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27話
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あの後にもう少しだけ廃れた町の様子を窺ったが、特に目に留まるものはなかった。どこも石やレンガ、木材で出来た建物はほとんどが半壊していて、そこに蔦が絡まったり苔が生えたりして独特の雰囲気を醸し出していた。
どこがジンの家だったかは分かる筈もない。ただカジャックも次に来る時はとりあえず木や花の苗や種を植えようと思った。
帰りにかかる時間は行きより早く感じたが、それでも野宿しない訳にはいかない。サファルは何故か行きよりも更に楽しそうで、見ているカジャックまで何となく楽しい気分になってくる。
晴れていた青空を見て「気持ちいい嬉しくなるような天気ですよね!」と本当に楽しそうに言われたら、特に何とも思っていなかった空を見上げて気持ちがいい嬉しくなるような天気だなとつられたように思ってしまう。
結局あの開墾集落跡地に着いた時点で既に昼過ぎになっていたのだ。青空も当然あっという間に夕焼け空になったし、夜が更けてからさほど慣れていない森の中を歩くつもりはないため早々に野宿の準備をした。
「青空や夕焼け空でなくとも野宿準備すら楽しそうだな、お前は」
何らかの歌を鼻歌で歌いながら動いているサファルに言えば、うんうんと頷いてきた。
「そりゃそうですよ。頼りがいのある、しかも俺の好きな人と一緒で楽しくないなら人生他に何が楽しいって言うんです?」
「……なるほどな」
「いや、呆れたようになるほどなって呟かれんのも何かこう、ほんのり微妙っていうか……流されるよりはマシかもだけど……!」
「そうだな。さて、じゃあ狩りに行くか」
「結局流す……!」
行きでは意識していなかったが、同じ森の中とはいえこの辺もカジャックの家周辺と同じく特に強そうな魔物は出ない。百年近く前とはいえ、開墾集落というよりしっかりと完成された町を滅ぼすほどの魔物がこの辺りにいたとは思えない。だが廃墟を見ていると魔物に襲われた跡としか思えないような跡が所々にあった。
やはり当時町の住民がそういった強い魔物と戦い、倒したのだろうか。だがそれなら何故町は滅びているのか。どれ程崩壊しようが、魔物を倒した後にまた造り上げていけたのではないだろうか。ただでさえ、あそこは元々住民たちが開墾して築き上げた町らしいのだ。もちろんやり直すのは簡単ではないが、せっかく魔物を倒したというのにあの地を捨てて他へ行くとは考えにくい。それとも精も根も尽き果て、あの地を捨てたのだろうか。
なら、ジンは──
「カジャック?」
サファルの声に、カジャックはハッとなった。
「どうしたんですか、どこか具合でも……?」
「いや。考え事をしていた」
「ジンさんのこと?」
「まぁ」
「……ジンさん、町がなくなっても度々訪れて緑を植えてたってことは再建したかったってより供養みたいなもんだったんですかね……町全体の」
サファルの言葉にカジャックはまたハッとなった。
「……ぁ、あ……そうなんだろうな」
そこから何となく浮かんだものが悲しくて、カジャックはむしろ少し笑みを浮かべた。明るくもない話にサファルを付き合わせることはない。アルゴの元へは今度改めて自分ひとりで行こうとそして思う。この開墾集落跡地へついてきてくれただけでも感謝していた。カジャックは知らなかったが、跡地へ出向くのは不吉なのらしい。そう聞いて育ってきたサファルだけに余計ありがたさを感じる。
今までずっと来られなかった。カジャックにとってかけがえのない大切なジンが、カジャックにはほとんど何も言わなかった、それでもたまに通っていた場所だ。自分が行ってもいいのか分からなかったし、行って何があるのか知るのもどこか怖かった。
多分子ども心に勝手な妄想を広げてしまっていたのだと思う。その気持ちが妙に残ってしまい、大人になった今でも何となく勇気が出なかった。
「カジャック、ほら、この肉めちゃくちゃいい感じに焼けましたよ!」
ニコニコと満面の笑みで焼けた肉を差し出してくるサファルにカジャックは今度は本当に笑みを向ける。
「ああ。……ありがとうな」
肉も。そしてついてきてくれて。
心からの礼を告げるとサファルはみるみる赤くなっていく。
「も、もう! カジャックってばそんなに俺が焼いた肉が嬉しいんですか。そんなのいくらでも焼きますし、何なら俺と結婚してくれたら生涯ずっと焼き続けますよ……!」
「男同士で結婚しても仕方ないだろ」
「また! カジャックは古いんですよ……! 今時同性で一緒になるカップルなんてめちゃくちゃいますから!」
「あと生涯肉を食べ続けるのはちょっと……」
「そんなもん、言葉のあやじゃないですか……。つか、魚焼くのだって他の料理だって勉強しますし俺! いくらでも」
「ふふ」
「今度は笑って流す……!」
その言葉にカジャックはまた笑う。
ずいぶん、サファルに救われている気がする。ジン以外では唯一、そばにいてくれる人間であり、そしてそばにいてもカジャックが落ち着ける人間だとそして思う。
