白に染まる

スカートの中の通り道

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第十二話 約束の場所

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 八月真っ盛りのインターハイ当日、太陽は容赦なく照りつけ、総合体育館の周りは活気と熱気に包まれていた。僕の住む海沿いの静かな田舎町とは対照的に、ここは都会特有の喧騒に満ちている。巨大な建物は、まるで別世界のような威圧感を漂わせ、そこに集まる人々は絶え間なく流れ込んでいた。
 今回僕たちが住む地方での開催ということで、遠征で来ている他校のチームとは異なり、僕らは宿泊施設を利用せずに済んだ。地元ならではのアドバンテージというか、電車での現地集合は、どこかちょっとした遠足気分を味わわせてくれて、少しだけ和やかな気分で会場にやって来ることが出来た。
 入り口には選手たちや応援団、家族連れが集まり、笑い声や話し声がそこかしこから聞こえている。近くでは催し物が行われているのか、屋台からは焼きそばやかき氷の香りが漂い、太鼓のリズムが耳に入ってくる。僕の町では聞き慣れないこの騒がしさに少し圧倒されながらも、この場所が特別な舞台であることを実感していた。
 会場の中に足を踏み入れると、さらに緊張感は高まり、その迫力と壮大さに気圧されそうになる。広いコートが目の前に広がり、白線がくっきりと引かれ、天井の高い照明が煌々と光を放つ。他選手たちがウォーミングアップを始め、まるでこれから始まる試合の展開を想像しているかのように、真剣な表情でボールを持っている。観客席には家族や友人が座り、皆が熱い視線を送っていた。
 僕も女子バスケ部の一員として、マネージャーとして、その雰囲気に飲み込まれないように気を引き締めていた。ありさ先輩や安納先生、そしてチームメイトたちが静かに集中している姿を見て、僕も一緒に気合を入れ直す。この大きな舞台で、今度こそ僕たちは、自分たちの力を全て出し切るためにここにいる。
 汗ばむ空気の中で、次々と試合開始の合図が告げられていく中、コート全体が一瞬にして緊張に包まれる。その瞬間、すべての視線がコートに集まり、選手たちが走り出す。その熱気とともに、インターハイが本格的に幕を開けた。
 会場入りしてからの僕は、慌ただしく動き回りながら、選手たちのサポートに徹していた。備品の確認やドリンクの準備、さらに二回戦で当たるかもしれない相手チームの試合の観戦と……やることは山積みだ。試合まで残り時間があるとはいえ、気が抜けるわけがない。この時ばかりは、昨日の出来事や、ありさ先輩への想いなんて頭の片隅にもなかった。ただひたすらに、チームが勝てるように懸命に動き回っていた。
 一通りの準備を終えると、次は選手たちのコンディションチェックに移る。もちろん、ありさ先輩の様子も確認するが、他の選手たちの状態も見逃さない。今日の体調や調子をノートに書き込み、頭の中で作戦を整理していく。
 そんなとき、レギュラーの一人が練習中に負ったケガの具合があまり良くなく、ありさ先輩と安納先生が作戦を練り直し始める。
「まあ、ベストの状態とは言えないが、仕方ないだろうな」
 安納先生が顎に手を当て、難しい表情を浮かべて呟く。
「でも、戦術としてはかなり攻撃的になります。むしろ、これが正解かもしれません。相手チームは私を徹底的にマークしてくると思いますから」
 と、ありさ先輩が冷静に分析する。
 すると、安納先生は頷きながら、突然僕の方に振り返る。
「美原、お前はどう思う?」
 突然の問いに驚いて、一瞬ドキッとしてしまったが、僕はすぐに気を取り直して背筋を伸ばした。
「はい、先輩の言う通りだと思います。昨年はそのフェイスガードに苦しめられましたが、今回はそれを逆手に取るべきです。ありさ先輩を囮にして、他の選手たちで崩す作戦が有効だと思います。今年の僕たちは、昨年とは違うということを見せつけてやりましょう」
 胸を張って言うと、安納先生が鼻で笑った。
「フン、言うようになったな」
 その言葉を聞いて、僕はむしろ自分に驚いていた。つい最近までの僕は、内気で、人の目を気にして、どこかに隠れていたような存在だったのに。今では自信を持って意見を言える自分がいる。この一年で、ありさ先輩たちとともに歩んできた時間が、僕に大きな成長をもたらしてくれたことに気づいた。
「安納先生のおかげです」
 と、少し冗談を交えて返すと、その場の緊張感が少し和らいだ気がした。
「生意気な奴だ。よし、宮城、これでいいな?」
「はい、もちろんです」
 ありさ先輩が力強く頷いた。その顔には確かな自信が浮かんでいる。
 頼りになる先輩だと改めて思う。しかし、この作戦はありさ先輩が常に動き続け、相手に隙を与えないようにする必要がある。もし囮だと見抜かれたら、そこを突かれる危険もある。その負担を考えると、僕の胸には不安と心配が入り混じる。
「ありさ先輩、すみません。出しゃばりました」
 僕が謝ると、先輩はその意図を汲んでくれたのか、察したように優しく微笑んだ。
「全然大丈夫だよ。むしろ嬉しいよ。私をこんなにこき使ってくれるなんてね」
 そんな冗談を言われ、僕は慌てて言い返した。
「え、えー!? 違います、そんなつもりじゃないです!」
「ふふ、ホントかなあ? じゃあ、この試合に勝ったら、みっちゃんにアイス奢ってもらおうかな」
 そう言って、ありさ先輩がピースサインをしてくれた。
 僕は、胸の奥に一輪の花が咲いたような、満たされた気分になった。その「みっちゃん」という響きが、僕の体を昂らせる。先輩に呼ばれることが、嬉しくて仕方がなかった。

