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30話

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 心底嬉しくないといった顔をすると、むしろデイリーは楽しそうに笑顔を見せてきた。

「残念ですねえ。さて、カリッド王子ですがあなたもご存じの通り、あなたの影響を子どもの頃に受けて性格を変えましたから──」
「ご存じじゃないよ? なにそれ。いつ俺が……」
「それは私が話すことではありません。機会があればご本人に聞いてください。とにかく、変えたせいもあって多分今後の展開も私が把握していないものになっているんじゃないでしょうか」
「他人事……!」
「まあ他人事ですので。本来はですね、俺様が行き過ぎて自分の思い通りにならないとあなたに暴力だって振るう傍若無人な者になっていたんですよね、選択を間違えると。彼の身分のせいで自分の身内にまで影響があり我慢できなくなってやり返そうとしたあなたをカリッドがというよりその周りが咎めます。カリッドにとってはやり返すあなたはいい影響だったでしょうにね。まあ派閥の絡みもあるんでしょう。挙げ句あなたは皇族侮辱罪どころか反逆罪として処刑送りという訳です。他のバッドエンドでの精神的苦痛を思えばまぁマシでしょう?」
「マシじゃないよ……っ? 処刑のどこがマシ……っ? ほんっとうにどれもろくでもないな……!」

 このままデイリーに何も聞かずにいたら万が一すると四人のうちどれかのバッドエンドに当てはまる可能性だってあったかもしれない。そう思うと教えてくれてよかったとつい感謝しそうになる。だがそもそも原因が目の前の男なのだとすぐにハッとなり、感謝する前に思い出せてよかったとフィンリーは疲弊しながら思った。

「あんたのルートは改変した時点で存在しなくなってたのか?」
「ええ、まあ。ですが別に私と火遊びがしたいのでしたらいくらでもお付き合いはしますよ。ただしあくまでも遊びでお願います」
「お願いされなくとも遊びも本気もいらないよ!」
「おや。私と夜を過ごしたらきっともう他の誰とも寝られなくなりますよ」

 性的な意味で言っているのだろうとは思うが、相変わらずなぶり殺しますよと言われているようにしか思えない笑顔だけに生命が終わる的な意味にしか聞こえない。青くなりながら無言で必死になって首を振っていると今度は穏やかそうな笑みを浮かべられた。

「バッドエンドを作ったのはあなたがこの世界に転生する直前ですから、まあカリッドに限らず他の者に関してもひょっとしたら変わっているのかもですね」

 なんだ、慰めか?

 意外にもいいところもあるのだろうかとフィンリーが少し肩の力を抜いたところでデイリーが笑みを浮かべたまま続けてきた。

「ああそうそう。レーディングが十八歳以上とおっしゃってましたよね? お気をつけください。あなたがおっしゃっていたように性的なものはむしろ十七歳以上対象のDへと引き下げられるのでしたら、十八歳以上対象というのは過度に残虐な悪印象を与える殺傷、暴力、犯罪、出血などの表現を含む内容が主に規制の対象となるわけだ。命の保証がない感じでわくわくしますね。私にもあなたのシナリオがどうなるかはわかりません。楽し──いえ、お疲れ様ですね」

 笑顔の作り方を間違えているよ!

 思わず見当違いなことを言いそうになった程度には心に嫌な風に刺さったし、デイリーがろくでもない。

「まあとにかく、あなたが会いたいとおっしゃるアートも一歩間違えれば嫌なエンドが待っているということを言いたかったわけです」
「話戻った……!」
「では。あまり次元を歪ませたままもよくありませんしね。彼らがそろそろ探しにここへもやって来そうですし」
「あ、ちょ、ま……」

 まだ他にも聞きたいことや文句などがある。フィンリーが留めようとしたが、その前にデイリーはこの場から消えていなくなってしまった。辺りを見回せば、いつもの通り違和感のない中庭だった。
 思い切り疲弊していると、同時に見つけてきたらしいカリッドとジェイクが駆けつけて来る。

「フィンリー様。またどこかへ行かれたのかと。心配しました」
「フィンリー、そなたは油断すると私の目から消えますね。心配しましたよ」

 心配しましたという言葉がユニゾンするかのように重なり、二人がまた微妙な笑みを浮かべながら見合っている。
 一回りしていっそ気が合ってるんじゃってくらい何でこいつらこんなに仲悪いの、あと俺は目を離せない幼児か、とフィンリーはため息を吐いた。すると二人がまた同時にフィンリーを見てくる。息ぴったりだろとまた内心思っているとジェイクが「早く戻りましょう。お疲れのようですしゆっくり入浴いたしましょう」と頭を下げてきた。

「家にこもっていてストレスがたまっているかもしれませんね、よかったらこれから乗馬を楽しみに行きませんか」

 カリッドは微笑みながら手を差しのべてくる。こういう分岐点のような状況は本当にやめて欲しいと心から思っていると、丁度そこにリースがやって来た。

「クリーズ王国の光たる王子、カリッド殿下」

 まずカリッドに頭を下げるとフィンリーに体を向けてきた。

「こんなところにいたのかい、フィンリー。僕は先ほどやってきたんだけどね、ちょうどアイリスが君を探しているところに出くわしてね」

 リースの話を聞いてフィンリーはホッとした。デイリーからバッドエンドを聞いたばかりなのもあって、とりあえずここから変な選択をすることなく抜け出したい。

「そうなの? 何か用事かもしれないし、行かなきゃな。殿下、まことに失礼ながら乗馬はまたの機会に。ジェイク、風呂は後で入る。では」
「ああ、じゃあ僕がアイリスのいたところに案内しよう」

 リースがにっこりと促すように手をフィンリーの腰に回してきた。

「そうだね。にしてもアイリス、どうしたんだろ」
「さあ。でも困ってるほどではなかったよ」

 穏やかに言いながら、ちらりとリースはカリッドとジェイクが残る背後に顔を向けてからまたフィンリーのほうを向き、笑いかけてきた。
 背後からおそらくジェイクのではと思われる舌打ちが聞こえてきたような気がしたが、フィンリーとしては気のせいだと思いたい。
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