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プロローグ

運命っ!?

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 鮮やかな炎がモーゼの十戒のように割れ、美しいシルエットが浮かび上がる。炎の中だというのに、漆黒のロングコートが軽やかに翻えった。
 美しく長い銀の髪が炎の間をキラキラと舞う。
 まるで、映画のように。
 それは、幻想的な美しさ。
 
 視線だけで相手を殺せるような紫紺の鋭い眼光に、整った鼻筋、美しい唇。コートの上からでもわかる引き締まった筋肉質な身体に、巨大な片刃剣。
 美形、という言葉が裸足で逃げ出すような荘厳で神がかった超美形が現れた。

 語彙が少ない私では形容するのが難しいほどの彼に、私は見覚えがあった。

 (セ、セブリオス様!!!)

 セブリオス様。それは人間であった時に唯一遊んでいた、RPGゲームの敵役登場人物。彼はそのキャラクターに瓜二つだった。
 服装などは違うものの、二次元を無理やり三次元にしたらこうなるぞー!をリアルに再現していたのだ。

 (どうしよう、よだれ垂れそう!)

「……お前が?」

 (お声まで素晴らしい!!!)

 ええ、なに、こんな美形のお兄さんに天国に連れて行ってもらえるなら、今ぽっくり逝ってしまってもいいきがする……。
 死にかけの状況そっちのけで鼻息荒くガン見する。網膜に焼き付けよう、これから強く生きていけるように。いや死にそうなんですけどね。

 男は目に見えぬほどの早さで剣を一閃させると、散り散りになった網の間から私を救い出してくださった。
 地面できょとんとしている私を彼はつまみ上げる。
 流石に美形といえど大きすぎて怖い。やっぱり私ってば小動物?

 ああ、体もですが手まで大きいですね。私片手ですっぽりですね。
 黒いレザーの手袋で、なにやら血みたいなものが少し飛び散ってますが気にしません。
 次第に慣れてきたのか、意図せず震えていた体が止まる。無意識にすんすんと彼の匂いを嗅いでしまう。

 美しい紫の瞳から至近距離で凝視され、固まる。凄い。水色と、紫と、紺のグラデーション。昔欲しいなって憧れた極上のタンザナイトみたい。私はうっとりと彼を見つめてしまう。
 ああ、イケメンに抱かれてうっとりしちゃうとかしょうがないと思うのよね!
 私、乙女だし!

「きゅん!( ありがとうございます!)」

 彼は何やら思案すると、剣を鞘に収めて辺りを見回した。他にも動物はいるがみんな死んでるか、死にかけだ。彼はその動物たちに興味を示さず、小屋を後にした。

(成仏してね...なむなむ)

 小脇に抱えられて外にでると、かつて小鬼だったであろう黒い塊が炎に飲まれてぼろぼろと崩れてゆく最中であった。
 血みどろの死体だらけよりも幾分かはマシな状況だが、平凡な世界で生きてきた私にはちと辛いです。オエー!

 集落全体を炎が包み込み、全てを灰に還すと自然と炎は消失した。
 ふと思う。彼はどこからこんな炎を出したのだろう。火炎放射器なんて持ってない。爆弾?のような物も見当たらないし、何より不思議なのは煌々と燃え広がっていた炎が、木々に広がらなかったこと。
 1歩間違えれば山火事じゃん?
 イリュージョンみたいにふっと消えたけどさ。でも消し炭となった鬼の死体が、あれは本物の炎だって物語ってた。


 私が首を傾げていると、完全な消滅を確認してから男は暗い森の中へと歩を進めた。
 月明かりが優しく辺りを照らしだす。
 まるで殺戮などなかったかのように、夜の散歩だと言わんばかりの足取りで男は暗闇の中進む。

 歩きながら私は目の前まで持ち上げられ、月下でなお美しすぎる顔を至近距離で見てしまった。
──美形すぎて、眩しい。

 (ぬあああ!乙女な精神に100のダメージ!)

 萌えに萌えて悶えているだけなのだが、目をぎゅっと閉じ、鼻息が荒く、プルプル震えるさまは小動物が怯えているようにしか見えない。

 少し焦げて丸まったひげ。
 背中の擦られたあと。と、器用に体を手の上で回転させられ、観察される。そして後ろの足先を指で掴まれる。

「きゅきゅうぅぅん!(そ、そこは勘弁してつかぁさいぃぃ!)」

 口には言えないようなところまでがっつり凝視され、羞恥でむせび泣いた。
 美形に下半身を凝視されるなんてダメージ無限大すぎる。酷い。お嫁さんにいけないわ。動物だけど。

 最後に丸まった尻尾までゆっくりと伸ばされ、事細かに観察されてからやっと身体検査は終わったようだ。
 身じろぎすると、伸ばされた尻尾がくるん!と反動をつけて戻った。

 (お、おわった?尻尾って触られると妙にぞわぞわするんだなあ)

 と、何かやら凛々しいお顔に見つめられ視線をそらすと尾を握られた。
 また尻尾を伸ばされ、離される。
 また、伸ばされ、戻り……。

 くい、くるん!(ぞくぞく)
 くい、くるん!(ぞくぞく)

 どうやらそれがお気に召したようで、私のキュンキュンした鳴き声に本気の泣きが入るまでしばらく続いたのだった。
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