 ーーでも、その呼び名って二人の時だけじゃなかったっけ……。

 まあとにかく、細かいことは抜きして、素直でいればいい。
「はい、了解です! 一個でも二個でも、任せてください。」
 そのやり取りの最中、試合開始の時間が迫っていることを告げられた。
「ありさ先輩!」
 コートに向かおうとする先輩を呼び止める。
「なに?」
 先輩が怪訝な表情で振り返る。僕は少し躊躇ったが、
「僕も、信じてます」
 その言葉に、先輩は一瞬驚いたような表情を浮かべた。しかし、先輩はすぐに微笑んでくれた。
「うん、ありがとう。私も信じてる。それじゃ、行ってきます」
 そう言って、先輩は堂々とコートに向かっていった。その背中を見送りながら、僕は心の中で静かにエールを送った。
 会場に響くシュートの音、スニーカーが床をこすり上げる音、それに重なる応援団の熱狂的な声援。インターハイの一回戦が始まった瞬間から、その空気は一気にヒートアップした。地方の体育館は、僕が慣れ親しんだ静かな田舎の体育館とはまるで別世界だ。どこを見ても、人、人、人。観客席は、選手たちの家族や学校関係者、地元のバスケファンで埋め尽くされている。息を吸い込むと、夏の汗と、熱気と、スポーツドリンクの甘酸っぱい匂いが混ざり合った独特の香りが鼻を突く。
 僕は、女子バスケ部のマネージャーとして、選手たちがウォーミングアップを終えるのをじっと見つめていた。ボールがコートに弾む音、それに続くありさ先輩の鋭い視線。先輩はこの試合の要だ。それは誰もが知っている。相手チームも当然、その事実を理解している。
 試合開始のホイッスルが鳴り響いた瞬間、会場の空気は一気に熱を帯びた。
 相手チームは予想通り、ありさ先輩に対して徹底的なマンマークを敷き、その上でフェイスガードでさらに圧力をかけてきた。先輩がコートに立つだけで、その周囲には相手選手がぴったりと寄り添い、まるでその自由を封じ込めるためだけに存在しているかのようだった。その役割を担っているのは相手チームのキャプテンで、彼女はチームを牽引する実力者。まさに、最大の壁だ。
 この光景からも明らかなように、対戦相手は、ありさ先輩さえ封じれば勝てると確信しているに違いない。それほど露骨な戦術だった。
 僕は事前にこの展開を予測していた。けれど、実際に目の前でその状況が繰り広げられると、想像以上に不安が胸を締めつけた。
「やはり厳しい……」
 弱気な思いが頭をかすめた。ありさ先輩が封じられると、チームは苦戦を強いられる。昨年の大会で味わった苦い現実が、また目の前に迫ってきているかのようだった。
 スコアボードを見るたびに、相手チームがじわじわとリードを広げていく。
 他のメンバーたちも必死に食らいついているけれど、その動きにはどこか硬さがあった。コートに立つ全員が、会場の重い緊張感と相手からのプレッシャーを感じ取っているのだろう。いつものリズムがまったく掴めていない。それでも、僕はありさ先輩に視線を送った。先輩は冷静そのもので、いつも通りチームの中心に立っている。でも今は、まだその力を抑えなければいけない。今は負けているけど、致し方ない。試合の流れを変える瞬間までは……。

