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5杯目【後編】
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店主代理の魔王様は、いたずらっぽく笑ってこう言った
「賭けにどう勝つのか?
その考え方は実は営業にも通じるんです」
その言葉に新人営業は目を丸くした
あまりにも予想外の切り口だったからだ
固まっている彼女の前で
カウンターにトランプカードを展開される
魔王様が取り出したのは間違いないのだが
一体どこから取り出したのだろう?
「たとえばポーカーのルールはご存じですか?」
映画やテレビの中ではあるものの
ポーカーをするシーンは見たことがある
5枚の手札を組み合わせて役を競うゲームのはずだ
ワンペア・ツーペア・フルハウス…
確か一番強い組み合わせが
ロイヤルストレートフラッシュだっただろうか
相当運がよくないと強い役は揃わないイメージだ
「ポーカーは運任せのゲームではありません。
当店のオーナーである執事にいわせれば
“勝ちを待てるかどうか“が勝率を決める。
勝ち方の本質を知る者とそうではない者との差は
機会を重ねるごとに歴然と開いていくのです。
それは営業とて同じこと」
カードを繰りながら魔王様は語っていく
新人営業はもはや彼の語りに呑み込まれていた
何かとんでもないことが今、紐解かれている気がした
[魔王様の言うことは聞いとくといいですよー。
僕もお二人の指導で随分成長させてもらいました!]
横の客に言われるまでもない
新人営業は前のめりのまま、話の続きを促した
「私も執事も営業の勝率が極めて高かったんですがね。
結局勝ち方があるんですよ。
相手とどうやれば手を結びやすくなるのか
将来的な関係の作り方、コンテンツの質の上げ方…
今の手札が悪くても、打つべき手を知っていれば
トータルではきちんと勝てるんです」
『お、教えてください!!』
彼女は、思わず話をさえぎってしまう
一刻も早く答えを知りたい
そう思った
彼女の勢いを見て、魔王は笑った。
そして、隣の常連客に声をかける。
「そうですねえ、せっかくカードを出しましたし
三人で勝負、しましょうか?勝てたら教えるとか」
思わず、ぽかんとした。そしてうなだれた。
新人営業は、ゲーム初心者だ。
ゲームに勝てる未来が思い浮かばない。
[いやー、魔王様、彼女はお客様ですから。
さすがに気の毒ですよ。それに…]
隣の客が、空になったカップを指さす。
[見てましたけど、彼女が食べたトランプのクッキー
確か、ストレートフラッシュの役が揃ってましたよね?
それで勘弁してあげたらいいんじゃないですか?]
思わぬ助け舟に、彼女は心から感謝した。
知らないうちに、強い役のカードが揃っていたらしい
もっとも、もう全て胃の中なわけだが
「そうですねえ…お客様、失礼いたしました。
つい勝負事となると本気になってしまうので。
私の悪い癖ですね」
老成した空気があるのに、笑顔はどこか幼い。
不思議な人だと、彼女は思う。
「お詫びにとっておきをお教えしましょう。
今結果が出せないなら、打開のきっかけをつかむこと。
きっかけにつながるキーパーソンを捕まえることです」
打開のきっかけとなるキーパーソン?
新人営業は首を傾げた。
「あなたの成功につながる情報を持っている人。
世間一般には流れ出ない貴重な情報をつかめる感度の高い人。
そういう人とまず人間関係を築くことです」
「信頼を得なさい。そして『あなたなら』と情報を
開示してもらえるまでになれば、おのずと紹介が起こります。
将来大きなことを仕掛けていく火種も起こせるでしょう」
そんな人が、今自分の周りにいただろうか。
そもそも売上をあげなくてはならないというのが急務の課題だ
キーパーソンと関係を築くというのは有効だろうけれど
短期的には何の効果もない気がした
[焦らないほうがいいっすよ。そりゃ数字は大事なんですけど
明らかに数字狙ってんなってわかったら相手引きますから
きちんと関係作って、相手の役に立てる提案ができれば
あとは数やるだけでちゃんと結果出ますから]
隣の客がフォローしてくれた内容にハッとした。
(確かに、数字しか見えてなかった。ずっと焦ってた…)
「こいつも最初、本当にダメな営業でしたから。
ボロボロでしたから。ご安心ください。
そんな彼でも、今ではきちんと結果出してますから」
[お二人にはさんざんしごかれましたからね]
魔王様と客のやりとりは随分と気安い。
きっとよい上司部下の関係だったのだろう。
正直うらやましい、と新人営業は思った。
でも、今から同じような関係を
きっと築いていけると信じよう。
社内でも社外でも、相手を見ることが
自分の始まりだろう。
「ありがとうございます。
分からないことだらけですが、やってみます!」
まずは先輩ディレクターにもう一度相談してみようと思った。
そして、経営者である社長にもきちんと話してみたい。
焦るなと言い続けてくれていた彼らと
よりよい関係を作っていきたい
そして取引先にも関係を広げていきたい
お礼の言葉を伝えて、お代を払ってから
新人営業は店を出ることにした
「今度は執事がいるときにでもまたのご来店を。
あなたの成功を、そしてよい出会いを心よりお祈りしています」
見送りの言葉までやっぱりあやしい店だと
思わず笑って、扉を開けた
一歩踏み出す。
そこで、携帯電話が鳴った。
「え、あれ、先輩…?」
大学時代にお世話になった先輩からの連絡に彼女はうろたえた
”よい出会いを”
見送りの言葉を思い出す。
何かの予感を感じながら、彼女は通話ボタンを押した。
「賭けにどう勝つのか?
