元カノ≠彼

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始まり、そして再会のとき-2

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 大勢の新入生たちを相手にして、軽くフォームを教えて簡単な打ち合いの相手をする。ピンポン玉に当てるだけで精一杯の初心者とラリーを続けるというのは結構難しく、個人を構う余裕はない。気がつけば終わりの時間になっていた。

 体験に来ていた一年生を見送って、僕たち上級生は片付けをしてから体育館を出る。わいわいとくだらない話をしながら、校舎を抜けて校門に向かった。

「あれ、さっきの新入生じゃね?」

 校門にもたれて待つ影が見えて、仲間からそう声を掛けられる。僕と海斗が話をしているのを見て、知り合いだと誤解しているらしい。

 僕たちが近づいていくと、ぺこっと頭を下げた。

「お疲れ様でした」

 まっすぐに僕を見ていて、明らかに待っているらしい海斗に足を止めると、仲間たちは次々と僕の肩を叩いて通り過ぎていく。

「おつかれー」
「新入生、また明日も来いよな」

 一通り見送って、僕と海斗の二人だけが取り残される。もうすっかり日が落ちていて、向かい合っていてもはっきりと顔は見えない。

「何か用だった?」
「いえ、一緒に帰りたくて。隣の駅ですよね?」
「うん」

 隣に並んで歩いていると、まだ出会って数時間しか経っていないのになんだか懐かしいような気持ちと、初対面が故の何を話したら良いのかわからない緊張感が混ざって、妙な気持ちになっていた。けれど、横目で見る海斗はどこか嬉しそうにしていて、とても今日会った人間と歩いているようには見えない。

「僕のこと、よく知ってるんだね」

 門で待ち伏せしていたことといい、何が目的なのだろうとほんの少しだけ警戒心が湧き上がるが、それも海斗の言葉ですぐに霧散した。

「奈海に色々のろけられましたから。初デートの場所、好きなアーティスト、好きな選手。もちろん祐樹先輩の好きな食べ物も」

 足を止めたのは、公園を訪れていた屋台の前。

「帰る前に食べていきませんか?」

 それは、今日サークルが終わったら来ようと思っていたクレープ屋で、僕は一も二もなく頷いた。僕のことをよく知ってるというのは、誇張表現ではないらしい。
 季節限定メニューのフルーツミックスクレープを頼み、海斗は定番のチョコバナナクレープを頼む。ベンチに座って、まだ少し肌寒い風を感じながらクレープの甘さに頬を綻ばせた。

「サークル体験、どうだった?」
「楽しかったですよ。祐樹先輩と知り合いになれましたし、直接教えてもらえて嬉しかったです」

 それはサークルとは関係がない……。とはいえ、そう言われて悪い気はしない。

「僕も、こうやって仲良くなれそうな後輩ができて安心したよ」
「祐樹先輩……」

 海斗のクレープを食べる手が止まり、頬を膨らませた。

「最初なのでそれでいいですけど、すぐに前言撤回してもらいますからね」

 前言撤回って……まだ仲が良くないという念押しをされたんだろうか。帰りに私的な話をして、一緒にクレープを食べるのは十分に仲が良いと思ったのだけれど。

「なんか、ごめん」
「わかってないのに謝るの、祐樹先輩の悪いとこですよ! ……って奈海が言ってました」

 びしっと指さして怒るそぶりは本当にそっくりで、一瞬本物と錯覚してしまった。

「悪かったって。ほら、これでも食べて機嫌直して」

 つい、いつもの癖で自分のクレープを差し出す。甘いものが好きな奈海は、機嫌が悪いときでもこうするとすぐにニコニコと笑ってくれたから。

「本当に、食べて良いんですか?」

 一瞬驚いた表情の後、試すようにじーっと見つめられ、そこでようやく目の前の相手が奈海ではなく海斗であることを思い出す。けれど、僕から言い出した手前、今更ダメとも言えずに頷いて差し出す。

「味見だけだよ」

 僕の心の内を知ってか知らずか、海斗はぱくりと遠慮がちにクレープの端の方に噛みついた。さっきまでの態度とは裏腹な様子がなんだか可愛く見えて、つい口を挟んでしまう。

「それじゃ生地を食べてるだけだから。ほら、真ん中食べて」

 半ば強引に食べさせると、今度はいっぱいになった口を頑張って動かして咀嚼していた。その様子を眺めていて、頬についたクリームに気づいて取ろうと腕を伸ばすと、慌てて距離を取り自分で乱暴にこする。

「俺、子供じゃないんですけど」

 憮然とした表情がまた面白い。ごめんごめんと謝って、渋々許してもらう。初めてのはずなのに、日常のような安心感を覚えた。
 クレープ屋が店を片付け始めたのを見て、僕たちも食べ終えてベンチから立ち上がる。公園を出て少し歩いたところで、別の道へ。

「それじゃ、僕はこっちだから」
「はい! また明日サークルにお邪魔しますから、練習付き合ってくださいね」
「もちろん。待ってるよ」
「それから! 明日はちゃんと名前で呼んでくださいね! じゃあ、祐樹先輩お疲れ様です!」

 名前で? と疑問符を浮かべている間に、海斗はそう言い残して曲がり道に消えていった。家までの帰り道、今日会った出来事を思い出してみてふと気づく。海斗は話すたびに僕のことを呼んでくれていたのに――。
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