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ずるいあたし(美咲の場合)

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オフィスに着き、部長に挨拶して遥斗が待つ車に向かう。

エレベーターで部長と2人きり。

気まずい。

「今日会えないか?」

「…」

「美咲?」

「…めんなさい。」

「ん?」

「ごめんなさい。」

「どうした?」

「わたしと別れて欲しいんです!」

びっくりした顔をしている。

「美咲、こないだあんなに感じてたじゃないか。……妻と別れないからか?……子供が欲しいなら結婚は出来ないけど認知はするし……」

最低…

こんな最低な男だったの?

「わたし、好きな人が出来たの!」

顔色が豹変し、目が吊り上がる。

低い声であたしに話しかける。

「なんだ?好きな奴って…会社の奴か?それとも取引先か?」

怖い…

頭を横に振る。

「簡単に手放す訳ないだろ。こんなに相性がいいのに…」

あたしの両腕を強く掴む。

「痛い…」

「痛い事も悲願する時があるだろ。」

「やめてください。」

顔が近づき、キスをされそうになった瞬間、エレベーターの扉が開いた。

部長は慌てて手を話す。

ふと見ると遥斗が車の中からこっちを見てる。

見られた?!

あたしの顔から血の気が引くのがわかる。

部長が車に駆け寄り乗り込む。

あたしもハッとして急いで追いかける。

「小池。」

部長がここに座れと合図をする。

仕方なくあたしは後部座席に座った。

部長がこんなにも豹変するなんて。

奥さんがいるからあたしは遊びだと思ってたのに…

バックミラー越しに遥斗と目が合う。

にこっと遥斗が笑顔を見せる。

胸が締め付けられる。

遥斗と一緒にいると幸せな気持ちになる。

遥斗を悲しせたくない。

『幸せ…』

遥斗はそう言って抱きしめてくれた。

遥斗の気持ち、壊したくないよ。

あたしは一生懸命笑顔を作る。

遥斗はキリッと顔を変えギアをドライブに入れた。

部長はさっき、何もなかったように仕事の話をする。

今日のプレゼン、成功させたい。

でも、部長の言葉が耳に入ってこない。

スっと何事もないようにあたしのスカートの中に手が入ってくる。

いやっ!

声に出そうになるが必死で抑える。

こんなにも部長に触られるのが嫌だったろうか。

脚をに力を入れ部長の手を拒む。

「小林さん、具合悪いですか?」

ミラー越しに遥斗が話しかける。

あたしは見られてるんじゃないかと顔が一気に青ざめる。

「なんでも…ない。」

「どこかコンビニでも止まりますか?」

「だ、大丈夫。」

遥斗は気付いていない。

手の位置が見えないのだ。

「遅れる訳にはいかない。大丈夫だと言ってるんだ。ちゃんと前を見て運転しろ。」

部長はかなりのイラついてる。

遥斗はアクセルを踏み込む。

あたしは遥斗にバレないようにと祈った。
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