは村の友人たちと集まって飲んでいた。サファルが泊まる予定だったのもあり、リゼが仲のよい友人を家に呼んでいたのも理由の一つだ。狭い家にサファルがいればリゼの友人も落ち着かないだろうと思った。
「サファル、珍しく気がきくね」
「リゼ……たまには俺を兄扱いしてもいいと思うんだけど。あと、一言余計かもだけどさ、あの子はお前と違っておしとやかでおとなしいだろ。俺がいたら気兼ねなくお喋り出来ないだろうしな」
「一言どころか二言も三言も多い!」
ルーカスはまだ家の仕事があるようだったので空いたら酒場へ来いと伝えていた。
髪に触れてニヤついていたのは、自分がジンに似ているところがあると知ったからだ。別にジンになりたい訳ではないが、カジャックも認める凄い人であり育ての親でもあるジンと、例え髪や目の色だとしても似ている部分があるのは何となく嬉しかった。ジンの存在は悔しくもあるが、今では少し憧れすらある。
アルゴのことは最初、またライバル出現なのかと勝手に戦慄していたが、見ていると間違いなく恋愛絡みはないと思えた。カジャックのことは本当に大好きなのであろうが、どう見ても親バカのそれだ。それも重度の。
……でも、ならやっぱりカジャックには女性といっしょになって欲しいんだろな。
アルゴはエルフだ。既に六百年ほども生きているそうだが、それでも先はまだ長いだろう。アルゴがジンのことをどういった友人だと思っていたのかは知らないが、カジャックへの態度を見ている限りでは本当に大切な存在だったのは分かる。カジャックがそのジンの息子のようなものだと思っているならカジャックの子どもが見たいとも思うだろうし、まだまだ先が長いであろうアルゴにしてみれば子孫がいるのは嬉しいだろう。
「……何で俺は女じゃないんだろ」
「おい、サファルがあろうことか酔ってるぞ!」
「マジかよ」
「珍しい」
「明日は雨か……? まずいな、作物が……」
「って、酔ってないけどっ? 何で酔ってるとか思ったんだよ。っていうか明日は雨ってどういうことだよ」
皆が勝手なことを言っているのに気づいたサファルが微妙な顔をすれば、最初に酔ってると言い出した相手が笑いだす。
「だって何で女じゃないんだとか言い出すから」
「それは……何かこう……えっと」
好きな人の子どもを産めないから、だとはさすがに言いにくいし、実際子どもを産みたい訳ではない。とはいえ流れを説明するのもやりにくい。
「何だよ、サファル。女になりてーの? 俺がしてやるぞ」
「は? ざけんなブルーノ」
更に微妙な顔をサファルがひとりに向けると、別の友人が「そうだそうだ」と同意してきた。
「やるなら俺だろ」
だがサファルの味方という訳でもないらしい。
「お前らさ、そういう馬鹿なこと言っても面白くもなんともないからな? まあリゼを対象にしてくるよりマシだけどな」
「おい……、サファル。あいつらに油断してるとほんとに食われんぞ」
呆れて言い返していたサファルに、別の友人がやんわり忠告してきた。
「あいつらが俺を? 友だちを? 何言ってんだよ、ないない」
「……ったく。とにかくお前、弓出来っけど腕っぷし弱いんだから気をつけろよ。つか、今日はルーカス来ねーのか?」
「後で来るよ」
「ならいいけど」
「……何か今、ルーカスいないと何も出来ない扱い受けた気分なんだけど」
「ちげーよ。お前は隙だらけだっつってんの」
相手が言っていることはだいたい納得出来ないが、腕っぷしが弱いのと隙が多いのは否定出来ない。この間もカジャックの家へ遊びに行っていた時に薪を割ろうとしていたら、黙ってカジャックにスッと斧を取り上げられた。多分慣れていなくて力もなさそうだと思われたからだろうなとサファルにも敗因は分かっている。それに多分確かに隙も多いだろう。だから森の奥へうっかり迷い込み、魔物に襲われかけた。おかげでカジャックと出会えたが、運が悪ければサファルは今ここにいない。
「これからはうっかり迷い込まないようにしようと思ってるよ」
「何の話だよ」
「だから隙云々ってやつ」
「……? あとお前って頭いいのに馬鹿だからさあ」
「どういう意味だよそれ」
「そのまま。とにかく皆と一緒にいるならいいけど、あいつとかあいつとかとは二人で飲んだりすんなよ」
「友だちなのに何言ってんの」
「あーもう。いいから。あとなるべくルーカスとはセットでいろよ」
「無茶言うなよ……。というか、ルーカスと言えばさ。お前、奥さんいるから安心して持ちかけられんだけど、どうやったらリゼと上手くいくと思う?」
「リゼの心配もいいけど、自分の心配しろよ」
何故か呆れられたが、サファルとしても自分の心配は十分にしている。心配というか、ただの恋煩いでしかないが。
「俺は俺でがんばってんだよ」
「? おお、何か知らんがうん、がんばれよ。リゼはまぁ……ルーカスもなぁ、あいつあんななのに鈍いとこあるもんなぁ。でも何だかんだで多分あ──」
「おいおい、二人で話し込んでねーで皆で騒ごうや」
既に出来上がっている何人かが押し寄せてきて、結局今の話は流れてしまった。
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