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1章 幼少編 異世界召喚
15話
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キャスが今の流輝たちと同じ十二歳の頃はまだ騎士になろうとさえ思っておらず、ただ伯爵家子息として学校へ行くまで毎日のらりくらりと過ごしていたのだという。
学校だが、この世界では十三歳から王都にある学園へ行くことになっているようだ。この国でのそれなりの学校はその王都の学園一つだけのため、近い者は通い遠くからやって来る者は寮に入るのだという。
だいたい十三から十五歳の間に一般教養を学び、十六歳からは選択科目に分かれる。そして十八歳で卒業する。ちなみに一般教養の時は覚える知識そのものが異なるため貴族と平民は分かれているが、選択科目ではむしろ貴族と平民の区別はない。
それらは以前ローザリアから聞いた。その時は「もうすぐエリスが学校へ通うことになるの。寂しい」などと言っていて、その流れで教えてくれていた。それを聞いた時、こっちの世界では十三歳までは遊んで暮らせるのかと他人事のように少し羨ましく思いつつも元の世界での学校生活や友だちが懐かしくなり、最近はずいぶん明るくなれたはずが久しぶりにこっそり落ち込みかけた。
キャスも当時、特に何をするでもなく毎日を過ごしていたらしい。一応父親や家庭教師などからは伯爵としてのあり方や仕事などの知識は学んではいたものの、やりたいこともなく漠然と将来は領地を守るくらいしか考えていなかったようだ。元の世界から来た流輝からすれば十二歳で将来を真剣に考えている子どものほうが少ないと思うのだが、こちらの世界ではまだ学生であっても十六歳で成人するらしいのでまた違うのだろう。
そんなある日、キャスは二つ年下の妹と出かけていた時に馬車を盗賊に襲われたのだという。
御者も従者も殺され、妹はさらわれた。運よく馬車が倒れた時に外から見えないところに挟まってしまい少々の怪我だけで助かったものの、妹をとてもかわいがっていたキャスは何とか馬車から抜け出すと無我夢中で後を追いかけた。しかし見つけた時にはもう遅かった。何とか逃げようとした挙句、妹は殺された後だった。そして盗賊を前にキャスは怒りよりも恐怖が上回り、足は一切動かなくなり立ち尽くすしかできなかった。このまま売られるか殺されるかといった時、駆けつけた騎士たちに助けられたのだとキャスは淡々と語ってきた。
「その経験があって、俺は自分の弱さや情けなさを自覚し、強くなりたいと思い、騎士を志望しました」
きっとそれは心からの気持ちだったのだろうと流輝は思った。キャスから直接聞いたのではないが、他の騎士からキャスが相当な剣の腕前なのだと聞いている。怖くてただ立ち尽くすだけだった様子など想像もつかないくらい、先ほど流輝を盗賊から助けてくれた時も強かった。途中から意識を失ってしまったし、キャスいわく冷静さを欠いていたらしく確かに様子がおかしかったが、それでも強かった。
「いえ、俺は本当に弱かった。あなたとは違います」
「俺? 俺こそ弱いよ……結局今回だって皆に迷惑しかかけてねえもん……」
琉生がいないと焦って飛び出した挙句、盗賊に捕まった。これでは元の世界で親が見ていた映画のすぐ捕まる系うっかりヒロインと同じではないかと今さらながらに微妙になる。情けないというのなら自分のほうが情けないと流輝は思う。
「とんでもございません。それに……兄弟を思い、焦って何も考えられず飛び出してしまうリキ様に、俺はつい自分を重ねてしまっていたようです。挙句、盗賊を見て妹を思い出しカッとなってしまった。俺は常に冷静に対応し、あなたを守らないといけないのに。本当に改めて、申し訳ありません」
「……ねえ、キャス何か悪いもんでも食べたの? それとも盗賊と戦った時に頭、打っちゃったのか……? 医務室行ったほうがよくねえ……?」
いつものキャスなら「俺も悪いですがリキ様もいい加減にしてくださいよ」くらい言いそうなものだ。キャスらしくなさすぎて流輝は少々引き気味にキャスを見た。やはり魔族が乗り移ってないだろうかとまた思う。
「ふは。食べてませんよ。あー……、リキ様にね、俺は自分を重ねましたが、俺とあなたが違うのは、あなたには迷いなく立ち向かえる強さがある。そこが全然違います」
「ねえよ……?」
そんな強さあったら盗賊など自分でどうにかできただろうし、そもそも琉生がいないからと焦って飛び出したりしていない気がする。というか元の世界へ戻れないからと引きこもったり、大事なはずの琉生が自分より少し大人に見えてモヤついたり、女の子を泣かせたりなんてしないはずだ。
「いえ。俺は恐怖で足が動かなかった。あなたのように守る相手のために立ち向かうなんてできなかった。やはりあなたは救世主の一人だ」
「は?」
「……そんなリキ様に対して、俺はこんなことのために強い騎士を目指したんじゃないなどと、子どもであるあなたに仕えることに抵抗さえ感じていました……今でも俺は情けないし弱い。騎士道を掲げることすら恥ずかしい」
「え、ちょ、何……」
