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3話『抱え込む竜真』
幼馴染の来店
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昼食時の30分ほど前は店内の客がゼロになるのもまれではない。
買い物帰りの主婦がココアを飲んで一息つくと昼食の準備をしに慌ただしく帰っていき、ランチを提供していないから当然ランチ目当ての客は来店しない。メニューは、ホットがミルクとビターの二種類、アイスココアだけだ。トッピングとして生クリームを乗せることができる。
混雑するお昼時の店を避けて近くの飲食店で早めのランチを終えた人たちが、逃げるように空いたこの店に飛び込んでくるのは正午を過ぎてからだ。
この隙間時間を狙ったようにドアベルが揺れて、入り口の扉が開いた。
「お待たせしました。ミックスサンドです」
先週、隣にオープンしたカフェ『らぶち』店長の真木唯人が千帆の昼食を届けにきたのだ。
両手で恭しくサンドイッチが入った紙のBOXを受け取り、代金を渡す。
『らぶち』は店内でランチやデザートが食べられるうえ、店内料金よりも50円安い金額でテイクアウトもしている。
オープン翌々日、自店が定休日だった千帆はランチを食べに行き、『フラット』の客が求めればテイクアウト料金で軽食やケーキを届けてもらえないかと交渉した。しぶられるかと思ったが、意外に唯人は乗り気で「カフェではココアはメニューにしません」と言ってきた。ココアは隣のカフェに出前することはできないので、飲みたいという客がいれば『フラット』を紹介すると言ってくれた。
交渉が成立して4日、まだ客から軽食などの注文は入っていない。代わりに、千帆は毎日のように『らぶち』のランチをテイクアウトしていて、すっかり唯人とはなじみになった。
お昼時、あまりゆっくりはしていられないと苦笑いして、唯人は店に戻っていった。
入れ替わるように常連の角田が入ってくる。定年退職してのんびりとした時間を過ごす彼は、家で早めの昼食を取ってきたのだろう。
角田はカウンター席10席しかないこの店で、自分の定位置としている一番奥の席まで行く。手に持ったスポーツバッグを床に置いて、壁に掛けたハンガーにダウンジャケットを吊るした。
「このあとジムに行くんだ。昼食後の腹休めとココアの甘さでエネルギーを補充しようと思ってね」
勉強や仕事の合間のエネルギー補充にココアと聞いたことはあるけれど、スポーツの前とはあまり聞かない。千帆は、とりあえずといった笑顔を作り、水の入ったガラスコップをカウンターに置く。
角田はマイルドココアのココアパウダーに砂糖を混ぜ、熱湯で練る千帆の手元をのぞいてきた。
「さっき入れ違いで出ていった人って隣のカフェの人か」
千帆は温まったミルクに練ったココアを入れてゆっくりと溶かす。
「そうなんです。あ、そうだ。角田さん、一週間ぶりだから伝えてないですね。ランチとかデザートとかを隣のカフェからテイクアウトして、ここでココアを一緒に食べていただくことができるようになりました。たいてい届けてくださるんですが、忙しい時間帯だとお客様ご自身に受け取りに行っていただくことになるんですけどね」
こして滑らかにしたココアを角田の前に置く。角田はカップをのぞきこんでココアの香りをかぎ、カップの取っ手に指をかけた。一口飲んで、すぼめた口で息を吐く。
「いいね、それ。ここでデザートも一緒に食べたいなって思ってたんだよ」
角田はメニュー立てに立てている『らぶち』のメニュー表を取り出した。
壁掛けの時計を見ると、正午を20分ほど過ぎている。そろそろランチ明けに一息つきたい客が入ってくるころだ。
入り口扉に顔を向ける。その向こうに人影が見えた。
ドアベルを軽快に鳴らして入ってきたのは、スーツ姿の男女2人組だった。
「いらっしゃいませ」
声をかけてカウンターの中央の席を案内した千帆は2人の顔を見て驚いた。
「レイちゃんと竜真くんじゃない」
気軽に挨拶するように竜真は片手をあげ、レイは小さく手を振ってきた。
2人はコートをハンガーにかけ、案内されたカウンター中央の席に腰を下ろす。千帆は2人分の水を提供する。
カウンターの端で角田が立ち上がった。
「千帆ちゃんの知り合い?」
「はい。実家が近所で小学校の間は毎日一緒に学校に通ってた幼なじみです」
