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2章 学生編  生きる覚悟

38話

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 琉生から遠慮がちに魔法に関して避けないほうがいいと勧められたのもあり、流輝は今一度自分のしたいことも含めて考えてみることにした。
 ニューラウラ王国に限らず、この世界は魔法が当たり前のように存在していて誰しもが魔力を持っているわりに、魔術師となれるほどの魔力を持った者は少ないらしい。貴重な光の魔力を保持している琉生ですら魔力は高くないと聞いた。というかむしろ一般的な者より低いらしい。
 ちなみに光の救世主の話を聞いた当初は思わずテンションが上がった流輝だが、少し経つと疑問も生じた。王ノアの話によれば各国の王族たちは琉生だけでなく流輝も含めて救世主だと考えているようだ。だがいくら魔力が低いとはいえ光の魔力を持っているのは琉生だけ。それに剣士としての実力も琉生は相当高い。つい何かにつけて思い出し比較していた勇者の漫画でも、勇者は光の勇者で剣士でもあった。だからやはり救世主は琉生なのではないだろうかと流輝には思えた。
 その場合自分は何のためにここへ来たのだろうと考えてしまう。光の魔力を持っていなくともやはりノアが言うように流輝も救世主として呼ばれたのだろうか。それとも他に役割があるのだろうか。もしくは他に何らかの意味があるのだろうか。まさかたまたま一緒だったから?
 ただそれらは考えても答えがあるわけではないので、結局考えないようにした。とはいえそれでは自分の目標というか目的というか、したいことが定まりにくい。元の世界でなら周りもそんな感じだっただろうし今の時点でやりたいことが見つからなくとも何とも思わなかったかもしれない。だがこの世界にいると流輝の周りにいる人たちがあまりに皆、自分のやりたいことを見つけてそれに向かって進んでいる気がして、これでは駄目だと流輝に思わせてきた。

 魔術、か……。

 今のところ、屋敷ではキャスやフランから剣や馬術といった騎士に関することを教えてもらっていた。魔法に関することを勉強するなら、もしかしたら誰か魔術師を紹介してもらって教えてもらうのが手っ取り早いかもしれない。一応学園でも今のところ基礎知識程度は習っている。ただこの間絡んできたディルアン派の生徒のように、選択科目をまだ受けていなくともすでに魔法を弱くとも普通に使える者がいることを思えば、おそらく貴族などは家庭教師や魔術師によって入学する前から学んでいるのかもしれない。

 モリスに誰かいないか聞いて、いそうなら紹介してもらえないか頼んでみようかな……。

 それを琉生に言ってみると嬉しそうに「うん、いいと思う」と頷いてくれた。早速その日の夕食後に皆で寛いでいる時、流輝はモリスに「俺に魔術の勉強を教えてくれる誰か、紹介してもらうことってできる?」と聞いてみた。

「もちろんだよ。そうだね、リキがその気になったのなら私としてもかなり力のある魔術師を連れてこなくてはね」

 モリスはむしろ乗り気で、次の休日に早速魔術師を連れてきてくれた。

「って、俺、あなたを知ってるけど!」
「ふふ。お久しぶりですねえ、リキ様」

 ニッコリと微笑んでくるのは以前、通信魔法を使ったことにより重体となった琉生を助けてくれたソリアという人だった。
 あの時は流輝も切羽詰まっていたのもありちゃんとソリアを見ていなかったが、改めて見てもやはり綺麗な人だなと思う。それにどこか儚げで、知らなければ優秀な魔術師だとは思わない。あの時はフランと似た髪型だなと何となく思っていたが、ちゃんと見ていなかったからか髪が伸びたからか、今見ると別に似ていなかった。

「あ、あの……よろしくお願いします」

 というか女性に教えてもらうのは緊張しそうだ。などと人には言えないけれども、緊張しそうだ。

「あの、さ。せっかくソリアさん来てくれたのにあれだけど……教えてもらうなら気兼ねなく模擬戦闘とかできるような人のほうがいいんじゃ……?」

 ソリアに頭を下げてから、流輝はおずおずとモリスを見た。するとモリスは何故か楽しそうに笑ってくる。

「大丈夫。ソリアはニューラウラ王国一、強い魔術師だよ。安心して教えてもらい、魔法を仕掛けるといい」
「で、でも」
「もしやリキ様は私が気に食わないとか信用できない、とかなのでしょうか。そうだとしたら悲しいですねえ」

 儚げな美人が悲しそうに手で目元を覆っている。

「ち、違うよ! 違う、けどでも」
「でも? ではもしかして私が儚げで華奢な美人だから弱いと思われてます?」

 自分で言っちゃうんだそれ!

「そ、そうじゃなく、て……」
「あらあら、弱いと思われるのだけは心外ですねえ。よろしいでしょう。では中庭へ行きましょう。そして今あなたが使える魔法を私に向かって仕掛けてください」
「だ、駄目だよ。だって俺、ちゃんと習ってないから暴走するかも、だし、そもそもちゃんと習いたいから魔術師に……」
「ええ、ですので私が来ました。私を弱いと思ってないというのなら、遠慮なく仕掛けてください」

 ニコニコと言い放つと、ソリアは流輝の腕をつかんで歩かせてくる。実際華奢そうな体からは想像もつかなかったが案外力もある。

「ほ、本当に大丈夫?」
「ええ、もちろん。私はニューラウラで一番の実力者ですからね。安心して仕掛けてください」

 また自分で言っちゃうんだ。

 少しおかしく思いつつ、流輝はモリスに手を振ってから部屋を出てソリアと中庭へ向かった。
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