5 / 7
第五話
しおりを挟む僕とメリーさんは、図書室を出た。
赤い廊下が続いているだけで、しーんと静まり返っていた。
「大丈夫そうね。」
メリーさんは、そういって真っ赤な光が差し込む廊下を進みだした。
目的地はもちろん、3階の女子トイレ。
カシマさんがいた場所で、今はトイレの花子さんがいるはずのトイレ。
「メリーさん。3階へは、こっちから行ったほうがいいよ。」
「そう?じゃあ、えっと。その、カズキ?そのね。」
メリーさんは、よく分からないことを言い出した。
「メリーさん?」
「あの!私を背負って運んでほしいの!」
メリーさんは、恥ずかしそうに言った。
「分かった。でも、そんなに恥ずかしがることじゃないんじゃ?」
僕がそう言っている間。
メリーさんは、無言で僕に背中に乗ってきた。
「私にも、都市伝説としての矜持があるのよ。」
メリーさんは、しっかりと僕の背に乗ってから、小声でそんなことを呟いた。
僕は、これまで散々メリーさんを背負ってきたので、なにを今さらと思った。
だけど、そんなことを気にしているメリーさんは、やっぱり面白いな、と思った。
「じゃあ、行くよ。」
「うん!」
そんなやり取りをして、僕はメリーさんを背負いながら歩き出した。
真っ赤な廊下を歩いてく。
窓の外はこの世の終わりのような赤い太陽と赤い空間だ。
僕は、階段に向かって歩いた。
メリーさんを背負ったまま、階段を上り、僕たちは3階のトイレの前に来た。
一度、カシマさんによって連れてこられた場所だ。
そのことを思い出すと、身震いがした。
だけど、意を決して僕は女子トイレに入ることにした。
「よし、入るか。」
「カズキ。」
メリーさんはそう言って、僕の背から飛び降りた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
メリーさんは、僕にそう言った。
そして女子トイレに向かって歩き始めた。
嫌な思い出しかないトイレ。
だけど、僕も意を決して、メリーさんの後に続いた。
3階の女子トイレでトイレの花子さんと会うのだ。
もちろん向かうのは、トイレの一番奥の個室。
メリーさんと僕は、一番奥の個室へと急いだ。
トイレの一番奥に到着すると、個室のドアを3回ノックした。
トン、トン、トン。
「花子さん、遊びましょう」
メリーさんがそういった。
「はぁい。」
トイレの個室の中から声がした。
女の子の声だ。
これがトイレの花子さんなのか?
メリーさんの隣にいる僕は、ドアに手をかけた。
「…えっと。ドアは私が開けるんだけど。」
個室の中にいた女の子はそう言った。
その女の子は、白いブラウスに赤い吊りスカートを履いている。
前髪をぱっつんと切りそろえ、おかっぱの髪型をしている。
どこからどうみてもトイレの花子さんだ。
花子さんは、なぜか手にトイレ用洗剤を持っていた。
「あっ、ごめん!」
僕は、反射的に謝った。
「ここは女子トイレだよ?どうして男子がいるの?」
トイレの花子さんは、僕にそう言った。
僕は、ここが女子トイレであることを急に思い出して恥ずかしくなってきた。
「えっと、あなたがトイレの花子さんでいいの?」
メリーさんが、もじもじしている僕の隣で冷静に話を変えた。
「そうよ。私は花子。トイレの花子さんと呼ばれているの。」
赤いスカートと白いブラウスの花子さんは、そういった。
「うーん。いたずらは困るのよね?」
花子さんは、手にした洗剤をトイレの隅に置いた。
「何か用かしら?用がないなら、さっさと帰ってくれないかしら?今、トイレに戻ってきたばかりで、忙しいのよ。」
トイレの花子さんは、じっとこっちを見てそういった。
「えっと。前にカシマさんがいたので…。」
メリーさんは、そう言い始める。
「カシマさん!…ああ、あの。そのせいで私は。…このトイレから出ていくことになっていたのよ。彼女はどこか行っちゃったから、戻ってきているんだけどね。」
花子さんは、どこか遠い目をしながらそう話した。
僕は、メリーさんと花子さんの話を聞いている。
花子さんは、僕たちと話すよりもトイレ掃除がしたいようだ。
「えっと、そのカシマさんを追い払ったのは、ここにいるメリーさんなんです。」
僕がそういうと、どこかメリーさんは得意げだ。
僕は、メリーさんを持ち上げる作戦にしたのだ。
「めりーさん?えっと、あなたがメリーさんなの?」
花子さんは、メリーさんを見た。
そして、少し考え込んでいるようだ。
「……カシマさんは、このトイレに永久に戻ってこれないわ。」
「どういうこと?」
メリーさんが話を始めた。
すると花子さんは、興味深そうに聞いてきた。
「私は、カシマさんの話を逆手にとって、カシマさんの話をさとるくんという、えっと。…都市伝説仲間にしたのよ。」
「今のカシマさんは、実体のない都市伝説を追いかけているの。永久に捕まえられないモノを追っているわ。」
「あはは。なにそれ?面白いわ。」
花子さんは、メリーさんの話を聞いて笑った。
「それにしても、あの女が出て行ってくれて、良かったわ。」
花子さんは、そう言ってメリーさんのほうを見た。
「メリーさんだっけ?何か私に用でもあるのかな?」
「はい、実は…。」
それから、メリーさんは、花子さんに虚籠について話を始めた。
「なるほどー。図書室のお姉さんに話を聞いたのね。」
花子さんは、メリーさんの話を聞いて納得したようだ。
「うーん。それで、メリーさんともう一人の…。」
「僕は、中村カズキといいます。」
僕は、花子さんに名前を名乗った。
「ああ、カズキくんね。二人は、この校舎から出たいのね?それなら…。」
花子さんは、そういうと同時に手が光りだした。
しばらくすると、花子さんの光っていた手の先には、手鏡が握られていた。
ハンドミラーだった。
手で握る柄があって、先には丸い鏡が先についている。
ちなみに色はピンクだ。
「これをあげるわ。」
花子さんがメリーさんにそういって、手鏡を差し出してきた。
メリーさんは、そのピンクの手鏡を受け取った。
「この手鏡には、破魔の鏡がついてるの。」
「「破魔の鏡?」」
僕とメリーさんは、花子さんに聞き返した。
花子さんは頷いた。
「虚籠は、光に弱いの。ただの光でも怯ませられると思うけど。この鏡で反射した光を当てると虚籠は、消滅し始めるはずよ。」
花子さんは、そういって続けた。
「虚籠は、害意のある存在を呼び続けている。…カシマさんも虚籠が呼んだ存在の一つよ。だから私はちょっと許せないわ。」
花子さんは、力を込めてそう言った。
「虚籠の力を弱めることができれば、現世に戻れるはずよ。完全消滅は難しいでしょうけど、その手鏡に光を反射させて虚籠に当てればいいわ。そうすれば…。」
「そうすれば?」
僕は、花子さんに聞き返した。
「虚籠の力が弱まって、現世との繋がりができるはず。特にカズキは、人間だから。異物として、すんなりと校舎から出されるんじゃないかしら?」
「分かった。いや、ちょっと待てよ?」
僕は、思った。メリーさんは?
