交差点の奇跡

あの交差点で・・・

ある晴れた春の朝、桜の花びらが舞い散る中、僕は高校の通学路を急いでいた。新学期が始まって間もないこの季節、期待と不安が入り混じる心地よさが僕の胸を満たしていた。

「遅刻しそうだ…」時計を確認し、思わず足を速める。それでも、心はどこか浮ついていた。この道を通る度に、未来への希望が湧き上がってきたからだ。

交差点に差し掛かったとき、向こうからも急ぎ足で歩く女子生徒が見えた。すれ違う瞬間、互いに気付くのが遅れた。次の瞬間、僕たちは激しくぶつかり合い、その衝撃で思わず地面に倒れ込んだ。

「ごめんなさい、大丈夫ですか？」と相手が申し訳なさそうに言った。それは、校内でも評判の美しい女の子、桜井あかりだった。僕は何か声を出そうとしたが、目の前の光景に唖然として言葉を失った。

地面に転がっているのは、まさに自分の体そのものだったからだ。驚愕と混乱の中で立ち上がると、目の前にいる彼女の体を動かせていることに気付く。僕たちの体は、ぶつかった衝撃で入れ替わってしまったのだ。

「これって、どういうこと？」あかりの声が僕の口元から漏れた。それに対し、僕の体が驚いた顔で見返してくる。

「わからない…でも、落ち着いて考えよう」と、僕の体に入ったあかりが冷静に提案した。

学校に着く頃には、奇妙な入れ替わりに慣れ始めていた。授業ではお互いの特技や学んだことを活かしながら、同級生たちと接する。休み時間は心の中で会話をし、どうしたら元に戻れるのかを必死に考えた。

放課後になり、再びあの交差点に立った。どうにかして元に戻りたいと思いながら、顔を見合わせる。

「またぶつかってみる？」あかりが冗談交じりに提案した。

「試してみる価値はあるかもね」と、笑いながら同意した僕は、再び彼女と向き合った。

軽く走って接触した瞬間、光が視界を覆った。そして次に目を開けると、僕は自分の体に戻っているのを感じた。

「戻ったみたいだね」あかりが笑顔で言った。それは、まるで何事もなかったかのように穏やかな笑顔だった。

「ありがとう、君のおかげでなんとかなったよ」と、僕も心の底からほっとしていた。

それから、僕たちはまるで長い間の友人のように自然に話し、帰り道を一緒に歩いた。桜の花びらが再び舞い始めたとき、僕はこの不思議なできごとを通じて、新しい友人を得たことに感謝していた。彼女を見送り、日常に戻るとき、心の中には少しだけ特別な思い出が刻まれていた。