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13話
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休み時間に佐紅は机に突っ伏した。ここ一週間ほど、真尋と話していない。数日はベランダへの鍵をかけるよう意識していたしこの教室でも佐紅は真尋を避けていた。
そうでもしないと、と突っ伏したまま目を瞑った。
だって互いにもよくない。
そもそも中学から始めたあの関係がよくないことだった。こうして避けるのは間違っていない。佐紅は自分に言い聞かせた。それでもどこか心許無い。
「俺、彼女作ろうかなぁ……」
机に相変わらず突っ伏したまま小さく呟いた。彼女ができれば気も紛れる気がする。そんな理由で付き合うなど付き合わされる方もたまったものではないだろうが「好きじゃなくてもいいから付き合ってみて」と言われたこともあるので、それでもいいと思ってくれそうな人もいるかもしれない。
小さな声で呟いたはずなのだが周りには聞こえていたようで「気軽にそんなこと言える時点で羨ましい」などとよくわからないことを言われ騒ぎ立てられた。それに乗る気も突き放す気にもなれないので佐紅がひたすら突っ伏していると、離れたところで聞いていたらしい雄大が近づいてきた。
「楽しそうでなによりだけど、あの、さ。ちょっと、いいか。話あんだけど」
佐紅は覇気のないまま机から少しだけ顔を上げる。
「俺が楽しそうに見えたならお前の目は節穴だ。で、なに」
「あー、っと……ここじゃなんだから……放課後、時間くれ」
今言えない話なのか、と佐紅が怪訝な顔で雄大を見れば、なんとなく言い辛いといった表情をしている。なんの話か全く想像がつかないまま佐紅が首を傾げると、雄大は複雑そうに顔を伏せた。
午後の授業中時折考えてみたが、やはりなんの話かわからない。ふと、真尋が雄大を連れ出したり、佐紅に対して隠しているような様子を見せていた雄大のことが浮かんだが、だからといって雄大が佐紅に言いたい内容と結びつかない。あと二人が何をこそこそしているのかは気になっていたが、だからといってあの二人の仲を疑うほどずれてもいない。雄大が真尋をそういう意味で好きになるという流れがまず想像がつかない。
口ばかりで実際経験は無さそうとはいえ、雄大には今付き合っている彼女がいる。もし彼女がいなかったとしてもどうみても女好きという感じの雄大とあの真尋という組み合わせは、真尋のことが好きな佐紅であっても微妙になる。
それに真尋が雄大を好きになるはずがなかった。
「俺は好きだよ。さくが好き……。……さくだけが好きだから、他の誰かのものになんかしたくない」
真尋の言葉を思い出す度に心臓が千切れそうになる。だが千切れたくないから、佐紅は考えないようにしているし真尋を避ける。
今も慌てて違うことを思い浮かべることにした。雄大の話は放課後になれば、わかる。
「で? 話ってなんだよ」
放課後、一緒に空き教室へ向かった佐紅は入るなり聞いた。雄大は「早速かよ」と言った表情をした後にそばにあった机の上に座った。
「あー……なんつーか、すげー言いにくいんだけどな」
「なに」
「俺、瀬名とお前の関係知ってるんだよ、な。正直、聞きたくはなかったけどあいつからこの前聞いてさ」
雄大が額を押さえながら言ってきた。真尋の名字を聞いて一瞬不整脈が出そうな気分になったが、なにが言いたいのかはわからなくて佐紅は首を傾げた。
「関係?」
「だからさ、その……」
雄大はさらに言い辛そうに口ごもってきた。その様子が雄大らしくなくて佐紅はますます怪訝な顔をする。
「あー、だからつまりな、アレ! アレだよ……セフレ的な」
せふれ?