角田はダウンジャケットを羽織り、ポケットから財布を出してカウンターに代金を置いた。
レイと竜真の背後を通るときに、角田は会釈をしていった。
買い物帰りの主婦がココアを飲んで一息つくと昼食の準備をしに慌ただしく帰っていき、ランチを提供していないから当然ランチ目当ての客は来店しない。メニューは、ホットがミルクとビターの二種類、アイスココアだけだ。トッピングとして生クリームを乗せることができる。
混雑するお昼時の店を避けて近くの飲食店で早めのランチを終えた人たちが、逃げるように空いたこの店に飛び込んでくるのは正午を過ぎてからだ。
この隙間時間を狙ったようにドアベルが揺れて、入り口の扉が開いた。
「お待たせしました。ミックスサンドです」
先週、隣にオープンしたカフェ『らぶち』店長の真木唯人が千帆の昼食を届けにきたのだ。
両手で恭しくサンドイッチが入った紙のBOXを受け取り、代金を渡す。
『らぶち』は店内でランチやデザートが食べられるうえ、店内料金よりも50円安い金額でテイクアウトもしている。
オープン翌々日、自店が定休日だった千帆はランチを食べに行き、『フラット』の客が求めればテイクアウト料金で軽食やケーキを届けてもらえないかと交渉した。しぶられるかと思ったが、意外に唯人は乗り気で「カフェではココアはメニューにしません」と言ってきた。ココアは隣のカフェに出前することはできないので、飲みたいという客がいれば『フラット』を紹介すると言ってくれた。
交渉が成立して4日、まだ客から軽食などの注文は入っていない。代わりに、千帆は毎日のように『らぶち』のランチをテイクアウトしていて、すっかり唯人とはなじみになった。
お昼時、あまりゆっくりはしていられないと苦笑いして、唯人は店に戻っていった。
入れ替わるように常連の角田が入ってくる。定年退職してのんびりとした時間を過ごす彼は、家で早めの昼食を取ってきたのだろう。
角田はカウンター席10席しかないこの店で、自分の定位置としている一番奥の席まで行く。手に持ったスポーツバッグを床に置いて、壁に掛けたハンガーにダウンジャケットを吊るした。
「このあとジムに行くんだ。昼食後の腹休めとココアの甘さでエネルギーを補充しようと思ってね」
勉強や仕事の合間のエネルギー補充にココアと聞いたことはあるけれど、スポーツの前とはあまり聞かない。千帆は、とりあえずといった笑顔を作り、水の入ったガラスコップをカウンターに置く。
角田はマイルドココアのココアパウダーに砂糖を混ぜ、熱湯で練る千帆の手元をのぞいてきた。
「さっき入れ違いで出ていった人って隣のカフェの人か」
千帆は温まったミルクに練ったココアを入れてゆっくりと溶かす。
「そうなんです。あ、そうだ。角田さん、一週間ぶりだから伝えてないですね。ランチとかデザートとかを隣のカフェからテイクアウトして、ここでココアを一緒に食べていただくことができるようになりました。たいてい届けてくださるんですが、忙しい時間帯だとお客様ご自身に受け取りに行っていただくことになるんですけどね」
こして滑らかにしたココアを角田の前に置く。角田はカップをのぞきこんでココアの香りをかぎ、カップの取っ手に指をかけた。一口飲んで、すぼめた口で息を吐く。
「いいね、それ。ここでデザートも一緒に食べたいなって思ってたんだよ」
角田はメニュー立てに立てている『らぶち』のメニュー表を取り出した。
壁掛けの時計を見ると、正午を20分ほど過ぎている。そろそろランチ明けに一息つきたい客が入ってくるころだ。
入り口扉に顔を向ける。その向こうに人影が見えた。
ドアベルを軽快に鳴らして入ってきたのは、スーツ姿の男女2人組だった。
「いらっしゃいませ」
声をかけてカウンターの中央の席を案内した千帆は2人の顔を見て驚いた。
「レイちゃんと竜真くんじゃない」
気軽に挨拶するように竜真は片手をあげ、レイは小さく手を振ってきた。
2人はコートをハンガーにかけ、案内されたカウンター中央の席に腰を下ろす。千帆は2人分の水を提供する。
カウンターの端で角田が立ち上がった。
「千帆ちゃんの知り合い?」
「はい。実家が近所で小学校の間は毎日一緒に学校に通ってた幼なじみです」
角田はダウンジャケットを羽織り、ポケットから財布を出してカウンターに代金を置いた。
レイと竜真の背後を通るときに、角田は会釈をしていった。
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