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第2部-ファフニール王国・成長編-
029_告白その1
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その日は恒例となりつつあった三人で森の訪れていた。一通り辺りを散策し持ってきた昼食をとるため泉の周りに腰を落ち着ける。
なんでもない会話が続きあっというまに時間が過ぎる。それもやがて途切れ、穏やかな風はわずかに冷たい風を含み始めていた。
「今度舞踏会が開かれる。お前も来い」
なんの前触れもない言葉に、リリアは目を丸くした。
「え、そんな舞踏会なんて」
「年頃の娘のいる家にはおよそ招待状が送られる。気後れする必要なんてない」
「私、行ったことないのに」
「普段茶会には行ってるんだろ? たいして変わりゃしねーよ」
助けを求めるようにオズウェルを振り返ったリリアに返されたのは、こうなっては諦めろという頷きのみ。
どうやら二人の中でリリアの出席は確定事項らしい。
「表向きはただの舞踏会ですが、実はレオファルドの妃選びの場なのです。レオファルド直々の招待など、滅多にございませんよ」
「そうだぞ。侍女に精一杯着飾ってもらえ」
「う、うん。お願いしてみる」
そう答えて、ふとリリアは気づく。
「あれ、レオってそういう行事が嫌いなんだと思ってたけど、わざわざ妃選びなんて場を設けるなんて意外」
「あー、なんだ。俺も年頃だからな。選び放題とはいえ、対外的にはこうやって公平に思えるようにしておいたほうがいいだろ?」
「じゃあもう選ぶ相手は決まってるんだ」
レオファルドの言葉に、複雑な表情を浮かべたリリア。祝いたい気持ちと、自分の知らない誰かがレオファルドの妃になることへの若干の嫉妬。だがそんな感情も、次の言葉で吹き飛ぶ。
「お前だ」
突然の言葉に、リリアの動きが止まる。オズウェルがそばにいることはもう意識にはなかった。
そっとレオファルドを見上げたリリアを、レオファルドはまっすぐに見つめ返す。
言葉が出てこないリリアに、たたみかけるようにレオファルドは繰り返す。
「俺はお前を妻にしたい。お前は?」
「私、は」
戸惑うリリア。
レオファルドのことは好きだ。けれど、頷けない。
「無理にとは言わん。命を狙われることになるからな」
「っ……」
「お前のことは守ってやる。それでも狙われる側である意識は必要だ。覚悟ができない間は頷くものじゃない」
「レオ……」
どうしたらいいかわからない。そんなリリアの様子に、真剣だった表情を緩めたレオファルドは肩を竦めて空気を戻す。
「さ、そろそろ帰るぞ」
雰囲気の変化について行けないリリアに、レオファルドは得意そうに笑って頬をつついた。途端にリリアの態度は元へと戻り、反射的に声を上げる。
「ちょっとレオ!」
「文句は聞かねー。オズウェル、行こうぜ」
「まったく、あなたという人は。リリア嬢、そろそろ日が暮れます。戻りましょう」
呆れた口調のオズウェルだが、レオファルドを諫めるつもりはないらしくリリアの困った表情を優しく見守るだけだ。
「オズウェルも! レオが意地悪ばっかりするんだから」
「それがレオファルドの愛情ですから、諦められた方が良いかと」
「そうだぞ。いい加減素直に受け入れろ」
「もうっ!」
困りながらも照れた声があたりに響き、日が落ちきるまでいつまでも賑やかな笑い声が続いたのだった。
なんでもない会話が続きあっというまに時間が過ぎる。それもやがて途切れ、穏やかな風はわずかに冷たい風を含み始めていた。
「今度舞踏会が開かれる。お前も来い」
なんの前触れもない言葉に、リリアは目を丸くした。
「え、そんな舞踏会なんて」
「年頃の娘のいる家にはおよそ招待状が送られる。気後れする必要なんてない」
「私、行ったことないのに」
「普段茶会には行ってるんだろ? たいして変わりゃしねーよ」
助けを求めるようにオズウェルを振り返ったリリアに返されたのは、こうなっては諦めろという頷きのみ。
どうやら二人の中でリリアの出席は確定事項らしい。
「表向きはただの舞踏会ですが、実はレオファルドの妃選びの場なのです。レオファルド直々の招待など、滅多にございませんよ」
「そうだぞ。侍女に精一杯着飾ってもらえ」
「う、うん。お願いしてみる」
そう答えて、ふとリリアは気づく。
「あれ、レオってそういう行事が嫌いなんだと思ってたけど、わざわざ妃選びなんて場を設けるなんて意外」
「あー、なんだ。俺も年頃だからな。選び放題とはいえ、対外的にはこうやって公平に思えるようにしておいたほうがいいだろ?」
「じゃあもう選ぶ相手は決まってるんだ」
レオファルドの言葉に、複雑な表情を浮かべたリリア。祝いたい気持ちと、自分の知らない誰かがレオファルドの妃になることへの若干の嫉妬。だがそんな感情も、次の言葉で吹き飛ぶ。
「お前だ」
突然の言葉に、リリアの動きが止まる。オズウェルがそばにいることはもう意識にはなかった。
そっとレオファルドを見上げたリリアを、レオファルドはまっすぐに見つめ返す。
言葉が出てこないリリアに、たたみかけるようにレオファルドは繰り返す。
「俺はお前を妻にしたい。お前は?」
「私、は」
戸惑うリリア。
レオファルドのことは好きだ。けれど、頷けない。
「無理にとは言わん。命を狙われることになるからな」
「っ……」
「お前のことは守ってやる。それでも狙われる側である意識は必要だ。覚悟ができない間は頷くものじゃない」
「レオ……」
どうしたらいいかわからない。そんなリリアの様子に、真剣だった表情を緩めたレオファルドは肩を竦めて空気を戻す。
「さ、そろそろ帰るぞ」
雰囲気の変化について行けないリリアに、レオファルドは得意そうに笑って頬をつついた。途端にリリアの態度は元へと戻り、反射的に声を上げる。
「ちょっとレオ!」
「文句は聞かねー。オズウェル、行こうぜ」
「まったく、あなたという人は。リリア嬢、そろそろ日が暮れます。戻りましょう」
呆れた口調のオズウェルだが、レオファルドを諫めるつもりはないらしくリリアの困った表情を優しく見守るだけだ。
「オズウェルも! レオが意地悪ばっかりするんだから」
「それがレオファルドの愛情ですから、諦められた方が良いかと」
「そうだぞ。いい加減素直に受け入れろ」
「もうっ!」
困りながらも照れた声があたりに響き、日が落ちきるまでいつまでも賑やかな笑い声が続いたのだった。
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