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幸せの実感

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週末はバイトの事もあり、一緒にいる時間が減ってしまった。

今日も撮影で終わってから夜しか会えない。

辛い…辛すぎる…

でも、俺は決めたんだ。

このバイト代で美咲さんに指輪をプレゼントする。

そして、今、会社の広告塔として役割をもらっている以上、これを利用して出世して美咲さんをきちんと養える男になるって!

「何、意気込んだ顔してるの?」

はっとする。

目の前に順子さんがいた。

「あっ…いえ。」

「なんか遥斗変わったね。」

「え?」

「表情が豊かになったって言うか…昔はなんか影があるって言うか、歳の割に落ち着いてたって言うか。」

「そうですか?」

「なんかいい男になった。落ち着いてるのもいい男かもしれないんだけど、人を惹きつける男になったと思う。」

順子さんは笑いながら準備がまだあると言ってスタジオをでた。

確かに、両親を亡くして、姉は俺の為に仕事をしていて、家ではほぼ1人の時間ばかりで、誰かがそばにいて、一緒に笑ったり、泣いたり、ふざけたりって無かったかも。

順子さんと別れた後も女性とは付き合ったけど、美咲さんと一緒にいる時ほど素は出せて居ない。

そんな事を考えていたら、ものすごく美咲さんが恋しくなった。

思わず電話をかける。

コール3回で電話がでた。

「美咲さん?」

「遥斗?仕事中じゃないの?」

「今、休憩中。美咲さんの声聞いて元気もらおうと思って。」

「いつも元気じゃん。」

「元気だけど、恋しくなったの!」

「お子ちゃま。」

「愛してる。」

「周りに誰かいないの?」

「いない。美咲さんは?」

「ん?」

「俺の事、愛してる?」

「愛してるよ。クスッ…」

「なんで笑うの?」

「可愛いなぁって。」

「男に可愛いは失礼です!」

「はーい。お仕事頑張ってね。」

「ありがとう。」

電話を切った。

なんて幸せな会話なんだ。

バカップルの会話だけど、これがこんなに幸せだなんて。

顔がニヤける。

多分今の俺、傍からみたら気持ち悪いんだろうなって思う。

「お前さー。」

その声で上を見上げる。

「拓実!」

「心の声出てる。」

「え?なんて?なんて言った?」

「なんて幸せなんだ」

「嘘!マジで?!」

「美咲ちゃんだろ?電話?」

「そうだよ…」

「だよなぁ~。愛してるとか他の女には言わないよな!」

「え?」

「丸聞こえ。電話。」

顔が一気に赤くなる。そして、試合って言ってた拓実がなんでいるんだ?

「なんでいるんだって感じだけど、今日の試合は昼間で、明日、明後日はオフだから帰ってきたの。ついでに遥斗の撮影見てこって思って。」

「そういう事。」

「ってか、終わったら飲みに行かない?美咲ちゃん、結ちゃんも誘って。」

「美咲さんは大丈夫だと思うけど、結さんは…」

「あー大丈夫!もう声掛けてあるから。」

その夜、2人で過ごすつもりだったけど、結局4人での夕食になった。
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