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23.私の答え

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「普段見慣れているものじゃつまらないかと思ったんだが」

 表面上は感情の揺れが見当たらない言葉も、よくよく聞けば照れ隠しだとわかる。

「シルヴェさんからもらえるものなら何でも嬉しいですよ。もちろん、何もなくとも会いに来てくださることが一番ですけど」
「そうか。ならよかった」

 ほんの微かに耳が赤くなっていた。シルヴェさんは、表情よりも耳のほうが感情がでるのだと気づいてから、結構表情豊かだと分かる。私の視線の先に気づいたのか、シルヴェさんは咳払いをする。私の視線がシルヴェさんに向いたのを見て改めて口を開く。

「俺から頼みがあるんだが」

 さっきまでとは一転して真剣な表情になったシルヴェさんに、私もつられて真顔になる。

「なんですか?」

 ……。話を待つがなかなか話は始まらない。そのまま黙って待つと、シルヴェさんは深く深く深呼吸をする。

「もうこんな無茶はするな。いや、させない。だから俺に守らせてくれ」

 告げられた言葉に、思考が止まった。確かにこの間は守ってもらった。でも、きっと今の言葉の意味はそうじゃない。

「それはどういう……」

 おそるおそる意図を尋ねる。目が合わせられない。思っていることとあっているのなら、なおさらのこと。

「まだオラニ王国に戻りたいと思っているのは知っている。その上で言う。帰ることを諦めて、俺と一緒にいてくれないか」

 帰りたい気持ちは消えていない。けれど、答えは決まっている。

「はい」

 ベッドのふちに置かれていた手を取った。視線が合い、自然と笑顔を交わす。ほんの少し、私の道が定まった気がした。
 ほっとしたのも束の間、部屋のドアが勢いよく開き大きな音を立てた。

「おめでとうリラ!」

 部屋に入ると同時に聞こえた声に、慌ててシルヴェさんの手を離して布団の中にしまう。

「ナディヤ? どうしてここに……」

 驚いていると、わざとらしく毛先を指に巻きながらリラが部屋に入ってきた。後ろにはロイス兄さん。

「いやーそんな気がしていたのよねぇ」

 わざとらしい言葉だが、シルヴェさんが驚いていることから、シルヴェさんも知らなかったらしい。信じられないと、非難の視線を向けたところでリラはどこ吹く風。ロイス兄さんすら視線をそらす。追求してやろうと、口を開こうとしたところで、今度はシルヴェさんが私の手を取った。
 外野はもう無視することにするらしい。

「リラ、俺と……」

 シルヴェさんの口元は動いていたが、手を繋いだことで騒ぐナディヤとロイス兄さんの声で、肝心の言葉が聞こえなかった。うまく伝わらなかったことがわかったシルヴェさんは、肩を竦めると私の体を抱き寄せた。外野の声も大きくなるが、距離が近くなったことで自然と神経が張り巡らされる。これならば聞き逃すことはない。

「好きだ。結婚してくれ」

 耳元で響いた低い声に、私はただ頷く。新しい人生はこれから始まる。
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