出会った最初の時はサファルに「家で身内に紹介したい」的なことを言われても断っていた。遠慮ではなく、これ以上人間に会いたくないと思っていたからだ。今回はサファルに頼まれたのもあるが、未だにあまり気は進まないながらもサファルの身内なら、妹と幼馴染とやらに会うことにもう、迷いはなかった。
どこがジンの家だったかは分かる筈もない。ただカジャックも次に来る時はとりあえず木や花の苗や種を植えようと思った。
帰りにかかる時間は行きより早く感じたが、それでも野宿しない訳にはいかない。サファルは何故か行きよりも更に楽しそうで、見ているカジャックまで何となく楽しい気分になってくる。
晴れていた青空を見て「気持ちいい嬉しくなるような天気ですよね!」と本当に楽しそうに言われたら、特に何とも思っていなかった空を見上げて気持ちがいい嬉しくなるような天気だなとつられたように思ってしまう。
結局あの開墾集落跡地に着いた時点で既に昼過ぎになっていたのだ。青空も当然あっという間に夕焼け空になったし、夜が更けてからさほど慣れていない森の中を歩くつもりはないため早々に野宿の準備をした。
「青空や夕焼け空でなくとも野宿準備すら楽しそうだな、お前は」
何らかの歌を鼻歌で歌いながら動いているサファルに言えば、うんうんと頷いてきた。
「そりゃそうですよ。頼りがいのある、しかも俺の好きな人と一緒で楽しくないなら人生他に何が楽しいって言うんです?」
「……なるほどな」
「いや、呆れたようになるほどなって呟かれんのも何かこう、ほんのり微妙っていうか……流されるよりはマシかもだけど……!」
「そうだな。さて、じゃあ狩りに行くか」
「結局流す……!」
行きでは意識していなかったが、同じ森の中とはいえこの辺もカジャックの家周辺と同じく特に強そうな魔物は出ない。百年近く前とはいえ、開墾集落というよりしっかりと完成された町を滅ぼすほどの魔物がこの辺りにいたとは思えない。だが廃墟を見ていると魔物に襲われた跡としか思えないような跡が所々にあった。
やはり当時町の住民がそういった強い魔物と戦い、倒したのだろうか。だがそれなら何故町は滅びているのか。どれ程崩壊しようが、魔物を倒した後にまた造り上げていけたのではないだろうか。ただでさえ、あそこは元々住民たちが開墾して築き上げた町らしいのだ。もちろんやり直すのは簡単ではないが、せっかく魔物を倒したというのにあの地を捨てて他へ行くとは考えにくい。それとも精も根も尽き果て、あの地を捨てたのだろうか。
なら、ジンは──
「カジャック?」
サファルの声に、カジャックはハッとなった。
「どうしたんですか、どこか具合でも……?」
「いや。考え事をしていた」
「ジンさんのこと?」
「まぁ」
「……ジンさん、町がなくなっても度々訪れて緑を植えてたってことは再建したかったってより供養みたいなもんだったんですかね……町全体の」
サファルの言葉にカジャックはまたハッとなった。
「……ぁ、あ……そうなんだろうな」
そこから何となく浮かんだものが悲しくて、カジャックはむしろ少し笑みを浮かべた。明るくもない話にサファルを付き合わせることはない。アルゴの元へは今度改めて自分ひとりで行こうとそして思う。この開墾集落跡地へついてきてくれただけでも感謝していた。カジャックは知らなかったが、跡地へ出向くのは不吉なのらしい。そう聞いて育ってきたサファルだけに余計ありがたさを感じる。
今までずっと来られなかった。カジャックにとってかけがえのない大切なジンが、カジャックにはほとんど何も言わなかった、それでもたまに通っていた場所だ。自分が行ってもいいのか分からなかったし、行って何があるのか知るのもどこか怖かった。
多分子ども心に勝手な妄想を広げてしまっていたのだと思う。その気持ちが妙に残ってしまい、大人になった今でも何となく勇気が出なかった。
「カジャック、ほら、この肉めちゃくちゃいい感じに焼けましたよ!」
ニコニコと満面の笑みで焼けた肉を差し出してくるサファルにカジャックは今度は本当に笑みを向ける。
「ああ。……ありがとうな」
肉も。そしてついてきてくれて。
心からの礼を告げるとサファルはみるみる赤くなっていく。
「も、もう! カジャックってばそんなに俺が焼いた肉が嬉しいんですか。そんなのいくらでも焼きますし、何なら俺と結婚してくれたら生涯ずっと焼き続けますよ……!」
「男同士で結婚しても仕方ないだろ」
「また! カジャックは古いんですよ……! 今時同性で一緒になるカップルなんてめちゃくちゃいますから!」
「あと生涯肉を食べ続けるのはちょっと……」
「そんなもん、言葉のあやじゃないですか……。つか、魚焼くのだって他の料理だって勉強しますし俺! いくらでも」
「ふふ」
「今度は笑って流す……!」
その言葉にカジャックはまた笑う。
ずいぶん、サファルに救われている気がする。ジン以外では唯一、そばにいてくれる人間であり、そしてそばにいてもカジャックが落ち着ける人間だとそして思う。
出会った最初の時はサファルに「家で身内に紹介したい」的なことを言われても断っていた。遠慮ではなく、これ以上人間に会いたくないと思っていたからだ。今回はサファルに頼まれたのもあるが、未だにあまり気は進まないながらもサファルの身内なら、妹と幼馴染とやらに会うことにもう、迷いはなかった。
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