 ーー今は我慢です。

 試合が進むにつれて、僕の体温はじわじわと上がり始めた。息が詰まるような緊張感が、会場全体を包み込んでいるのを感じた。観客席のバスケ部の仲間たちも、固唾を飲んで試合を見守っている。みんなが一つの瞬間に集中している。
 でも、僕は知っている。今年の僕たちは違うんだと。昨年、ありさ先輩にばかり頼っていたチームとは違う。全員が、これまでの練習で培った力を発揮する準備ができている。
 ベンチの端で、僕はノートを握りしめ、先輩の動きをじっと見つめた。思い出すのは、特訓での先輩の姿だ。毎日遅くまで、誰もいない体育館で黙々とシュート練習を続ける先輩の姿。あの時間が今、このコートに形として現れる瞬間が来るはずだ。その予感は確かにあった。先輩の一本のシュートが、試合の流れを決定付ける。そんな確信が、僕の中で膨らんでいった。
 試合は依然として相手チームが優勢だった。相手のエースの得点が次々に積み重ねられ、僕たちは苦しんでいた。場内の雰囲気も次第に重くなり、応援席からも焦りの色が見え始めていた。
 だがふとした時、その瞬間が唐突に訪れた。味方選手の連携が華麗に決まり、会場にどよめきが走ったのだ。まるで計算されたようなパス回しに、相手は対応できず、何が起きたのかわからないといった感じで動揺が走る。
 そのポイントを機に、徐々にスコアボードに連続してポイントが加算されていく。相手チームはたまらず、初めてタイムアウトを要求した。これまでにない展開だった。
「ここが試合の転換点だな」
 安納先生がつぶやいた。僕も、ありさ先輩も、まったく同じことを考えていた。互いに目が合い、自然と頷き合う。
 タイムアウトが終わり、試合が再開される。次の瞬間、ついに先輩が動き出した。長い間、相手ディフェンダーに密着されていた先輩が、ついにその隙を見つけたのだ。軽やかなフェイントで相手をかわし、ボールを受け取った瞬間、迷いなくリングへとシュートを放った。
「きたっ!」
 僕は思わず声をあげた。ボールが空中で美しい弧を描き、ネットを揺らした。その瞬間、体育館中が歓声に包まれた。
「ナイスシュート!」
 安納先生がベンチで大声を上げ、僕も心の中でガッツポーズを決めた。
 その一瞬で、流れが変わった。相手チームは先輩のシュートに動揺し、これまで優勢に進めていた流れが一気に崩れ始めた。ありさ先輩の特訓の成果はここからさらに発揮される。相手のディフェンスをものともせず、鋭いステップと正確なシュートで次々と得点を重ね、チーム全体が勢いに乗る。
 そして、第3クォーターの終盤に差し掛かると、それが顕著に現れ始めた。先輩のマークも完全に役目を果たせなくなっていた。そうなれば、もうありさ先輩の独壇場だ。まるで水を得た魚のように自由自在にコートを駆け回り、チーム全体が先輩の起こすビッグウェーブに乗り始める。チーム全員が勢いづき、一体感がどんどん増していく。

