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8杯目【中編】
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気が付くと、経営者の目の前には
古びた木の扉が浮かんでいた
周りは、白いもやで埋め尽くされている
(ああ、夢か)
非現実の空間だということはすぐに分かった
嫌な気配はない、むしろどこか懐かしさすら感じる
ぼうっとしていた経営者の前で
ぎいっと音を立てて扉が開かれた
カツンと靴の鳴る音が響く
「ようこそ、お待ちしておりました」
扉の向こうから現れたのは
演劇にでも出てきそうな白い燕尾服の男だ
鳥のくちばしのような形状をした
いわゆるペストマスクをつけているため顔は一切伺えない
ただ、声色からしておそらく笑っているような気がした
「実は少々反則だとは承知しておりますが…
それでもあなたとはお話してみたかったのです。
よかったら、私の喫茶店へと、ご招待させていただけませんか?」
舞台役者のように一礼したかと思うと
男は扉を大きく開けて、経営者を手招きした
扉の向こうには、一転して鮮やかなカフェバーのような光景が見える
(さっぱり流れはわからんが、どうせ夢やしな
ここは誘いに乗ってみるとするか)
『なんとなく喉も乾いた気がするし、
いい機会や。お招きに預かります』
男と経営者の視線がばちりとかみ合う。
見えない化学反応の火花が散る。
刹那、経営者は直感していた。
理屈などは一切わからない、ただ
(これは最初で最後の、出会いだ)
大きく頷いて、深く息を吸い込む
そして招かれるまま、経営者は扉をくぐった
「あのですね」
カウンター席につくなり、経営者は口を開いた
彼なりの覚悟だ
「これでも経営やってますから、話せない悩みも
ありますし、守るべき秘密なんて山ほどあります。
なのに、この機会に私の内情を話すべき、と
なぜか感じているんですよ。夢だから、というのも
ありますが、あなたにならと不思議と確信している」
初対面なのに自分でよくわからないんですが、と
経営者は首をひねって見せる
「あなたになら、私の温めてきた夢を
今進めるプロジェクトのことを、話せる
いえ、話したい」
彼は自分を信じていた
単なる感覚ではなく、今までの経験に裏付けされた
直観は時に思考を大きく上回る結果をもたらす
その直観が、このときを逃すなと強く彼に訴えかけるのだ
燕尾服の男は何も言わず、しばしの時が経つ
「まずは、お茶をいかがですか?
あなたにお出ししたいおすすめがありますから」
男はカウンターに入って、ペストマスクを
外したかと思うと、やわらかく微笑んだ
見覚えのある表情を前に経営者は驚き、目が見開いた
店の店主、執事と名乗った男の顔は
眠りに落ちる前、鏡で見た自分とあまりによく似ていた
カチャカチャという茶器の音とともに
目の前でお茶が用意されていくのを経営者は茫然と眺める
(夢とはいえ、自分の顔と出会うなんて
思わんかった…ドッペルゲンガーか?)
本当にドッペルゲンガーだとしたら死期が近いという通説だが…
さすがに夢の中でその原理は、通じないだろうと彼は思う
(そう、夢なんや…)
ぼうっとしていた頭が再び回り始める
「さて、お待たせいたしました。ロータスティーでございます」
経営者の目の前に置かれたガラスのティーポットの中で
踊るように蕾がほころんでいく
見た目からして美しいお茶だ
横に置かれたのは小さな砂時計
「砂が落ち切ったころが飲み頃です。
お茶を楽しみながら、お話いたしましょう」
執事の言葉に、経営者は小さく頷き落ちる砂を待った
時が来て、花が開くまであとわずかだ
古びた木の扉が浮かんでいた
周りは、白いもやで埋め尽くされている
(ああ、夢か)
非現実の空間だということはすぐに分かった
嫌な気配はない、むしろどこか懐かしさすら感じる
ぼうっとしていた経営者の前で
ぎいっと音を立てて扉が開かれた
カツンと靴の鳴る音が響く
「ようこそ、お待ちしておりました」
扉の向こうから現れたのは
演劇にでも出てきそうな白い燕尾服の男だ
鳥のくちばしのような形状をした
いわゆるペストマスクをつけているため顔は一切伺えない
ただ、声色からしておそらく笑っているような気がした
「実は少々反則だとは承知しておりますが…
それでもあなたとはお話してみたかったのです。
よかったら、私の喫茶店へと、ご招待させていただけませんか?」
舞台役者のように一礼したかと思うと
男は扉を大きく開けて、経営者を手招きした
扉の向こうには、一転して鮮やかなカフェバーのような光景が見える
(さっぱり流れはわからんが、どうせ夢やしな
ここは誘いに乗ってみるとするか)
『なんとなく喉も乾いた気がするし、
いい機会や。お招きに預かります』
男と経営者の視線がばちりとかみ合う。
見えない化学反応の火花が散る。
刹那、経営者は直感していた。
理屈などは一切わからない、ただ
(これは最初で最後の、出会いだ)
大きく頷いて、深く息を吸い込む
そして招かれるまま、経営者は扉をくぐった
「あのですね」
カウンター席につくなり、経営者は口を開いた
彼なりの覚悟だ
「これでも経営やってますから、話せない悩みも
ありますし、守るべき秘密なんて山ほどあります。
なのに、この機会に私の内情を話すべき、と
なぜか感じているんですよ。夢だから、というのも
ありますが、あなたにならと不思議と確信している」
初対面なのに自分でよくわからないんですが、と
経営者は首をひねって見せる
「あなたになら、私の温めてきた夢を
今進めるプロジェクトのことを、話せる
いえ、話したい」
彼は自分を信じていた
単なる感覚ではなく、今までの経験に裏付けされた
直観は時に思考を大きく上回る結果をもたらす
その直観が、このときを逃すなと強く彼に訴えかけるのだ
燕尾服の男は何も言わず、しばしの時が経つ
「まずは、お茶をいかがですか?
あなたにお出ししたいおすすめがありますから」
男はカウンターに入って、ペストマスクを
外したかと思うと、やわらかく微笑んだ
見覚えのある表情を前に経営者は驚き、目が見開いた
店の店主、執事と名乗った男の顔は
眠りに落ちる前、鏡で見た自分とあまりによく似ていた
カチャカチャという茶器の音とともに
目の前でお茶が用意されていくのを経営者は茫然と眺める
(夢とはいえ、自分の顔と出会うなんて
思わんかった…ドッペルゲンガーか?)
本当にドッペルゲンガーだとしたら死期が近いという通説だが…
さすがに夢の中でその原理は、通じないだろうと彼は思う
(そう、夢なんや…)
ぼうっとしていた頭が再び回り始める
「さて、お待たせいたしました。ロータスティーでございます」
経営者の目の前に置かれたガラスのティーポットの中で
踊るように蕾がほころんでいく
見た目からして美しいお茶だ
横に置かれたのは小さな砂時計
「砂が落ち切ったころが飲み頃です。
お茶を楽しみながら、お話いたしましょう」
執事の言葉に、経営者は小さく頷き落ちる砂を待った
時が来て、花が開くまであとわずかだ
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