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幸せのリボン
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<ラルゴ>
女子寮のドアをくぐると、柔らかな空気がまとわりつく中、テヌートが目の前でこちらに向かって手を振っていた。無愛想な表情ながら、その振り方には何かしらのぎこちなさがあり、かえって力強く感じられる。その瞬間、僕の中にわずかに温かい感情が芽生え、足が自然と速まった。
「おはよう、テヌート」
僕は小さく笑みを浮かべて声をかけたが、テヌートは軽く頷くだけで返事はない。相変わらずのそっけなさだ。
「ボディーガードしてくれるの、君だったんだね」
「まあ、軍人の家系だからな。これくらいは義務みたいなもんだ」と言いながら、彼は少し目をそらす。どこか照れ隠しのような動作に思わず胸が高鳴った。かわいい。だけど、この気持ちは抑えなきゃいけない。この体は、いつか呪いが解けたらフォルテに返さなくてはいけないんだ。手を繋ぎたいと思っても、その誘惑に負けてはいけない。
桜の花びらが風に乗って舞い落ちる朝、僕たちは入学式が行われる体育館へと向かって歩いていた。静寂が続き、少し気まずさを感じる中、テヌートが不意に僕の肩をぽんぽんと叩く。
「あのさ。これ、止血に使ってくれただろ。大事なものだと思って、シミを頑張って取ったんだ」
彼は黄色いリボンを差し出した。それを受け取りながら、僕の心は一瞬だけ揺れた。
「あ、ありがとう。これは父から誕生日にもらったものだね。あんまり気に入ってないんだ」
それは僕の言葉ではなく、この体の本来の持ち主、フォルテの言葉だった。彼女がそう言っていたのをただ真似ただけだ。本当の僕なら、このリボンが可愛いと思っていたし、身につけたいと感じていた。でも、フォルテの気持ちを優先すべきだと判断したんだ。
「そんなことないよ。君が付ければ似合うと思う。知ってる? 黄色って幸せの色なんだ」
不意を突かれた。テヌートの言葉に胸がぎゅっと締めつけられる感覚が走る。ああ、困った。僕の乙女心が揺さぶられ、体がコバルト色に光り始めた。僕は男なのに、男に口説かれてこんな風にときめくなんて、変態みたいじゃないか。恥ずかしくてたまらない。
「ねー、あの子光ってるよ」
近くにいた女の子たちが僕を指差してひそひそ話す。お願いだから、僕の心の中まではばれませんように!
「ご、ごめん。そういうつもりじゃないんだ。僕には婚約者がいるし、ただかわいいと思っただけなんだ」
言葉を重ねるたび、体の光はさらに強くなる。もういい、どうにでもなれと思いながら、僕はリボンをつけてしまう。
「に、似合うかな?」
テヌートの言葉に乗せられたまま、僕はそう言ってしまった。顔が引きつってなければいいけど。
「うん、似合うよ」
テヌートは優しく微笑みながらそう答える。その笑顔に僕はますます混乱する。助けてほしい。だって、彼には婚約者がいるはずなのに!
<ある高貴な令嬢>
「お父様、例の件はもうお伝えになられましたか?」
私の声は静かだが、内心は焦りが募っていた。豪奢なリビングの中で、父に向かって問いかける私の姿は、いつも通りきっちりとしていたけれど、その胸中は決して穏やかではない。
「なんの話だったかな?」と、父は眉をひそめて書類の束を乱雑にめくりながら答える。
「テヌートという下級貴族の子女との婚約を取りやめにするとおっしゃった件です。覚えていらっしゃらないのですか?」
私の声は少し苛立ちを隠せずに鋭くなった。
「ああ、そうだったな。そんな話もあったな。確か、社交界のパワーバランスが変わって、もっと良い家に嫁いでもらうことになったんだっけか」
父は記憶をたどりながら、またも無関心な様子で答える。
私は深く息を吸い込んで、静かに吐き出す。お父様は偉大な貴族でありながら、こういった家庭内の事柄にはあまりにも無頓着だ。
「自分で決められたことくらい、しっかり覚えていてください。私は構いませんが、先方に対して非常に失礼ですわ」
冷静に言い放つが、私の胸には冷たい怒りがじわじわと湧き上がっていた。
「わしも忙しいんだ。やらなきゃならんことが山ほどあってな。正直、優先順位が低いんだ。まあ、半年以内にはどうにか伝えるさ」
父は手をひらひらと振り、まるで些細なことのように流してしまう。
「もう、スケジュール管理もまともにできないのですね!」
思わず声を荒げてしまった。瞬時に自制を取り戻し、私は再び静かに立ち直る。
本当に呆れてしまう。父上のように高貴な身分にありながら、こうも無関心でいられるものなのかと。しかし、この家では感情を表に出すことは許されない。そう、私はこの高貴な家の娘として、それが義務なのだ。
