【完結】一本の電話

母へ電話

　美優は唇を噛みしめた。血の味がしてくる。それを味わい、声を絞り出す。

「そう、母さんに聞いたの」

　電話の向こうでは真理恵が何やらご機嫌で話を続けている。時間が経つとともに手の震えが落ち着いてきた美優は静かに通話終了をタップした。
　
　テーブルの上に置きっぱなしの返信用はがきに目を落とす。美優は深呼吸をして『出席』に丸を付けた。



◇◇◇◇◇



　母は美優が真理恵にいじめられていたことを知っているはずだ。母に電話して、真理恵に電話番号を教えた理由を聞く。

「ん？もう今のアンタなら大丈夫かと思って」

　　能天気な答えが返ってきた。その母の期待に応えるべく、いや『出席』と書いたからには１ヶ月後にある同窓会までに全てやり遂げてやると自分に誓う。

「母さんとこの弁護士さんから回ってきてた案件、受けるよ。会社としてじゃなく、個人的にね。そっちは手が出ないってことなら完全に私に委ねてくれるんだよね」

　母は電話の向こうで笑いをこぼした。

「そうこなくっちゃ。じゃ、よろしくね。依頼者の連絡先は明日事務所からメールするわ」
　
　電話の向こうの母にうなずいて、美優は電話を切った。