執事の喫茶店

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4杯目【前編】

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アイデアや設定がパクられる
というのはありふれた話だ

あらゆる創作は模倣から始まる

だから小説家はパクリを否定しない

それでも理性と感情は別物だ

小説家は今自分でも押さえられないあせりと
苛立ちに苦しめられていた

最近彼は、ある制作会社から
声をかけてもらう機会を得た

好きな小説を書きながら
月額のお金を頂ける理想的な環境

普通の会社員に比べれば
収入は微々たるものだろう

それでも自分の仕事が評価されたことが
小説家にはたまらなくうれしかった

自分ひとりではなくディレクターと組んで

誰かの意見を取り入れながら作品を作る経験も新鮮だった

だから最近の彼は、書けば書くほど楽しかった

有頂天だったと言ってもいい

だから落差も大きかった

近日展開していく予定の
作品があった世界観から何から
ディレクターと綿密に打ち合わせを進めてきた

小説家は作品のリリースを
今か今かと待ちながら執筆を進めてきた

それなのに公開する直前になって番狂わせが起きた

SNSで名の知れたインフルエンサー達が
ある作品を公開し始めたのだ

自分たちが準備してきた作品と
ほぼ同じ世界観とキーワード

これではどうあがいたって彼らの作品は
二番煎じに思われてしまうだろう

インフルエンサー達の影響力を考えると
小説家たちの作品は検索でも下位表示に陥る可能性が高い

ディレクターは

「よくあることだ、気にしなくていい」

と小説家に何度も言葉を重ねた

それでも小説家は自分たちの
運の悪さを嘆かずにはいられなかった

(よくあることだ…分かってる。でもどうして…)

今日も机に向かって執筆を進める

作業の合間も思考はぐるぐると渦を巻いた

いっそパクリだと言われないように
世界観そのものを大きく変えてしまうべきなのか

そもそも作品のリリース自体やめるべきじゃないか

もちろんディレクターと組んでいる作品だ

小説家ひとりの判断でどうこうなるわけではない

影響力も知名度もほとんどない自分が
作品を足を引っ張っている気がして

ひどく歯がゆい

自分が書く言葉が全てありふれたつまらないものに思えて

書いては消し書いては消しを繰り返した

もうじき夜が明ける時間だ

執筆は思ったようには進まなかった

痛む目をこすりながらじきに、朝日が射す窓を見つめた

(少し散歩でもしようか)

人も少ない時間だ向かう

先はどこでもいい

少しひとりで放浪してみたかった

ジーンズの中には小銭がある
携帯も何もいらない

今は誰の声も聞きたくはなかった

夜明け前の街を小説家はふらつく

街にひとり取り残されたような感傷に浸りながら

彼は自嘲の笑みを浮かべた

目についた角を曲がって行き止まりなら、
戻って迷路を解くように歩き続けて朝日の訪れを待った

小説家が思っていたよりも夜明けは遠かった

歩いているとくうーっとお腹の鳴る

情けない音がした

自分の腹が鳴ったのだと気づいた
途端小説家は急に空腹を自覚する

(何か軽いもの食べたいな…)

でもポケットの中には300円程度の小銭しかない

コンビニでパンでも買えれば満足だ

どこかに店がないか小説家は辺りを見回した

すると小さな立て看板が目に入った

看板にはチョークのような手書き文字でこう書かれていた

“モーニング300円(税込)ご用意しております“

あまりに都合のいいタイミングで目に入った

内容に小説家は驚いた

随分と格安のモーニングだ

とにかく胃に入るならなんでもいい

看板が指し示す方向へと、小説家は歩みを進めた

5分ほど歩いた先は行き止まりだった

木製の扉があり“喫茶開店中“の看板がかかっている

さして疑いもせず小説家はそうして扉を開く

扉の向こうの光景を当然、彼は予想すらしていない
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