 ーーこれだ、これがチームだ。先輩一人に頼るのではなく、全員が力を出し切っている。僕も、ベンチにいるだけじゃない。この瞬間のために、何度も戦略を考えてきた。全員で勝つんだ。僕たちは、確かに去年とは違うんだ。

 生き生きとした表情の選手たちは、本来の動きを取り戻し、時折笑顔も見せるようになっていた。
 こうなったらもう止まらない。パス回しが速くなり、シュートチャンスを冷静に見極め、味方選手が、特にスリーポイントラインの外から鮮やかなシュートを決めたとき、応援席から大きな歓声が上がり、会場が揺れるような感覚に包まれた。
「よし!」
 僕は無意識に拳を握りしめた。ベンチに座っている他の部員も、全員が一瞬にして活気づいたのがわかった。ありさ先輩がマークされていても、チーム全体で戦える。全員が一丸となって、今この瞬間を戦っている。
 そして第4クォーターに入った直後、ここでもまたありさ先輩が動き出す。その瞬間、まるでコート上に追い風が吹いたようだった。相手ディフェンスが一瞬、先輩の動きを見失った隙を逃さず、メンバーからのロングパスが先輩の手に届いた。観客が息を呑む音が聞こえるほど、全員がその瞬間に集中していた。ありさ先輩が一歩、二歩とコートを駆け抜ける。
 チームメイト全員の視線が先輩に集まり、観客席も静まり返った。
 ディフェンダーが先輩を厳しくマークしてくるが、先輩は冷静だった。まず、ボールを片手で軽くドリブルしながら相手の動きを見極める。そして、瞬間的にダブルバックチェンジを繰り出した。素早く左右の手でボールを切り替え、ディフェンダーの足がもつれる瞬間を狙う。この動きに観客はざわめく。相手が完全に反応しきれないまま、先輩はすかさずユーロステップに移行する。片足を大きく踏み出し、一度フェイントを入れて相手を完全にかわす。まるで、鳥が籠から解き放たれたかのようなその動きは、夢中で魅入ってしまうほどの、自由なスピードとテクニックを秘めていた。
 しかも、ありさ先輩の長いポニーテールが振り乱れる様は、まさに迫力満点だった。
「おおっ!」
 観客の声が漏れる中、先輩はさらにフェイダウェイシュートに入った。ジャンプしてから体を後ろに倒し、ディフェンスのブロックを完全に避ける。空中での一瞬の静止感とともに、観客の期待が最高潮に達する。先輩のフォームはこれ以上ないというほど美しく、ボールがお手本のような弧を描いて飛んでいく。全員がその行方を固唾を呑んで見守る。
 シュートが決まった瞬間、歓声が一気に爆発する。観客席が揺れるほどの声援が響き渡り、チームメイトたちも歓喜の声を上げた。
 けど、当のありさ先輩は特に喜ぶわけでもなく、軽く息をつくと、普段と変わらぬ凛とした表情で再度コートを駆け抜ける。まるで、今の一連の動きが難なくできることを証明するかのように。

