ポゼッション

Guidepost

文字の大きさ
上 下
13 / 20

13話

しおりを挟む
 休み時間に佐紅は机に突っ伏した。ここ一週間ほど、真尋と話していない。数日はベランダへの鍵をかけるよう意識していたしこの教室でも佐紅は真尋を避けていた。
 そうでもしないと、と突っ伏したまま目を瞑った。

 だって互いにもよくない。

 そもそも中学から始めたあの関係がよくないことだった。こうして避けるのは間違っていない。佐紅は自分に言い聞かせた。それでもどこか心許無い。

「俺、彼女作ろうかなぁ……」

 机に相変わらず突っ伏したまま小さく呟いた。彼女ができれば気も紛れる気がする。そんな理由で付き合うなど付き合わされる方もたまったものではないだろうが「好きじゃなくてもいいから付き合ってみて」と言われたこともあるので、それでもいいと思ってくれそうな人もいるかもしれない。
 小さな声で呟いたはずなのだが周りには聞こえていたようで「気軽にそんなこと言える時点で羨ましい」などとよくわからないことを言われ騒ぎ立てられた。それに乗る気も突き放す気にもなれないので佐紅がひたすら突っ伏していると、離れたところで聞いていたらしい雄大が近づいてきた。

「楽しそうでなによりだけど、あの、さ。ちょっと、いいか。話あんだけど」

 佐紅は覇気のないまま机から少しだけ顔を上げる。

「俺が楽しそうに見えたならお前の目は節穴だ。で、なに」
「あー、っと……ここじゃなんだから……放課後、時間くれ」

 今言えない話なのか、と佐紅が怪訝な顔で雄大を見れば、なんとなく言い辛いといった表情をしている。なんの話か全く想像がつかないまま佐紅が首を傾げると、雄大は複雑そうに顔を伏せた。
 午後の授業中時折考えてみたが、やはりなんの話かわからない。ふと、真尋が雄大を連れ出したり、佐紅に対して隠しているような様子を見せていた雄大のことが浮かんだが、だからといって雄大が佐紅に言いたい内容と結びつかない。あと二人が何をこそこそしているのかは気になっていたが、だからといってあの二人の仲を疑うほどずれてもいない。雄大が真尋をそういう意味で好きになるという流れがまず想像がつかない。
 口ばかりで実際経験は無さそうとはいえ、雄大には今付き合っている彼女がいる。もし彼女がいなかったとしてもどうみても女好きという感じの雄大とあの真尋という組み合わせは、真尋のことが好きな佐紅であっても微妙になる。
 それに真尋が雄大を好きになるはずがなかった。

「俺は好きだよ。さくが好き……。……さくだけが好きだから、他の誰かのものになんかしたくない」

 真尋の言葉を思い出す度に心臓が千切れそうになる。だが千切れたくないから、佐紅は考えないようにしているし真尋を避ける。
 今も慌てて違うことを思い浮かべることにした。雄大の話は放課後になれば、わかる。

「で? 話ってなんだよ」

 放課後、一緒に空き教室へ向かった佐紅は入るなり聞いた。雄大は「早速かよ」と言った表情をした後にそばにあった机の上に座った。

「あー……なんつーか、すげー言いにくいんだけどな」
「なに」
「俺、瀬名とお前の関係知ってるんだよ、な。正直、聞きたくはなかったけどあいつからこの前聞いてさ」

 雄大が額を押さえながら言ってきた。真尋の名字を聞いて一瞬不整脈が出そうな気分になったが、なにが言いたいのかはわからなくて佐紅は首を傾げた。

「関係?」
「だからさ、その……」

 雄大はさらに言い辛そうに口ごもってきた。その様子が雄大らしくなくて佐紅はますます怪訝な顔をする。

「あー、だからつまりな、アレ! アレだよ……セフレ的な」

 せふれ?

