蛇 と 兎

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34.弄ばれる兎

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 学校登校日やら何やらと重なっている日なのだろうか、今日の電車は夏休み期間だというのに行きも帰りも混んでいた。元々学生が休みであっても途中までは通勤圏なのでそれなりに混むのだが、久しぶりの混み具合に優史は帰りに読もうと思っていた本を諦めた。
 とりあえずドア付近じゃなくて座席辺りに立つべきだった。そして思った。
 千景が言う「無防備」というのはこういうことを言っているのだろうか、と。
 自分ではこんな図体のデカイ男相手に痴漢したくなるなんて理解できない。だが実際にふざけてしてきた千景以外にも本物の痴漢にも遭っている。
 千景にしても、そういった本物の痴漢をしてくる人にしても大抵多いのは、今優史が立っているドア付近でだった。多分座席あたりだと人の目につきやすいからなのかもしれない。
 女性ならそんなことも様々考えながら電車に乗るのだろう。そして男である自分は基本的にそういったことなどいちいち考えない。
 そして痴漢に、遭う。
 今も自分の下腹部に伸びてきた手に気づき、優史は俯きながら後悔していた。するといけると思われたのか、触れてくる相手がさらに密着してきた。

 どうしよう、無理だ……。

 そう思った時に聞き慣れた声が聞こえた。

「優史、俺がいくら言っても理解しないその頭は飾り物なの……?」

 小さな声でボソリと囁いてきた声は千景の声だった。

「……っち、かげ……。じゃ、じゃあ今のこの……その、手は、千景……?」

 最近は千景が夏休みに入っていたのであまり朝会わなかった。同じ電車に乗るのは千景が優史の家に泊まっていった翌日くらいだった。
 しかも今は帰りだ。朝ならまだ決まった時間の電車だが帰りはどうしてもバラバラの時間になってしまう。だからまさか会うなどと思ってもいなかったのもあり、優史は小さいながらも驚いた声をあげた。

「そうじゃなかったらどうだった……? その方が嬉しかった?」
「っそんなわけ……」
「だったらいい加減もう少し警戒すれば?」

 少し低い声でそう言われる。何となくこういうことを言っているのだろうかと丁度考えていた時だったため、千景の言っている意味が優史にも否応なしにわかった。

「ごめん……」
「へえ? お馬鹿さんでもようやくわかった?」
「う、うん。心配、してくれてるんだよ、ね? いつも心配してくれて、ありがとう……」

 付き合っている相手でもない自分に対し、ちょくちょくこうして言ってくれる千景は多分、迂闊な自分を心配してくれているのだろうなと申し訳なく思った。

「……はぁ」
「な、何?」

 何故だかわからないが、ため息をつかれた。

「……別に」

 そう言った後で千景の手がまた優史の下腹部をまさぐってきた。

「っちょ、あの……」
「何」
「な、んで……。その、また『ごっこ』……?」

 たまに千景は「痴漢ごっこ」しよう、と優史に持ちかけてくる。本当にたまになのだが、さすがに公衆の面前では恥ずかしいし色々辛いので優史は喜べない。とは言え、自分の体はそれなりに反応してしまうのが忌々しいと思っている。

「……遊びというより、これもお仕置き、かな」
「え……」
「しー。あまり何やら言ってると、バレちゃうよ……」

 千景はそう囁きながらゆっくりと優史のベルトを外し、チャックを下ろしてきた。そして千景の手が優史のペニスに触れる。

「……硬いじゃない、どういうこと……」

 熱い吐息とともに優史の耳元で囁く声に、優史は歯を食いしばった。

「ちょっとあの駅で降りて店寄ってこーよー」
「いいねー、つかそういや焼けた?」

 そんなたわいもない会話がところどころから聞こえてくる。この状況が周りにバレたら、そう思うと怖くて恥ずかしくて仕方ないのに、優史の下腹部はとてつもなく震える。
 千景の手はそんな優史に構わずに容赦なく動く。自分でも濡れているのがわかるため、音が周りに漏れたらどうしようと優史は思わずギュッと目を閉じた。だが変に集中してしまい、押し寄せるような波を感じた。
 ビクリと震えながらまた慌てて目を開ける。こんなところでイけない。

 違うことをせめて考えないと……。

 すると千景の手がペニスから離れた。そして硬くなったままのペニスをまたもとの位置に戻される。
 ホッとする反面、正直辛い。とはいえこんな人だらけの車内で達するわけにいかない。
 後でトイレに行くしかない、などと考えていると千景の手が尻に回ってきた。そしてまだ緩められたままのズボンの中に手を入れられる。

「……っ」

 優史のペニスを甚振り濡れていた指がゆっくりと後ろに入ってきた。優史は声を出さないようにするのが精いっぱいだった。足がガクガクする。
 一体千景はどこまでする気なのだろうと気が気ではなかった。あまり後ろを弄られて、もし達してしまったらと考えとりあえず口を押さえる。
 先程までたまに話しかけてきた千景はもう、一切何も言ってこなかった。

 どうしたらいいのだろう。何をされるのだろう。

 優史は体をそっと震わせた。怖くもあり、情けないことに気持ちよくもあり、本当にどうすればいいのかわからない。
 暫くすると二本くらい挿れられていた指がようやく引っ込んだ。優史がまたホッとしていると、今度は硬い異物感を感じる。
 まさか、と思っているとその無機質な異物感はゆっくりと優史の中へ入ってきた。唇を噛みしめていると異物が入ったまま優史のズボンはきちんとあげられ、チャックもベルトも元通りになる。
 何したのかと千景に問いたかったが、声を出すこともままならない。今口を開けばどうしようもない喘ぎ声が出そうで優史はただ口を押さえるしかできなかった。

「あの……大丈夫ですか?」

 よほど様子がおかしかったのだろうか、近くにいたサラリーマン風の男性が声をかけてきた。優史は思わずその相手を見る。目も顔も熱いからもしかしたら赤いかもしれない。変な顔をしていたらどうしようと、上げた顔を慌てて俯かせた。

「だ、大丈夫、です……」

 そして震えないようにゆっくり言う。
  バレたらどうしよう、もう生きていけない。そう思いつつも下はさらに辛くなった。
 するとようやく千景が口を開いた。

「あ、先生じゃない。気づかなかった。あれ? もしかして具合悪いの? 次の駅で降りようか。ああすみません、この人俺、知り合いなので後は俺が……」
「そ、そうですか。とりあえず大丈夫ならいいんですが」

 声をかけてくれたサラリーマンの心配そうな声が聞こえる。とりあえず優史はこの場から消えたかった。
 どのみち次の駅が優史が降りる駅だった。だがとても長く感じる。ようやく駅につき、ドアが開いた時は天国への入り口のような気がした。千景に支えられるようにしてホームに降りる。

「ほら、優史。しっかりしなよ……」

 支えながら千景が言ってきた。

「……俺の、中に……何、入れた、の? まだ入ってる……。嫌だ、抜い、て……」
「くく。じゃないとイっちゃいそう?」

 千景は優しげな笑みを浮かべながらそう囁いてきた。優史は顔がますます熱くなる。あまりに前も後ろも辛くて優史はちゃんと歩くことさえできなかった。

「もう我慢できないなんて堪え性ないなぁ。仕方ないね、ほら、おいで」
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