ポカンとした後で、その言葉の響きが意味するものがじわじわと形成してきた。頭の中が真っ白になる。もしかしたら、少しだけ佐紅は固まっていたかもしれない。だがハッとなる。
セフレ。
真尋と雄大の二人がなんの話をしていたのかと思えば、と佐紅は血の気が引いていくのがわかった。
「してない」
ボソリと呟くと、雄大が「は?」と聞き返してきた。
「してないっつってんだよ」
「え」
「俺、抜き合ってるけど、突っ込んでも突っ込まれてもないからなっ! セフレなんかじゃねぇし……っ!」
「わーっ! っちょ、お、落ち着け! つか、そんな情報いらねぇから……っ!」
思わずもの凄い勢いと剣幕で佐紅が雄大につかみかからんとすると、とてつもなく焦り、引いたように宥められた。我に返った佐紅は、とりあえず穴があったら入りたい勢いだった。無言で顔を覆うと雄大が肩に優しくポンと手を置いてくる。
「くそ、相良死ね」
「なんで俺が死なにゃならんの……! 普通の耐性も微妙な俺に、むしろ聞きたくなかったことあいつに言われて、ある意味俺被害者……!」
顔を覆ったまま悪態をつくと、もっともな言い分が返ってきた。
「わかってるよ、悪かったな童貞」
「え、ほんとなに? 俺なんで傷つけられなきゃなの?」
「……ゆとりないから、俺とりあえず今日は帰っていいか……」
このままだと佐紅はひたすら雄大に八つ当たりしそうでしかない。
「あー……うん。まぁ、わりーな。ただ瀬名から聞かされてしまったにしても、一応お前にも言っておきたくてよ。瀬名に相談受けてて、俺がその、まあ知ってるっての」
「してねーけどな……!」
「聞きたくねえってば! でもまぁその、あいつ言葉足らずだろ? てっきりまぁ、その、ヤってるって思ってたわ……」
雄大の微妙そうな声が聞こえてくる。いい加減顔を覆う手を離すべきかもしれないが、まだできそうになかった。
「あまり深いとこはほんと聞きたくねーけどな、でもお前も悩んだりとかすんなら、まぁ俺になら言えるぞっつーか……」
言いかけたところで雄大は言葉を一旦切ってきた。
「……別に悩んでない」
「……余計なお世話ってわかっててあえて言うけどさ、お前って瀬名のこと……」
「頼む、ほんと俺、ゆとりない」
「あ、だったな。わり。……でもなんか」
「俺とまひろは男同士なんだ。どう考えてもおかしいし無理あんだろ……」
なんとか絞り出した言葉に、雄大がまた言葉を切った後にため息を吐いてきた。
「男同士は確かに俺も無理だけどさ。でも好きだってもし思ってんならその気持ち蓋してでもなかったことにするべきなんか? それって余計辛くないか? そりゃ俺は当事者じゃねーしマジ余計なお世話だろけどさ。……あー……つかゆとりないっつってんのにしつけーな、俺も。あれだ、お前ちょっとここで落ち着いてけよ。俺が先に出てくわ、な?」
「……色々、悪い。あと、ありがとうな……」
「いやぁ。んじゃな、お疲れ!」
提案してきた通り、雄大が教室から出ていく音が聞こえた。それでもしばらくは顔を覆ったまま、佐紅は盛大にため息を吐いた。
そうでもしないと、と突っ伏したまま目を瞑った。
だって互いにもよくない。
そもそも中学から始めたあの関係がよくないことだった。こうして避けるのは間違っていない。佐紅は自分に言い聞かせた。それでもどこか心許無い。
「俺、彼女作ろうかなぁ……」
机に相変わらず突っ伏したまま小さく呟いた。彼女ができれば気も紛れる気がする。そんな理由で付き合うなど付き合わされる方もたまったものではないだろうが「好きじゃなくてもいいから付き合ってみて」と言われたこともあるので、それでもいいと思ってくれそうな人もいるかもしれない。
小さな声で呟いたはずなのだが周りには聞こえていたようで「気軽にそんなこと言える時点で羨ましい」などとよくわからないことを言われ騒ぎ立てられた。それに乗る気も突き放す気にもなれないので佐紅がひたすら突っ伏していると、離れたところで聞いていたらしい雄大が近づいてきた。
「楽しそうでなによりだけど、あの、さ。ちょっと、いいか。話あんだけど」
佐紅は覇気のないまま机から少しだけ顔を上げる。
「俺が楽しそうに見えたならお前の目は節穴だ。で、なに」
「あー、っと……ここじゃなんだから……放課後、時間くれ」
今言えない話なのか、と佐紅が怪訝な顔で雄大を見れば、なんとなく言い辛いといった表情をしている。なんの話か全く想像がつかないまま佐紅が首を傾げると、雄大は複雑そうに顔を伏せた。
午後の授業中時折考えてみたが、やはりなんの話かわからない。ふと、真尋が雄大を連れ出したり、佐紅に対して隠しているような様子を見せていた雄大のことが浮かんだが、だからといって雄大が佐紅に言いたい内容と結びつかない。あと二人が何をこそこそしているのかは気になっていたが、だからといってあの二人の仲を疑うほどずれてもいない。雄大が真尋をそういう意味で好きになるという流れがまず想像がつかない。