その考え方は実は営業にも通じるんです」
その言葉に新人営業は目を丸くした
あまりにも予想外の切り口だったからだ
固まっている彼女の前で
カウンターにトランプカードを展開される
魔王様が取り出したのは間違いないのだが
一体どこから取り出したのだろう?
「たとえばポーカーのルールはご存じですか?」
映画やテレビの中ではあるものの
ポーカーをするシーンは見たことがある
5枚の手札を組み合わせて役を競うゲームのはずだ
ワンペア・ツーペア・フルハウス…
確か一番強い組み合わせが
ロイヤルストレートフラッシュだっただろうか
相当運がよくないと強い役は揃わないイメージだ
「ポーカーは運任せのゲームではありません。
当店のオーナーである執事にいわせれば
“勝ちを待てるかどうか“が勝率を決める。
勝ち方の本質を知る者とそうではない者との差は
機会を重ねるごとに歴然と開いていくのです。
それは営業とて同じこと」
カードを繰りながら魔王様は語っていく
新人営業はもはや彼の語りに呑み込まれていた
何かとんでもないことが今、紐解かれている気がした
[魔王様の言うことは聞いとくといいですよー。
僕もお二人の指導で随分成長させてもらいました!]
横の客に言われるまでもない
新人営業は前のめりのまま、話の続きを促した
「私も執事も営業の勝率が極めて高かったんですがね。
結局勝ち方があるんですよ。
相手とどうやれば手を結びやすくなるのか
将来的な関係の作り方、コンテンツの質の上げ方…
今の手札が悪くても、打つべき手を知っていれば
トータルではきちんと勝てるんです」
『お、教えてください!!』
彼女は、思わず話をさえぎってしまう
一刻も早く答えを知りたい
そう思った
彼女の勢いを見て、魔王は笑った。
そして、隣の常連客に声をかける。
「そうですねえ、せっかくカードを出しましたし
三人で勝負、しましょうか?勝てたら教えるとか」
思わず、ぽかんとした。そしてうなだれた。
新人営業は、ゲーム初心者だ。
ゲームに勝てる未来が思い浮かばない。
[いやー、魔王様、彼女はお客様ですから。
さすがに気の毒ですよ。それに…]
隣の客が、空になったカップを指さす。
[見てましたけど、彼女が食べたトランプのクッキー
確か、ストレートフラッシュの役が揃ってましたよね?
それで勘弁してあげたらいいんじゃないですか?]
思わぬ助け舟に、彼女は心から感謝した。
知らないうちに、強い役のカードが揃っていたらしい
もっとも、もう全て胃の中なわけだが
「そうですねえ…お客様、失礼いたしました。
つい勝負事となると本気になってしまうので。
私の悪い癖ですね」
老成した空気があるのに、笑顔はどこか幼い。
不思議な人だと、彼女は思う。
「お詫びにとっておきをお教えしましょう。
今結果が出せないなら、打開のきっかけをつかむこと。
きっかけにつながるキーパーソンを捕まえることです」
打開のきっかけとなるキーパーソン?
新人営業は首を傾げた。
「あなたの成功につながる情報を持っている人。
世間一般には流れ出ない貴重な情報をつかめる感度の高い人。
そういう人とまず人間関係を築くことです」
「信頼を得なさい。そして『あなたなら』と情報を
開示してもらえるまでになれば、おのずと紹介が起こります。
将来大きなことを仕掛けていく火種も起こせるでしょう」
そんな人が、今自分の周りにいただろうか。
そもそも売上をあげなくてはならないというのが急務の課題だ
キーパーソンと関係を築くというのは有効だろうけれど
短期的には何の効果もない気がした
[焦らないほうがいいっすよ。そりゃ数字は大事なんですけど
明らかに数字狙ってんなってわかったら相手引きますから
きちんと関係作って、相手の役に立てる提案ができれば
あとは数やるだけでちゃんと結果出ますから]
隣の客がフォローしてくれた内容にハッとした。
(確かに、数字しか見えてなかった。ずっと焦ってた…)
「こいつも最初、本当にダメな営業でしたから。
ボロボロでしたから。ご安心ください。
そんな彼でも、今ではきちんと結果出してますから」
[お二人にはさんざんしごかれましたからね]
魔王様と客のやりとりは随分と気安い。
きっとよい上司部下の関係だったのだろう。
正直うらやましい、と新人営業は思った。
でも、今から同じような関係を
きっと築いていけると信じよう。
社内でも社外でも、相手を見ることが
自分の始まりだろう。
「ありがとうございます。
分からないことだらけですが、やってみます!」
まずは先輩ディレクターにもう一度相談してみようと思った。
そして、経営者である社長にもきちんと話してみたい。
焦るなと言い続けてくれていた彼らと
よりよい関係を作っていきたい
そして取引先にも関係を広げていきたい
お礼の言葉を伝えて、お代を払ってから
新人営業は店を出ることにした
「今度は執事がいるときにでもまたのご来店を。
あなたの成功を、そしてよい出会いを心よりお祈りしています」
見送りの言葉までやっぱりあやしい店だと
思わず笑って、扉を開けた
一歩踏み出す。
そこで、携帯電話が鳴った。
「え、あれ、先輩…?」
大学時代にお世話になった先輩からの連絡に彼女はうろたえた
”よい出会いを”
見送りの言葉を思い出す。
何かの予感を感じながら、彼女は通話ボタンを押した。
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