女子寮のドアをくぐると、柔らかな空気がまとわりつく中、テヌートが目の前でこちらに向かって手を振っていた。無愛想な表情ながら、その振り方には何かしらのぎこちなさがあり、かえって力強く感じられる。その瞬間、僕の中にわずかに温かい感情が芽生え、足が自然と速まった。
「おはよう、テヌート」
僕は小さく笑みを浮かべて声をかけたが、テヌートは軽く頷くだけで返事はない。相変わらずのそっけなさだ。
「ボディーガードしてくれるの、君だったんだね」
「まあ、軍人の家系だからな。これくらいは義務みたいなもんだ」と言いながら、彼は少し目をそらす。どこか照れ隠しのような動作に思わず胸が高鳴った。かわいい。だけど、この気持ちは抑えなきゃいけない。この体は、いつか呪いが解けたらフォルテに返さなくてはいけないんだ。手を繋ぎたいと思っても、その誘惑に負けてはいけない。
桜の花びらが風に乗って舞い落ちる朝、僕たちは入学式が行われる体育館へと向かって歩いていた。静寂が続き、少し気まずさを感じる中、テヌートが不意に僕の肩をぽんぽんと叩く。
「あのさ。これ、止血に使ってくれただろ。大事なものだと思って、シミを頑張って取ったんだ」
彼は黄色いリボンを差し出した。それを受け取りながら、僕の心は一瞬だけ揺れた。
「あ、ありがとう。これは父から誕生日にもらったものだね。あんまり気に入ってないんだ」
それは僕の言葉ではなく、この体の本来の持ち主、フォルテの言葉だった。彼女がそう言っていたのをただ真似ただけだ。本当の僕なら、このリボンが可愛いと思っていたし、身につけたいと感じていた。でも、フォルテの気持ちを優先すべきだと判断したんだ。
「そんなことないよ。君が付ければ似合うと思う。知ってる? 黄色って幸せの色なんだ」
不意を突かれた。テヌートの言葉に胸がぎゅっと締めつけられる感覚が走る。ああ、困った。僕の乙女心が揺さぶられ、体がコバルト色に光り始めた。僕は男なのに、男に口説かれてこんな風にときめくなんて、変態みたいじゃないか。恥ずかしくてたまらない。
「ねー、あの子光ってるよ」
近くにいた女の子たちが僕を指差してひそひそ話す。お願いだから、僕の心の中まではばれませんように!
「ご、ごめん。そういうつもりじゃないんだ。僕には婚約者がいるし、ただかわいいと思っただけなんだ」
言葉を重ねるたび、体の光はさらに強くなる。もういい、どうにでもなれと思いながら、僕はリボンをつけてしまう。
「に、似合うかな?」
テヌートの言葉に乗せられたまま、僕はそう言ってしまった。顔が引きつってなければいいけど。
「うん、似合うよ」
テヌートは優しく微笑みながらそう答える。その笑顔に僕はますます混乱する。助けてほしい。だって、彼には婚約者がいるはずなのに!
<ある高貴な令嬢>
「お父様、例の件はもうお伝えになられましたか?」
私の声は静かだが、内心は焦りが募っていた。豪奢なリビングの中で、父に向かって問いかける私の姿は、いつも通りきっちりとしていたけれど、その胸中は決して穏やかではない。
「なんの話だったかな?」と、父は眉をひそめて書類の束を乱雑にめくりながら答える。
「テヌートという下級貴族の子女との婚約を取りやめにするとおっしゃった件です。覚えていらっしゃらないのですか?」
私の声は少し苛立ちを隠せずに鋭くなった。
「ああ、そうだったな。そんな話もあったな。確か、社交界のパワーバランスが変わって、もっと良い家に嫁いでもらうことになったんだっけか」
父は記憶をたどりながら、またも無関心な様子で答える。
私は深く息を吸い込んで、静かに吐き出す。お父様は偉大な貴族でありながら、こういった家庭内の事柄にはあまりにも無頓着だ。
「自分で決められたことくらい、しっかり覚えていてください。私は構いませんが、先方に対して非常に失礼ですわ」
冷静に言い放つが、私の胸には冷たい怒りがじわじわと湧き上がっていた。
「わしも忙しいんだ。やらなきゃならんことが山ほどあってな。正直、優先順位が低いんだ。まあ、半年以内にはどうにか伝えるさ」
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「もう、スケジュール管理もまともにできないのですね!」
思わず声を荒げてしまった。瞬時に自制を取り戻し、私は再び静かに立ち直る。
本当に呆れてしまう。父上のように高貴な身分にありながら、こうも無関心でいられるものなのかと。しかし、この家では感情を表に出すことは許されない。そう、私はこの高貴な家の娘として、それが義務なのだ。
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