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神話の時代の話

神話 5

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その日の夜、ヤーシュレイは誰も居なくなった教会の祭壇に佇む主神像に祈りを捧げていた。

『……どうか、この願いを聞き届けて下さい。お願いします。……何卒……何卒』

組んだ両手に必死の願いを込めるヤーシュレイ。

「汝の願いは聴き遂げた。条件を全て飲む訳にはいかぬし、願いも全て聴き遂げる事も叶わぬ。それは何かを明かす訳にもいかぬが、それでも構わぬなら、その願いを聴き遂げよう。」

虚空より主神の声が聞こえ、ヤーシュレイの願いの返答を届ける。

今迄、必死の祈りの為、頭を垂れ固く両眼を瞑っていたヤーシュレイは、ハッとした顔で主神像を見上げた。

主神像は変わらず、像のままの固い無表情でヤーシュレイを見下ろしていたが、纏うオーラは神託の時と同じく暖かいものであった。

「わかりました。条件の選別は、神様にお任せ致します。神様の御心のままに。」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


長い戦いと多くの犠牲の末、死皇帝は封印され、人類の勝利に終わった。

だが、最後の神となった主神は、アーシュリーへの力を与える代償として、その存在が消えてしまった。

最低限の主神なき世界は、支え無き硝子細工が空中から地面に落下するのと同様であり砕けて崩壊する。

つまり、次代の神を当然として必要であった。

故に、主神の力も兼ね備えたアーシュリーが神にならざるを得ないのである。

アーシュリーは主神との約束の為に、祭壇にある主神像に向かい、像に触れた。

すると像は瞬く間に形を変え、アーシュリーの姿へと変貌したのである。

それと同時にアーシュリーの身体が、ゆっくりとスゥっと透き通り始めた。

「……あ~ぁ、恋愛とは程遠い人生だったなぁ、次に実体化出来たら、恋愛の1つ位はしてみたいなぁ……」

ボソリと、この世での未練を口にし、少し寂しそうな表情で自分の形をした像を見上げる。

「……お姉様、次があれば、その願い、必ず成就して下さい」

涙を流し、ヤーシュレイは姉への別れの言葉を贈った。

その言葉に

「アリガトッ!」

と短い返答をし、はにかんだ笑みで妹を見る。

『我々はアーシュリー様を祖とし、必ずや復興を果たします』

生き延びた人々は、アーシュリーにかしづいた姿勢を取り誓願を立てた。

「……そろそろお別れね。それじゃあ、みんな!あとは任せたわよっ!」

やがて、アーシュリーは精一杯の笑顔を妹と民に見せ、光の粒子となって、天へ昇って行ったのであった。
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