何を言っているのかと言いかけた時、フランが小さくノックしてから部屋に入ってきた。いつも無表情ではあるが、今は少々厳しい顔をしている。そしてキャスを見た後に眠っている琉生に気づき「キャス、来い」とだけ言うと部屋の外へ出ていった。
学校だが、この世界では十三歳から王都にある学園へ行くことになっているようだ。この国でのそれなりの学校はその王都の学園一つだけのため、近い者は通い遠くからやって来る者は寮に入るのだという。
だいたい十三から十五歳の間に一般教養を学び、十六歳からは選択科目に分かれる。そして十八歳で卒業する。ちなみに一般教養の時は覚える知識そのものが異なるため貴族と平民は分かれているが、選択科目ではむしろ貴族と平民の区別はない。
それらは以前ローザリアから聞いた。その時は「もうすぐエリスが学校へ通うことになるの。寂しい」などと言っていて、その流れで教えてくれていた。それを聞いた時、こっちの世界では十三歳までは遊んで暮らせるのかと他人事のように少し羨ましく思いつつも元の世界での学校生活や友だちが懐かしくなり、最近はずいぶん明るくなれたはずが久しぶりにこっそり落ち込みかけた。
キャスも当時、特に何をするでもなく毎日を過ごしていたらしい。一応父親や家庭教師などからは伯爵としてのあり方や仕事などの知識は学んではいたものの、やりたいこともなく漠然と将来は領地を守るくらいしか考えていなかったようだ。元の世界から来た流輝からすれば十二歳で将来を真剣に考えている子どものほうが少ないと思うのだが、こちらの世界ではまだ学生であっても十六歳で成人するらしいのでまた違うのだろう。
そんなある日、キャスは二つ年下の妹と出かけていた時に馬車を盗賊に襲われたのだという。
御者も従者も殺され、妹はさらわれた。運よく馬車が倒れた時に外から見えないところに挟まってしまい少々の怪我だけで助かったものの、妹をとてもかわいがっていたキャスは何とか馬車から抜け出すと無我夢中で後を追いかけた。しかし見つけた時にはもう遅かった。何とか逃げようとした挙句、妹は殺された後だった。そして盗賊を前にキャスは怒りよりも恐怖が上回り、足は一切動かなくなり立ち尽くすしかできなかった。このまま売られるか殺されるかといった時、駆けつけた騎士たちに助けられたのだとキャスは淡々と語ってきた。
「その経験があって、俺は自分の弱さや情けなさを自覚し、強くなりたいと思い、騎士を志望しました」
きっとそれは心からの気持ちだったのだろうと流輝は思った。キャスから直接聞いたのではないが、他の騎士からキャスが相当な剣の腕前なのだと聞いている。怖くてただ立ち尽くすだけだった様子など想像もつかないくらい、先ほど流輝を盗賊から助けてくれた時も強かった。途中から意識を失ってしまったし、キャスいわく冷静さを欠いていたらしく確かに様子がおかしかったが、それでも強かった。
「いえ、俺は本当に弱かった。あなたとは違います」
「俺? 俺こそ弱いよ……結局今回だって皆に迷惑しかかけてねえもん……」
琉生がいないと焦って飛び出した挙句、盗賊に捕まった。これでは元の世界で親が見ていた映画のすぐ捕まる系うっかりヒロインと同じではないかと今さらながらに微妙になる。情けないというのなら自分のほうが情けないと流輝は思う。
「とんでもございません。それに……兄弟を思い、焦って何も考えられず飛び出してしまうリキ様に、俺はつい自分を重ねてしまっていたようです。挙句、盗賊を見て妹を思い出しカッとなってしまった。俺は常に冷静に対応し、あなたを守らないといけないのに。本当に改めて、申し訳ありません」
「……ねえ、キャス何か悪いもんでも食べたの? それとも盗賊と戦った時に頭、打っちゃったのか……? 医務室行ったほうがよくねえ……?」
いつものキャスなら「俺も悪いですがリキ様もいい加減にしてくださいよ」くらい言いそうなものだ。キャスらしくなさすぎて流輝は少々引き気味にキャスを見た。やはり魔族が乗り移ってないだろうかとまた思う。
「ふは。食べてませんよ。あー……、リキ様にね、俺は自分を重ねましたが、俺とあなたが違うのは、あなたには迷いなく立ち向かえる強さがある。そこが全然違います」
「ねえよ……?」
そんな強さあったら盗賊など自分でどうにかできただろうし、そもそも琉生がいないからと焦って飛び出したりしていない気がする。というか元の世界へ戻れないからと引きこもったり、大事なはずの琉生が自分より少し大人に見えてモヤついたり、女の子を泣かせたりなんてしないはずだ。
「いえ。俺は恐怖で足が動かなかった。あなたのように守る相手のために立ち向かうなんてできなかった。やはりあなたは救世主の一人だ」
「は?」
「……そんなリキ様に対して、俺はこんなことのために強い騎士を目指したんじゃないなどと、子どもであるあなたに仕えることに抵抗さえ感じていました……今でも俺は情けないし弱い。騎士道を掲げることすら恥ずかしい」
「え、ちょ、何……」
何を言っているのかと言いかけた時、フランが小さくノックしてから部屋に入ってきた。いつも無表情ではあるが、今は少々厳しい顔をしている。そしてキャスを見た後に眠っている琉生に気づき「キャス、来い」とだけ言うと部屋の外へ出ていった。
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