 ポカンとした後で、その言葉の響きが意味するものがじわじわと形成してきた。頭の中が真っ白になる。もしかしたら、少しだけ佐紅は固まっていたかもしれない。だがハッとなる。

 セフレ。

 真尋と雄大の二人がなんの話をしていたのかと思えば、と佐紅は血の気が引いていくのがわかった。

「してない」

 ボソリと呟くと、雄大が「は?」と聞き返してきた。

「してないっつってんだよ」
「え」
「俺、抜き合ってるけど、突っ込んでも突っ込まれてもないからなっ! セフレなんかじゃねぇし……っ!」
「わーっ! っちょ、お、落ち着け! つか、そんな情報いらねぇから……っ!」

 思わずもの凄い勢いと剣幕で佐紅が雄大につかみかからんとすると、とてつもなく焦り、引いたように宥められた。我に返った佐紅は、とりあえず穴があったら入りたい勢いだった。無言で顔を覆うと雄大が肩に優しくポンと手を置いてくる。

「くそ、相良死ね」
「なんで俺が死なにゃならんの……! 普通の耐性も微妙な俺に、むしろ聞きたくなかったことあいつに言われて、ある意味俺被害者……!」

 顔を覆ったまま悪態をつくと、もっともな言い分が返ってきた。

「わかってるよ、悪かったな童貞」
「え、ほんとなに? 俺なんで傷つけられなきゃなの?」
「……ゆとりないから、俺とりあえず今日は帰っていいか……」

 このままだと佐紅はひたすら雄大に八つ当たりしそうでしかない。

「あー……うん。まぁ、わりーな。ただ瀬名から聞かされてしまったにしても、一応お前にも言っておきたくてよ。瀬名に相談受けてて、俺がその、まあ知ってるっての」
「してねーけどな……!」
「聞きたくねえってば! でもまぁその、あいつ言葉足らずだろ? てっきりまぁ、その、ヤってるって思ってたわ……」

 雄大の微妙そうな声が聞こえてくる。いい加減顔を覆う手を離すべきかもしれないが、まだできそうになかった。

「あまり深いとこはほんと聞きたくねーけどな、でもお前も悩んだりとかすんなら、まぁ俺になら言えるぞっつーか……」

 言いかけたところで雄大は言葉を一旦切ってきた。

「……別に悩んでない」
「……余計なお世話ってわかっててあえて言うけどさ、お前って瀬名のこと……」
「頼む、ほんと俺、ゆとりない」
「あ、だったな。わり。……でもなんか」
「俺とまひろは男同士なんだ。どう考えてもおかしいし無理あんだろ……」

 なんとか絞り出した言葉に、雄大がまた言葉を切った後にため息を吐いてきた。

「男同士は確かに俺も無理だけどさ。でも好きだってもし思ってんならその気持ち蓋してでもなかったことにするべきなんか? それって余計辛くないか? そりゃ俺は当事者じゃねーしマジ余計なお世話だろけどさ。……あー……つかゆとりないっつってんのにしつけーな、俺も。あれだ、お前ちょっとここで落ち着いてけよ。俺が先に出てくわ、な?」
「……色々、悪い。あと、ありがとうな……」
「いやぁ。んじゃな、お疲れ!」

 提案してきた通り、雄大が教室から出ていく音が聞こえた。それでもしばらくは顔を覆ったまま、佐紅は盛大にため息を吐いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

勇者よ、わしの尻より魔王を倒せ………「魔王なんかより陛下の尻だ!」

ミクリ21
BL
変態勇者に陛下は困ります。

幼馴染と一緒に異世界に召喚されたら全裸でした

krm
BL
突然異世界に召喚されてしまった、平凡な高校生の太一。でも幼馴染の陽平も一緒だったから一安心!……全裸だけどね! ※ほのぼの異世界召喚BLを書こうと思ったのに、なぜか全裸で召喚されてしまったのでR18設定になりました。おかしいな……。ということで、召喚時点で二人は高校三年生(18歳)です。 異世界で夫婦になったりママになったりエッチな魔法薬を飲まされたりします。中盤あたりからエロ多めですが、基本的にほのぼのです。 ムーンライトノベルズにも掲載しています。

国で一番醜い子は竜神の雛でした。僕は幸せになれますか?

竜鳴躍
BL
~本当は美しい竜神の子と亡国の王子の物語~行商人のお兄さん×成人したての竜神。 ダスティは孤児である。鱗のようなものが全身にあり、醜いので引き取り手もなく、教会で下働きをしていた。唯一可愛がってくれた行商人のグランド様をひそかに慕っている。ある日、やっと引き取られた先は見世物小屋で―――――。その時、グランド様が助けに来てくれた。傷を負っても助けてくれた彼を守りたくて、僕は羽化する。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

処理中です...