白に染まる

スカートの中の通り道

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第十七話 染まる日 ※性的な表現が含まれています。観覧の際はご注意ください。

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 玉津から連絡があったのは、十時を過ぎた頃だった。
「お前が期待してるものを見せてやるからさ」
 そう言われ、僕は繁華街のファミレスに呼び出された。
 入ってすぐ店員さんに声をかけられたが、待ち合わせですと言って僕は店内をぐるっと見回した。一人客がポツポツといるくらいで、比較的空いていた。エアコンがかなり効いていて、僕は肘の辺りをさすった。
「あれ、いない?」
 先に来ているはずの玉津が見当たらなかった。もう一度、と思った時だった。奥から玉津がやって来た。トイレだったようだ。
「おっ、来たな」
 その目はかなり充血していた。この前のときと同じか、それ以上に。
 
 ーーありさ先輩で……?
 
 また嫉妬が沸々と湧き立ってきた。もう怒りはないけれど、この感情だけはどうやっても抑えることができない。しかも、まだ本題に入ってすらいないのに、すでに股間が反応している。
 
 ーー期待しているのか、僕自身も。
 
 今頃ありさ先輩は懸命にチームを牽引して、勝利を掴み取ろうと頑張っているのに、裏切りのような真似をした僕は、ありさ先輩の痴態……猥褻な画像を期待している。あまつさえ、それを実行した男に僕はそれを求めている。
 
 ーー真似? 明確な裏切りだよ、これは。
 
 僕は、自分自身に落胆した。
 席に着くや否や、ニヤニヤと笑みを浮かべる玉津。ほら、早くお目当てのものを言えよ……顔がそう言っている。
「……なんだよ」
 僕は言った。気づかないふりをしながら。
「なんだよじゃねえよ、わかってるだろ」
「……わからない」
「ならなんでここに来た?」
 本当に、まさにその通り。愚かな口問答だった。
 この後に及んで、僕は一体何を考えているのか。迷っているのか。
 でも、僕の心の片隅には、まだ微かな理性と正義がほのかな光を放っている。まだ引き返せる? もう一度、純粋だったあの頃に戻れる? しかし、
「おっと……」
 チッチッチと、玉津は指を振る。
 僕の表情から何かを察したのだろうか……。玉津が言う。
「お前ってさ、口では偉そうに言ってるけど、自分のやっていることをしっかり思い出してみろよ。人間つうのは、行動にこそ本性が出るもんだぜ」
 返す言葉がない。
 そんな僕に、玉津は苛立ちをあらわにした。眉をひそめながら睨みつけた。
「お前、いっつもウジウジしてんな。何がしたいのか、自分でもわかんねぇのかよ?」
 その言葉に、僕は視線を逸らし、曖昧に首を振った。
「……そんなことない、ただ……」
「ただ何だよ?」
 玉津が言葉を遮った。
「また中途半端なこと言って逃げるつもりか? いい加減にしろよ。お前のその曖昧な言葉を聞いてるとイラつくんだよ」
 言葉には、これ以上言い訳をさせまいとする圧が込められていた。何かを返そうとしたが、喉の奥で言葉が絡まって出てこない。
 玉津が顔を近づけ、僕の顔を真正面から見据えた。
「本能に従えよ」
 吐き捨てるように言った。
「理屈なんかどうでもいいだろ。やりたいことがあるならやればいい。守るだの純粋だの綺麗事を並べるくせに、自分の欲望にすら素直になれないのか? 言っておくけどな、その綺麗事だって良くも悪くも欲望だからな」
 玉津の言葉が容赦なく僕を追い詰める。確かに僕は、決断できないまま言い訳ばかりを並べ、現実から逃げ続けている。自分を守るために、本当の気持ちを隠してきた。それが玉津の目には、ひどく偽善的で、臆病に映っているのだろう。
「いい加減、男らしく腹をくくれよ」
 と、玉津はさらに詰め寄った。
 玉津の言葉が、僕の中にある何かを揺さぶり続けた。それはずっと押し込めていた感情への扉をこじ開けるように、少しずつ心を蝕んでいく。
 しかし、それは時間の問題だった。
 唐突に、玉津がストラップを首から抜き取ると、カメラをテーブルの上に置いた。
「つーかここ、エアコン効き過ぎ。腹痛え」
 苦しそうに顔を歪め、玉津はそそくさとトイレに向かった。僕はその背中を眺めつつ、姿が見えなくなるとすぐに、カメラを手にした。
 逸る気持ちを抑えながら、画面を操作する。
 
 ーーありさ先輩っ……ありさ先輩っ……。
 
 けど、もう抑えきれない。体がいうことを聞かない。
 体が熱を帯びる。神経が逆立つ。股間が膨張する。胸が爆発しそうになる。
 僕は血走った目で、一番新しい日付の映像を再生した。昨日の電車内だ。
 すぐに、顔を背けるありさ先輩が映し出された。
 僕は、倍速にした。
 
 ーーありさ先輩のおっぱい。おっぱいと乳首が見たい!
 
 映像の中で、ありさ先輩の服がどんどん脱がされていく。僕はその瞬間を見送りながら、悔しい気持ちをなんとか抑え、限りある時間を目的のために使った。
 そして、先輩が座席に寝かされた。映像の再生速度を標準に戻す。すでにありさ先輩は、上半身裸にされている。
 カメラが、ゆっくりとありさ先輩の口元をズームしていく。ふっくらとしていて、少し桃色がかった美味しそうな唇だった。そこへ、和志の唇が上から被さるようにして重なる。凹凸を合わせるみたいに、ピッタリと唇を隙間なく密着させ、離しては密着させを繰り返し、互いを感じ取る。
「クチャ……ヌチャ……チュっ……チュ……」
 官能的な、嫉妬すら忘れてしまうほどの、僕が求める愛おしい光景だった。
 そして、二人は口を開いて舌を絡め合った。和志の動きに追従するような形で、ありさ先輩の舌がねっとりと追いかけ、また確認し合う。
「ありさ……俺のキス、好きだろ?」
 不意な言葉だった。しかしありさ先輩は、恥ずかしそうに小さく頷いた。僕の下腹辺りに、ぎゅっと掴まれるような痛みが現れた。
 苦しい。でも興奮する。

 ーーダメだ……オナニーしたい……。

 直後、和志がゆっくりと顔を引いた。その動きに続けて、上からありさ先輩の口内へと唾液を垂らし始めた。大粒の水滴が空気を切るように落ちていくのを、先輩は無言で受け入れ、口の中で静かに受け止める。喉がごくりと動き、飲み込んだことを示すその音が小さく響いた。
「お前のもよこせ」
 和志が短く命じる。
 ありさ先輩は、ためらいがちに唾液を舌の上に乗せて突き出した。和志は大きく口を開けて、その舌を根元まで深く含むと、唾液を貪るように吸い上げた。
「ジュル……ジュル……」
 唾液がすすられる音が異様に生々しく響く。やがて唾液が尽きると、和志の唇は先輩の肌を這うように移動し、首筋から鎖骨へと、まるで刻印を残すように舌先を滑らせていった。そしてカメラの画面には、ありさ先輩のおっぱいが次第にクローズアップされていく。
 先輩の肌は透き通るような白さで、まるで磁器のように滑らかだった。どんな体勢でも形を崩さないその整った乳房は、まさに完璧としか言いようがない。そしてその中心には、僕がかつて憧れていた乳首があった。柔らかい桜色をしたそれは、硬く尖りながら、まるで触れられるのを待ち望んでいるかのように、目の前の男を求め勃起している。
 僕の心臓は狂ったように早鐘を打ち、全身が興奮に飲み込まれていく。視線は釘付けだった。

 ――これが、ありさ先輩の乳首……。
 
 和志が愉悦の表情を浮かべながら、まるで嬲るようにして乳首をひと摘みする。
「あンッ……」
 先輩が声を漏らしてしまう。その可憐な響きに、僕の全身は震えた。
 さらにもう一度。
「んッ!」
 刺激を与えるたびに体をビクつかせる先輩に対して、和志が愉快に言う。
「ははは、この女マジでおもしれえ」
 今度は、人差し指と中指の根本で挟みながら、親指の腹でクリクリとこね回す。
「んんッ……あっ……はあッ……あっん……」
 その刺激に耐えかね、ありさ先輩の口からは淫らな喘ぎ声を溢れ出る。体をビクビクと左右に身じろぎながら、その快感の異様さを全身で示している。
 和志は、その乳首を口に含み、舌で焦らせながらゆっくりと甘噛みをする。とここで、いきなり強く吸い上げた。
「アアッ!」
 これまでとはまるで違う声色を発しながら、先輩はその快感に腰を反り返らせた。その場面は、僕の興奮の波をより荒立たる。
 それを見ていた玉津ももう限界だったのか、カメラを引くと、ありさ先輩の手首を強引に掴み上に掲げさせると、無防備になった脇を躊躇することなく、舌を押し付けベロベロと舐めまくった。
「先輩がシュートを打つたびに、脇を舐めたくなって仕方なかったんですよ」
 玉津は言った。
 しかしそれほどまでに飢えていたのか、その魅力的な脇に夢中になるあまり、カメラのアングルがそっぽを向いてしまった。玉津らしからぬ意識だった。 
 僕の中の興奮が、気分を害されたみたいにサーっと退いてしまった。

