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3話『抱え込む竜真』
偵察?
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千帆はドアから出ていく角田の姿を見送り、レイと竜真に向き直る。
2人ともビターココアの生クリーム乗せを注文した。
レイが店内を見回す。
「こじんまりしてるけど落ち着く店だね。今の人は?」
「週2、3通ってくれる常連さん」
カウンターに腕を乗せて前かがみになったレイはニヤニヤしている。
「3人の中で一番おとなしかった千帆が就職しないで、親の反対を押し切って店を開くとはね。しかも常連さんがいるんだ」
今いる空間が15年ほどさかのぼった気がする。
3人の実家は隣の県にあり、ここからだと急行電車に乗って2時間はかかる。社会人になってから3人とも実家を出て一人暮らしをしているけれど、県外に出たのは千帆だけだ。2人は実家からそれほど離れていない地域に住んでいる。
レイが頬杖をついた。
「この間、久しぶりに実家に帰ったんだ。そのときに千帆んとこのおばさんと会ってさ。千帆のこと心配してた。ちゃんとやれてるのかって。おじさんとは会ってないけど」
千帆はココアパウダーを練ることに集中したフリをして話す言葉を探した。鍋で牛乳が温まったのを合図に顔を上げる。
「パパからはね、店を始めるときに何度も就職しろって言われた。でも、押し切って店を開いたから、うまくいかなくても頼ってくるなって勘当に近い感じになったんだ。ママは今でも心配してるっていうか、2年以上たつのに、まだ就職しろって言ってくる」
入りたての湯気が立つ2つのカップを2人の前に置いた。
ランチ終わりの主婦や大学生のグループが次々と店に入ってくる。10席しかない店内は満席になる。
千帆が続いて入ってきた客たちのココアを次々と入れている間、2人は黙ってココアを飲んでいた。
注文されたものを提供し終えた千帆は自分用に水をガラスコップに入れて、レイと竜真の前に立った。
「で、ここには偵察で来たの?」
くだけた口調で親しげに話しても問題はないだろう。
他の客たちは自分たちの会話に夢中になっているうえ、カウンター席といっても肩と肩の間は1人分弱の空間があり、椅子は動かせるので仲間同士くっつき、知り合いじゃない人とは距離を作ることができるからだ。
竜真が顔の前で手を横に振った。
「レイが一人で俺の話を聞くの嫌がって、千帆の店に行こってなったわけ」
カウンターに肘をついて手の上に顎をおき、口をとがらせている。
3人は別々の大学だったが、レイと竜真は偶然、同じ市役所に就職した。今日は2人で県庁へ出張だったらしく、午前中で業務を終え、午後から有休をとって、県外にある千帆の店へと足を延ばしてくれたらしい。
2人ともビターココアの生クリーム乗せを注文した。
レイが店内を見回す。
「こじんまりしてるけど落ち着く店だね。今の人は?」
「週2、3通ってくれる常連さん」
カウンターに腕を乗せて前かがみになったレイはニヤニヤしている。
「3人の中で一番おとなしかった千帆が就職しないで、親の反対を押し切って店を開くとはね。しかも常連さんがいるんだ」
今いる空間が15年ほどさかのぼった気がする。
3人の実家は隣の県にあり、ここからだと急行電車に乗って2時間はかかる。社会人になってから3人とも実家を出て一人暮らしをしているけれど、県外に出たのは千帆だけだ。2人は実家からそれほど離れていない地域に住んでいる。
レイが頬杖をついた。
「この間、久しぶりに実家に帰ったんだ。そのときに千帆んとこのおばさんと会ってさ。千帆のこと心配してた。ちゃんとやれてるのかって。おじさんとは会ってないけど」
千帆はココアパウダーを練ることに集中したフリをして話す言葉を探した。鍋で牛乳が温まったのを合図に顔を上げる。
「パパからはね、店を始めるときに何度も就職しろって言われた。でも、押し切って店を開いたから、うまくいかなくても頼ってくるなって勘当に近い感じになったんだ。ママは今でも心配してるっていうか、2年以上たつのに、まだ就職しろって言ってくる」
入りたての湯気が立つ2つのカップを2人の前に置いた。
ランチ終わりの主婦や大学生のグループが次々と店に入ってくる。10席しかない店内は満席になる。
千帆が続いて入ってきた客たちのココアを次々と入れている間、2人は黙ってココアを飲んでいた。
注文されたものを提供し終えた千帆は自分用に水をガラスコップに入れて、レイと竜真の前に立った。
「で、ここには偵察で来たの?」
くだけた口調で親しげに話しても問題はないだろう。
他の客たちは自分たちの会話に夢中になっているうえ、カウンター席といっても肩と肩の間は1人分弱の空間があり、椅子は動かせるので仲間同士くっつき、知り合いじゃない人とは距離を作ることができるからだ。
竜真が顔の前で手を横に振った。
「レイが一人で俺の話を聞くの嫌がって、千帆の店に行こってなったわけ」
カウンターに肘をついて手の上に顎をおき、口をとがらせている。
3人は別々の大学だったが、レイと竜真は偶然、同じ市役所に就職した。今日は2人で県庁へ出張だったらしく、午前中で業務を終え、午後から有休をとって、県外にある千帆の店へと足を延ばしてくれたらしい。
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