 ーーありさ先輩、やっぱりすごい……。

 僕は先輩のプレーに息を呑みながら、心の中では何度もガッツポーズを決めた。これがありさ先輩だ。どれだけ苦しい状況でも、最後には決めてくれる。
 先輩のゴールで、すでに勢いまでも味方につけた僕たちのチームは、一気に相手チームをその流れで飲み込んだ。
 残り時間が少ない中、僕たちのチームは逆転に成功し、観客の応援もますます熱を帯びていた。まるで会場全体が僕たちの味方になったかのように感じた。
 ここで試合終了のブザーが鳴り響いた。スコアボードには、わずかに相手チームを上回る数字が刻まれていた。
「やった! 勝った……!」
 僕は全身から力が抜けると同時に、瞳から涙を溢れさせた。

 ーー勝ったんだ……。

 しかも、この勝利はただの勝利じゃない。ありさ先輩だけに頼らない、チーム全員の力で勝ち取った勝利だった。この瞬間、僕たちは確かに去年とは違う、成長したチームになったんだと実感した。
 ありさ先輩も、その手でボールを抱え、メンバーと満面の笑みで飛び跳ねていた。

 ーー良かった……本当に……。
 
 僕は素直に感動していた。頭が真っ白になったけど、僕たち全員がこの瞬間を待ち望んでいたんだ。ありさ先輩が笑っている、その笑顔を見た瞬間、僕の中に溜まっていた緊張が一気に解放された。全然涙が止まらない。でも、それが悔しさじゃないことに気づいて、僕は心の中で何度も何度も感動した。
 そしてこのバスケ部なら、どこまでだって勝ち進んでいける、そう信じさせてくれるような勝利だったと思わずにはいられなかった。
 
「よし、初戦突破祝いだ!  お前ら、昼飯を食いに行くぞ!」
 いつになくテンションの高い安納先生が、部員たちやその保護者たちの前で声高々に宣言した。先生の表情には、今日の勝利に対する喜びが溢れている。
「でも先生、流石にこの人数は……」
 部員の一人が、おずおずと口を開いた。僕も同じように思った。どうやってこの大勢を一緒に連れて行くつもりなんだろう。
「ははは!  まったく問題ない。もう予約してあるからな!」
 先生は自信満々に答える。
 僕は一瞬、固まった。

 ーー予約? まさか試合の結果がわからないうちに、あらかじめ準備していたのか? 
 
 この大胆さに、頭が追いつかなかった。
「予約って、どこにですか?」
「そこだ!」
 先生は少し離れたところにある、二階建ての店舗を指差した。
「私は勝つとわかっていたからな、あらかじめ抑えていたんだ」
 先生は誇らしげに言った。その言葉を聞いた瞬間、僕は背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。

 ーーいや、もし負けていたらどうするつもりだったんだ……。

 その場面を想像するだけで、手のひらがじっとりと汗で湿る。もし負けていたら、みんなの表情はどんなだっただろうか。きっとお通夜状態だ。思い浮かべるだけで、心臓がぎゅっと締め付けられる。
「先生、お金は?」
 誰かが冷静に質問した。僕も同じことが気になっていた。これだけの人数分の食事代は馬鹿にならないはずだ。
「おう、安心しろ。部費から出す!」
 安納先生の言葉に、部員たちの間で一瞬ざわめきが起きた。部費って、そんなに簡単に使っていいのか?  不安が胸をつき上げる。
「……それっていいんですか?」
 恐る恐る誰かが確認したが、僕も同じ疑問を抱いていた。
「知らん!」
 先生は無邪気な笑みを浮かべて言い放った。
「問題になりません?」
 さらに突っ込んで尋ねる声が上がる。僕たちは何かトラブルに巻き込まれるのではないかと、再び不安が募った。
「学校?  委員会?  上等だ! それにウチには最高のマネージャー兼私の頭脳である美原がいるからな。ははは!」
 先生は大らかに笑い飛ばすが、その無鉄砲な発言と態度に、僕の冷や汗は止まらなかった。
「大変だね、マネージャーさん」
 隣りにいたありさ先輩が、まるで他人事のように言った。

 ーーもう、勘弁してください……。

 大事な初戦が終わっても、僕の気苦労が尽きることはなかった。
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