 ーークソ……もっと見せてよ!

 しかし、僕は思い立った。カメラをテーブルに置くと、その画面をスマホで動画撮影したのだ。
 よくよく考えてみれば、このカメラに収められている映像や写真を観れるのは今しかない。一時的なものだ。もしかしたら、もう二度と拝むことができないかもしれない。だったらできるだけ、今この瞬間に収められるだけ収めなくてはいけない。それはもう使命感だった。
 
 ーーそうだ、僕はもっとありさ先輩のパンツが見たい。
 
 もうそのときの僕は欲望に駆られ、ブレーキの効かない電車のように暴走していた。無我夢中でカメラフォルダを漁り、適当にページを送りまくった。見たいのは、最近じゃない。もっと以前の、ありさ先輩に憧れを抱いていた頃の、純粋にその背中を追いかけていた頃のパンツが見たい。
 しかしその気持ちとは裏腹に、ふと目に留まったのは……。
 
 ーーあれ、これって……。

 サムネ……そこに表示されているのは、月明かりに照らされる、学校の敷地内に佇む小さな白い建物だった。そこは更衣室兼シャワー室となっていて、部活の始まりと終わりに女子生徒がよく利用する。
 僕は自分を疑うようにして、もう一度日付と時間を確認した。間違いなかった。僕とありさ先輩が遅くまで特訓して、守衛さんに怒られた日だった。
 あのあと、何が起こった? 僕は記憶を辿る。先輩が先に体育館を出て、僕が残った。でも先に帰っていたはずの先輩は、実はシャワーを浴びるために残っていた。その後、正門を出た僕の後ろに、玉津がしたり顔でやって来て……。
 まさか……。
 僕の背中に、嫌な汗が滴る。寒いくらいにエアコンが効いているはずなのに。
 僕はその映像を恐る恐る再生した。
 ありさ先輩がその建物に入っていく瞬間が収められていた。玉津がその後を追うようにして建物に近づく。明かりが点くのを待ってから、玉津はカメラを掲げるようにして、壁の上部にある窓から室内を覗き込む。
 すぐそこ……眼下に、半袖のシャツにジャージのハーフパンツを履いた先輩が、手前の壁に寄せて設置してある棚に、荷物を置いていた。
 ここで玉津がカメラを縁で、トントンと窓を叩く。先輩がカメラに気づいた。
 本来なら声を上げるべき場面だ。これは盗撮であり、社会的にも許されない行為なのだから。でもありさ先輩はただ一瞥しただけで、特に反応を示さなかった。それどころか、なんとカメラに向かって服を脱ぎ出した。
 僕は唖然とする。

 ーーなんで、躊躇わない?

 疑問が晴れないままに、先輩はシャツとズボンをサッと脱いで、丁寧に畳んで棚に入れた。先輩の下着は、上下お揃いの白いスポーツ用のインナーだった。なぜかそれを見て、不思議と安堵する自分がいた。
 けどそれも束の間だった。ありさ先輩がブラを上にずらした。ブルンと弾むようにして、豊満なおっぱいが顕になった。
 僕の興奮が、ここでマグマのように湧き上がる。
 そして先輩は、そのままパンツもスッと下ろしてしまう。カメラに、その裸体が収められる。
 
 ーーなんて、キレイなんだろう……。

 僕はその体の美しさに、ただただ感動していた。だが同時に、巨大な黒い塊のような嫉妬が、胸の中にうごめていたのも事実だった。
 先輩は振り返り、個室に入って行く。そしてカーテンを閉めることなくシャワーを浴び始めた。まるで映画のワンシーンのように。もちろん体はカメラの方へ向けて、全身を余すことなくさらけ出している。
 ここで、カメラがかすかに振動し始めた。一瞬何事かと思ったが、玉津が盗撮をしながらオナニーしているのだとわかった。
 確かに、その気持ちは痛いほどわかる。映像を見ているだけの僕でさえこんなにも全身が滾るのだから、実際に見ている……現場の雰囲気を直に感じている玉津の体は尋常ではないほどの興奮で欲情しているのだろう。
 そのとき、僕はふと思い出した。
 