「メリーさんは、脱出できるのか?」
「うーん。それは分からないわ。」
花子さんは、そんなことをいった。
「大丈夫よ。カズキ。現世にもどったら、カズキに電話するから。」
メリーさんは、そういった。
ああ、そうなのだ。メリーさんは、電話先にワープできるのだ。
僕は、ようやく満足した答えを得た感じだ。
「私には、よく分かんけど。大丈夫なのね?」
花子さんは、メリーさんの話し方からそう判断したようだ。
メリーさんは、手鏡をまじまじと見ていた。
「じゃあ、その手鏡で虚籠を倒せばいいのね?」
メリーさんは、そう聞いたが、花子さんは首を横に振った。
「いいえ、それは難しいでしょうね。虚籠は、光に弱いけど、強大な力を持っている。完全な消滅は難しいでしょう。力を弱めて、脱出するだけにとどめたほうがいいでしょう。」
花子さんは、メリーさんにそう答えた。
「ありがとう。花子さん。じゃあ、虚籠のところへいくことにするよ。」
僕は、花子さんにそういった。
「じゃあ、報告を楽しみに待ってるわ。…現世に帰っても、この女子トイレで同じことをすれば、私がいるから。遊びに来てね。」
「うん、分かった。」
僕は、それだけ言って、メリーさんと体育館へ向かうことにした。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
へいこう日誌
神山小夜
児童書・童話
超ド田舎にある姫乃森中学校。
たった三人の同級生、夏希と千秋、冬美は、中学三年生の春を迎えた。
始業式の日、担任から告げられたのは、まさかの閉校!?
ドタバタ三人組の、最後の一年間が始まる。
怪談掃除のハナコさん
灰色サレナ
児童書・童話
小学校最後の夏休み……皆が遊びに勉強に全力を注ぐ中。
警察官の両親を持つしっかり者の男の子、小学6年生のユウキはいつでも一緒の幼馴染であるカコを巻き込んで二人は夏休みの自由研究のため、学校の不思議を調べ始める。
学校でも有名なコンビである二人はいつもと変わらずはしゃぎながら自由研究を楽しむ……しかし、すすり泣くプール、踊る人体模型、赤い警備員……長い学校の歴史の裏で形を変える不思議は……何にも関係ないはずの座敷童の家鳴夜音、二次動画配信者として名を馳せる八尺様を巻き込んで、本物の不思議を体験することになった。
学校の担任や校長先生をはじめとする地域の大人が作り上げた創作不思議、今の世に発祥した新しい怪異、それを解明する間にユウキとカコは学校の最後のにして最初の不思議『怪談掃除のハナコさん』へと至る。
学校の不思議を舞台に紡がれるホラーコメディ!
この夏の自由研究(読書感想文)にどうですか?
転校生はおんみょうじ!
咲間 咲良
児童書・童話
森崎花菜(もりさきはな)は、ちょっぴり人見知りで怖がりな小学五年生。
ある日、親友の友美とともに向かった公園で木の根に食べられそうになってしまう。助けてくれたのは見知らぬ少年、黒住アキト。
花菜のクラスの転校生だったアキトは赤茶色の猫・赤ニャンを従える「おんみょうじ」だという。
なりゆきでアキトとともに「鬼退治」をすることになる花菜だったが──。
友梨奈さまの言う通り
西羽咲 花月
児童書・童話
「友梨奈さまの言う通り」
この学校にはどんな病でも治してしまう神様のような生徒がいるらしい
だけど力はそれだけじゃなかった
その生徒は治した病気を再び本人に戻す力も持っていた……
命がけの投票サバイバル!『いじめっ子は誰だゲーム』
ななくさ ゆう
児童書・童話
見知らぬ教室に集められたのは5人のいじめられっ子たち。
だが、その中の1人は実はいじめっ子!?
話し合いと投票でいじめっ子の正体を暴かない限り、いじめられっ子は殺される!!
いじめっ子を見つけ出せ!
恐怖の投票サバイバルゲームが今、始まる!!
※話し合いタイムと投票タイムを繰り返す命がけのサバイバルゲームモノです。
※モチーフは人狼ゲームですが、細かいルールは全然違います。
※ゲーム参加者は小学生~大人まで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる