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一時の平和な日常
ヤーシュレイ3
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しかし大男は暫く無言で嗤いながら一行を見つめていたが、クルリと背中を向け、ヤーシュレイの元へと歩いて行った。
「ねぇ?姉様?私が言った通りでしょ?姉様の英雄は大した事無いって。」
「……くっ」
キッとヤーシュレイを睨むが、結果が物を語っていた。
ヤーシュレイは暫くシンを無言で見ていたが、一行に背を向け歩き始めた。
「行きますわよ、皇牙」
「はっ。」
ヤーシュレイに一礼し、その後を追う様に、楼牙は歩いた。
去り際、もう一度チラリとシンを見て去った。
二人が去った後、アーシュリーは治療の聖法を施し始めた。
アーシュリーもサラも涙で顔がグシャグシャでありながらも、必死になって治療に専念する。
こうなっては、ドラゴン退治どころの話では無かった。
治療中、シンは苦し気に何度か呻き声をあげたが、やがて規則正しい寝息に変わった。
それを確認すると、三人は安堵の溜め息が一斉に漏れ、脱力感に襲われた。
「後は俺が警戒に入ります。お二方は休んで下さい。」
アーノルドンは、そう言うとアーシュリーとサラに睡眠を取る様にと促した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「皇牙、あの男の事、どう思う?」
ヤーシュレイは追従する楼牙に感想を尋ねてみた。
「……大した事はありません。……ただ……」
珍しく皇牙が追加の意見がある様でヤーシュレイは「ただ?」と再び尋ねる。
「はっ。奴は強くなるでしょう。必ず。」
抑揚の無い喋り方が皇牙の特徴ではあるが、「必ず」の所では、どこか歓喜の声色が含まれていた。
皇牙としては、シンとの初めての手合わせに最初の一撃で沈めるつもりであった。
しかし、シンは吹き飛ばされながらも意識があり、二度目の攻撃を防いだ。
流石に三度目の連撃には、シンは耐えられず沈んだが……。
だが、それでも三度も攻撃しなければならない相手であった。
皇牙は嬉しかったのだ。
一撃で倒れなかった相手が現れた事に。
『早く強くなれ。そして俺と再度手合わせしろ。』
まるで初恋の相手に想いを馳せる様な感情から、自然と皇牙の顔が綻んだ。
「嬉しそうね、皇牙。」
ヤーシュレイに言われて、
「はい。嬉しいですよ。こんな感情は貴女様以外に久しぶりです。」
「ちょっと妬けるわね。」
「……フッ、ただ貴女様へ向ける感情とは、似ても似つきませんが。」
少し焼きもちで、皇牙を横目で見るヤーシュレイに、皇牙は先程には無い優しい笑みを浮かべながら語った。
「それで、どうしましょうか。偶然とはいえ、お姉様に遭遇して警告はしましたが。」
ヤーシュレイは、やや困ったと言う表情で皇牙に話した。
「つまりは、アーシュリー様が申された『折角のデート』とやらに水をさした事に対しての事でございますか?」
「そうよ?私は元旦那様とは戦後にデートを重ね、結婚したのですが、お姉様は戦中でしたので、デートの方法も解らないのです。……まぁ、デートのプランが討伐のクエストとかは、壊滅的なデートプランですが。」
困惑な顔をして、姉の思考が解らないと嘆くヤーシュレイに皇牙は、
「しかし、アーシュリー様が必死で考え抜いたプランです。我々で少し手伝っては?今回の詫びを兼ねて。」
皇牙が意見を述べると、「そうですわね」と屈託の無い少女の様な笑みを浮かべて皇牙の意見に賛同した。
完全なる敗北。
シン達のささやかな日常は不穏な出来事で幕を下ろした。
「ねぇ?姉様?私が言った通りでしょ?姉様の英雄は大した事無いって。」
「……くっ」
キッとヤーシュレイを睨むが、結果が物を語っていた。
ヤーシュレイは暫くシンを無言で見ていたが、一行に背を向け歩き始めた。
「行きますわよ、皇牙」
「はっ。」
ヤーシュレイに一礼し、その後を追う様に、楼牙は歩いた。
去り際、もう一度チラリとシンを見て去った。
二人が去った後、アーシュリーは治療の聖法を施し始めた。
アーシュリーもサラも涙で顔がグシャグシャでありながらも、必死になって治療に専念する。
こうなっては、ドラゴン退治どころの話では無かった。
治療中、シンは苦し気に何度か呻き声をあげたが、やがて規則正しい寝息に変わった。
それを確認すると、三人は安堵の溜め息が一斉に漏れ、脱力感に襲われた。
「後は俺が警戒に入ります。お二方は休んで下さい。」
アーノルドンは、そう言うとアーシュリーとサラに睡眠を取る様にと促した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「皇牙、あの男の事、どう思う?」
ヤーシュレイは追従する楼牙に感想を尋ねてみた。
「……大した事はありません。……ただ……」
珍しく皇牙が追加の意見がある様でヤーシュレイは「ただ?」と再び尋ねる。
「はっ。奴は強くなるでしょう。必ず。」
抑揚の無い喋り方が皇牙の特徴ではあるが、「必ず」の所では、どこか歓喜の声色が含まれていた。
皇牙としては、シンとの初めての手合わせに最初の一撃で沈めるつもりであった。
しかし、シンは吹き飛ばされながらも意識があり、二度目の攻撃を防いだ。
流石に三度目の連撃には、シンは耐えられず沈んだが……。
だが、それでも三度も攻撃しなければならない相手であった。
皇牙は嬉しかったのだ。
一撃で倒れなかった相手が現れた事に。
『早く強くなれ。そして俺と再度手合わせしろ。』
まるで初恋の相手に想いを馳せる様な感情から、自然と皇牙の顔が綻んだ。
「嬉しそうね、皇牙。」
ヤーシュレイに言われて、
「はい。嬉しいですよ。こんな感情は貴女様以外に久しぶりです。」
「ちょっと妬けるわね。」
「……フッ、ただ貴女様へ向ける感情とは、似ても似つきませんが。」
少し焼きもちで、皇牙を横目で見るヤーシュレイに、皇牙は先程には無い優しい笑みを浮かべながら語った。
「それで、どうしましょうか。偶然とはいえ、お姉様に遭遇して警告はしましたが。」
ヤーシュレイは、やや困ったと言う表情で皇牙に話した。
「つまりは、アーシュリー様が申された『折角のデート』とやらに水をさした事に対しての事でございますか?」
「そうよ?私は元旦那様とは戦後にデートを重ね、結婚したのですが、お姉様は戦中でしたので、デートの方法も解らないのです。……まぁ、デートのプランが討伐のクエストとかは、壊滅的なデートプランですが。」
困惑な顔をして、姉の思考が解らないと嘆くヤーシュレイに皇牙は、
「しかし、アーシュリー様が必死で考え抜いたプランです。我々で少し手伝っては?今回の詫びを兼ねて。」
皇牙が意見を述べると、「そうですわね」と屈託の無い少女の様な笑みを浮かべて皇牙の意見に賛同した。
完全なる敗北。
シン達のささやかな日常は不穏な出来事で幕を下ろした。
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