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【1話】無理に付き合うの止めるっ
初菜と友だちの関係
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いつもどおり三時半に店を後にして、保育園に向かった。
年長クラスの部屋の前で、初菜が出てくるのを待っていると、蒼良ママと友里ママがそろってこちらへ向かってくるのが目に入った。
蒼良ママは佐奈子がいるほうとは別の方向に顔をむけている。
少し離れているせいもあって伝わらないかもしれないと思いつつ、佐奈子は軽く頭を下げる。
やはりというべきか、蒼良ママはずっと違うところをみたままだ。友里ママは会釈を返してくれたような、ただ首を振っただけのような動作をした。
「はあ、やっぱり避けられてる、よね」
こちらは歩いてくる二人を見つめているのは良くないだろう。早く出てきて、との願いを込めて、部屋へと視線を戻した。
通園バッグを斜めにかけた初菜がガラス戸を開けようとしていた。視線が佐奈子を通り過ぎている。
戸を横に開くのを止め、後ろを向いた。
「そらー、ゆうりー、ままきたよー」
蒼良が返事のつもりか手を上げた。友里は初菜の声に顔を上げて、こちらを見た。母親の姿を確認したらしく、遊んでいたおもちゃを片付け始める。
気づくと、蒼良ママも友里ママも部屋の前に並んでいた。佐奈子と彼女たちの距離は等感覚ではなく、佐奈子だけはポツンと離れているといった格好だ。
一緒に来た2人と、最初からいた者。避けられている、避けられていないに関係なく、こういう距離は珍しくないだろう。
被害妄想が誇大になっていない自分に安堵する。
初菜と蒼良が部屋を出てきた。友里は帰る準備が遅れているようだ。
上靴から運動靴に履き替えたのを見て、佐奈子は2人のママに、もう一度、会釈した。
友里ママはわずかに笑顔を見せ、蒼良ママは真顔で、会釈が返ってきた。
初菜と手をつなぎ、保育園の門を出る。
園児の手が届かない位置にある掛け金を回す。
歩きながら周りに自分たち以外誰もいないことを確かめて、初菜の顔をのぞきこんだ。
「さっき、蒼良くんと友里ちゃんにお迎え来たこと教えてあげたじゃない」
屈託のない表情で見上げてくる初菜がうなずく。そのまっすぐな目を見つめる。
「でさ、蒼良くんは手をあげて返事してくれてたみたいだけど。友里ちゃんって返事してくれてた?」
佐奈子には友里の返事は伝わってこなかった。
部屋の外にいたからかもしれない。
そう思って初菜に聞いてみることにしたのだ。
自転車の後部席に初菜が座る。
「ううん、ないよ」
初菜の体にシートベルトを回す。
「え、返事なかったの。返事してよ、とか腹立たないの」
シートベルトを装着し終えて、初菜にヘルメットを渡す。彼女は自分で頭にかぶり、顎の下でベルトを止めた。
「うん、ない」
風が強めに吹いた。スタンドを立てたままだけれど、思わずハンドルを両手で強く握る。
初菜からは何の感情も伝わってこなかった。
友里から返事をしてもらっていないことに、言葉通り何にも感じていないのだろう。
スタンドを外して、自転車にまたがる。
再び吹いた風をやり過ごして、ペダルを踏み込んだ。
人の反応に、いちいち反応している自分が情けなくなる。
自転車のアシスト機能をいつもより一つ重くして力いっぱい漕いだ。
年長クラスの部屋の前で、初菜が出てくるのを待っていると、蒼良ママと友里ママがそろってこちらへ向かってくるのが目に入った。
蒼良ママは佐奈子がいるほうとは別の方向に顔をむけている。
少し離れているせいもあって伝わらないかもしれないと思いつつ、佐奈子は軽く頭を下げる。
やはりというべきか、蒼良ママはずっと違うところをみたままだ。友里ママは会釈を返してくれたような、ただ首を振っただけのような動作をした。
「はあ、やっぱり避けられてる、よね」
こちらは歩いてくる二人を見つめているのは良くないだろう。早く出てきて、との願いを込めて、部屋へと視線を戻した。
通園バッグを斜めにかけた初菜がガラス戸を開けようとしていた。視線が佐奈子を通り過ぎている。
戸を横に開くのを止め、後ろを向いた。
「そらー、ゆうりー、ままきたよー」
蒼良が返事のつもりか手を上げた。友里は初菜の声に顔を上げて、こちらを見た。母親の姿を確認したらしく、遊んでいたおもちゃを片付け始める。
気づくと、蒼良ママも友里ママも部屋の前に並んでいた。佐奈子と彼女たちの距離は等感覚ではなく、佐奈子だけはポツンと離れているといった格好だ。
一緒に来た2人と、最初からいた者。避けられている、避けられていないに関係なく、こういう距離は珍しくないだろう。
被害妄想が誇大になっていない自分に安堵する。
初菜と蒼良が部屋を出てきた。友里は帰る準備が遅れているようだ。
上靴から運動靴に履き替えたのを見て、佐奈子は2人のママに、もう一度、会釈した。
友里ママはわずかに笑顔を見せ、蒼良ママは真顔で、会釈が返ってきた。
初菜と手をつなぎ、保育園の門を出る。
園児の手が届かない位置にある掛け金を回す。
歩きながら周りに自分たち以外誰もいないことを確かめて、初菜の顔をのぞきこんだ。
「さっき、蒼良くんと友里ちゃんにお迎え来たこと教えてあげたじゃない」
屈託のない表情で見上げてくる初菜がうなずく。そのまっすぐな目を見つめる。
「でさ、蒼良くんは手をあげて返事してくれてたみたいだけど。友里ちゃんって返事してくれてた?」
佐奈子には友里の返事は伝わってこなかった。
部屋の外にいたからかもしれない。
そう思って初菜に聞いてみることにしたのだ。
自転車の後部席に初菜が座る。
「ううん、ないよ」
初菜の体にシートベルトを回す。
「え、返事なかったの。返事してよ、とか腹立たないの」
シートベルトを装着し終えて、初菜にヘルメットを渡す。彼女は自分で頭にかぶり、顎の下でベルトを止めた。
「うん、ない」
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初菜からは何の感情も伝わってこなかった。
友里から返事をしてもらっていないことに、言葉通り何にも感じていないのだろう。
スタンドを外して、自転車にまたがる。
再び吹いた風をやり過ごして、ペダルを踏み込んだ。
人の反応に、いちいち反応している自分が情けなくなる。
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