口ばかりで実際経験は無さそうとはいえ、雄大には今付き合っている彼女がいる。もし彼女がいなかったとしてもどうみても女好きという感じの雄大とあの真尋という組み合わせは、真尋のことが好きな佐紅であっても微妙になる。
それに真尋が雄大を好きになるはずがなかった。
「俺は好きだよ。さくが好き……。……さくだけが好きだから、他の誰かのものになんかしたくない」
真尋の言葉を思い出す度に心臓が千切れそうになる。だが千切れたくないから、佐紅は考えないようにしているし真尋を避ける。
今も慌てて違うことを思い浮かべることにした。雄大の話は放課後になれば、わかる。
「で? 話ってなんだよ」
放課後、一緒に空き教室へ向かった佐紅は入るなり聞いた。雄大は「早速かよ」と言った表情をした後にそばにあった机の上に座った。
「あー……なんつーか、すげー言いにくいんだけどな」
「なに」
「俺、瀬名とお前の関係知ってるんだよ、な。正直、聞きたくはなかったけどあいつからこの前聞いてさ」
雄大が額を押さえながら言ってきた。真尋の名字を聞いて一瞬不整脈が出そうな気分になったが、なにが言いたいのかはわからなくて佐紅は首を傾げた。
「関係?」
「だからさ、その……」
雄大はさらに言い辛そうに口ごもってきた。その様子が雄大らしくなくて佐紅はますます怪訝な顔をする。
「あー、だからつまりな、アレ! アレだよ……セフレ的な」
せふれ?
ポカンとした後で、その言葉の響きが意味するものがじわじわと形成してきた。頭の中が真っ白になる。もしかしたら、少しだけ佐紅は固まっていたかもしれない。だがハッとなる。
セフレ。
真尋と雄大の二人がなんの話をしていたのかと思えば、と佐紅は血の気が引いていくのがわかった。
「してない」
ボソリと呟くと、雄大が「は?」と聞き返してきた。
「してないっつってんだよ」
「え」
「俺、抜き合ってるけど、突っ込んでも突っ込まれてもないからなっ! セフレなんかじゃねぇし……っ!」
「わーっ! っちょ、お、落ち着け! つか、そんな情報いらねぇから……っ!」
思わずもの凄い勢いと剣幕で佐紅が雄大につかみかからんとすると、とてつもなく焦り、引いたように宥められた。我に返った佐紅は、とりあえず穴があったら入りたい勢いだった。無言で顔を覆うと雄大が肩に優しくポンと手を置いてくる。
「くそ、相良死ね」
「なんで俺が死なにゃならんの……! 普通の耐性も微妙な俺に、むしろ聞きたくなかったことあいつに言われて、ある意味俺被害者……!」
顔を覆ったまま悪態をつくと、もっともな言い分が返ってきた。
「わかってるよ、悪かったな童貞」
「え、ほんとなに? 俺なんで傷つけられなきゃなの?」
「……ゆとりないから、俺とりあえず今日は帰っていいか……」
このままだと佐紅はひたすら雄大に八つ当たりしそうでしかない。
「あー……うん。まぁ、わりーな。ただ瀬名から聞かされてしまったにしても、一応お前にも言っておきたくてよ。瀬名に相談受けてて、俺がその、まあ知ってるっての」
「してねーけどな……!」
「聞きたくねえってば! でもまぁその、あいつ言葉足らずだろ? てっきりまぁ、その、ヤってるって思ってたわ……」
雄大の微妙そうな声が聞こえてくる。いい加減顔を覆う手を離すべきかもしれないが、まだできそうになかった。
「あまり深いとこはほんと聞きたくねーけどな、でもお前も悩んだりとかすんなら、まぁ俺になら言えるぞっつーか……」
言いかけたところで雄大は言葉を一旦切ってきた。
「……別に悩んでない」
「……余計なお世話ってわかっててあえて言うけどさ、お前って瀬名のこと……」
「頼む、ほんと俺、ゆとりない」
「あ、だったな。わり。……でもなんか」
「俺とまひろは男同士なんだ。どう考えてもおかしいし無理あんだろ……」
なんとか絞り出した言葉に、雄大がまた言葉を切った後にため息を吐いてきた。
「男同士は確かに俺も無理だけどさ。でも好きだってもし思ってんならその気持ち蓋してでもなかったことにするべきなんか? それって余計辛くないか? そりゃ俺は当事者じゃねーしマジ余計なお世話だろけどさ。……あー……つかゆとりないっつってんのにしつけーな、俺も。あれだ、お前ちょっとここで落ち着いてけよ。俺が先に出てくわ、な?」
「……色々、悪い。あと、ありがとうな……」
「いやぁ。んじゃな、お疲れ!」
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