 ーーそうか、この映像だったんだ。

 そう、僕と玉津、そしてありさ先輩の三人で電車を待っていたとき、不意に玉津が見せつけてきたカメラの写真だ。わずかな時間だったから、僕には映っている女性が誰なのか判断することはできなかったけど、確かに思い出してみれば、そのシルエットといい雰囲気といい、まさに写真の通りだった。

 ーーすでに、ありさ先輩は玉津によって撮られていたんだ……。

 僕は憤りを感じながらも、その感情がよりペ○スを煽り立たせる。
 僕は映像をすぐに停止し、写真フォルダを開いた。そこには何百、何千もの写真が並んでいて、見覚えのないものばかりだった。ありさ先輩以外の女子生徒の写真も多数あり、どれも可愛い子や美人ばかりだ。ページを次々に送りながら、急いでありさ先輩の姿を探した。そしてようやく見つけると、写真を次から次へとスマホの動画に収めていった。
 制服姿、ジャージ姿、ハーフパンツ、ユニフォーム姿。見慣れた姿もあれば、僕の知らない先輩の一面もあった。それを見るたびに体が高揚して、呼吸が荒くなっていく。だが、それは興奮というよりも、怒りに近い感情だったかもしれない。
 そして写真はどんどんあからさまに、過激になっていく。ある一枚には、ありさ先輩のスカートの中にカメラを突っ込んでパンツを接写したものや、ブラウスのボタンを外して谷間をアップで写したもの。放課後の体育館にて、おそらく僕が待ち合わせに遅れていたときだろうか、練習前にありさ先輩の着替えを間近で写したものがあった。そこには、制服姿から水色のレースの下着姿になった先輩。さらには、全裸となった姿まで収められていた。
 日付は一ヶ月以上前のものだった。
 
 ーーこんな前から、先輩は玉津に見せびらかせていたのか……。
 
 これはもう犠牲心なんかじゃない。ただの見せたがり。露出癖を疑うレベルだ。
 それに玉津も、とんだくせ者だった。僕の感情を逆撫でしつつ、ありさ先輩との間にこんなにも秘密を隠していたなんて。
 ここで急に、犬絵の言葉が脳裏をかすめる。
『ーー彼女……見られるのもだーい好きよ』
 僕の中に、確信が生まれた。
 やっぱりそうじゃないか。僕には隙を見せず、堅実で誠実な姿を見せておきながら、玉津には下着どころか肌まで見せていた。おっぱいも、乳首も、くびれも、お腹も、陰毛も、足の付け根も、お尻も、割れ目も……僕が見たいと願い、何度も夢見て、オナニーに明け暮れたその体の全てを、玉津には見せていた。
 一番近くにいたのは、僕なのに。僕のはずなのに。それを差し置いて、こんな卑劣なヤツが向けるカメラに、惜しげもなく裸を解放していたなんて……。

 ーーこれじゃあ、僕だけが除け者じゃないか……。
 
 僕だって、ありさ先輩をもっと生で見たい。写真じゃなくて、間近でパンツやおっぱいや、陰毛から秘部に至るまでもっともっとこの目で確かめたい。

 ーーこんなの惨めすぎる。拷問だよ。

 そうだ……。裏切り者は僕だけじゃない。きっと、ありさ先輩だって楽しんで脱いでいるんだ。見せたくて、疼く体を晒して欲望を満たしているんだ。

 ーー僕だって……。

 いやでも、待てよ。考えてみれば、僕はありさ先輩に告白して、確かな脈を感じている。それは明るい未来につながるかもしれない鼓動だ。
 だから、これからも僕は真摯になって、ありさ先輩に寄り添えば、自然とパンツはおろかおっぱいにだって触れらるし、玉津や和志のような卑劣な行為をしなくても、真正面から純粋にありさ先輩とエッチなことができるんだ。
 見たい、もっとありさ先輩の下着を。触りたい、もっとその柔肌を。そして感じたい、ありさ先輩の全てを……。
 心の中にある宝物が放つ光、それが色を変えた瞬間だった。
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